王子ホールディングス 【東証プライム:3861】「パルプ・紙」 へ投稿
企業概要
当社グループの研究開発活動は、各事業会社の研究開発部門や、各工場の研究技術部等とイノベーション推進本部が、品質課題解決などの強化のため、新たに加わったグループ技術本部と連携しながら取り組んでいます。新事業の創出並びに既存事業の競争力強化を念頭に、創業当時から森づくりや紙づくりで培ってきた多様な技術と国内外に保有する豊富な森林資源を活用することにより、当社ならではの新たな価値を創造し、社会的課題を解決するためにイノベーションを推進しています。
グループ全体の既存事業の競争力強化として、植林、パルプ、抄紙、塗工の各分野で蓄積・体系化された技術と、海外拠点との連携、新製品開発及び既存製品の品質改善に取り組んでいます。国内外の工場では、品質向上・操業の安定化、コストダウンの推進を図っています。
当連結会計年度末における当社グループの保有特許権・実用新案権・意匠権の総数は国内2,772件、海外978件です。また、保有商標権の総数は国内970件、海外1,007件です。
当連結会計年度の研究開発費の総額は10,418百万円となっています。なお、当連結会計年度における各セグメントの研究開発活動を示すと、次のとおりです。
(1) 生活産業資材
産業資材事業では、古紙利用拡大、抄紙条件、薬品の最適化によるコストダウン、品質・操業性改善を推進してきました。これらの国内で培った基盤技術を活用して新製品開発を進めるとともに、カンパニーの枠を越え、当社グループ会社の各海外拠点へ水平展開を進めています。
パッケージング関係では、環境配慮型紙製品として、お菓子用包装やボールペンパッケージ、自動車部品パッケージなど、従来はプラスチックが使用されていた用途において、当社グループの紙製品の採用が進んでいます。今後も様々な包装用途についての紙化を進めることで、脱プラスチック社会への移行に貢献していきます。
当事業に係る研究開発費は387百万円です。
(2) 機能材
機能材事業では、温室効果ガスの排出量削減や循環型社会の実現に貢献する環境配慮型素材及び製品を積極的に開発しています。また、当社グループのコア技術であるシートの製造・加工技術を活用した新製品開発も進めています。
特殊紙関連では「SILBIOシリーズ」として、酸素や水蒸気の侵入を防ぎ、内容物の劣化を抑えることができるバリア性紙素材にヒートシール性、透明性、遮光性などの機能を有する製品をラインアップしています。その他、医薬用包材や衛生材料関連素材など、成長市場に向けた製品開発も進めています。
また、世界的に有機フッ素化合物の規制が厳しくなる中、非フッ素耐油紙「O-hajiki」を開発し、王子エフテックスより販売を開始しました。「O-hajiki」には晒タイプと未晒タイプがあり、揚げ物袋などで採用が進んでいます。
粘着関連では、機能進化するタッチパネルに対応した各種粘着シートや高機能粘着フィルムの開発に注力しており、ノートPC、ゲーム機、車載ディスプレイなどへの採用が進んでいます。また、ディスプレイ用途で培った技術を応用して、自動車用ウィンドフィルムを開発し、建材用途への展開も進めています。
フィルム関連では、二軸延伸ポリプロピレンフィルムで培った延伸製膜技術によるコンデンサ用フィルムの開発や、バイオプラスチックフィルムの開発を進めています。脱炭素社会への転換がグローバルに進行し、電動車が急速に普及しています。電動車の電気駆動系に用いられるフィルムコンデンサは、その主力材料である高性能ポリプロピレンフィルムの厚みが薄いほど小型化が可能になります。当社グループは高耐電圧ポリプロピレンフィルムの超薄型化技術の開発を推進し、電動車両向けの電子部品の小型軽量化に貢献しています。また、バイオプラスチックフィルムでは、植物由来原料のポリ乳酸樹脂をポリプロピレン樹脂に配合した二軸延伸フィルムを開発し、バイオマスマーク認定商品「アルファンG(グリーン)」の、営業生産を開始しています。
当事業に係る研究開発費は2,626百万円です。
(3) 資源環境ビジネス
資源環境ビジネス事業では、王子製紙米子工場で生産している溶解パルプに関する技術開発を行っています。溶解パルプは、レーヨン、医薬品や食品の添加剤、セルロース誘導体などの原料として使用され、今後は世界的な人口増加により需要拡大が期待されています。既に繊維原料メーカーや医薬品原料メーカーへの販売を行っており、脱石油依存の動きが加速しポリエステルの成長が鈍化するとともに、コットンの大幅な増産も見込めないため、溶解パルプの需要は高まると予想されています。現在、高価格品の生産性アップやコストダウンによる収益向上を進めています。
当事業に係る研究開発費は493百万円です。
(4) 印刷情報メディア
印刷情報メディア事業では、パルプ製造工程から紙製造工程までの製紙工程全般に関する技術開発に取り組んでいます。需要が減少する中、生産体制の最適化や他の用途開発に取り組んでおり、さらに、使用薬品や操業条件の最適化によるコストダウン、欠点・断紙削減等の操業性改善、代替薬品の利用促進によるBCP(事業継続計画)対応強化を推進し、収益向上に繋げています。
当事業に係る研究開発費は658百万円です。
(5) その他の研究開発活動
イノベーション推進本部は、日々変化する市場ニーズへ対応するため、研究開発体制を見直し、「木質由来の新素材」や「メディカル&ヘルスケア」、「環境配慮型製品」の三つのテーマを中心に研究開発活動を進めています。
まず「木質由来の新素材」では、石油由来の燃料やプラスチックからの脱却に向けて、非可食の木質由来の「エタノール」、「糖液」、「ポリ乳酸」の事業化にむけた技術開発に取り組んでいます。木質由来のエタノールは航空業界向け燃料(SAF)や化学業界における基礎化学品製造の原料として期待され、木質由来の糖液はバイオマスプラスチックや合成繊維等の様々なバイオものづくりの基幹原料として、ニーズ拡大が見込まれており、その一つとしてポリ乳酸の開発にも取り組んでいます。2024年度下期には王子製紙米子工場に製紙工場のインフラを活用した国内初のエタノールおよび糖液のパイロット製造設備が稼働予定です。今後、実用化を見据えたユーザー様に対してエタノール・糖液を提供していくとともに、継続した技術改良を行い、社会実装に向けた取り組みを加速させていきます。さらに、レジストに木質由来の原料を採用することで、PFASフリーでかつ微細化に繋がることを見出し、半導体の2nm世代以降で求められるサイズのパターン形成を確認できました。
木質由来素材のセルロース・ナノ・ファイバー(CNF)は、従来の石油や鉱物由来の機能材からの置き換えにより、環境負荷低減への貢献が期待されています。CNFを天然ゴムと複合させることにより補強効果(硬さ)と伸びの両立に成功し、実用化に向けたサンプルワークを進めております。タイヤ等の自動車用ゴム製品をはじめ様々な用途での採用を見据え、複合素材の量産試作設備を導入し、社会実装に向けた実証試験を加速していきます。また、CNFを用いた燃料電池用「高分子電解質膜」の開発、実用化に向けた研究開発を進めています。さらに、CNFで培ったノウハウを活かし、ガラス繊維強化に匹敵する衝撃強度を持つ、セルロースを補強材とした樹脂ペレットを開発し、「タフセル」の名称で顧客への提供を進めています。
また、生分解性プラスチックと木質由来のセルロース(パルプ)の複合材料「リソイルグリーン」を開発しました。生分解性プラスチックの強度や剛性などの特性を向上させるとともに、構成するすべての原料が土中の微生物によって分解されるため、意図せず環境中に流出した場合でも、通常のプラスチックに比べ、環境への負荷を減らすことが出来ます。現在は、幅広い用途での採用を目指しています。
次に「メディカル&ヘルスケア」として、未来の医療を見据えて、新たな領域へ事業を展開しています。木材の主要成分の一つであるヘミセルロースを用いて、動物由来に依存する課題を回避できる医薬品の開発に取り組んでいます。また、医薬品や化粧品、食品などに使用されている薬用植物「甘草(カンゾウ)」について、国内での大規模栽培技術を確立し、市場の要求に応じた商品化を進めています。さらに、創薬における動物実験回避や再生医療への促進を目指し配向性細胞培養基材(CellArray-Heart)の開発にも力を入れています。
そして、「環境配慮型製品」では、既存のプラスチック製食品トレイなどに紙素材を活用した脱プラスチックソリューションを提供しています。また、植物由来のポリ乳酸を使用したラミネート紙や現行の紙リサイクルシステムでも再生可能な紙コップ原紙などの開発を進めています。
一方で、ポリエチレンでラミネート加工されたチルド向け紙容器および紙コップから段ボールへリサイクルするシステムを構築し、さらに従来ほとんどが焼却処分されているアルミ付き紙容器のマテリアルリサイクルシステムを確立しました。これらは、二酸化炭素排出量削減やプラスチック使用量の低減に繋がる取り組みであり、循環型経済(サーキュラーエコノミー)の実現に貢献していきます。
水処理技術の分野では、当社グループが長年培ってきた技術や操業ノウハウを活かし、国内外の顧客に水処理システムを提供することで、水資源の有効活用に貢献しています。
また、イノベーション推進本部におけるDX推進の一環として、新材料の設計や開発を効率的に行うための手法であるMI(マテリアルズインフォマティクス)を導入し、研究開発活動への適用を進めています。
その他の研究開発活動に係る研究開発費は6,253百万円です。
なお、(1)~(4)の各セグメントに関わる研究開発活動のうち、事業化段階に無い、探索段階及び開発段階の研究開発活動の研究開発費が含まれます。
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