日本製紙 【東証プライム:3863】「パルプ・紙」 へ投稿
企業概要
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループ(当社及び連結子会社)が判断したものであり、達成を保証するものではありません。
(1) 会社の経営の基本方針
当社グループは、2030年に目指す姿・目標として「2030ビジョン」を2021年に策定しました。『木とともに未来を拓く総合バイオマス企業として持続的な成長を遂げる』を目指す姿として“成長事業への経営資源のシフト”“GHG削減、環境課題等の社会情勢激変への対応”を基本方針としています。グラフィック用紙の需要減少に適切に対応しながら、経営資源を成長事業・新規事業にシフトし、同時に様々な社会的要請にも耐えうる、筋肉質の体質に変えていきます。
今後も当社グループは、持てる経営資源をフルに活用し、厳しさを増す国際競争を勝ち抜くとともに、グループの成長を実現し、株主価値の持続的拡大を追求していきます。
(2) 目標とする経営指標
当社グループは、「2030ビジョン」の前半にあたる2021年4月から2026年3月までの5年間を「中期経営計画2025」の期間とし、『事業構造転換の加速』を基本戦略に、“生活関連事業の収益力強化”、“グラフィック用紙事業の競争力強化”、“GHG排出量削減の加速”、“財務体質の改善”の4つを重点課題に取り組んでいきます。
中期経営計画2025の数値目標については、当社を取り巻く事業環境の変化を踏まえ、今後の戦略・課題について議論を進めた結果、2023年に以下のとおり一部を見直しています。
<中期経営計画2025 - 見直し後の目標>
・売上高 1兆2,000億円以上(2025年度)
・営業利益 400億円以上(早期に)
・EBITDA 1,000億円 (安定的に)
・D/Eレシオ 1.7倍台 (2025年度)
・ROE 5.0%以上 (2025年度)
(3) 会社の対処すべき課題
① 中期経営計画2025(2021年度~2025年度)の達成に向けて
2023年度は、2020年から続いたコロナ禍を乗り越え、ようやく社会経済活動が正常化に向かいました。国内景気も全体としては緩やかな回復が見られましたが、その一方でウクライナ侵攻の長期化や中東情勢、円安進行による物価上昇などの影響は今なお続いています。2024年度はこれらに加え、消費マインドの悪化や金利上昇、物流の2024年問題や人手不足による供給制約などが国内経済に与える影響も懸念されます。
このような事業環境の中、当社グループはコスト削減の徹底と価格修正、差別化製品による拡販などに取り組み、国内事業については2023年度中に収益力を回復させ、中期経営計画2025の軌道に戻すことができました。しかし海外事業では、豪州Opal社の収益改善が遅れているほか、北米や欧州の事業でも業績が悪化し、その立て直しが急務となっています。2024年度は海外事業の収益力回復を急ぐとともに、成長分野での事業拡大を進めて事業構造転換を加速します。また、人件費上昇、為替動向、金利上昇などの社会経済情勢が経営に与える影響を見極め、価格修正の検討を含めて適切に対応し、中期経営計画2025に掲げた目標達成に取り組みます。
これらの重点課題に対応する一方で、環境・社会・経済の持続可能性に配慮したサステナビリティ経営を推進し、長期的な事業成長を可能とする経営体制の構築を進めていきます。
② 重点課題への対応
(イ)グラフィック用紙の需要減少加速への対応
グラフィック用紙事業は、2023年度にコスト削減と製品価格修正により収益力を回復させましたが、その一方で国内の需要減少は一層加速しています。これに対処すべく、環境配慮型製品の開発や輸出拡大による販売数量の確保と継続的な原価改善による競争力強化を進めるとともに、GHG排出量削減とあわせ、よりスピード感をもって生産体制再編成を進め、基盤事業としての収益力を維持していきます。
(ロ)生活関連事業の拡大と収益力強化
パッケージや家庭紙、ケミカルなど事業構造転換の中核と位置付ける生活関連事業では、これまでに実施した設備投資の効果を確実に発現させ、差別化戦略による販売拡大と海外展開の加速によって事業成長を図ります。
a.パッケージ
液体用紙容器事業では、環境配慮型の軽量化紙パック「LiterLyte®」や、ストローレス学乳容器「School POP®」などの差別化製品で拡販を進めました。2024年度も販売拡大を見込んでいます。国内工場で開発した原紙の活用によりBCPや環境面でさらなる差別化を進めます。
海外では、Elopak社、四国化工機株式会社と協業して一貫サービス体制構築による事業成長を進めます。また、原紙生産拠点であるアメリカの日本ダイナウェーブパッケージング社では、ロングビュー工場でボイラーの大規模修繕により安定操業を強化し、収益力の向上を図ります。
b.家庭紙・ヘルスケア
石巻工場内に新設した家庭紙製造設備が2024年4月に営業運転を開始しています。パルプからの一貫生産によりコスト競争力を強化しました。また、「取り替え」や「持ち運び」時の利便性を向上させた「長持ち&コンパクト」シリーズは、トイレットロールに加え、ティシューやキッチンタオルにも展開し、販売数量を拡大しています。今後も物流費や人件費の上昇が見込まれることから、自製パルプの最大活用や省エネ推進など、コスト削減による収益力向上に取り組みます。
c.ケミカル・新素材
ケミカル事業では、機能性セルロースや機能性コーティング樹脂などで実施した設備投資の効果を最大化させ、収益拡大を進めます。ハンガリーで建設中のリチウムイオン電池用CMC(カルボキシメチルセルロース)製造工場は、2024年12月の稼働に向けて順調に建設が進められており、早期の安定稼働・収益化を目指します。
また、当社ではこれまでに紙事業を通じて培ってきたパルプ製造技術を基盤として、持続可能な資源である木材由来のセルロースを活用した新素材・新製品の開発を進めています。セルロースナノファイバー(CNF)「セレンピア®」は、食品や化粧品用途での採用事例が順調に増加しており、今後は自動車用途など産業分野でも用途拡大を目指します。また、養牛用の高消化性セルロース「元気森森®」は、東北地域での採用実績を基に、畜産が盛んな北海道や九州へと取り組みを拡大しています。持続可能な航空燃料(SAF)やバイオケミカルの原料向けの国産木材由来のバイオエタノールについても引き続き事業化に向けて検討を進めます。
d.エネルギー・木材
2023年2月に勇払エネルギーセンター合同会社が国内最大級のバイオマス専焼発電設備(75MW)の営業運転を開始しました。また、日本製紙石巻エネルギーセンター株式会社では2023年12月に発電設備(149MW)のバイオマス高混焼化改造工事を実施し、GHG排出量を削減しました。当社グループの持つバイオマス燃料の調達力とバイオマス発電所の運用実績・ノウハウを活用し、再生可能電力のさらなる供給拡大と投資効果の発現を図ります。
また、当社は長年にわたり国内外で木材を調達しており、国内における最大級の木材取扱量を誇るとともに、植林や木材調達・利用に関する実績とノウハウを蓄積させています。バイオマス需要の高まり、政府の木材自給率向上策、少花粉・高成長であるスギ・ヒノキのエリートツリー化推進など社会的・政策的な事業機会が拡大しつつある中、これらを着実に捉えた取り組みを進めていきます。
(ハ)Opal事業の立て直し
豪州Opal事業の立て直しは、喫緊の経営課題と認識し、現在、2025年度の確実な黒字化に向けて同事業の再建に取り組んでいます。
ビクトリア州のメアリーベール工場では、これまでに抄紙機2台を停機してグラフィック用紙事業から撤退しましたが、原紙輸出市況の悪化などにより収益回復が遅れています。競争力あるパッケージ原紙工場への移行を目指し、パルプ生産の最適化を含めた生産体制再構築と人員合理化を中心とする抜本的な固定費削減を進め、同工場の構造改革と収益力強化を早期に実現します。
一方で2020年に買収したパッケージ事業については、2023年8月にビクトリア州で新しい段ボール工場が稼働し生産性が大きく改善したほか、2024年度は老朽化した加工機を順次更新する計画です。また優れた営業人材を確保し顧客サービスの再構築など販売力の強化も進めています。設備投資によって生産能力増強とコスト低減を図るとともに営業戦略を強化し、オセアニア地域を中心にパッケージ製品の販売を拡大していきます。
これらと合わせて、グループの有する知見や技術、研究開発力、調達・販売ネットワークを最大限活用し、グループを挙げてOpal事業の早期立て直しを図ります。
③ サステナビリティ経営の強化
当社グループは、社会や環境の持続可能性と企業の成長をともに追求するサステナビリティ経営を推進しています。
(イ)温室効果ガス(GHG)排出量の削減
GHG排出量の2030年度削減目標は、石炭使用量の削減や燃料転換、省エネなどの取り組みや生産体制再編成の計画も踏まえ、2013年度比45%であった削減目標値を2023年に54%に引き上げました。今後も生産体制再編成と一体での検討を進め、GHG排出量削減のスピードアップに取り組みます。2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、他社との連携や新たな技術の取り込みによって、循環型社会の実現に貢献します。
(ロ)グリーン戦略の展開
森林の持つ価値の最大化と、木質資源を利用した製品の拡大によって、循環型社会構築と事業基盤強化の両立を図ります。海外植林地では、当社が長年培ってきた樹木の育種・増殖技術や植林技術を活用し、森林の生産性を向上させることで2030年度にCO₂固定効率の30%向上を目指します。また、東南アジア地域の植林事業でも技術支援により生産性を高め、資源確保の安定性を向上させます。国内においては、林業用エリートツリー苗1,000万本/年の生産体制を2030年度までに構築し、国内林業の活性化及び花粉症問題解決への貢献と事業成長の同時実現を目指します。また、国のカーボンクレジット認証制度である「J-クレジット制度」のもと、森林がCO₂を吸収・固定する能力に由来する森林クレジットについて、地方自治体や他の森林保有企業と連携し、クレジットの創出を進めるとともに事業機会の獲得を図ります。
(ハ)製品リサイクルの推進
従来は廃棄・焼却されていた難利用古紙のリサイクルチェーン構築や技術・設備対応による再資源化の拡充を進めています。従来の技術では再利用に不向きとされていた剥離紙や、紙コップなどの食品・飲料用製品も操業の最適化や設備導入で再利用可能としました。外食・サービス産業などにおいて紙容器リサイクルを望むユーザーのニーズは高まりつつあります。当社は日本航空株式会社と協働し、機内サービス用紙コップの収集リサイクルを開始するなど、循環型社会への取り組みを通じた顧客企業との関係強化を進めています。今後、収集古紙の対象範囲を広げ、社会的要請に応えるとともに、賛同企業と協働した新たなスタイルのビジネスを構築していきます。
(ニ)人材戦略
当社は人材戦略を、「人材育成」「人材配置」「人材確保・定着」の3つの柱で構成しています。人材の育成、確保・定着に力を入れるとともに、成長事業への人材のシフトをはじめとした人材の活用を進め、社員(従業員)と企業の双方が成長することにより、従業員エンゲージメントを向上させて事業構造転換のスムーズな実現に繋げていきます。
採用活動においては新卒入社だけでなく、成長分野を中心にキャリア採用も強化し、採用チャネルの複線化と拡大により、生活関連事業や海外事業を担う人材の確保を進めています。また、事業構造転換の旗振り役となる部長階層を対象とした選抜型研修の実施や、若年層の当社グループにおけるキャリア形成支援を目的とした階層別研修の新設など、新規事業や成長事業への人材シフトも想定した教育の充実に取り組んでいます。
こうして育成した人材の定着を図るべく、従来の在宅勤務制度や時間単位年休の導入など、多様な働き方の実現に向けた制度や、地域限定総合職制度の導入など、当社グループにおけるキャリア形成の多様化を拡充していきます。
財務面につきましては、不動産や政策保有株式など資産売却を積極的に進めながら、財務規律を十分に考慮した上で、事業構造転換の加速に必要な投資を厳選して実行していきます。2022年度末には7,801億円であった純有利子負債も2023年度末には7,235億円に削減し、2025年度末には中計2025の目標値7,100億円以下を達成する計画です。
また、資本コストを意識した経営を推進すべく、取締役会で継続的に議論を行っています。PBR改善に向けて現状分析と課題整理を行い、各事業部門別に最適なKPIを設定するなど取り組みを進めます。
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