企業兼大株主ENEOSホールディングス東証プライム:5020】「石油・石炭製品 twitterでつぶやくへ投稿

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企業概要

 当社グループは、グループ理念に定めた『エネルギー・資源・素材における創造と革新』を目指し、エネルギー関連と金属関連を中心に研究開発活動を進めています。当連結会計年度における研究開発活動の概要は以下のとおりです。

(1)エネルギー (研究開発費 15,460百万円)

 エネルギー・素材関連の研究開発活動は、ENEOS株式会社(以下、ENEOS)の中央技術研究所と各事業カンパニーの研究開発部が連携をしながら進めています。「エネルギー・素材の安定供給」と「カーボンニュートラル社会の実現」との両立に向け、エネルギートランジションを実現すべく、新規事業の創出、拡大に向けて重点領域を設定して、研究開発を推進しています。また、社外との連携にも力を入れており、大学・研究機関や企業・スタートアップとも連携を図り、オープンイノベーションを促進しています。

①脱炭素エネルギー分野

 カーボンニュートラル社会の実現に向け、海外の安価で潤沢な再生可能エネルギー(再エネ)を大量貯蔵・輸送に適した物質に変換し、エネルギー供給の安定性を高め、国内に使いやすい形で提供するための技術開発を進めています。

CO2フリー水素分野では、再エネから得られた電力で直接トルエンを電解水素化することで、貯蔵・輸送に適したメチルシクロヘキサン(MCH)を低コストで製造する技術(Direct MCH®)の商業化に向けた開発を進めています。豪クイーンズランド州に建設した、工業化サイズの電極面積を有する中型電解槽実証プラント(150kW級)にて再エネを用いてMCHを製造、日本へ輸送し、取り出した水素を燃料電池小型バスへ充填、走行させることに成功しました。さらに2025年度をめどに大型電解槽プラント(MW級)の建設を行う予定です。これらは、「直接MCH電解合成(Direct MCH®)技術開発」として、経済産業省及び国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の進めるGI基金事業に採択されています。また、CO2フリー水素と工場等や将来的には大気から回収したCO2を原料に液体燃料を製造する「合成燃料」の開発についても、カーボンニュートラル社会の実現に向けて重要な取組と位置付け、技術開発を進めています。中央技術研究所敷地内に1BD規模の小規模プラント建設を進めており、2024年度から実証運転を開始する計画です。また、試験製造した合成燃料を実際の自動車に充填、走行デモンストレーションを行い、従来のガソリンと変わらない走行性を確認しました。こちらもGI基金事業「CO2等を用いた燃料製造技術開発プロジェクト」に採択されており、各反応工程の性能向上とプロセス全体の高効率化を通じて早期の技術確立を目指します。さらに大気中のCO2を回収するClimeworks社製のDirect Air Capture(DAC)装置をアジア太平洋で初めて中央技術研究所内に導入し、DAC技術の実証試験を開始しています。

 バイオ燃料分野では、TOPPANホールディングス株式会社と古紙を原料とした国産バイオエタノールの事業化に向け共同開発契約を締結、実証事業を開始します。

 再エネの有効活用に向けては、VPP(仮想発電所)事業における蓄電池の運用計画の最適化を行うシステムや、発電量や電力価格、水素需要に応じて水電解装置による水素製造を制御する水素EMS(エネルギーマネジメントシステム)の開発に取り組んでいます。自社開発したアルゴリズムによって、大型蓄電池(根岸製油所内)、水素ステーション(横浜旭、福島)内の水素製造装置等の運用最適化を行い、実設備での運用を通じて、技術・ノウハウの蓄積を進めています。また、東京都東村山市における電気自動車を活用したEMS実証や、静岡県裾野市におけるパイプラインによる水素供給効率化に向けた水素EMSの機能拡張等、地産地消エネルギー活用に向けた技術開発も推進中です。

 さらに循環型社会の実現に向け、廃プラスチックを利用したアスファルト舗装技術を開発し、実証試験を開始しました。また、株式会社ブリヂストンと使用済タイヤの精密熱分解によるケミカルリサイクル技術の社会実装に向けた共同プロジェクトを進めています。本プロジェクトは「使用済タイヤ(廃ゴム)からの化学品製造技術の開発」としてGI基金事業に採択されており、検討を継続しています。

 社外連携については、早稲田大学との包括的かつ分野横断的なオープンイノベーションを通して、カーボンニュートラル社会の実現に資する技術を探索しています。早稲田キャンパス研究開発センターエリアに設置した「ENEOSラボ」を共同研究の拠点として、電池材料関連の「CO2削減に向けた革新技術の研究」に取り組んでいます。

②燃料油・化学品製造技術分野

 製油所、製造所の安全・安定操業、競争力強化、及び液体燃料におけるCO2削減を目指した研究を行っています。中でもデジタル化技術の開発・活用においてはAI技術による石油化学プラントの連続自動運転が実用段階に入っており、川崎製油所のブタジエン抽出装置で手動操作を超える経済的・高効率な運転を達成、並行して常圧蒸留装置等の主要プラントや他製油所への同AIシステム展開を目指し、開発を進めています。また、エンジンの熱効率向上が期待される革新燃焼技術(超希薄燃焼:スーパーリーンバーン)に適した燃料組成の検討を行い、製油所から得られる留分の利用によるCO2削減の可能性を示すとともに、触媒・反応技術を活用し、自社原料の更なる有効活用(ケミカルシフト)に向けた石油化学誘導品の開発や、医薬品製造を想定した有機系触媒の開発等も進めています。

③機能材分野

 機能材分野では、重点領域である「エラストマー」、「高機能モノマー」、「高機能ポリマー」において、自社の強みである分子設計技術、配合技術、性能評価・分析技術を最大限に磨き、社会ニーズに応えるとともに、新たな価値の創造、社会的課題へのソリューションの提供に取り組んでいます。エラストマー分野では、株式会社ENEOSマテリアル(以下、ENS)において摩耗粉塵の削減に寄与し、かつ低燃費で、安全に止まる高グリップ性能を有する高機能タイヤ用エラストマーSSBR(溶液重合スチレン・ブタジエンゴム)や、電気自動車(EV)への搭載を主とし、EVの性能向上に貢献する二次電池の材料等の開発を行っています。高機能ポリマー分野では、次世代高速通信で使われる高周波帯に対応する低誘電LCP(液晶ポリマー)や、半導体封止材等への適用が期待されるENEOSの独自エポキシ樹脂を使用した高耐熱熱硬化レジン等の開発を行っています。現在はENSが保有するエラストマー技術とENEOSが保有する技術との融合による新たな素材開発を進めています。また、産学連携として東京工業大学と共同研究講座を設置して、素材開発を加速・深化させるオープンイノベーションの拠点としています。

④潤滑油分野

 潤滑油分野では、地球環境に配慮した高性能潤滑油、グリースの製品開発を行っています。世界的な潮流である脱炭素化への貢献のため、植物由来の基材を活用した製品の開発に取り組んでおり、大型トラックやバス等のディーゼルエンジン用として「GXディーゼル OW―30」、工作機械の油圧システム向けとして「GXハイランドSE32」、各種機械や軸受向けグリースとして「GXグリースМP2」を新たに発売しました。また、電動モビリティ向けに冷却性能や電気絶縁性能と潤滑性を高次元で両立した製品の開発に注力するとともに、今後大幅な増加が予測されるデータセンターの省エネルギー化に貢献する液浸冷却液「ENEOS IXシリーズ」を発売し、更なる冷却性向上に向けた検討を進めています。このほかにも省燃費型駆動系油、安全・環境配慮型工業用潤滑油、自動車・産業用高性能グリース、新冷媒対応・省エネルギー型冷凍機油といった製品の開発を、新規材料やシミュレーションを含めた新規解析評価技術を取り入れながら推進するとともに、高品質の製品を安定かつ効率的に製造するための製造技術の開発を行っています。

⑤デジタル技術分野

 デジタル技術を活用して自社業務の効率化や新たな価値を生み出すことを目指した研究を行っています。具体的には、プラントデータを活用した運転効率化、画像解析による安全・安定操業支援に加え、革新的な素材・触媒探索技術の研究を推進しています。一例として、株式会社Preferred Networks(以下、PFN社)と戦略的な協業体制を構築し、AI技術を活用した革新的事業創出に取り組んでいます。MI(マテリアルズ・インフォマティクス)分野ではPFN社との合弁会社として株式会社Preferred Computational Chemistry(以下、PFCC社)を設立し、共同開発した新物質開発・材料探索を高速化する汎用原子レベルシミュレータ「Мatlantis™」をクラウドサービスとして提供する事業を国内だけでなく米国の企業・団体向けにも展開しています。同サービスは2023年12月1日時点で70以上の企業・研究団体に導入され、触媒、電池材料、半導体、合金、潤滑油、セラミック材料、化学材料等、幅広い開発に用いられています。さらに、HPCシステムズ株式会社の手掛ける化学反応経路の自動探索ソフトウェア「GRRМ」をМatlantis™によって高速化する「GRRМ20 with Мatlantis」を同社、PFCC社と共同で開発、サービス提供を開始しました。

 また、ロボティクスを活用したプラント・次世代型エネルギー設備への保守点検サービス事業について、株式会社イクシスに出資し、協業検討を行っています。デジタル技術を活用した新たなビジネス創出につなげることも目指し、国内外のスタートアップ企業等との連携も活発化させています。

(2)石油・天然ガス開発

 該当事項はありません。

(3)金属 (研究開発費 15,939百万円)

 金属事業(JX金属株式会社)では、長年培ってきたコア技術の進化・活用に加え、グループ企業内での技術コラボレーション、大学等研究機関との共同研究、外部企業とのパートナーシップ構築等、様々な形の共創を推進し、研究開発を行っています。データ社会の進展に寄与する次世代の先端素材の開発や、脱炭素や資源循環といった地球規模のESG課題解決に向けた製品・技術開発、車載用リチウムイオン電池(LiB)のリサイクル技術開発等に積極的に取り組んでいます。

①新規事業開発

CVD・ALD材料、結晶材料、プリンテッドエレクトロニクス材料、LiBリサイクル及び電池材料の開発等について、事業部、関係会社等を跨ぎ全社横断で早期事業化に向けた取組を強化しています。

CVD・ALD材料は、原子レベルで厚み制御が必要とされる薄膜形成に利用されるため、更なる微細化や多層化が進む次世代半導体チップの製造においてニーズが高まることが見込まれています。「CVD・ALD材料事業推進室」を設置し、次世代半導体向けCVD・ALD材料の開発テーマ探索から量産化までを一貫して担い早期事業化を推進しています。

 結晶材料は、データ通信の大幅な増加やセンシング技術の高度化により、今後更なる成長が期待される特に有望な事業領域です。インジウムリン基板をはじめとする化合物半導体関連製品の生産能力拡大、防衛・メディカル等新規用途の探索・周辺事業への進出、新規製品の開発を実施しています。その一環として、2024年4月より、技術本部技術戦略部結晶材料事業推進室と、薄膜材料事業部営業部の化合物半導体担当グループを統合し、技術本部結晶材料事業推進部とすることで、より効果的で迅速な開発・マーケティングを行う体制を構築し事業部化を推進します。

LiBリサイクルは、寿命を迎えた車載用LiBから有価金属を車載用電池材料の状態で抽出する「クローズドループ・リサイクル」の実現を目指しています。今後数年のうちに電気自動車(EV)の廃棄が本格化することが見込まれており、リサイクルの環境負荷定量評価、無害化、回収技術高度化といったサプライチェーン全体での資源循環システム構築に取り組んでいます。

②半導体材料

 薄膜材料分野では、高純度化技術及び材料組成・結晶組織の制御技術をベースに、半導体・電子部品用途向け製品に関する開発を進めています。半導体用ターゲット、磁気記録膜用ターゲット等の各種スパッタリング用ターゲットや、その他電子材料における新規製品開発及び関連プロセスの技術開発に継続的に取り組んでいます。また、今後市場が広がっていくと見込まれる半導体後工程向け製品として、超高純度硫酸銅の開発にも取り組んでいます。

③情報通信材料

 機能材料分野では、コネクタ等の用途に、精密な組成制御、独自の圧延加工プロセス及びユーザーニーズに適合した評価技術を用いて、強度・導電性・加工性・耐久性に優れた高機能銅合金の開発を進めています。次世代材料として、コルソン系及びチタン系新規銅合金の開発等、更なる高機能製品化に取り組んでいます。また、プリント配線板材及び シールド材用途等では、屈曲性、エッチング性、密着性等の高い機能を付加した銅箔等の開発・バージョンアップを進めています。

④基礎材料

 資源分野では、選鉱工程に適用する自動化技術や鉱石からのレアメタル回収技術の開発を進めています。また、環境負荷低減に向けて、鉱山で使用する重機等のCO2排出量削減に資する技術等の調査を進めています。

 金属・リサイクル分野では、銅製錬におけるリサイクル原料処理拡大に向け、リサイクル原料から回収する貴金属及びレアメタル等の金属種拡大のための技術開発や、銅製錬工程からの有価金属回収工程の効率化を推進しています。他製錬所との差別化として、2040年にリサイクル原料処理量を50%とするハイブリッド製錬を実現することを目指し、技術開発を進めています。

⑤重点取組事項

 データ解析技術・自働化技術とシミュレーション技術を担う部門を統合し「製造DX推進部」を設置しました。当社グループがこれまで各事業で培ってきた技術リソースを一元的に集約し、各事業の強靭化・効率化及びそれに伴うキャッシュフロー改善を推進しています。

 これらに、その他の事業における研究開発費703百万円を加えた当連結会計年度における当社グループ全体の研究開発費は、32,102百万円です。

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