企業兼大株主セイコーエプソン東証プライム:6724】「電気機器 twitterでつぶやくへ投稿

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企業概要

ESG投資の拡大や各国・地域のサステナビリティ関連政策の策定など、世界中でサステナビリティをめぐる動きが加速しています。このようななか、企業は事業活動を通じて、社会が抱える課題にどう対応していくかという姿勢をますます問われるようになっています。エプソンは、これまでも商品・サービスの提供を通じ、さまざまな社会課題の解決に貢献してきました。今後も、パーパスを旗印に、長期的な視点からお客様やパートナーの皆様と「持続可能でこころ豊かな社会」を実現するため、事業成長と社会課題解決に両輪で取り組みます。

(1)サステナビリティ全般

①ガバナンス

 エプソンでは、社長直轄の組織としてサステナビリティ推進室を設置し、その責任者に取締役専務執行役員が任命され、グループ全体のサステナビリティ(社会要請に基づく持続的成長性)活動に関する責任を担っています。また、社長の諮問機関として、本部長、事業部長などの経営層に加え、社外取締役、監査等委員により構成される「サステナビリティ戦略会議」を設置しています。サステナビリティ戦略会議では、社会動向レビューに基づきグループ全体に係るサステナビリティに関する中長期戦略を策定し、活動の実践状況のレビューや重要課題への取り組みなどについて審議しています。

 さらに、サステナビリティ戦略会議の下部組織として、「サステナビリティ推進会議」を設置し、サステナビリティ活動に関する専門事項について協議・検討を行っています。この推進会議は、関係主管部門長により構成され、サステナビリティ戦略会議へ上申および答申します。サステナビリティ推進室はこれら2つの会議体の事務局を担当するとともに、定期的な取締役会への報告を実施し、より効果的なサステナビリティ活動の推進に努めています。

 なお、役員報酬に関しては、より実効的なサステナビリティガバナンスの体制を構築する観点から、マテリアリティに紐づくサステナビリティ重要テーマの指標4項目(脱炭素、サプライチェーン、人権・ダイバーシティ、ガバナンス)を、譲渡制限付株式報酬と連動させています。

■ 推進体制図

②戦略

 エプソンは、SDGs、ISO26000などで示された社会課題やメガトレンドを分析するとともに、社会インパクトにつながる自社の強みを検討し、社会課題解決に向けエプソンが取り組むべき重要度の高い課題である4つのマテリアリティ(「循環型経済の牽引」「産業構造の革新」「生活の質向上」「社会的責任の遂行」)を特定しました。

 社会課題を解決することで事業成長を果たし、事業成長をすることでより多くの社会課題を解決する、この事業成長と社会課題解決を両輪としたサステナビリティ経営で、持続可能でこころ豊かな社会の実現を目指します。

■ エプソンのサステナビリティ経営

■ マテリアリティごとの機会とリスク、取り組みテーマ

 マテリアリティ(サステナビリティ重要テーマ)ごとの機会とリスクを下記のとおり評価し、Epson 25 Renewedの目標達成に取り組んでいます。

サステナビリティ

重要テーマ

機会(〇)

リスク(●)

マテリアリティ:循環型経済の牽引

脱炭素の取り組み

 

資源循環の取り組み

 

お客様のもとでの

環境負荷低減

 

環境技術開発

〇炭素税導入、電気料金高騰、廃棄物処分コストの上昇、適量生産・資源削減などにより、環境に配慮した商品・サービスへのニーズの高まり

○地球温暖化対策分野や廃棄物処理・資源有効活用分野の市場成長

○サーキュラーエコノミー(循環型経済)へのシフトにより、再生プラスチック、バイオプラスチック、金属リサイクルの市場成長

●森林保護意識観点からのペーパーレス化気運の高まり

●政策・法規制の変化による操業コスト

●「脱炭素」と「資源循環」への対応遅れによる信用低下、企業価値の毀損

●環境負荷低減につながる環境技術開発の計画未達もしくは遅延による企業価値の毀損

マテリアリティ:産業構造の革新

デジタル化・自動化

による生産性向上

○消費者ニーズ多様化、環境配慮の重要性の高まりによる省資源で高効率な生産プロセスへの移行

○地政学的なリスクなどを踏まえたBCP対応を目的とした生産工場の分散化

●市場要望に合致した商品・サービスの投入遅れによるビジネス機会の損失

●扱いやすいソリューションやデジタルサービスの展開の遅れ

労働環境・教育環境の

改善

 

○働き方の多様化やIT技術の進展にともなうオフィスの分散化

○少子高齢化などを背景とした世界的な労働力不足を補うロボットを用いた自動化ニーズ

○労働環境の改善やものづくり現場のレジリエンス強化を目的とした生産システムの革新ニーズの高まり

○在宅勤務やWeb会議における物理的コミュニケーション低下によるストレス負荷・業務効率低下解消ニーズの高まり

○世界共通の脱炭素目標の実現(人の移動で生じるCO2の削減)機運の高まり

○開発途上国における学びの場や機会の格差の解消に向けたICT活用拡大

○デジタル教材、教育プラットフォームの普及

○新興国、開発途上国における就学人口増大による教育市場の拡大

○ICTによる教師不足、教務支援不足の解消

○在宅学習支援プログラムの拡大

●市場要望に合致した商品・サービスの投入遅れによるビジネス機会の損失

●ロボット使用時に、使用者の生命、身体に重大な被害を及ぼす事故が発生した場合の信頼の失墜、企業価値の毀損

●自動化を実現できる人材の不足

●アフターコロナにおけるオフィス出社率向上にともなう、リアルとリモートをつなぐニーズの減少

●プロジェクター以外の大型表示装置・個人端末との競争激化、自社ソリューションの相対的なプレゼンス低下

●タブレットなどの電子機器活用の拡大による教育市場でのプリントニーズの低下

●開発途上国の経済発展遅れ、政情不安による、健全な教育予算編成・資金投下の遅れ

マテリアリティ:生活の質向上

多様なライフスタイル

の提案

○ライフスタイルの多様化にともなうさまざまなスポーツでのデータ活用による上達支援のニーズの拡大

○健康支援などの新たなデータサービスビジネスの立ち上がり

○先進国における生産年齢人口の減少や社会保障費の増大への対応として、国をあげた健康寿命延伸への政策的取り組み

●競合データサービスの進化によるプレゼンス低下

●健康志向への関心低迷によるデータサービスビジネスへの影響

豊かで彩のある暮らし

の実現

○多様な価値観、趣味、趣向に応える嗜好品の需要

●価値観の変化によるウエアラブル機器市場におけるプレゼンス低下

マテリアリティ:社会的責任の遂行

ステークホルダーエン

ゲージメントの向上

○サステナビリティに関するステークホルダーからの関心の高まり

●不適切な対応によるステークホルダーからの信頼の失墜、企業価値の毀損

責任あるサプライ

チェーンの実現

○世界的な「ビジネスと人権」への関心の高まり

●当社およびサプライチェーンにおける人権侵害の発生

人権の尊重と

ダイバーシティの推進

○自由闊達で風通しの良い組織風土の醸成による企業パフォーマンスの向上

○世界的な「ビジネスと人権」への関心の高まり

○DE&Iの認知や理解、社会的マイノリティに対する意識の変化

●組織風土の改善が進まないことによるエンゲージメントの低下、イノベーションの欠如

●サプライチェーンを含め、重大な人権侵害が発生した場合、企業価値の毀損

●DE&Iが進まないことによるエンゲージメントの低下

ガバナンスの強化

○ガバナンス体制の強化による戦略推進の加速、変化への対応力向上

○適切なリスクテイクによる競争力の向上

●ガバナンス不全にともなう戦略進捗の遅れ、組織力低下

●コンプライアンス違反による損失の発生、社会的信用の失墜

③リスク管理

 企業を取り巻く環境が複雑かつ不確実性を増すなか、企業活動に重大な影響を及ぼすリスクに的確に対処することが、経営戦略や事業目的を遂行していくうえでは不可欠です。エプソンは、サステナビリティに関連するリスクを経営上の重大な影響を及ぼすリスクとして位置付け、適切に管理しています。

■リスク管理プロセス

④指標及び目標

■ マテリアリティとサステナビリティ重要テーマ、KPI

 社会課題解決に向けエプソンが取り組むべき重要度の高い課題である4つのマテリアリティへの取り組みを実効性のあるものにするため、12のサステナビリティ重要テーマを設定し、取り組み目標(KPI)を定め、中期活動計画に反映し着実に推進しています。

■ サステナビリティ重要テーマ目標と実績

サステナビリティ

重要テーマ

取り組みテーマ

評価指標(KPI)

2022年度
目標値

2022年度

実績

マテリアリティ:循環型経済の牽引

脱炭素の

取り組み

2050年「カーボンマイナス」に向けた、設備の省エネ、温室効果ガス除去、サプライヤーエンゲージメント、脱炭素ロジスティクス

・スコープ1,2 GHG排出量(総量)削減率

・スコープ3 GHG排出量(事業利益原単位)削減率

・2017年度比

21%削減

・2017年度比

30%削減

・2017年度比

60%削減

・2017年度比

45%削減

再生可能エネルギーの活用

再生可能エネルギー導入率

国内100%維持

・国内100%維持

・グローバルで79%

資源循環の取り組み

2050年「地下資源(※1)消費ゼロ」に向けた

・小型軽量化/再生材活用などの資源の有効活用

・生産ロスを極小化する循環型生産システムの構築

循環資源利用率

20%以上

21%

最終埋立率

(※2)

1%以下

0.79%

お客様のもとでの環境負荷低減

環境負荷低減に資する商品・サービスによる削減貢献量の最大化

(※4)

商品・サービスによる削減貢献量

前年以上

(※3)

環境技術開発

ドライファイバーテクノロジーを応用した再生材/天然素材による脱プラスチック・資源循環の実現

・梱包材(従来材の置き換え)

・外装材(従来材の置き換え)

開発プロセスの進捗状況

・梱包材:自社製品による実用化検証

・外装材:実用化に向けた技術実証開始

・梱包材:ウオッチ向けで実用化(コットン端材)

・外装材:セルロース複合バイオマスプラの耐衝撃性向上

スクラップ金属の高付加価値リサイクル技術確立

開発プロセスの進捗状況

リサイクル材料種拡大に向けた技術開発

エプソンアトミックス粉末高機能化:高耐電圧絶縁膜の開発

マテリアリティ:産業構造の革新

デジタル化・自動化による生産性向上

インクジェット技術と多様なソリューションにより、商業・産業印刷のデジタル化を主導し、クリーンでスペース効率の良い現場作りと環境負荷低減・生産性向上を実現する

商業・産業向けのインクジェットプリンター対前年の平均売上伸長率

―(※5)

―(※5)

労働環境の改善・教育環境の改善

インクジェット技術とオープンなソリューションにより、環境負荷低減・生産性向上を実現し、在宅学習や分散オフィスの印刷の進化を主導する

SOHO・ホーム向け大容量インクジェットプリンター対前年の平均売上伸長率

―(※5)

―(※5)

ロボットを用いた自動化による労働力不足の解消

労働力不足解消数(※6)

―(※5)

―(※5)

臨場感と情報量を両立し、リアルとリモートを組み合わせた境界のない公平・自然で快適なコミュニケーション環境を提供する

共創・協業案件数

またはパートナー数

―(※5)

―(※5)

大画面コミュニケーションをコンパクトに実現するスマート型の携行型ディスプレイにより均質な学びの機会を創出し、地域や社会情勢の違いによる学びの格差を緩和する

共創・協業による現地実証プログラム数

―(※5)

―(※5)

マテリアリティ:生活の質向上

多様なライフスタイルの提案

独創のセンシング技術とアルゴリズムにより、パーソナライズされた価値をビジュアルで分かりやすく提供することで、生活習慣病予防やスポーツ上達支援によって人々の多様なライフスタイルを彩る

売上に占める支援サービスのデータビジネス比率(※7)収益比率

―(※5)

―(※5)

豊かで彩のある暮らしの実現

「省・小・精の技術」と匠の技能で、魅力ある上質な商品を提供し、お客様の多様なライフスタイルを彩る

魅力ある上質な商品の対前年売上伸長率

―(※5)

―(※5)

マテリアリティ:社会的責任の遂行

ステークホルダーエンゲージメントの向上

ステークホルダーとの対話強化

によるニーズ・社会要請への対応

社会支援活動 支援金額

売上収益の0.1%以上

売上収益の0.1%

株主・投資家との対話回数ならびに経営への意見反映

株主・投資家との対話回数200回以上

株主・投資家との対話回数269回

外部評価機関の評価指数

高評価を得る

高評価(※8)を獲得

責任あるサプライチェーンの実現

サプライチェーンBCM強化

サプライチェーン途絶・停滞によるお客様への影響(2024年度販売影響)

販売影響

対2021年度半減

・サプライチェーン途絶による販売影響は、一部事業に限定

・目標(前年度半減)を大幅にクリア

責任あるサプライチェーンの実現

サプライヤーにおけるCSRリスクレベル

主要サプライヤー(直接材)のCSRリスクランク:

・ハイリスク0%

・ミドルリスク6%以下

・ハイリスク:0%

・ミドルリスク:9%

責任ある鉱物調達の実現

・製品のコンフリクトフリー(CF)率

・調査回答率

(※9)

・CF戦略製品のCF情報リリース

・調査回答率 100%

・CF戦略製品のスメルター(製錬業者)確認

・調査回答回収率99.6%

人権の尊重とダイバーシティの推進

自由闊達で風通しのよい組織風土

づくり

組織風土アセスメント「チームで働く力」スコア

モチベーションクラウド導入によるアセスメント方法変更(※10)によりKPI再設定

モチベーションクラウドの新規導入を踏まえ、2025年度の目標値を下記の通り設定

・エンゲージメントレーティング:A(スコア58.0以上)

・レーティングD職場数:ゼロ

こころの健康診断「総合健康リスク」ハイリスク職場数

「総合健康リスク」ハイリスク職場数ゼロに向けて前年実績減

(※11)

2021年度よりハイリスク職場数減を達成

ハラスメント防止施策の実施(教育・研修、事案共有、任用プロセス等)、事案の本社報告の徹底

管理職向け/一般者向けの新たな研修の企画・実施

社会動向、制裁事案等を踏まえた研修コンテンツの改訂

ハラスメント相談の一次窓口強化と受付後のプロセスへの連携強化

・窓口の共通活動を受けて全社課題の把握

・各窓口の標準対応の確認

新「人権方針」のグループ内浸透

による人権の尊重

人権尊重のコミットメント、人権デューデリジェンス(DD)・救済メカニズムの定着・改善

人権方針の周知と、人権DD・救済メカニズムの現状と改善点の把握

研修立ち上げによる人権方針の周知と、人権DD・救済メカニズムの現状と改善点の把握

ダイバーシティを尊重した人材の

活用

・女性管理職比率

(当社)

・女性執行役員数2025年度までに1名以上(国内)

・管理職女性比率5%

・社内外研修女性受講促進

・女性管理職比率4.1%

・社外研修

課長2名参加

ガバナンスの強化

コンプライアンス経営の基盤強化

重大なコンプライアンス違反事案(※12)の発生件数

重大なコンプライアンス事案の発生なし

重大なコンプライアンス事案の発生なし

グループコンプライアンスレベル

の引き上げ

グループ社員全員(※13)へのコンプライアンス教育(e-ラーニング)実施率

グループ全社での実施率100%

・国内:99.0%

・海外:98.5%

透明・公正かつ迅速・果断な意思

決定を実現するガバナンス体制の

維持・強化

・取締役会の社外取締役比率

・選考/報酬審議会の社外取締役比率

・取締役会の社外取締役比率1/3以上を維持

・選考/報酬審議会の社外取締役比率80%以上を維持

・取締役会の社外取締役比率1/3以上を維持

・選考/報酬審議会の社外取締役比率80%以上を維持

情報セキュリティーの強化

重大な情報セキュリティーインシデント発生件数

0件

2件

※1 原油、金属などの枯渇性資源

※2 資源投入量に対する生産系埋立量の比率

※3 2022年度実績数値は2023年8月上旬頃、下記の当社ウェブサイトで開示予定

https://corporate.epson/ja/sustainability/initiatives/materiality.html

※4 商品・サービスが社会のGHG排出量の削減に資する量を定量化したもの

※5 「産業構造の革新」「生活の質向上」マテリアリティの指標と目標は2023年度から適用

※6 エプソン社内プロジェクトの効果ベースで換算

※7 データをアルゴリズム変換し価値提供を行うビジネスモデル

※8 Sustainalytics:Low、FTSE:4点以上、東洋経済新報社「CSR企業ランキング」トップ50以上

※9 調査依頼サプライヤーに対する回答提出サプライヤーの率

※10 高いワークエンゲージメントを実現できている状態を目指すための変更

※11 目標値管理は回答者10名以上の職場を対象

※12 重大なコンプライアンス違反事案:適時開示事由に該当するような違反事案

※13 対象:当社および国内・海外子会社

(2)気候変動(TCFD)

 気候変動が社会に与える影響は大きく、エプソンとしても取り組むべき重要な社会課題だと捉えています。パリ協定の目指す脱炭素社会(世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする)の実現に向け、エプソンは2030年に「1.5℃シナリオに沿った総排出量削減」の目標達成を目指しています。また、「Epson 25 Renewed」の公表に合わせ「環境ビジョン2050」を改定し、その目標として掲げる2050年の「カーボンマイナス」「地下資源(※14)消費ゼロ」に向け、脱炭素と資源循環に取り組むとともに、環境負荷低減を実現する商品・サービスの提供、環境技術の開発を推進しています。

 エプソンは2019年10月に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言への賛同を表明して以降、株主・投資家をはじめとする幅広いステークホルダーとの良好なコミュニケーションがとれるように、TCFDのフレームワークに基づき、情報開示(ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標)を進めています。2021年には財務影響度をエプソンとして初めて定量的に開示することにしました。さらに、2022年はTCFD提言の改訂を受けて、GHG排出量の削減を目的とした具体的な取り組み実績などの開示強化を行いました。2023年は気候関連のリスク・機会に対する取り組みのハイライトや具体的成果に関する定性・定量情報の充実化を行いました。

※14 原油、金属などの枯渇性資源

■ シナリオ分析の結果

TCFDのフレームワークに基づいて、シナリオ分析を実施し、気候関連リスク・機会がエプソンの戦略に与える財務影響度を定量的に評価しました。その結果、脱炭素社会へ急速に進んだ1.5℃シナリオの場合、市場の変化・政策・法規制による操業コスト増加の移行リスクはあるものの、インクジェット技術・紙再生技術に基づく商品・サービスの強化により財務影響へのインパクトは限定的と予想しています。

 エプソンは、2021-30年までの10年間で約1,000億円(2021-25年は約250億円、2026-30年は約750億円)を投入し、脱炭素・資源循環・環境技術開発への取り組みを加速します。また、気候関連リスクへの解決は、私たちが設定したマテリアリティである「循環型経済の牽引」「産業構造の革新」に合致し、エプソンの強みである低環境負荷(消費電力・廃棄物など)の商品・サービスで、事業拡大の機会につながります。この機会の拡大は、お客様のもとでの環境負荷低減や気候変動の抑制に貢献するものです。

 こうした評価結果から、エプソンは社会にとっても自社にとっても合理的であるパリ協定の目指す脱炭素社会の実現に向け、認識したリスクに対処しながら、機会を最大化するための取り組みを継続的に進めています。

 なお、世界が現状を上回る対策をとらずに温暖化が進んだ4℃シナリオの場合でも、異常気象にともなう災害の激甚化による国内外の拠点に対する物理リスクの影響は、小さいことが確認されています。

①ガバナンス

 気候変動に係る重要事項は、社長の諮問機関としてグループ全体のサステナビリティ活動の中長期戦略を策定・実践状況のレビューを行う「サステナビリティ戦略会議」で議論のうえ、定期的に(年に1回以上)取締役会に報告することで、取締役会の監督が適切に図られる体制をとっています。

 また、気候関連問題に対する最高責任と権限を有する代表取締役社長は、サステナビリティ推進室長(取締役専務執行役員)を気候関連問題の責任者に任命し、サステナビリティ推進室長は、TCFDを含む気候変動に関する取り組みを管理・推進しています。

 なお、推進体制については「(1)サステナビリティ全般 ①ガバナンス」の推進体制図と同様です。

②戦略

 エプソンは、「循環型経済の牽引」「産業構造の革新」をマテリアリティとして設定しています。これを達成するために、エプソンの技術の源泉である「省・小・精の技術」を基盤に、イノベーションを起こし、さらなる温室効果ガス(GHG)排出量削減に取り組んでいます。さらに、気候変動に対するレジリエンスの強化を図るため、「環境ビジョン2050」の実現に向け、環境戦略定例会および下部組織の分科会にて活動を推進し、2022年度は以下の取り組みを中心に活動の実践状況のレビューや各種経営会議への審議・報告を行いました。

レジリエンス強化

2022年度取り組み実績

環境戦略定例会の
推進

脱炭素

・スコープ1,2排出量ゼロ目標および設備更新計画・削減シナリオの検討

・国内維持活動として再生可能エネルギーの持続的・安定的な調達方針の検討

・サプライヤーエンゲージメント(サプライヤーの再エネ切替、再生材調査等)

資源循環

・地下資源消費ゼロに向けた資源循環指標・目標の検討

お客様のもとでの

環境負荷軽減

・社会の環境負荷低減に寄与する、製品ジャンルごと客観性・公平性のある削減貢献量の算定ロジック検討

環境技術開発

・ドライファイバーテクノロジー応用テーマの具体化(梱包材、バイオマスプラ材開発)

・スクラップ金属の高付加価値リサイクル技術開発

■ 気候関連のリスク・機会に関するシナリオ分析

 エプソンは、気候関連のリスク・機会の重要性評価に向け、「移行リスク」「物理リスク」「機会」の区分でシナリオ特定と評価を実施し、7つの評価項目を選定しました。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)と国際エネルギー機関(IEA)が提示する気温上昇1.5℃に相当するシナリオと社内外の情報に基づき、事業インパクトと財務影響度を評価しました。

■ 1.5℃シナリオにおける気候関連リスク・機会

 シナリオ分析に基づいた気候関連リスク・機会の評価結果は以下のとおりです。

区分

評価項目

顕在

時期

事業インパクト

財務影響度

移行リスク

市場の変化・政策・法規制

ペーパー需要

短期

インパクト

・気候変動とペーパー需要の変化に関する強い関連性は見出せないが、印刷・情報用紙の需要は減少傾向にあると想定する。COVID-19によるトレンド変化(分散化によるオフィス印刷の縮小など)によりペーパーレス化がさらに進んだ場合においても、インクジェット技術・紙再生技術に基づく商品・サービスの強化(印刷コスト低減、環境負荷低減、印刷の快適性向上、紙情報の有用性訴求)により財務影響へのインパクトは限定的と予想される

(環境ビジョン2050の取り組み)

・脱炭素

・資源循環

・環境技術開発

短期

インパクト

・世界的に共通した社会課題である「気候変動」と「資源枯渇」に対し、商品・サービスやサプライチェーンの「脱炭素」と「資源循環」における先進的な取り組みが求められる

・飛躍的な環境負荷低減につながる環境技術開発により、科学的かつ具体的なソリューションが求められる

 

リスクへの対応

・脱炭素

●再生可能エネルギー活用 ●設備の省エネ

●温室効果ガス除去    ●サプライヤーエンゲージメント

●脱炭素ロジスティクス

・資源循環

●資源の有効活用    ●生産ロス極小化    ●商品の長期使用

・環境技術開発

●ドライファイバーテクノロジー応用

●天然由来素材(脱プラ)

●原料リサイクル(金属、紙)  ●CO2吸収技術

2030年

までに合計

約1,000億円を投入

物理リスク

急性

洪水による
事業拠点の被災

長期

(21世紀末)

インパクト

・36拠点(国内17、海外19)を対象に2022年度最新リスクを評価した結果、洪水(河川氾濫)、高潮、渇水によるエプソンに将来的な操業リスクの変化は限定的

・サプライチェーンに関する短期気候変動リスクについては、BCP(事業継続計画)で対応

慢性

海面上昇による
事業拠点の被災

渇水による
操業への影響

機会

商品・サービス

(環境ビジョ

2050の取り組み)

・お客様のもとでの環境負荷低減

短期

想定シナリオ

・炭素税導入、電気料金高騰、廃棄物処分コストの上昇、適量生産・資源削減などにより、環境に配慮した商品・サービスへのニーズが高まる

 

事業機会

・「Epson 25 Renewed」における成長領域として、①環境負荷低減・生産性向上・印刷コスト低減を実現するインクジェット技術によるオフィスプリンティング、商業・産業プリンティング、プリントヘッド外販、②環境負荷低減を実現する新生産装置の拡充による生産システムの提供、により売上収益成長CAGR(年平均成長率)15%を見込む

 

2025年度

までに

成長領域CAGR15%

見込

環境ビジネス

短期

想定シナリオ

・地球温暖化対策分野や廃棄物処理・資源有効活用分野の市場成長が見込まれる

・サーキュラーエコノミー(循環型経済)へのシフトにより、再生プラスチック、高機能バイオ素材、バイオプラスチック、金属リサイクルの市場成長が見込まれる

 

事業機会

・地球温暖化対策やサーキュラーエコノミーへのシフトに対する有効なソリューションとして、紙再生を含むドライファイバーテクノロジー応用、天然由来素材(脱プラ)開発、原料リサイクル(金属再生、紙循環)などの技術確立を通じ、アップサイクル(高機能化)、脱プラ化(梱包材、成形材)、高付加価値新規素材の創出などにより売上収益を獲得

 顕在時期  短期:10年以内 中期:10年~50年   長期:50年超

 財務影響度 小:10億円以内 中:10億円~100億円 大:100億円超

 エプソンは、脱炭素、資源循環、環境技術開発、お客様のもとでの環境負荷低減に向けた取り組みを進めています。2022年度の取り組み実績は以下のとおりです。

区分

評価項目

2022年度取り組み実績

2022年度

定量実績

移行リスク

市場の変化・政策・法規制

ペーパー需要

・オフィス・ホームプリンティングは数量・売上収益とも伸長。インクカートリッジは在宅印刷需要の平常化が進み減少したものの、本体市場稼働台数の増加にともない大容量インクボトルとオフィス共有インクは増加。エプソンがターゲットとしているマーケットでのペーパー需要変動による財務影響は限定的

(※15)

脱炭素

・2023年の全拠点での100%再生可能エネルギー化に向けた国内維持活動と海外切り替え拡大推進(2022年度再エネ活用率:電力ベース79%)

・再生可能エネルギーの長期安定調達化に向けた調達方針の策定

 

 

45.3億円

(内訳)

・投 資:20.2億円

・費 用:11.0億円

・人件費:14.1億円

 

 

環境ビジョン2050

累積投入費用・投資

合計 78.5億円

資源循環

・再生プラスチック使用製品の拡大、リファービッシュ/リユースによる商品の長期使用の拡大

・不要な金属を、金属粉末製品の原料として資源化する新工場用地を取得、リサイクル工場の基本設計完了(2023年7月着工、2025年6月稼働予定)(エプソンアトミックス)

環境技術開発

・ドライファイバーテクノロジーを応用しコットン端材を原料とした梱包材実用化、セルロース複合バイオプラの開発推進。CO2吸収技術選定と環境関連・材料開発への投資

物理リスク

急性

洪水による

事業拠点の被災

・36拠点(国内17、海外19)を対象にIPCC第6次評価報告書に基づき最新リスクを評価

 -洪水(河川氾濫)、高潮、渇水によるエプソンへの将来的な

操業リスクの変化は限定的であることを確認。豊科事業所

(※16)における低階層の設備浸水リスクに対しBCP施策

(設備更新時の移設)で対応

慢性

海面上昇による

事業拠点の被災

渇水による

操業への影響

機会

商品・サービス

お客様のもとでの

環境負荷軽減

・「Epson 25 Renewed」における成長領域(オフィスプリンティング、商業・産業プリンティング、プリントヘッド外販、生産システム)への取り組みを推進

2020年度→22年度

売上収益

CAGR+16%(※17)

環境ビジネス

・ドライファイバーテクノロジーを核技術とし、事業活動や技術開発活動を通じた環境ソリューションビジネス創出に向けたビジネスプラン検討

※15 財務影響度 小:10億円以内

※16 国内拠点で長期的洪水リスク(21世紀末)を有する主要拠点

※17 Epson 25 Renewed 発表時の2020年度予想と2022年度実績との比較

③リスク管理

 企業を取り巻く環境が複雑かつ不確実性を増すなか、企業活動に重大な影響を及ぼすリスクに的確に対処することが、経営戦略や事業目的を遂行していくうえでは不可欠です。エプソンは、気候関連問題を経営上の重大な影響を及ぼすリスクとして位置付け、適切に管理しています。

■ 気候関連リスクの識別・評価・管理プロセス

1 調査

2 識別・評価

3 管理

・IPCC第6次評価報告書の変化点を加味して、国内外の主要拠点を対象に、気候変動に起因した自然災害リスクに関する調査を実施

・社会動向を調査

・「Epson 25 Renewed」「環境ビジョン2050」の方針や施策からリスク・機会を洗い出し

・サステナビリティ戦略会議と取締役会を通じて、シナリオ分析を評価

・サステナビリティ戦略会議と取締役会を通じて、適切に管理

④指標及び目標

 エプソンは、「環境ビジョン2050」の実現に向け、中長期的な温室効果ガス(GHG)の排出削減目標の達成を目指します。そのため、エプソンの技術の源泉である「省・小・精の技術」を基盤に、商品の環境性能向上や再生可能エネルギーの活用、事業活動などバリューチェーンを通じた環境負荷低減に積極的に取り組んでいます。

■ GHG削減目標(「1.5℃シナリオ」に沿った野心的な排出総量削減目標の目安)

スコープ1、2、3(※18)

2030年度までに2017年度比でGHG排出量を55%削減

※18 スコープ1:燃料などの使用による直接排出

 スコープ2:購入電力などのエネルギー起源の間接排出

 スコープ3:自社バリューチェーン全体からの間接的な排出

■ GHG排出量実績(スコープ1、2)

 

2017年度(基準年)

2018年度

2019年度

2020年度

2021年度

2022年度

2025年度(SBT)

スコープ1

(千t-CO2e)

137

128

122

125

118

142

391

スコープ2

(千t-CO2e)

455

374

363

345

230

93

スコープ1,2合計

(千t-CO2e)

592

502

486

470

348

235

事業利益原単位

(千t-CO2e/億円)

0.79

0.71

1.19

0.76

0.38

0.24

-

(注) 端数処理の関係で合計が合わない項目があります。

(3)人的資本・多様性

■ 人的資本に関する考え方・取り組み

 エプソンは、中長期的な企業価値の向上および持続的な成長に向けて、パーパスに基づき事業を通じた社会課題解決への貢献に取り組んでいます。そのためには、長期ビジョン「Epson 25 Renewed」において定めた事業領域別の位置付けや戦略・方針に沿い、「環境」「共創」「DX」の取り組みによって事業を拡大・創出していくことが必要です。これらの活動を支えるのが、人材戦略による経営基盤強化の取り組みです。社会が変革を遂げるなかで求められるサービスは何か、どうすれば社会課題解決につながるソリューションを提供できるのか、それらを自律的に考え、生み出す力を持った人づくりや、力を発揮できる環境づくりのため、エプソンは「強化領域への人材重点配置」「人材育成強化」「組織活性化」を人材戦略の柱として推し進めています。

■ 人材戦略の基本的な考え方

 エプソンは、信州に生まれ、育った企業です。現在も信州に事業運営の核となる機能・基盤を置きつつ、売上収益の約80%、従業員数の約75%を占める海外各国・地域に107か所の研究開発、生産、営業拠点を整備し、グローバルにビジネスを展開しています。そのため、エプソンにおいては、地域の雇用の確保と、それにともなう比較的長期の雇用を強みに変えつつ、一方で積極的に外部人材を獲得し、多様性を実現すること、グローバルに厳しい競争を勝ち抜き、経営目標・事業成長を達成するための人的基盤を構築することが人材戦略の要諦となります。具体的には、以下がポイントとなります。

◆ さまざまなお客様のニーズを的確に把握し、素早く、柔軟に対応できるよう事業の変革・革新を進める。そのために新領域や高度専門領域のスペシャリスト、経営目線を持って活躍できるマネジメント人材を積極的に外部から獲得するとともに、強化領域への重点配置を進め、グローバルな視点で最適なフォーメーションを構築する。

◆ エプソンは、長期の時間軸で「人が自律的にキャリアを形成し、成長し続ける会社」として、各種研修やリスキリング、ローテーション、社内公募制度等の挑戦の機会を提供し、従業員一人ひとりが内外の環境変化への対応力を高める。また、グローバルな視点での最適なフォーメーション構築のため、海外人材を含めグローバルに活躍できる人材を育成・配置する。

◆ イノベーションを実現する創造性を高めるため、女性や外国人、中途採用者、障がい者、高年齢者など多様な人材を確保するとともに、組織風土への取り組みや、信州の恵まれた自然環境、職住接近など、地方企業としての利点を生かした働きやすい環境づくりを通じて、従業員のエンゲージメントを高め、多様な人材を生かし、組織の総合力を最大化する。

①ガバナンス

 人材戦略に係る重要事項は、社長がその責任者として人的資本・健康経営本部長(CHRO)を任命し、CHROが全社的な企画立案、管理、推進の責任を担っています。CHROは、各事業・本部長の傘下にある人事機能に対しても一定の権限を持っており、全体最適を実現し、全社で人材戦略を推進する体制となっています。

CHROは、中期経営戦略に基づき中期人事戦略を立案し、中期戦略審議などにおける議論・審議を経て、中期経営計画の一部として取締役会に報告しています。中期人事戦略において設定した、「強化領域への人材重点配置」「人材育成強化」「組織活性化」に関する主要な事項の実施にあたっては都度経営戦略会議や人材開発戦略会議において審議・報告を行っています。そのなかでも特に経営上重要な、経営幹部層の後継計画・育成、ダイバーシティに関する事項、ハラスメント等については年1回以上定例的に取締役会に付議または報告することで、取締役会の監督が適切に図られる体制をとっています。

 なお、役員の選任および報酬に関しては、社外取締役を委員長とし、委員の過半数を社外取締役で構成する取締役選考審議会・取締役報酬審議会において、後継者計画の策定および役員の指名プロセスの検討、ロードマップの確認、候補者の選出、育成計画の策定・実施、候補者の評価・絞り込み・入れ替え、役員報酬制度、基本報酬・賞与の個別支給額などを確認しています。

■ 推進体制

②戦略

■ 求める人材像

 経営戦略の実現・事業遂行のため、エプソンは、パーパス、エプソンウェイの浸透と、長期ビジョンに定めた事業の方向性の共有をベースとしながら、広い視野と高い専門性を持って変化に素早く対応し、お客様の立場に立って自立的・自律的にお客様価値を作り上げることのできる人材を必要としています。

 今後さらに国内での少子高齢化や労働人口減少が進むことも見据え、経営戦略の策定・遂行および新たなビジネスモデルの確立に必要となる人材要件を定義して、現状とのギャップを明らかにするため、グローバルベースでの人材ポートフォリオ策定に着手しています。これを起点として、中長期戦略実現のための人事課題を明らかにし、適切な施策により全社最適人員構造を実現していきます。

■ 人材戦略と機会、リスク

 エプソンは、求める人材像で描く人づくりと、人材が存分に活躍できる組織風土づくりを中心に据えた人材戦略を掲げています。リスク・機会を下記のとおり評価したうえで、「強化領域への人材重点配置」「人材育成強化」「組織活性化」の3つの人材戦略に取り組んでいます。

人材戦略

機会(〇)

リスク(●)

強化領域への

人材の重点配置

〇強化領域(成長領域や新領域等)への人材の重点投入、最適配置による事業成長、加速

〇意欲に応え、やりがいや成長機会を提供することによる社員のモチベーション、エンゲージメントの向上、生産性向上

●必要な人員の質・量を確保できないことによる、事業遂行上の障害の発生

●その結果として、成長機会の逸失と財務的損失

人材育成強化

〇やりがいや成長機会の提供に対し、社員が成長を実感することによるモチベーション、エンゲージメントの向上、生産性向上

●必要な人員の質・量を確保できないことによる、事業遂行上の障害の発生

●その結果として、成長機会の逸失と財務的損失

●学びの意欲や成長への期待に応えられないことによる社員のモチベーションの低下、離職の増加

●必要な能力・スキルを獲得し、変化に対応できる人材を育成できないことによる事業遂行への障害、財務的損失

組織活性化

〇多様な人材の多様な発想・創造力によるイノベーションが起きやすい環境の醸成

〇優秀な人材の確保、定着化による採用コストの削減、競争力の向上

〇多様な人材が働きやすい環境を整備することによるモチベーション、エンゲージメントの向上、生産性向上

●社員のモラルやモチベーションの低下による業務効率の悪化、コンプライアンス違反の発生、倫理観の欠如等による信頼の失墜

●ハラスメントの発生、心身の健康への悪影響等によるモチベーションやチームで働く力の低下、その他働く場におけるさまざまな人権侵害のリスク

●事故発生等による追加コスト

■ 人材育成方針

人材戦略① 強化領域への重点配置

 エプソンでは、事業運営の基盤として、将来の要員構造の推移の予測と、事業戦略を実現するための要員ニーズに基づいて要員計画を策定しています。2020年度、2021年度はCOVID-19の流行により一定の抑制を行いましたが、今後、中期的には、新卒・中途を合わせて、毎年350人以上の採用を計画的・安定的に行う方針です。

 成長領域であるプリンティング(オフィス、商業・産業)や生産システム(ロボット)、新領域である環境ビジネス・環境技術、センシング分野へは、採用した人員の重点配置に加え、内部人材へ専門教育・転換教育等を行って強化領域に投入するとともに、人材要件を明確にしたうえで外部からマネジメント人材やスペシャリストを獲得し、強化領域へ配置しています。

人材戦略② 人材育成強化

<人材育成>

 エプソンでは年1回、各組織において要員状況を俯瞰し、また管理職等の重要ポジションの役割や要件を定義し、それに基づき後継計画を策定しています。また将来の経営層・管理職層、グローバル人材の候補者をリストアップし、育成計画を策定しています。

 人材育成は、業務を通じた育成(OJT)を基礎に、教育体系を整備して階層別の教育や各種の専門教育をOFF-JTとして行っているほか、個々の変化対応力を強化し、またバリューチェーンの効果的・効率的な運営に資するため、本人の能力や経験・知識の幅を広げるローテーションに積極的に取り組んでいます。

 リーダー人材の育成には、選抜型の階層別教育プログラムを整備しています。

<グローバル人材の育成>

 お客様に価値ある製品をお届けするためには、グローバルに展開しているバリューチェーン全体が効果的・効率的に運営されることが必要であり、各機能について幅広い知識と経験を持ち、相互に「すり合わせ」ができるグローバル人材が必要です。世界各地で、共通の価値観を持ち、現場で的確・迅速な意思決定ができるリーダー人材を育成するため、海外現地法人の経営リーダー層の養成を目的としたセミナーを毎年開催しているほか、地域を超えた人材交流を進めています。また、海外人材についても国内と同様に、現地のトップマネジメント・人事部門と連携して役割や要件定義を行い、重要ポジション・重要人材についての後継計画・育成計画を策定しています。このような活動を基盤として、最適機能配置に関する社内議論を継続して行い、グローバル視点での最適なフォーメーションの構築に取り組んでいます。

■ 社内環境整備方針

人材戦略③ 組織活性化

<DE&I>

 変化の激しい時代のなかで、多様なお客様を理解し、その人々に驚きや感動を与える新たな価値を創出するため、多様な人材が世界中のエプソンに集まり、公平な環境で、一切の偏見なく、すべての社員が互いの個性を当たり前に尊重し合い、全社員が楽しく働きながら、社会の一員として責任を持ち、会社とともに成長そして挑戦することによって、イノベーションを起こし続ける環境を目指しています。エプソンは、そのなかでも特に日本国内におけるジェンダー平等を最大の課題と認識し、管理職層や経営層の女性比率が全社員の女性比率と同じになる状態をできるだけ早期に実現するための取り組みを進めています。また、社員の意識変革を促すため、経営トップからのメッセージ発信や、各種研修を行っているほか、女性の働きやすい職場づくり、相談窓口等によるサポート、男性の育休取得推進等にも取り組んでいます。

 さらに、多様な人材それぞれのキャリア形成をサポートし、活躍を促進するため、各種キャリア支援プログラムや、自発的な学びなおしの機会を提供する教育体系の整備を進めています。

<従業員エンゲージメント>

 エプソンは、「自由闊達で風通しの良いコミュニケーション環境」により、「関係の質」を向上させ、社員と会社がともに成長し続ける組織風土を目指しています。

 エプソンでは、組織風土の現状を把握するため、2005年より組織風土に関する調査を毎年行っています。2020年度からは、特に「関係の質」向上のための重要な要素でありながら、全体的にスコアの低かった「チームで働く力」の向上について会社全体で取り組みを行ってきました。

2022年度は、「関係の質」向上に加えて、従業員一人ひとりが従来以上にやりがいと自発性を持ち、また多様な人材が自律的にいきいきと働ける環境を目指し、外部との比較も可能な「エンゲージメントサーベイ」を導入して、組織風土改革と、それを通じた生産性向上への取り組みを継続していきます。

<働きやすい環境づくり>

 エプソンでは、社員がやりがいを持ち、さまざまな環境変化に適応しながら、いきいきと、心身ともに健康で安全に働ける環境を目指しています。特にCOVID-19への対応を契機として進んだ在宅勤務を中心に、労働時間と勤務場所の柔軟化や、育児・療養・介護・不妊治療等における仕事と生活の両立ができる環境づくり、また職場におけるハラスメント防止等の施策を推進しています。

 特に信州に主要な拠点が集中するエプソンにおいては、働く時間や場所を選ばない柔軟な働きかた、また、多様性を持った社員がそれぞれのキャリア形成を実現できる働き方の整備は、今後マネジメント人材やスペシャリストの獲得、ダイバーシティ推進の観点からもさらに重要であると考えています。

<健康経営>

 会社にとって社員の健康が最重要と考え、経営理念、エプソングループ労働安全衛生基本方針およびエプソングループ健康経営宣言に基づき、社員の健康状態の向上とともに、仕事にやりがいを感じ、いきいきと働いている状態の実現を目指しています。2022年4月には、中期健康管理計画「健康Action 2025」を制定し、自律性の醸成・働くことと健康の調和を目指す「こころとからだの健康」と、安全配慮の徹底とチームでいきいきと働く組織風土の醸成を目指す「職場の健康」の2つを重点分野として取り組んでいます。

 これまでの活動が評価され、2023年3月に「健康経営銘柄」に2年連続で選定されています。

<労働安全衛生>

 エプソンは、2000年度に、国際労働機関(ILO)の指針に準拠した労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)をベースとした方針・プログラムを策定し、「安全」「健康」「防火・防災」「施設」を4本柱とした取り組みを行ってきています。これをさらに国際規格であるISO45001に基づく活動に進化させ、グループすべての働く人が安心して活き活きと働けるよう、職場の安全衛生環境のさらなる向上を目指した取り組みを行っています。

③リスク管理

 企業を取り巻く環境が複雑かつ不確実性を増すなか、企業活動に重大な影響を及ぼすリスクに的確に対処することが、経営戦略や事業目的を遂行していくうえでは不可欠です。エプソンは、人的資本・多様性に関わる課題を経営上の重大な影響を及ぼすリスクとして位置付け、適切に管理しています。

■ 人的資本・多様性関連リスクの識別・評価・管理プロセス

1 調査

2 識別・評価

3 管理

・人的資本・健康経営本部を中心に、国内外の主要拠点を対象に、人的資本・多様性に起因したリスク・機会を調査

・「Epson 25 Renewed」の方針や戦略からリスク・機会を洗い出し

・人材ポートフォリオの策定において、現状とあるべき姿のギャップを把握

・経営戦略会議と取締役会を通じて、適切に管理

④指標及び目標

 エプソンは、人材戦略の3つの柱「強化領域への人材重点配置」「人材育成強化」「組織活性化」にそれぞれKPIを設定し、主要な施策について目標を明確にするとともに、その目標に対する進捗状況を管理しています。

戦略

指標

実績

目標

2020年度

2021年度

2022年度

人材戦略①
強化領域への

重点配置

採用人数

新卒 344人

中途 30人

新卒 200人

中途 48人

新卒 250人

中途 241人

毎年度(※19)

350人以上を継続

人材戦略②
人材育成

ローテーション率

7.3%

9.0%

10.0%

毎年度 15%以上

人材戦略③
DE&I

管理職女性比率

3.2%

3.7%

4.1%

2025年度 8%

係長級女性比率

6.5%

6.9%

7.1%

同 10%

女性執行役員数

(取り組み状況を

( )で記載)

(社内選抜研修女性受講者数7名)

(社内選抜研修女性受講者数12名)

(社外経営戦略研修への女性社員派遣2名)

2025年度までに

1名以上

障がい者雇用率

(※20)

2.66%

2.69%

2.70%

2030年度 3.0%

労働者の男女の

賃金の差異

(※21)

全労働者

 74.9%

正規

 75.7%

非正規
 74.6%

全労働者

 76.5%

正規

 76.7%

非正規
 77.8%

女性管理職を増やす等の取り組みにより差異を縮小させていく

(賃金制度上、同一資格等級での男女の

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