日本郵政 【東証プライム:6178】「サービス業」 へ投稿
企業概要
文中の将来に関する事項は、別段の記載がない限り、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 当社グループの経営理念及び経営方針
① グループ経営理念
郵政ネットワークの安心、信頼を礎として、民間企業としての創造性、効率性を最大限発揮しつつ、お客さま本位のサービスを提供し、地域のお客さまの生活を支援し、お客さまと社員の幸せを目指します。また、経営の透明性を自ら求め、規律を守り、社会と地域の発展に貢献します。
② グループ経営方針
・ お客さまの生活を最優先し、創造性を発揮しお客さまの人生のあらゆるステージで必要とされる商品・サービスを全国ネットワークで提供します。
・ 企業としてのガバナンス、監査・内部統制を確立しコンプライアンスを徹底します。
・ 適切な情報開示、グループ内取引の適正な推進などグループとしての経営の透明性を実現します。
・ グループの持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を目指します。
・ 働く人、事業を支えるパートナー、社会と地域の人々、みんながお互い協力し、社員一人ひとりが成長できる機会を創出します。
(2) 経営環境
当連結会計年度の国内経済は、欧州や中国における景気の減速などの影響を受けつつも、雇用・所得環境の改善などを背景として緩やかな回復の動きが続きました。
世界経済においては、金融引締め等により欧州など一部の地域で景気の減速がみられたものの、全体としては持ち直しの動きが続きました。
金融資本市場では、国内の10年国債利回りは、日本銀行による長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)の柔軟化を受けて2023年10月から2023年11月にかけて一時0.9%台まで上昇しましたが、早期の金融政策修正観測の後退などから低下し、2023年12月以降は概ね0.5%台から0.7%台で推移しました。日経平均株価は、米国株式市場の影響などを受けつつ、円安を背景に概ね堅調に推移し、2024年2月に最高値を更新した後、2024年3月には一時40,000円台まで上昇しました。
物流業界においては、物価や人件費等の上昇により費用負担が増しているほか、消費行動におけるEC市場等からリアル販売チャネルへの回帰やインフレ等による家計消費の弱まり等の影響で宅配便に関する需要が伸び悩みました。また、働き方改革関連法等によるドライバーの拘束時間の減少などから生じる、いわゆる「2024年問題」への対策として、政府により公表された「物流革新に向けた政策パッケージ」に基づき業界・分野別に作成された自主行動計画や「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」に掲げられた取組の実行が求められております。郵便事業においては、デジタル化の進展等に伴う郵便物数の減少傾向の継続に加え、物流業界同様に、物価や人件費等の上昇等の影響により、引き続き厳しい状況です。
銀行業界においては、当年度の全国銀行における預金は25年連続で増加し、貸出金も13年連続で増加しました。金融システムは、世界的な金融引締めの継続やそれに伴う景気減速懸念などのストレスにさらされているものの、全体として安定性を維持しています。
生命保険業界においては、超高齢社会の進展や人口減少等の大きな構造変化とともに、先端技術の進歩・普及や、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を契機としたライフスタイル多様化の急速な進展等がみられ、多様なお客さまニーズへの対応が求められております。
当社グループは、「郵便・物流」「貯金」「保険」の生活に必要な基礎的サービスや物販、提携金融サービス等を全国約2万4,000か所の郵便局ネットワークを通じて提供するほか、不動産事業など多数のサービスを展開しております。郵便・物流事業においては1日に約3,100万か所への郵便配達箇所数、銀行業においては約1億2,000万口座の通常貯金口座数、生命保険業においては約1,807万人のお客さま数(契約者さま及び被保険者さまを合わせた人数(個人保険及び個人年金保険を含み、かんぽ生命保険が郵政管理・支援機構から受再している簡易生命保険契約を含みます。)など、毎日の生活の中で多くのお客さまにご利用頂いており、お客さまとの接点の多さは当社グループの強みとなっております。
(3) 当社グループの経営戦略等
① 中期経営計画等について
当社グループは、2021年5月に策定した中期経営計画「JP ビジョン2025」について、当社グループを取り巻く環境の変化を踏まえて見直しを行い、「JP ビジョン2025+(プラス)」(2024年度~2025年度)を2024年5月に発表しました。
(a) JP ビジョン2025+の基本方針
お客さまと地域を支える「共創プラットフォーム」を目指す姿とすることは変えず、グループ全体で直面する課題を克服し、成長ステージへの「転換」を実現するためのドライバーとして、「資源配分」、「郵便局」及び「人材・システム」という3点を変えていきます。
「資源配分」については、当社グループが成長分野と考える物流分野や不動産事業へ、資金や人材をより積極的に配分できるよう、仕組みを変えていきます。
「郵便局」については、より地域の実情に応じた個性ある郵便局へと進化することを目指し、郵便局ネットワークの価値・魅力を向上させるサービスの充実や、柔軟な営業体制の構築を行うとともに、お客さまの利便性を踏まえた店舗の最適配置、窓口営業時間の弾力化などにより、生産性の向上を図ります。
「人材・システム」については、当社グループの事業活動を行う上で最も重要な人的資本への投資を成長に向けた投資の1つと位置づけ、社員体験価値向上に取り組むとともに、DXの推進などにより、人口減少、ライフスタイルや働き方の変化、デジタル化の急速な進展といった環境変化に適応可能な、柔軟で強靭な組織へと変革します。
(b) 成長ステージへの転換に向けた取組の3本柱
「JP ビジョン2025+」のもと、「収益力の強化」、「人材への投資によるEX※1の向上」、「DXの推進等によるUX※2の向上」という3本柱を掲げて取り組みます。
「収益力の強化」については、グループの収益を強化するため、物流分野と不動産事業を成長分野として捉え、経営資源を積極的に投入していくことで、成長の加速を図ります。
「人材への投資によるEXの向上」については、労働人口の減少に伴う人手不足や価値観・ライフスタイルの多様化など、外部環境の変化に対応して、優秀な人材を確保し育成していかなければならないことから、社員エンゲージメント、「誇りとやりがい」の向上や、柔軟で多様性のある組織への転換に取り組みます。
「DXの推進等によるUXの向上」については、デジタルへの移行が急速に進む中、お客さまサービスや社員の働き方を、DXにより利便性を高め、効率化していくことが必須となっています。グループDXの推進により、お客さま、社員双方の視点から、UXの向上に取り組んでいきます。
※1 EXとは、社員が会社で働くことを通じて得られる体験価値のことです。
※2 UXとは、システムやサービスを利用するユーザー(お客さまや社員)が、その利用を通じて得られる体験価値のことです。
(c) 当社グループにおけるサステナビリティ経営の推進
当社グループは、グループのサステナビリティの観点から重要と考えている「地域生活・地域経済」「高齢社会への対応」等のサステナビリティ重要課題に対して、「地域のハブとしての役割発揮」「サプライチェーン全体での対応」等のグループの強みを活かして取り組むことにより、各事業戦略の展開を通じたグループの成長と、Well-being※の向上及び低環境負荷社会への貢献といった価値創造を通じた、社会とグループの持続性ある成長を目指していきます。
※ 「肉体的にも、精神的にも、社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」(WHO憲章前文) であり、当社グループでは、多様な個人やコミュニティのあり方を包括する概念として使用しております。
② 経営者の問題意識と今後の方針
当社グループは、2021年5月に発表した中期経営計画「JP ビジョン2025」について、事業環境の急激な変化等を踏まえ、グループ全体で直面する課題を克服し、「成長ステージへの転換」を実現するための道標(みちしるべ)とすべく、今後の戦略の見直しを行うとともに、2025年度の主要目標等も見直し、その結果を「JP ビジョン2025+(プラス)」として、2024年5月に策定しました。
「JP ビジョン2025+」では、引き続き、お客さまと地域を支える「共創プラットフォーム」を目指し、コアビジネスの充実・強化に向けて、成長分野へのリソースシフトを強力に推進してまいります。また、人口減少、ライフスタイルや働き方の変化、デジタル化の急速な進展等経済社会の大きな変化に対応するため、お客さま体験価値や社員の利便性向上につながるDXの取組を強力に推進するとともに、当社グループの人材・組織を多様性あるものに変革する取組に着手してまいります。財務面では、ROE(株主資本ベース)について、ゆうちょ銀行株式の持分割合の減少により低下したROEを2025年度を目標に回復し、その後、早期に株主資本コストを上回るROEを達成し、中長期的にさらなる向上を目指します。
また、業務の適正を確保するため、コーポレートガバナンスのさらなる強化に向け、引き続き、グループ全体の内部統制の強化を推進し、コンプライアンス水準の向上を重点課題として、グループ各社に必要となる支援・指導を行います。特に、かんぽ生命保険商品の募集品質に係る問題を受け、同様の問題を二度と繰り返さないために講じてきた業務改善計画の施策の浸透・定着に引き続き取り組みつつ、取組の実施状況や課題等を把握し、グループ全体としてさらなる改善を推進してまいります。
あわせて、部内犯罪及び社員の不正の防止、個人情報保護並びにマネー・ローンダリング、テロ資金供与及び拡散金融対策等の取組を継続・強化してまいります。
そして、郵便、貯金及び保険のユニバーサルサービスの確保については、交付金・拠出金制度も活用しつつ、その責務を果たし、地域社会に貢献するとともに、郵便局ネットワークの一層の活用・維持による安定的なサービスの提供等を図るため、グループ各社の経営の基本方針を策定し、その実施に努めてまいります。
ゆうちょ銀行及びかんぽ生命保険の株式については、2社の経営状況、ユニバーサルサービスの責務の履行への影響等を勘案しつつ、できる限り早期に処分するものとするという郵政民営化法の趣旨に沿って、所要の準備を行ってまいります。
サステナビリティ経営の推進に関する取組として、環境問題への取組については、政府が掲げる「2050年カーボンニュートラルの実現」に向けた動きを踏まえ、CO2の排出量削減に向けたグループ全体のEV車両の導入拡大、カーボン排出係数の低い電力への段階的な切替え等により、事業サービスを通じた環境負荷軽減等に積極的に取り組みます。社員の多様な能力・個性を活かすダイバーシティ・マネジメントの推進については、2024年度において引き上げとなった法定雇用率の達成に向けた障害者雇用推進の取組や、管理者への女性登用に向けた取組等を実施してまいります。
加えて、サイバーテロリスクに備えたサイバーセキュリティの強化、自然災害の発生及び感染症の大流行等の危機へ備えた危機管理態勢の整備に取り組みます。
当社は、資本効率の向上、株主還元の強化を目的として、自己株式の取得を実施しており、2022年5月13日付の取締役会決議に基づき、2022年5月16日から2023年3月9日までの間、取引一任契約に基づく市場買付により当社普通株式196,748,200株を取得し、2023年3月29日付の取締役会決議に基づき、2023年4月20日付で保有自己株式のうち196,748,200株を消却いたしました。
また、2023年5月15日及び2023年8月14日付の取締役会決議に基づき、2023年8月15日から2024年3月22日の間、自己株式立会外買付取引(ToSTNeT‑3)及び立会市場における取引により当社普通株式254,809,200株を取得し、2024年3月27日付の取締役会決議に基づき、2024年4月12日付で保有自己株式のうち254,809,200株を消却いたしました。
その結果、2024年4月12日時点における発行済株式総数は3,206,240,300株となりました。
さらに、2024年5月15日付の取締役会において、2024年5月16日から2025年3月31日までを取得期間とし、当社普通株式320,000,000株、取得価額の総額3,500億円をそれぞれ上限として、立会市場における取引による当社自己株式の取得について決議いたしました。
(4) 対処すべき課題
各事業セグメント別の対処すべき課題は、以下のとおりであります。
① 郵便・物流事業
日本郵便の郵便・物流事業において、郵便物の減少や荷物需要の増加に対応するため、以下の取組を行います。
(a) 郵便料金の見直しに向けた準備
人口の減少やデジタル化の進展等により今後も郵便物数の減少が予想される中、ユニバーサルサービスである郵便サービスの安定的な提供及びお客さまへのサービス向上を実現するためには、郵便料金の見直しは避けられないと考えており、2024年6月に施行された郵便法施行規則の一部を改正する省令(令和6年総務省令第63号)を踏まえ、郵便料金の見直しに向けた準備を進めてまいります。
なお、過去5事業年度の郵便、ゆうメール、ゆうパック及びゆうパケットの取扱物数の推移は以下のとおりとなります。
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| (単位:百万通・百万個) | |
| 2020年3月期 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 |
郵便 | 16,350 | 15,244 | 14,858 | 14,445 | 13,578 |
ゆうメール | 3,569 | 3,299 | 3,346 | 3,113 | 2,873 |
ゆうパック (含 ゆうパケット) | 974 | 1,091 | 989 | 980 | 1,010 |
(再掲) ゆうパケット | 428 | 497 | 420 | 426 | 463 |
(b) 荷物等の取扱個数の拡大、オペレーションの効率化に向けた取組
物流分野については、成長するEC市場やフリマ市場を確実に取り込むため、差出・受取利便性の向上や他企業との連携強化により、荷物等の取扱個数の拡大を図ってまいります。同時に、持続的な成長に向けて、設備投資や人的資本投資を進め、機械処理の強化、次世代輸配送ネットワークの再編等、オペレーションの効率化に向けた取組を強化してまいります。
(c) 「2024年問題」への対応
働き方改革関連法等によるドライバーの拘束時間の減少などから生じる、いわゆる「2024年問題」を踏まえ、2024年度において、中継輸送※の導入等、輸送オペレーションを見直します。なお、日本郵便は、政府により公表された「物流革新に向けた政策パッケージ」や「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」を踏まえて、自主行動計画を策定、公表しております。同計画で掲げた諸事項について、荷主・運送事業者双方の立場から確実に対応してまいります。
※ 中継輸送とは、トラックの長距離運行を複数のトラックドライバーで分担する輸送形態のことです。
(d) 協力会社の皆さまとのパートナーシップ構築に向けた取組
政府が公表した「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を踏まえ、引き続き、協力会社の皆さまとのパートナーシップ構築に向けて取り組んでまいります。
② 郵便局窓口事業
日本郵便の郵便局窓口事業において、以下の取組を行います。
(a) 適正な営業推進態勢の確立
経営陣がリーダーシップを取り、適正な営業推進態勢の確立並びにコンプライアンス・顧客保護を重視する健全な組織風土の醸成、適正な営業推進のための改善策を着実に実行し定着を図るためのガバナンスの抜本的な強化及びPDCAサイクルの徹底に向けた取組を継続するとともに、フロントラインに向けた伝達に齟齬がないよう配意しつつ、必要な見直しを随時、適切に行ってまいります。
(b) 郵便局の価値・魅力向上や店舗の最適配置等による生産性向上に向けた取組
郵便局窓口への来局者数は減少傾向にあり、2024年度においても厳しい経営状況が継続すると見込んでおります。直面する事業環境を克服し、お客さまに選んでいただける事業へ成長するため、「営業専門人材の育成」等によるお客さまに寄り添った営業活動を展開するとともに、地方公共団体事務の受託や他企業との連携等により、地域やお客さまニーズに応じた郵便局らしい商品・サービスの充実を行い、郵便局の価値・魅力向上の取組等を推進してまいります。加えて、お客さまの利便性を踏まえた店舗の最適配置や、窓口営業時間の弾力化等による生産性の向上にも取り組んでまいります。これらの取組により、郵便局窓口事業セグメントの損益の改善を図ってまいります。
③ 国際物流事業
トール社が強みを持つ消費財や小売業等について、アジア域内においてそのポジションを維持するとともに、よりバランスの取れたポートフォリオ構築のため、ヘルスケア分野の対応能力拡充を図ってまいります。また、オペレーションの合理化等によるコスト削減にも、引き続き取り組んでまいります。
④ 銀行業
ゆうちょ銀行は、国内外での金利の上昇、生成AIの浸透を始めとする社会のデジタル化の想定以上の進展、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に対する関心の高まり等の経営環境の大きな変化を踏まえて、「リテールビジネス」、「マーケットビジネス」及び「Σ(シグマ)ビジネス(投資を通じて社会と地域の未来を創る法人ビジネス)」の3つの成長エンジンをビジネス戦略の中心に据え、それを支える経営基盤の強化とあわせて取り組んでまいります。
(a) リテールビジネスの変革
リアルとデジタルの相互補完戦略を加速し、伝統的な銀行業務を超えた新しいリテールビジネスへの変革を進め、一人ひとりのお客さまとの取引を一層深めてまいります。デジタルサービス戦略では、「ゆうちょ通帳アプリ」(以下「通帳アプリ」といいます。)の使いやすさ・機能の改善や、郵便局ネットワークも活用した積極的なアプローチにより、通帳アプリユーザーの一層の拡大を追求します。そして、パートナー企業との連携により、銀行の枠を超えた多様なサービスを、通帳アプリを通じてお客さまに適切にご案内することで、お客さまの多様なニーズをサポートするとともに、新たな収益機会を開拓してまいります。
資産形成サポートビジネスでは、コンサルタントによる専門的できめ細やかなコンサルティングを実施しつつ、デジタルチャネルを拡充するとともに、全国の郵便局と金融コンタクトセンター等をリモートで接続し、約20,000拠点で投資信託(NISA)の受付を可能とする、リアルとデジタルを融合した当社グループの強みを活かした販売態勢を強化してまいります。
加えて、デジタル技術を活用した業務改革を進め、お客さまの利便性を向上しつつ、業務量の削減による生産性向上に努めてまいります。
(b) マーケットビジネスの深化
リスク管理を深化しつつ、ゆうちょ銀行の安定的な資金調達基盤の強みを維持し、円金利資産とリスク性資産を組み合わせた最適な運用ポートフォリオを追求してまいります。特に、2022年度までの7年間で約2分の1に縮小した日本国債の保有残高は、日本銀行の政策変更を受けた国内金利の上昇トレンドも踏まえ、日本銀行への預け金等から日本国債への投資シフトを推進し、拡大を目指してまいります。
また、戦略投資領域※を含むリスク性資産についても、引き続き資本を活用し、リスク対比リターンを意識しつつ、残高を拡大してまいります。
※ 戦略投資領域とは、プライベートエクイティファンド(成長が見込まれる未上場企業等へ投資するファンド)、不動産ファンド等からなる戦略的な投資領域のことであります。
(c) Σビジネスの本格始動
投資を通じて社会と地域の未来を創る法人ビジネスと位置付けるΣビジネスを推進し、将来的にサステナブルな収益基盤の構築を目指します。ゆうちょ銀行の新設子会社の「ゆうちょキャピタルパートナーズ株式会社」を中心に、パートナー企業とも連携しながら、プライベートエクイティファンド投資で培った知見も活かし、全国の中堅・中小企業への資本性資金の供給を本格化させてまいります。また、全国津々浦々のネットワークを活かし、地域金融機関等と連携した新たな投資先企業の発掘を行うとともに、投資先企業の商材・サービスが持つ潜在的なニーズを掘り起こすマーケティング支援業務を推進するなど、投資先の成長・課題解決に向けた伴走型の支援を行ってまいります。
これらの取組を踏まえ、投資実績やマーケット環境の定期的な評価を行いつつ、GP※業務関連残高の拡大を目指してまいります。
※ GPとは、General Partner(ジェネラルパートナー)の略語。投資ファンドにおいて投資先企業の選定、投資判断等を担うファンドの運営主体のことであります。
(d) 経営基盤の強化
3つのビジネス戦略を強力に推進するため、それらを支える人財、内部管理態勢、システム基盤等を一層強化してまいります。
特に、競争力・価値創造の「源泉」かつ「財産」である人財については、最重要資本の1つと捉え、「成長を促す」×「能力を引き出す」×「多様性を活かす」という3つの柱を軸とした、経営戦略と連動する人事戦略を推進してまいります。なお、人的資本経営の推進にあたっては、強化分野の人員数、女性管理者数比率や育児休業取得率などの各種KPIを設定したうえで取り組み、多様な人財が活躍する「いきいき・わくわく」に満ちた会社を社員とともに築き、企業価値の向上を実現してまいります。
また、ゆうちょ銀行の直営店及び郵便局の部内犯罪の再発防止に向け、防犯ルールの見直しや、郵便局におけるKRI※のモニタリングを当社グループ全体で推進するなど、コンプライアンス態勢を一層強化するとともに、お客さま・社員の声をサービスや業務の改善に活かすスキームを通じ、お客さま本位の業務運営を推進してまいります。
加えて、生成AI等の新技術を積極的に活用したDXの一層の推進等、新たな成長に向けた戦略的なIT投資を強化してまいります。
※ KRIとは、Key Risk Indicator(キーリスクインディケーター)の略語。部内犯罪発生リスクを定量的に捉える指標のことであります。
⑤ 生命保険業
かんぽ生命保険は、生命保険会社としての社会的使命に応えるために、以下の取組を実施してまいります。
(a) 成長戦略
かんぽ生命保険は、全国規模のお客さま基盤を強みに、ライフステージや世代を超えてお客さまとつながり続けることで、お客さまの維持・拡大を目指すとともに、安定的に利益を確保できる「強い会社」へ成長してまいります。
お客さまの維持・拡大のために、営業社員の質と量を強化するとともに、多様なお客さまニーズに応えられる商品ラインアップの拡充とCX※1向上につながる質と量を伴ったアフターフォローの充実を進めてまいります。これらの取組を通じてお客さま体験価値を高め、お客さまの「信頼できる気軽な相談相手」として長期的な関係性を構築するとともに、そのご家族や知人、さらには地域・社会全体へかんぽ生命保険をお勧めいただき、お客さま数を増やしてまいります。
まず、営業社員の質と量を強化するために、管理職社員等の営業マネジメント力の強化やコンサルタントの人材育成の強化を進めるとともに、新卒採用におけるインターンシップ等の広報活動の改善や、経験者採用における人材紹介会社を活用した通年採用により、営業社員の人材確保を図ってまいります。
多様なお客さまニーズに応えられる商品ラインアップの拡充については、金利上昇等の外部環境を捉え、貯蓄性商品の魅力向上を目指すとともに、要介護状態や就業不能に備える保険等の保障性商品も充実させていくことで、貯蓄性と保障性を織り交ぜた商品ラインアップの拡充を進めてまいります。
CX向上につながる質と量を伴ったアフターフォローの充実としては、お客さまの利便性向上のための請求手続きのデジタル化と、リアルとデジタルを織り交ぜたチーム一体のアフターフォローを充実させることに加えて、介護や相続といった人生のあらゆる場面でお客さまの生活に寄り添うサービスを提供することで、お客さまが直面しているお困りごとの解消に取り組んでまいります。
また、安定的な利益確保のため、「資産運用の深化・進化」、「収益源の多様化/新たな成長機会の創出」、「事業運営の効率化」にも取り組んでまいります。
「資産運用の深化・進化」においては、統合的リスク管理(ERM※2)の枠組みのもと、市場環境変化を捉えた投資、他社との協働等による新規の資産運用事業の拡大・発展、インパクト投資※3を中核としたサステナブル投資※4のさらなる推進、運用専門人材の育成に取り組んでまいります。
「収益源の多様化/新たな成長機会の創出」においては、これまで収益源の多様化と新たな成長機会の創出を目的として実施してきた、三井物産株式会社との業務・資本提携、KKR & Co. Inc.及びGlobal Atlantic Financial Groupとの戦略的提携等を基に、引き続き、様々な成長領域の取り込みを図っていくため、他社との協業関係の構築・拡大を目指してまいります。
「事業運営の効率化」においては、デジタル化を推進することにより、さらなるお客さまサービス向上と業務の効率化及び経費の削減に引き続き取り組んでまいります。
※1 CXとは、Customer Experienceの略語で、商品やサービスの価格や性能といった機能的な価値だけではなく、保険加入前から加入後のアフターフォロー、保険金支払までのプロセスすべてを通じてもたらされる満足感などの感情的・心理的な価値も含めた、お客さまが体験されるすべての価値のことです。
※2 ERMとは、Enterprise Risk Managementの略語で、会社が直面するリスクに関して、潜在的に重要なリスクを含めて総体的に捉え、会社全体の自己資本などと比較・対照することによって、事業全体として行うリスク管理のことです。
※3 インパクト投資とは、財務的リターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的及び環境的インパクトを同時に生み出すことを意図する投資行動を指します。
※4 サステナブル投資とは、サステナビリティ(持続可能性)の諸要素を考慮した投資行動のことです。
(b) サステナビリティ経営
かんぽ生命保険は、社会課題の解決への貢献のため、2024年3月に、マテリアリティ(重要課題)の見直しを行い、5つのマテリアリティ(重要課題)として「郵便局ネットワーク等を通じた保険サービスの提供」、「人々の笑顔と健康を守るWell-being向上のためのソリューションの展開」、「多様性と人権が尊重される安心・安全で暮らしやすい地域と社会の発展への貢献」、「豊かな自然を育む地球環境の保全への貢献」、「サステナビリティ経営を支える経営基盤の構築」を設定しました。これらに取り組むことで、自らの社会的使命を果たし、サステナビリティを巡る社会課題の解決に貢献してまいります。
また、かんぽ生命保険は、「人的資本経営」の3つの基本理念である、「社員が主体的に行動する企業風土の定着」、「戦略的な人材確保」、「多様な人材の活躍と柔軟な働き方の推進」に基づき、人的資本への積極的な投資を通じて、「人の力」の成長を促し、全役員・社員が会社とともに成長し、自信と誇りをもって堂々と仕事ができる会社を目指してまいります。
加えて、かんぽ生命保険は、コーポレートガバナンスの強化のため、組織としての透明性・公平性を確実に高め、さらには、社員一人ひとりのリスク感度を高めることにより、健全な事業運営を行ってまいります。
(参考)
過去の新契約、保有契約の件数の推移は下記のようになります。
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| (単位:万件) |
契約の種類 | 2020年3月期 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 |
新契約(個人保険) | 64 | 12 | 17 | 31 | 62 |
簡易生命保険 | 990 | 894 | 806 | 726 | 660 |
かんぽ生命保険 | 1,716 | 1,589 | 1,474 | 1,372 | 1,309 |
(注) 2007年10月1日の民営化時の簡易生命保険契約は5,517万件でした。
⑥ 不動産事業
2024年度から、報告セグメントの区分を見直し、「不動産事業」セグメントを独立させました。グループ各社にまたがる不動産事業について一体的に推進し業績管理を行うため、当社が統括する一体的なマネジメント体制を構築して取り組んでまいります。
引き続き、JPタワー等のオフィス、商業施設をはじめ、住宅、保育所及び高齢者施設の賃貸事業等を行います。
また、稼働中の物件については、収益及び資産価値の維持向上に向けて、共同事業者等との連携や外部委託を適切に活用しながら、良質かつ効率的な運営に取り組みます。また、グループ保有不動産の有効活用や新たな収益機会の拡大の観点から、建築費や収益物件価格が高騰している状況下、適切なタイミングで開発や取得の計画を策定・実行することにより、不動産事業が収益の柱の一つとなるよう取り組んでまいります。
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