雪印メグミルク 【東証プライム:2270】「食品業」 へ投稿
企業概要
当社グループ(当社および連結子会社)は、当社、雪印種苗㈱および雪印ビーンスターク㈱を中心に、コーポレートスローガン「未来は、ミルクの中にある。」に基づき、事業戦略上急務となっている課題に対する研究開発や、中長期的成長の基盤となる基礎研究を幅広く実施しております。
原材料価格の高騰による調達コストの上昇、また国内外の乳・乳製品需給が変動する中、環境変化を先取りして消費者に受け入れられる商品を継続的に提案するために、乳(ミルク)の価値を中軸に「市場対応型商品」と「付加価値型商品」を両輪とした商品開発を行っております。また、商品開発を支える研究開発として、乳(ミルク)の機能を中心とした「おいしさ」と「健康機能」の追求と、「環境配慮」を主軸とした基礎研究と技術開発に取り組んでおります。
当連結会計年度の研究開発費の総額は5,030百万円です。
各セグメント別の主な研究開発活動は次のとおりです。
〈乳製品〉
当連結会計年度の研究開発費の総額は2,205百万円です。
●当社
新たなチーズの需要創造を目指し、いつもの料理に、調味料のようにチーズをかけるという新しいチーズの食習慣、食文化の創出を狙った「torochiモッツァレラチーズ入り」、「torochi芳醇ゴーダ入り」を発売しました。また、今までのチーズデザートとは一線を画す、本格デザートとして「雪印北海道100 マスカルポーネドルチェ バニラソース」「雪印北海道100 マスカルポーネドルチェ アールグレイソース」を発売し、チーズの新しい食シーンの創出に取り組みました。
同時に、従来から広く支持されているブランドから、「6Pチーズ鉄分入り」「雪印北海道100 さけるチーズコンソメ味」を発売し、それぞれのブランドのラインナップ強化と、新しい顧客層の獲得に取り組みました。
また、社会課題である健康寿命の延伸に対応した付加価値商品として「記憶ケア βラクトリンスキムスティック」を発売しました。
今後も様々な食シーンの提案と、たゆまざる商品力向上へ取り組んで参ります。
乳製品事業における「おいしさ」と「健康機能」に関する研究を行い、おいしさを構成する技術と、当社独自の乳製品の健康機能の深耕を目的に検討を行い、得られた研究成果(新知見、新技術、新手法など)を乳製品の商品開発と商品力強化、および当社独自の機能性素材の価値向上に活用いたしました。
主な研究成果は以下の通りです。
・油脂製品のトランス脂肪酸の低減に向け、米ぬかワックス(RBX)を用いてキャノーラ油とオリーブ油のW/Oエマルション(マーガリン代替品)を作製し、RBXオレオゲルの安定性評価を行いました。その結果、W/OエマルションのRBX濃度が高くなるにつれ、貯蔵弾性率が増加し、より密なネットワークが形成されました。また、オリーブ油の方が高い貯蔵弾性率を示しました。トランス脂肪酸を低減する際、油脂製品の貯蔵弾性率が低下して構造が保てなくなる課題が生じますが、今回得られた結果から、RBXを活用することで油脂製品のトランス脂肪酸を低減できる可能性が示されました。
・新たな機能性乳素材の開発に向け、母乳中に多く含まれるシアル酸の生理機能に着目し、乳中のグリコマクロペプチドのシアル酸を含む糖鎖部分を高度に濃縮したシアリル糖ペプチド濃縮物の機能研究を実施しました。流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)の原因であるムンプスウイルスへの感染阻害効果を検証した結果、赤血球凝集阻害効果および濃度依存的な感染阻害を細胞実験で確認しました。また、線虫を用いて学習記憶に与える影響を検証した結果、シアリル糖ペプチドの高い記憶維持効果が認められ、これはシアル酸を含む糖鎖が寄与していることが示唆されました。
・2023年4月に開設した国立大学法人弘前大学と当社の共同研究講座『ミルク栄養学研究講座』にて、2015年に実施した青森県弘前市岩木地区住民の牛乳・乳製品摂取量と骨代謝マーカーおよび音響的骨評価値に関して評価を行い、現在解析中です。今後は、非侵襲的な骨の健康管理ツールとして、終末糖化産物(AGEs)の皮下自家蛍光測定と骨折リスク問診票の導入を検討しています。また、乳製品摂取と健康状態の関係をビッグデータ解析し、骨や乳酸菌研究の深耕に加えて、ミルクの新たな健康価値を研究しています。
これらの研究成果は、日本油化学会や19th Euro Fed Lipid Congress and Expo、日本薬学会、日本農芸化学会、弘前大学COI-NEXTフォーラムの各学会で発表しました。
●雪印ビーンスターク㈱
「赤ちゃんとお母さんをはじめ、家族の健康といきいきしたくらしをサポート」する商品として、「粉ミルク・ベビーおやつなどの赤ちゃん向け商品」、「お母さんのための商品」、「シニア世代の健康をサポートする商品」などをお客様に提供しています。
これらの商品は、「母乳調査研究」、「乳幼児の食生活実態調査」をはじめとする赤ちゃんに関する調査研究、「妊産婦・授乳婦の食事調査」などの各種調査研究をベースとして開発しています。
本年度は、商品開発においては、2023年10月より、乳児用調製粉乳「ビーンスタークすこやかM1」スティックタイプの1箱18本であった商品を1箱7本へ、また、フォローアップミルク「ビーンスタークつよいこ」スティックタイプ1箱18本を1箱8本に変更し、新発売しました。1箱あたりの本数を減らすことで、よりお買い求め易い価格として、また、新型コロナ感染症の5類への移行にともない外出の機会も増えていることから、お出かけの時に手軽にお使いいただけるようになりました。
さらに、環境負荷低減の取り組みとして賞味期限を延長し、商品の廃棄などが発生しにくくする対策も実施しました。(対象商品は、ビーンスタークマムシリーズ「つわびー」、「毎日葉酸+鉄これ1粒」、「毎日カルシウム+鉄」、「3つの乳酸菌M1」、「赤ちゃんに届くDHA」及び口中清涼食品「ビーンスタークハキラ」)
研究開発では、雪印メグミルク㈱と当社による第3回全国母乳調査を継続して取り組みました。本調査は、これまで日本全国1,210名の授乳中のお母さんにご協力をいただきました。現在、「母乳の栄養成分組成の変化」、「お母さんの健康状態」、「お母さんのライフスタイル等が母乳成分にどのように影響するか」、また「母乳(成分)が赤ちゃんの成長にどのように関連するか」などを明らかにするべく、2015年より長期間の調査として実施しています。
本年度は、母乳中の糖鎖成分に注目した検討を実施しました。母乳中糖鎖成分の一つであるオリゴ糖は、ビフィズス菌を増やす効果に加えて、感染防御や免疫機能の増強、認知機能の発達促進など多様な生理機能が報告されており、非常に注目されている成分です。一方、たんぱく質に結合した糖鎖は分析が複雑なため、十分に検討がなされていませんでした。そこで、母乳中のオリゴ糖とたんぱく質結合糖鎖を分析するための簡便な手法を構築し、日本人の母乳中糖鎖成分の網羅的な分析を行いました。その結果、母親の遺伝的な背景に起因するオリゴ糖の特徴的な分泌パターンと、一部のたんぱく質結合糖鎖との関連が明らかになりました。この研究成果は学術論文として「International Journal of Molecular Sciences」に投稿しました。
また、疫学的な解析により、乳児の感染症罹患に影響する母乳中糖鎖成分の探索を行ったところ、気管支炎の予防に寄与するものとして、共通の構造を持つオリゴ糖やたんぱく質結合糖鎖を見出しました。この研究成果は、日本糖質学会年会にて報告しました。
本全国母乳調査は、引き続き、「母乳成分分析」、「母親の食事実態」、「母親と乳児の生活実態」及び「乳児の発達状態」などを調べ、その関係性を明らかにすることを目指します。5歳になるまで追跡調査を実施し、今後の商品開発に活かしてまいります。
今後も「母乳のちから」を探求し、粉ミルクの機能の向上を目指すとともに、ご家族のみなさまの健康に役立つより良い商品づくりのために、研究開発に取り組んでまいります。
〈飲料・デザート類〉
当連結会計年度の研究開発費の総額は1,887百万円です。
●当社
白物飲料カテゴリーにおいては、2023年3月下旬に「毎日骨太高たんぱくミルクMBP®」を発売しました。(4月上旬には「毎日骨太高たんぱくミルクMBP® カフェオレ」を発売)1本に10gの乳たんぱく質を配合、さらにMBP®も20㎎配合し、外側だけでなく内側からのWのカラダづくり習慣をサポートする新価値の高たんぱく飲料として、特に50代以上をターゲットとして訴求しました。
また、秋にはMBPドリンクの追加アイテムとして「MBPドリンク 糖類オフ低カロリー」を上市しました。お客様センターに寄せられたお声を調べたところ、「糖の摂取」を健康上の理由で不安に思う方が一定数おられることから、糖類を既存のMBPドリンク比30%以上カットしながらも、一定の甘さを楽しめて風味は損なわない商品を開発しました。
色物飲料カテゴリーにおいては、「Dole® ジューシープラス 1日分の鉄分」を2023年3月下旬に上市しました。(「Dole® ジューシープラス マルチビタミン」を4月中旬に発売)100%果汁でありながら、不足しがちな栄養素(鉄分、ビタミン)を強化、更に開けやすく飲み口から直接飲みやすいドリームキャップ容器を採用しました。
ヨーグルトカテゴリーでは、秋に「毎日骨太 高たんぱくヨーグルトMBP®」、「恵 megumi ガセリ菌SP株ヨーグルトPROTEIN」の2つのたんぱく強化ヨーグルトを発売しました。いずれも若年層中心から、中高年を含めた全世代に年々広がっているたんぱく質摂取ニーズに、プラスアルファの機能を強化(MBP、ガセリ菌SP株)し、高たんぱく質ヨーグルト市場に新たな価値を提案しました。
飲料・デザート類事業における「おいしさ」、「健康機能」に関する研究では、主に当社独自のプロバイオティクス乳酸菌や乳素材の機能性の深耕を目的に検討を行い、得られた研究成果(新知見、新技術、新手法など)を「ヨーグルト」、「牛乳、乳飲料」などの商品開発に応用し、商品力強化に活用いたしました。また、環境に配慮した容器包装についても研究を続けております。
主な研究成果は以下の通りです。
・健康な成人男女を対象とし、Lactobacillus paragasseri SBT2055(ガセリ菌SP株)を含むカプセルまたは含まないカプセル(プラセボ)を4週間継続摂取することによる便通改善効果を検証しました。その結果、摂取前の糞便中の乳酸桿菌生菌数が高い被験者を除いて層別解析をした結果、被験食摂取群ではプラセボ群と比較して排便回数の有意な増加が認められました。また、別の摂取試験では、被験食摂取群の乳酸桿菌の生菌数が有意に増加し、腸管内で一部の有用菌が増加、有害菌が減少することが確認できました。以上の結果から、ガセリ菌SP株は生きたまま腸管内へ到達することで腸内環境の改善に寄与することが示唆されました。
・健康な成人男女を対象とし、ガセリ菌SP株を含むカプセルまたはプラセボを12週間継続摂取することによる免疫細胞に対する影響、体調に関する自覚症状への影響を評価するヒト摂取試験を実施しました。唾液中分泌型免疫グロブリンA(sIgA)分泌速度が平均値以下であった被験者を対象として層別解析を実施したところ、被験食摂取群はプラセボ群と比較して、免疫細胞の一つであるプラズマサイトイド樹状細胞(pDC)の活性化マーカーのうちCD86が有意に増加していることが認められ、風邪自覚症状の発症率が有意に低くなりました。この結果より、ガセリ菌SP株の摂取は、特に免疫機能が低めな健康な成人においてpDCを活性化し、免疫機能を正常に保つことで体調維持に役立つことが示唆されました。
・発酵乳の香りが脳機能に与える影響を調べるため、認知機能を反映する脳波を測定した結果、蒸留水や未発酵乳の場合と比べ、発酵乳の香りを嗅いでいる際は、認知機能を活性化する効果があることが示唆されました。また、発酵乳の主な香気成分である酢酸、酪酸、ジアセチルの3種類について香りを嗅いでいる際の脳波を測定、解析した結果、ジアセチルの香りには認知機能を活性化し、被験者の主観的な評価においても「思考力」を高める効果があることが示唆されました。
これらの研究成果は、論文として薬理と治療誌や応用薬理誌、Nutritionsに掲載され、日本栄養・食糧学会大会や日本食品科学工学会の各学会にて発表しました。
〈飼料・種苗〉
当連結会計年度の研究開発費の総額は937百万円です。
●雪印種苗㈱
飼料分野では、配合飼料価格高騰の対応策として配合設計した「低コスト特化型たん白系飼料」は、従来品に比べて原料原価を大幅に低減することができ、試作品を用いた産乳性試験において良好な結果を確認しました。新規配合飼料として3月から販売しています。
飼料原料の有効利用を目的としてトウモロコシのデンプン消化率を高める加工方法を検討し、道東飼料㈱において高α化素材を試作調製したところ、デンプン消化率が71.5%まで向上しました。この試作素材を用いた飼料給餌体系は、従来の飼料給餌体系およびグラスサイレージ主体粗飼料を用いた配合飼料高濃度給餌体系に比べて、飼料コストが低減できることがわかりました。今後、産乳性への影響を把握し、飼料配合および飼料給餌体系の設計に取り組みます。
「くろっけスーパー」などの子牛用代用乳主要製品について、新規乳原料(フラッシングパウダー)および低コスト中鎖脂肪酸油脂を用いて原料コストを低減した新配合製品を4月に販売開始しました。
飼料イネサイレージ用の乳酸菌新菌株を用いた現地試験を実施し、良好な結果を得ました。新菌株を用いたサイレージ用資材の新商品を2024年度から販売する予定です。
牧草・飼料作物種子分野では、寒地型牧草として農業・食品産業技術総合研究機構と共同開発したオーチャードグラス「きたじまん(北海34号)」が北海道優良品種に認定されました。「きたじまん」は高消化性成分の含量が高く、極晩生で出穂期がチモシーと近い特性を有しており、収穫作業体系が組み立てやすいことから、広範囲な普及が期待されます。2029年の発売を計画しています。
飼料用トウモロコシでは、雌穂の稔実性が良く、耐倒伏性・耐病性に優れる「ネオデント・エミナ88(SH14081)」(RM(相対熟度)88日クラス)を2024年春から販売します。引き続き、大柄で優れた草姿が特徴の「ネオデント・ユミル85(SL19017)」(RM85日クラス)、稈長が高く、収量性、耐病性に優れている「ネオデント・マグナス95(SHY4041)」(RM95日クラス)の2025年の販売開始に向けて準備を進めています。
畑作・園芸種苗分野では、(一社)日本種苗協会主催のエダマメ審査会(北海道帯広市)において「夏風香」が1等特別賞、「青祭」が3等に入賞しました。
丸莢インゲン品種として高評価を受けている「キセラ」の後継品種として「キセラネオ」を2024年度から販売します。
カボチャ「SQ-024」が(一社)日本種苗協会主催の全日本野菜品種審査会(北海道滝川市)の「秋どり放任密植」分野で2等に入賞しました。「SQ-024」の品種名を「楽ほく丸」として2024年3月に販売開始しました。
2021年春に都府県向けに販売開始した緑肥作物のパールミレット「ネマレット」が、気候温暖化の影響により、北海道においても栽培可能であることを確認し、2024年度から販売エリアに北海道を加えて全国展開することとしました。「ネマレット」は飼料用途としての需要が見込まれ、普及拡大に積極的に取り組みます。
ポットカーネーションの自社育成品種として、市場で最も重要な花色の赤花品種で栽培しやすいことが特徴の「ステラルビー」、ピンクの白覆輪でボリューム感を出せることが特徴の「ティーパーティー」、黄色で花冠が大きい特徴を有する「ムーンティアラ」、および花色がピンクで甘い芳香の「ひなあられ」(農研機構との共同開発品種)の4品種を品種登録出願申請するとともに、本年度下期より販売しています。
環境緑化分野では、スポーツターフ、校庭緑化、芝生用途として優れた特性を持ち、幅広く利用されている現行品種「アメージングXL」の後継品種として、ペレニアルライグラス「ファストボール3GL」を2024年に販売開始し、幅広い需要にお応えします。
植物活力資材では、これまで亜鉛高含有作物栽培用として試験販売していた園芸用複合肥料の原材料と製法を改良し、「ラッカインZ」として幅広い作物に対して亜鉛供給可能な液状肥料として2024年度から販売することとしました。
発酵技術を活用した当社植物活力資材に関する基盤研究として、乳酸菌培養液中に含有されるフェニル乳酸の発根促進メカニズムを解明し、2022年度に発表した学術論文※(北海道大学、明治大学との共同研究)が日本植物バイオテクノロジー学会の2023年度学会賞の「論文賞」を受賞しました。「植物が乳酸菌代謝物を利用することが可能であることを示したことに意義がある」との評価をいただき、過去1年間に同学会が刊行する学術誌Plant Biotechnology誌に出版された優れた論文として選考されました。
※“3-Phenyllactic acid is converted to phenylacetic acid and induces auxin-responsive root growth
in Arabidopsis plants”,Maki et al. 2022. Plant Biotechnology 39: 111-117.
当社グループは、今後もコーポレートスローガンである「未来は、ミルクの中にある。」を基本に、乳(ミルク)の可能性の追求および酪農生産への貢献を目指した、高付加価値で独自性のある商品の開発を進めてまいります。
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