不二製油グループ本社 【東証プライム:2607】「食品業」 へ投稿
企業概要
当社グループは、植物性油脂とたん白を基盤とする新しい機能を持つ食品素材の開発に取り組んできました。長年積み重ねてきた研究成果と先進の技術力を生かし、不二製油グループ憲法のビジョン「植物性素材でおいしさと健康を追求し、サステナブルな食の未来を共創します。」に向けて、新技術・新素材の開発による事業シナジーの最大化や新たなビジネスモデルの創出を目指した研究開発活動を実施しています。世界中の人々の食べることの歓びと健康に貢献することをモットーに、社会になくてはならない会社になるための研究開発活動に努めています。
日本国内の「不二サイエンスイノベーションセンター」、「つくば研究開発センター」を研究開発の中核拠点とし、主に中国・アジア地域に設置した、顧客との共創の場である「フジサニープラザ」、オランダのフードバレーの中心となるワーヘニンゲン大学キャンパス内に2021年度に開設した「フジグローバルイノベーションセンターヨーロッパ」、そして各グループ会社の研究開発部門が連携し、事業戦略と一体となったグローバルな研究開発を目指しています。また、イノベーションを推進するため、国内外の大学や研究機関とのオープンイノベーションや顧客との共創活動を強化しています。
知財戦略室及び知的財産グループでは、コア技術をベースに磨き上げてきた成果を特許ポートフォリオとして構築し、差別化された製品の市場優位性や価格決定力を確保しています。各主要事業においての市場優位性や価格決定力に影響し得る重要特許シェア率(注1)では国内トップレベルに、将来の重要特許を生み出すための人材投資(≒新規発明者数)(注2)では国内外の競合と比較しても上位に位置しています。
技術開発部では、「安全、品質、環境」にこだわり、コア技術の強化・革新に関する研究開発を進めております。
当連結会計年度の研究開発費の総額は5,878百万円です。
(注)1.油脂、チョコレート関連特許は、2013年以降における油脂、チョコレート等に関する特許分類に基づいて抽出された母集団を定義。母集団の被引用数上位5%に該当するものを重要特許として定義。
2.2013年以降に新たに出願した発明者のみを集計して算出。
3.重要特許シェア率が1%を超えている企業をグラフに表示。
研究開発活動の概要は次のとおりです。
(植物性油脂事業)
安全・安心で環境に配慮した油脂の製造技術、新機能を有する油脂製品、及びその最適な応用法に関する研究開発を通して、顧客の要望を形にし、新しいおいしさの創造に貢献しております。
当連結会計年度の主な成果としては、国内外のココアバターの価格高騰によるチョコレート菓子市場への価格変動対応策として、コストと品質のバランスを重視した、低価格仕様のCBE(注1)を開発、顧客への品質選択肢を広げる製品拡充を図り、市場需要に対応しました。
また、引き続き国内外で市場拡大が進んでいるプラントベースフード(植物性食品)向けや、冷凍食品向けに広く利用されている動物代用油脂については、動物性油脂不足に対応して実績化が進んでいます。植物性油脂に不足しがちな風味の満足感についても、当社独自技術の分散技術であるDTR技術(注2)を組み合わせることで、動物性油脂の味覚満足感に近づける開発を行い、需要拡大を進めております。
栄養健康分野においては、当社の風味劣化抑制技術を用いた安定化DHA・EPA素材が、新たに子供向けチーズに採用されました。また、製品形態についても、粉末、乳化製剤の開発を進め、加工利用し易い製品の拡充を図り需要喚起を進めております。
DTR技術を応用した粉末油脂機能剤や、エステル交換技術の応用によって呈味改質機能を付与した油脂素材についても、その風味向上効果が高く評価され、完全栄養食分野や、高たん白製品分野での市場導入が進んでおります。
従来の油脂結晶制御技術、酵素応用技術の深掘も継続して技術革新を進めております。工程効率化や環境負荷低減、及び欧州を中心に規制が強化されている危害物質(3-MCPDやGE、MOH)除去につながる製造技術開発に一層注力し、国内及びグローバル市場環境にも対応可能な油脂素材として、提案を継続しております。
当事業の研究開発費は940百万円です。
(注)1.CBE:Cocoa Butter Equivalentの略。ココアバターと同等の物性を持ったチョコレート用油脂。
2.DTR技術:水溶性成分を油脂に微分散させる技術で、素材の呈味(塩味、旨味、辛味等)や保存安定性を付与増強する技術。
(業務用チョコレート事業)
チョコレートの新技術開発、社会課題解決のための原料選定、商品開発、及び消費者の新たな価値を具現化したアプリケーションと共にソリューション提案を行っております。
近年のプラントベースフードへの関心の高まりを受けて開発した動物性原料不使用の「プラントベースチョコレートMB」は、クセのないニュートラルな風味、色合いが、組合せ素材の特徴を活かすことを見出し、採用の拡大につなげました。このミルクタイプ、ホワイトタイプの2品は、植物性素材でおいしさと健康を追求し、サステナブルな食の未来共創の実現を目指し立ち上げたGOODNOONブランドの製品として、益々の拡販が見込まれます。(関連:ESGマテリアリティ取組テーマ「植物性タンパク資源の創造」)また、洋菓子のデコレーション用として開発したチョコソースは、その風味もさることながら、従来品の課題であったクリームへの滲みが起こらず、メリハリのある見た目を演出できることからも高い評価を得ております。
日本人の繊細な味覚を満足させるJapan Qualityを掲げて開発したクーベルチュール「カカオクオリー®」は、その品質の高さと、サステナブルカカオを使用していることが、多くのパティシエより高く評価されております。当連結会計年度は新たにホワイトタイプを上市しました。各種素材との相性を考え抜き作り上げた品質で、クオリーシリーズの更なる拡販に貢献しております。
当社グループ会社の中でも最大規模のBlommer Chocolate Companyは、健康訴求性の高い無糖・低糖チョコレート分野において米国内でトップシェアを誇ります。昨年度に引き続き、低糖でもナチュラルなおいしさを有する「Discovery」シリーズが、冷菓・ベーカリー・栄養バー等多くの市場で高評価を得て、採用を順調に伸ばしております。また、HARALD INDÚSTRIA E COMÉRCIO DE ALIMENTOS LTDAでは、新工場稼働に合わせ、新製品開発を加速しております。「Harald Top®」シリーズは、豊かな風味と優れた作業適性を併せ持つコンパウンド製品の大人気シリーズです。当連結会計年度はヘーゼルナッツ味、エクストラミルク味に続いて、キャラメル味の「Top Caramelo」を上市し、顧客から好評を博しております。
コロナ禍が落ち着いた当連結会計年度は、一部対面にて各グループ会社の中長期のイノベーション戦略や新製品開発情報の共有、及び技術議論を行いました。今後一層連携を強化し、戦略的な技術情報交換や新製品共創を行うことで、カカオ豆の価格高騰やインフレ等の急速な環境変化に迅速に対応してまいります。
当事業の研究開発費は1,292百万円です。
(乳化・発酵素材事業)
ホイップクリーム、調理用クリーム、ドリンクベース、マーガリン、フィリング、チーズ風味素材、パイ製品等の乳製品代替素材、弊社独自のUSS製法による豆乳を活用した植物性素材の新技術・新製品開発、及びアプリケーション開発を行っております。
当連結会計年度は、原料事情や市場の変化に迅速に対応した新製品開発を行い、大きく利益貢献を果たしました。カスタードフィリング、ホイップクリームでは、昨年度からの鳥インフルエンザの影響や乳価高騰による原料供給不足に対応した新製品を多く上市しました。また、人流回復、インバウンド需要の回復等に伴う外食市場での需要増加に対応したドリンクベース、チーズ風味素材の製品開発に取り組みました。さらに、人手不足の課題に向けた、手炊き風のカスタードフィリング「フローマリッシュ®」上市等、顧客の課題に寄り添った製品の開発、提案を進めました。チルドデザートの計画生産や賞味期限延長に貢献できる、冷解凍してもおいしさを損なわないホイップクリームの採用は、昨年度に引き続き順調に伸長しております。(関連:ESGマテリアリティ取組テーマ「フードロスの削減とアップサイクル」)植物性素材では、特においしさにフォーカスした製品開発に注力し、差別化した製品として市場で高く評価されております。豆乳クリームバター「ソイレブール®」は昨年度の農林水産技術会議会長賞に続き、第53回食品産業新聞社主催の産業技術功労賞を受賞いたしました。また、当連結会計年度は新たにシートタイプ「ソイレブール®シート」を投入し、高い評価を受けております。(関連:ESGマテリアリティ取組テーマ「植物性タンパク資源の創造」)
一方、海外では中国広東省肇慶市に竣工したクリーム新工場の稼働がスタートし、リーズナブルな低乳脂タイプ「淡奶油」及び生クリームを配合した本格風味の中乳脂タイプ「含乳脂奶油」を上市しました。10月には、不二(中国)投資有限公司の市場開発メンバーが来日し、日本の市場開発メンバーと共に、クリームを中心とした不二(中国)投資有限公司の製品を用いた洋菓子やパン等のアプリケーション開発に取り組みました。帰国後は習得した技術を顧客提案に活用し、採用に向けて活動しています。
当事業の研究開発費は1,017百万円です。
(大豆加工素材事業)
大豆たん白、大豆たん白食品、大豆ペプチド、大豆多糖類等の開発を行っております。
当連結会計年度の主な成果としては、粉末状大豆たん白素材は、一層の製品風味向上と粉末溶解性を高める技術を開発し、粉末飲料向けの「プロリーナ®HD505」、液体飲料(中性タイプ)向けの「プロリーナ®23LG」、液体飲料(酸性タイプ)向けの「プロリーナ®BUJ」の3製品を上市、市場の広がりを見せるプロテイン飲料市場向けの製品ラインナップの充実を図り、市場での採用が順調に伸長しております。大豆ペプチドについては、生産拠点である天津不二蛋白有限公司の開発と共創し、製品風味を高めた飲料用途向けの「ハイニュート®DC8」を上市しました。日本国内のみならず、中国・台湾・東南アジアでの市場拡大に向け、提案を進めており、特に栄養健康市場において採用が伸長しております。
粒状大豆たん白素材では、新しい大豆ミート素材として開発した「プライムソイミート」が、インバウンド需要が高まる中、プラントベースコンセプトのラーメン店や大手外食チェーンに採用されました。加えて、国産大豆の甘味や旨味、口溶けの良い食感にこだわった新しい大豆加工素材「プライムソイ国産大豆」を上市しました。シリアルやスナックとしても、料理用の食材としても利用できる素材として、スナック菓子メーカーやホテルレストラン等で採用に向けて検討されています。また、昨年度に引き続き、粒状大豆たん白を白米等の一部と置き換えた米飯製品が、大手コンビニエンスストアで採用されております。(関連:ESGマテリアリティ取組テーマ「植物性タンパク資源の創造」及び「糖質低減」)
ECチャネル活用の取組として、国内最大級のお菓子・パン作りのための総合サイト運営会社である株式会社cottaとのコラボレーションにより、最終消費者との接点を強化しています。“カラダにやさしい”をテーマとした新 EC メディア「cotta tomorrow」では、cottaブランドにて、大豆ミート素材商品2品が発売されました。
また、大豆加工時の副生成物である大豆ホエーの有効利用に取り組んでいます。汚染土壌対策の分野において、資源循環型のバイオレメディエーション(注)用浄化促進剤「ソイビオ®MA」の採用が伸長しております。(関連:ESGマテリアリティ取組テーマ「フードロスの削減とアップサイクル」)。
当事業の研究開発費は1,155百万円です。
(注)バイオレメディエーション:微生物の作用で環境汚染を修復する技術
(中長期視点での研究活動)
昨今、気候変動対策や世界的な人口増加、人権侵害等の多くの社会課題に対して、将来を見据えた取組が企業に求められています。未来創造研究所では、2050年までの未来年表を作成し、将来の解決すべき社会課題を「高齢化社会」と「サステナブルな食資源」に定め、これらの課題解決につながる研究テーマに取り組んでいます。「高齢化社会」に関しては「高齢者の健康課題の予防」に注目し、認知症やメンタルヘルス、フレイル(注1)等を重要な健康課題と設定し、当社独自の酸化しにくい安定化DHA・EPA油脂素材を用いた研究により、脳機能に加え、骨代謝に関わる新たな知見を見出しました。(関連:ESGマテリアリティ取組テーマ「高齢者の心身の健康課題の解消」)
「サステナブルな食資源」に関しては「基幹原料の持続可能性」に注目し、パーム・カカオ・大豆等の環境負荷低減、安定調達に寄与する技術開発をオープンイノベーションにより取り組んでいます。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発」に参画し、新潟薬科大学との共同研究により、産業用スマートセルを用いたパーム油代替油脂の生産技術の開発を継続しています。生産効率はさらに高まっており、研究体制を強化し、油脂生産酵母による地球環境に優しいパーム油代替技術の実用化を目指してまいります。また、佐賀市・国立大学法人佐賀大学・伊藤忠エネクス株式会社と共同で推進する、ごみ焼却施設の排熱及びCO2を利用した大豆育成研究プロジェクトでは小型植物工場での栽培実験を継続しております。将来的にはCCU(注2)による温室効果ガスの低減を訴求できる大豆植物工場の完成と、栽培大豆を用いたプラントベースフードの開発を目指します。(関連:ESGマテリアリティ取組テーマ「環境に配慮したものづくり」)
また、未来創造研究所では、「おいしさと健康」にこだわった食素材の創造と新規事業につながる技術開発にも取り組んでおります。MIRACORE®は、当研究所が開発した動物性食品ならではのおいしさを植物性素材で実現する技術です。当連結会計年度は、カツオ風魚介ダシタイプ「MIRA-Dashi® C400」を開発し、上市しています。今後も動物系調味素材に代わる植物調味素材の創出を加速させていきます。(関連:ESGマテリアリティ取組テーマ「植物性タンパク資源の創造」)
また、当研究所は、当社グループの将来の事業を創造する研究所として、積極的に国内外の大学等の公的研究機関や企業とのコラボレーション、及び研究員の派遣に取り組んでいます。ワーヘニンゲン大学との共同研究の成果として、植物性たん白による乳化安定性に関する論文が学術誌「Food Hydrocolloids, volume 146, 109248, 2024」に掲載されました。2021年度に茨城大学に設置した「食の創造」講座では、当社研究員による学生の指導に加え、新たな大豆たん白質の組織化技術の開発、未利用食資源からの多糖類機能剤の創出に取り組み、得られた知見を特許出願すると共に論文が学術誌「Food Hydrocolloids, volume 147, 109423, 2024」及び「Food Research International, volume 165, 112390, 2023」に掲載されました。
当事業の研究開発費は1,472百万円です。
(注)1.フレイル:健康な状態と要介護状態の中間に位置し、加齢とともに身体的機能や認知機能の低下が見られる状態のこと。
2.CCU(Carbon dioxide Capture, Utilization):排出されたCO2を他の気体から分離して集め、新たな製品の製造に利用する技術。
- 検索
- 業種別業績ランキング