スリー・ディー・マトリックス 【東証グロース:7777】「精密機器」 へ投稿
企業概要
(1) 研究開発目的・体制
当社グループは、自己組織化ペプチド技術を外科領域では吸収性局所止血材、粘膜隆起材、後出血予防材や癒着防止材等、組織再生領域では創傷治癒材及び歯槽骨再建材等、DDS領域では核酸医薬等のパイプラインへ応用し、製品化に向けた研究開発活動を行っております。
当社の研究開発活動は、製造販売承認申請と品質管理体制等を管掌する薬事開発部、臨床試験における臨床施設・治験医師・治験モニタリング等を担当する事業開発部の2部門で行っており、全体を代表取締役社長が統括・管掌する体制を取っております。また、外部機関に対する一部検査・試験等の委託やCROを活用する等、少人数で効率的に研究開発が進められる体制を整備しております。子会社においても、当社のサポートの下で、外部の薬事コンサルタント等の支援を得て、研究開発活動を進めております。
(2) 研究開発活動
当連結会計年度における当社グループの研究開発費の総額は555,593千円であり、主な研究開発活動として下記のとおり実施いたしました。
外科領域:
止血材(TDM-621)
日本においては、2020年に消化器内視鏡治療における漏出性出血に対する止血を対象として吸収性局所止血材「ピュアスタット」の製造販売承認を取得しており、2021年12月からは本製品の保険適用が開始されております。これにより、医療機関の費用負担なく「ピュアスタット」を使用できることになり、現在販売が順調に推移しております。また、2024年4月には静岡県立静岡がんセンターにて、胃外科領域への適応拡大に向けた医師主導特定臨床研究が開始される等、消化器内視鏡領域以外への適応拡大に向けた準備も進めております
欧州においては、2014年にCEマークを取得しており、現在欧州全域において販売中です。今後は中枢神経分野等領域の拡大や創傷治癒等機能の拡大等、継続して複数の分野で適応拡大を進め、オンリーワンの製品となれるよう価値を一層高めていく方針です。
米国では、消化器内視鏡治療領域において、2021年6月に米国食品医薬品局(以下、「FDA」という。)より販売承認を取得しており、2022年7月から販売を開始しております。また、2022年8月に手術等の処置に伴うものではない病変等から起こる自然出血(以下、「Primary Bleeding」という。)への適応拡大を目的とした市販前届510(k)を申請しておりましたが、2023年3月に販売承認を取得いたしました。Primary Bleedingの日米欧での市場規模は100億円程度と推計され、本適応拡大によってより一層製品力を高め、米国における消化器内視鏡治療の広まりや安全性の向上に貢献していきたいと考えております。
粘膜隆起材(TDM-644)
当社が独自に開発した新規ペプチド配列を用いた製品「ピュアリフト」です。自己組織化によりゲルを形成するため隆起維持性能に優れており、また、生物由来成分ではないためウイルス等の混入リスクがない安全性の高さにより、既存製品と差別化されております。ポリープ、腫瘍等を切除する内視鏡手術時に幅広く使用される可能性があります。
日本においては、2021年5月に製造販売承認を取得しており、2021年12月には販売用製品の製造を開始いたしました。また、2022年8月には販売開始に向けた更なるデータ拡充のため臨床研究を開始しております。さらに、2022年12月より保険適用が開始され、医療機関が使用した「ピュアリフト」の特定保健医療材料費については、医療機関は保険償還価格にて保険請求が可能となります。これにより、医療機関の費用負担なく「ピュアリフト」を使用できることとなります。止血材「ピュアスタット」販売時のフックとして「ピュアスタット」販売拡大にも貢献すべくクロスセルでの販売を予定しております。
後出血予防材
欧州においては、消化器内視鏡治療時に生じる後出血予防効果に関して、2018年12月に適応追加が承認されました。また、オーストラリアにおいても、後出血予防効果に関して、2019年9月に適応追加が承認されました。さらに、米国においては、2021年6月に止血材の承認と合わせて後出血予防の適応も同時に承認を受けております。
治療後に起こる後出血は、再手術が必要となることから患者及び医療機関双方の負担が大きく、強いニーズがあります。消化器内視鏡治療における出血はおおよそ5%程度であるのに対し、治療後に後出血が懸念されるリスクの高い患者・手技はおおよそ30%あるとされており、本適応の追加により当社製品が獲得可能な市場は数倍に拡大する可能性があります。
次世代止血材(TDM-623)
当社が独自に開発した新規ペプチド配列を用いた開発品です。現在の止血材より止血効果に優れ、原価を大幅に削減できる等の優位性があることから、将来的に主力製品として市場に供給すべく開発を進めてまいります。
欧州においては、2021年5月に治験計画届の承認がなされ、2021年7月より脳神経外科を対象とした治験を開始しておりましたが、2023年8月に症例登録を完了し、2024年4月に欧州の第三者認証機関に対し製造販売承認申請を行っております。
癒着防止材(TDM-651)
米国では、耳鼻咽喉科領域において、2019年4月にFDAより癒着防止材兼止血材「PuraGel」の販売承認を受けております。本製品は、癒着防止、止血、創傷治癒を同時に行える現状唯一の製品であることから、鼻甲介切除術や鼻中隔形成術等において高い臨床的価値を提供でき得るものと期待しております。特に術後のパッキング(鼻に詰め物をする処置)は患者のQOL(Quality Of Life)を著しく悪化させているといわれておりますが、当社製品によってパッキングを極力減らすことが可能となり、患者のQOLを重視する米国市場では強いニーズが期待できます。
また、日本において、2023年3月に止血材「ピュアスタット」の婦人科領域への適応拡大に向けた医師主導特定臨床研究を開始しております。本特定臨床研究より得られるデータは、止血材の同領域での効果確認だけでなく、癒着防止材としての開発への足掛かりにも寄与すると考えております。婦人科領域及び産科領域における止血及び癒着防止のグローバルでの市場規模は1,000億円以上と見込まれ、本領域への適応拡大に向けて引き続き日本と欧州双方で医師主導治験の準備を進めております。
組織再生領域:
消化管の創傷治癒
米国において、2022年4月に粘膜炎の創傷治癒に対する承認を取得いたしました。これは直腸の粘膜炎等の治癒に幅広く使える可能性がある承認であり、止血材よりさらに付加価値の高い製品としての販売が可能となります。例えば一つの適応事例としての放射線性直腸炎は、前立腺がんや子宮がん等への放射線療法に起因する副作用で、大腸粘膜の炎症を高頻度で引き起こします。また、2割程度の患者は慢性的な下血、頻繁な排便、激しい腹痛等の晩期障害に悩まされており、有効な治療法の確立が望まれております。
この領域で早急に成長を蓄積し、さらに巨大な市場である炎症性腸疾患(以下、「IBD」という。)への適応拡大を進めてまいります。IBDは消化管の難治性炎症で、原因不明で一度発症すると再燃と寛解を繰り返す特定疾患であり、グローバルで数兆円の顕在市場が存在します。2023年6月には、群馬大学医学部附属病院にてIBD領域での効果確認のための医師主導特定臨床研究が開始しており、さらに、2024年5月には公立大学札幌医科大学にて同じくIBD領域での医師主導特定臨床研究が開始しております。また、2024年2月には学校法人久留米大学と共同で、IBDに起因する腸管における潰瘍又は瘻孔の治療及び予防を目的とする自己組織化ペプチドを含有する医療組成物を広く保護する特許を取得しております。今後も日米欧にて複数の医師主導特定臨床研究を計画し、早期にPOC(Proof Of Concept)を取得することを目指します。POCを取得した暁には、本格的な開発を開始する計画です。
また、2023年7月に広島大学病院にて、食道狭窄予防の効果確認のための医師主導特定臨床研究が開始されております。食道狭窄は、主に内視鏡的粘膜下層剥離術で広範囲に腫瘍を切除した場合に必発する術後合併症で、嚥下障害をきたし患者のQOLを著しく低下させます。現在確立された予防法が存在しないアンメットニーズとして医療現場では認識されており、本特定臨床研究にて有用性と安全性を検証し、適応拡大の可能性を追求いたします。
皮膚における創傷治癒材(TDM-511)
米国では2015年2月にFDAより承認を受け販売の許認可を取得しております。より高い臨床的価値が求められる重度の熱傷や皮膚がんの分野への進出を目指して、他薬剤とのコンビネーション(抗生物質、抗がん剤等)も視野に入れて研究を進めております。また、巨大市場である美容整形分野にもアクセスすべく、2020年5月に適応を拡大しております。欧米において複数の臨床研究を進め、有望な結果が観察され始めており、論文発表も行われております。
歯槽骨再建材(TDM-711)
米国での臨床試験で15症例の施術・経過観察が完了し、骨形成に良好な結果やデータを得ております。一方で、プロトコルに改善の余地があったため、2018年4月期に臨床試験を12症例追加で継続する等、臨床試験を継続しており、今後も引き続き製品化に向けた開発を進めてまいります。現在の試験完了後のステップについてはFDAと協議中です。
DDS領域:
国立がん研究センターとの「RPN2標的核酸医薬によるトリプルネガティブ乳がん治療」共同プロジェクトにおいて、界面活性剤様ペプチドA6Kを核酸医薬のDDSとして提供しておりました。当社は、国立がん研究センターと共同でがん幹細胞に対する治療薬や診断方法の特許を取得しており、同分野や関連分野の共同研究/共同開発に向けた取組を進めております。
広島大学との共同プロジェクトにおいても、悪性胸膜中皮腫を対象疾患とする革新的抗腫瘍核酸医薬にA6Kを提供し共同開発を進めておりましたが、広島大学の田原栄俊教授により新たに設立された株式会社PURMX Therapeuticsが今後の製品開発を主導することとなりました。当社も同社株式の一部を取得し、今後も引き続き共同で製品開発を進めてまいります。2022年1月には、医師主導治験(第I相)において第一症例の組み入れが実施され、臨床試験が開始されております。核酸医薬へのDDSとして当社製品がヒト臨床で使用されるのはこれで2件目となります。今後の核酸医薬の広まりとともに、当社の技術が核酸のデリバリーのオプションとして更なる広がりをみせる可能性が出てきております。
また、当社技術をCOVID-19を含めた各種ワクチンのDDSに応用する検討も進めております。各種ワクチンによる防御免疫反応を高め、強力なアジュバント(主剤の効果向上並びに補助を目的として併用される物質)の反応性を排除することで、効率的かつ安全なワクチンデリバリーシステムを開発することを目的とし、米国Tulane Universityと共同研究を開始いたしました。本共同研究により、同レベルの免疫を獲得するために必要なワクチンの接種回数を減らすことができる可能性や患者の負担を軽減できる可能性あるいは各種ワクチンの経鼻投与ができるようになる可能性が期待されます。
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