QPS研究所 【東証グロース:5595】「情報・通信業」 へ投稿
企業概要
当社の経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものであります。
(1)経営方針
当社は、「宇宙の可能性を広げ、人類の発展に貢献する」という経営理念の下、地球の常識が宇宙では非常識になってしまうそのギャップを技術と創造力で埋め合わせることで、地球上では実現できないソリューションやビジネスを実現し、結果として人類の発展に貢献する企業になりたいと考えております。宇宙全体を巻き込む経営理念の具体化に向けて、まずは「小型衛星コンステレーションによるリアルタイム観測」を実現するべく、36機のSAR衛星コンステレーションの構築を推進しております。
なお、36機のSAR衛星コンステレーションは、各9機の当社小型SAR衛星を投入された4本の軌道で構成する計画です。当社小型SAR衛星は、約90分で地球を周回する低軌道へ投入を進めております。同一軌道に等間隔で9機を投入することで、計算上は10分間隔の観測が実現できますが、同時に地球の24時間間隔の自転を考慮しなければ、同一地点を観測することはできません。当社は、一定地域を除く世界中の任意の地点を平均10分間隔で観測するために4本の軌道へ当社小型SAR衛星を投入し、これまで見えなかった動きや変化を把握できる世界の実現を目指しております。
(2)経営戦略
当社では上記の経営方針に基づき、36機のSAR衛星コンステレーションの構築を迅速に進めてまいります。
開発戦略
当社では現在、年間4機の当社小型SAR衛星を製造できる能力を有しておりますが、工場の新設によって2024年には年間10機に拡大させる方針であり、開発体制の強化とコンステレーションの構築を加速させてまいります。また現状では当社小型SAR衛星は、地上局上空を通過する際に地上とデータを送受信しておりますが、静止軌道上の通信衛星を介する衛星間通信を実現させる機能追加を実施することで、当社小型SAR衛星による撮像から地上でのデータ取得までに生じる時間差を縮小し、リアルタイム観測の実現を推進いたします。また衛星寿命の延伸による収益性の改善にも取り組んでまいります。
打上げ計画
地球観測衛星の周回軌道は、北極・南極の上空を通過し全球を観測できる太陽同期軌道が採用されることが一般的です。しかしながら、地球上における人類の活動圏は赤道近辺に集中しているため、当社は北緯45度から南緯45度の間を周回する傾斜軌道へ当社小型SAR衛星を投入し、日本近辺や先進国の大都市圏を特に多く撮像することで、他社との差別化を進めてまいります。ただし当面は打上げ機数の確保を優先するべく、打上事業者によるサービスの頻度が高い、太陽同期軌道への投入も実施する予定です。
販売戦略
① 国内官公庁
当社の地球観測データビジネスは安全保障分野の需要が高く、2022年5月期より防衛省向けのサービスを開始しております。当社小型SAR衛星2号機により撮像した画像の販売を開始したことにより官公庁におけるニーズの存在を確認しましたため、2023年6月に打ち上げた6号機以降の打上げにより撮像キャパシティが順次増加し、提供枚数も増加することを想定しております。
② 国内民間
安全保障分野以外においては災害時の対応や電力会社等におけるインフラ管理等多くの分野で協働の可能性を検討しております。現在は特に海洋監視、インフラ管理、防災/森林監視の分野について働きかけており、当社株主でもあるスカパーJSAT株式会社(以下「スカパーJSAT」という。)や日本工営株式会社(以下「日本工営」という。)の他、九州電力株式会社(以下「九州電力」という。)や株式会社ウェザーニューズ(以下「ウェザーニューズ」という。)、株式会社ゼンリン(以下「ゼンリン」という。)、東京海上日動火災保険株式会社、損害保険ジャパン株式会社との実証実験等のプロジェクトを通じて、民間ビジネスの開拓を進めており、案件の具体例は以下のとおりです。
・小型SAR衛星群による新たなサービス創出等に向けた共同実証
協業先:九州電力、JAXA
想定ニーズ:電力会社等の広範囲にインフラを有する事業者のインフラ管理の効率化
想定顧客:電力会社、通信会社、交通インフラ会社、建設会社等
・民間における衛星防災情報サービスの実用化に向けた実証
協業先:スカパーJSAT、ゼンリン、日本工営
想定ニーズ:豪雨・災害時の堤体、田畑や住居における川や池の越流の状況把握、堤防や土手の管理
想定顧客:官公庁、県庁・市役所、土木・建築会社等
・高精度な海氷情報を活用した、船舶の運航を支援するサービス創出に向けた共同実証
協業先:九州電力、九電ビジネスソリューションズ(現Qsol)、ウェザーニューズ
想定ニーズ:北海航路等、船舶向けの夜間・天候不良時の航行情報の提供、海賊対策、
並びに効率かつ安全な航路の提案
想定顧客:海運会社、損害保険会社、商社等
・小型LバンドSAR衛星の開発
協業先:JAXA
内容:大型LバンドSAR衛星(ALOS-2)を運用するJAXAと
小型XバンドSAR衛星を運用する当社による共同研究
想定顧客:国土交通省、建築会社、地図データ・測量会社、林業、製紙会社等
・小型SAR衛星に対するオンボード高性能計算機の搭載技術実証
協業先:JAXA
内容:現在地上で行っている画像解析を衛星内で行い、解析結果を地上に送る他、
衛星内で解析した結果を元に次の観測計画を自動で行う技術の実証
想定顧客:国、画像解析を必要とするすべての分野、業界
③ 海外
小型SAR衛星は地球の自転速度を大幅に上回る約90分で地球を1周するため、日本周辺に限らず世界中の上空を航行しており、該当地域の地表を観測することが可能です。当社では代理店経由にて、北米を中心に、EUや南米、中東等のエリアの画像販売を推進していくことを想定しております。
現在、SAR衛星の市場規模の拡大としては、Research and Markets社「Synthetic Aperture Rader Global Market Report 2024」が2028年に82.9億ドル(USD@160円換算で1兆3,264億円)、Brandessence Market Research社「Synthetic Aperture Radar Market」は2028年に88億ドル(USD@160円換算で1兆4,080億円)を予想するなど、年間10%以上の成長を遂げることを複数の市場データが示しております。海外市場においては従来から日本国内に先行する形で、SAR衛星による画像データ市場の開拓が進んでおりました。2022年に生じたロシアによるウクライナ侵攻を契機としてSAR衛星の有用性が示されたことで、官民問わず旺盛な需要が見込まれております。当社では海外市場に向けた販売体制を強化していくと共に、世界各地で行われる展示会へ出展し、代理店候補の調査とコネクションの構築を進めてまいります。
(3)経営環境
当社が属する地球観測衛星データ事業を含む衛星サービスビジネスの市場は、内閣府宇宙開発戦略推進事務局「宇宙ビジネス拡大に向けた内閣府の取組」(2021年2月10日)にて引用されているSatellite Industry Association「2020 State of the Satellite Industry Report」によると、2019年度の市場規模が1,230億ドル(USD@160円換算で19.68兆円)となっております。
日本における市場は、宇宙開発戦略本部「宇宙基本計画」(2023年6月13日)において、宇宙機器と宇宙ソリューションの市場を合わせて、2020年に4.0兆円となっている市場規模を、2030年代の早期に2倍の8.0兆円に拡大していくことが目標とされています。また、今年度の全府省庁の宇宙関係予算の合計額は8,945億円(令和6年度当初予算及び令和5年度補正予算の合計額)にのぼり、前年度比で約46%増加しています。
このような市場環境のもと、当社が提供するサービスに対する需要も市場の拡大に伴い高まっていくものと考えております。一例として、当社が手掛けるSAR衛星は、天候、昼夜関係なく観測が可能であるため、「今」地上で起きていることを把握でき、特定の地域を定点観測することができます。そのため、人・車・船等の“移動体”の動きを把握するセンサーの代替として、下記のような応用活用が期待できます。
・人の数や動きを分析(ヒートマップ等)にして、土地や建物の『真の価値』を算出
・特定の車や船の行動を分析・ダム等の建設の進捗状況を確認
・競合店舗に停まっている車の数をカウント(売れ行きを把握)
・店舗のカメラと連携して、街全体のセキュリティシステムを構築
また、SAR衛星の特性を活かし時間差で同じ場所より観測することで(干渉)、観測対象で起きている「誤差」、「変化」を認識できるため、カメラの表面的な画像以上の情報を得られることにより、下記のような応用活用が期待できます。
・線路のズレより、故障を早期発見
・ビル、住宅の傾きやズレ、反射の変化より経年劣化を検知
・工事現場での地盤の陥没、傾斜、材料の量、使用量を検知、測定・地盤のズレにより地震を予知
・農業での適正収穫時期を判断
・自動運転の実現に必須である高頻度・高精度3Dマップを作成
加えて、当社衛星により取得した地球観測データ及び画像は、蓄積され継続性のあるものとしてアーカイブしてまいります。当社が提供する高精細なアーカイブデータを、高度な解析技術を持つ販売代理店が気候データ、市場・経済データ等と組み合わせて解析することで、蓄積された過去のパターンより将来の状況を予測できる下記のようなアプリケーションの構築を目指しております。
・物流や交通量よりその国や地域の経済を予測
・工場、港、店舗等といったサプライチェーンを定点観測することで、業界・市場の未来を予測
・穀物の生育具合、より将来価値を予測
・人、クルマの行動パターン、建物の変化の蓄積より、交通渋滞予測、最適ルートの判断、更には事故・危険の予測等
・地盤の変化より地震や土砂崩れ、火山の噴火、道路の陥没を予測
小型SAR衛星については技術的なハードルが高いこともあり、世界的に見ても参入を果たしている企業は限定的な状況であります。従来、SAR衛星は電波の送受信に大量の電力消費と大きなアンテナを要することから、小型化と高分解能の両立は困難で、実現には省電力化するためのアンテナ等の開発が必要となります。当社の場合、パラボラアンテナの採用により小型化と高分解能を同時に実現しておりますが、他社が同様のアンテナの開発を行うには長年の研究が必要となり時間的ハードルについてもその参入を困難にしているものと考えられます。なお、光学カメラ衛星とSAR衛星は技術領域が異なり、光学カメラ関連業界からの参入についても他業種からの参入同様のハードルが存在します。
世界における小型SAR衛星の開発、打上げに関してはフィンランド、米国が先行しております。日本においては当社を含めた数社となっております。
(4)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社は、小型衛星コンステレーションによるリアルタイム観測の実現というビジョンを掲げ、地球観測衛星データ事業を推進しております。
当地球観測衛星データ事業は、事業の基盤となる小型SAR衛星製造に向けた技術開発、製造及び打上げに多額の資金を要する等の特性があり、このような環境のもと、当社は継続的な発展のため、下記を重要な課題として取り組んでおります。
① 小型SAR衛星を活用したビジネスモデルの拡大
安全保障分野に関する販売及び収益の拡大に加え、民間における協働の可能性を模索している分野でのビジネスモデルを早期に構築し、事業の拡大を図ってまいります。
② 小型SAR衛星の技術開発とインフラ構築の推進
継続的な収益拡大のために小型高分解能SAR衛星によるコンステレーションの実現に邁進してまいります。また、同衛星の撮像能力向上とともに、同衛星が取得する観測データを迅速かつ簡便にエンドユーザーに提供するインフラの構築と技術開発を推進いたします。
③ 製造、販売体制の強化
中長期的には自社コンステレーション並びに他社販売に伴う衛星製造数量の増加とコストダウン圧力に対応すべく、開発人材の新規採用や製造工場の新設等により年間10機を生産可能な量産体制の構築を進め、更に衛星の販売並びに地球観測データビジネスのモデル構築のための事業開発、マーケティング及び販売の体制強化を図ってまいります。
④ 資金調達の実施
当社にとって技術開発活動及び事業基盤の拡充を推進することは継続的な発展のために重要であり、そのためには状況に応じて機動的に資金調達を行う必要があります。今後も技術開発活動及び事業基盤の拡充に向けて資金調達の可能性を検討し、推進してまいります。
(5)経営上の目標達成状況を判断するための客観的指標等
企業価値を継続的に向上させるためには利益の確保が重要であることから、当社は売上高成長率を最も重要な経営指標として採用しております。
当社が取得、提供する地球観測データ及び画像について、36機を上限としてSAR衛星の軌道投入・運用機数を増やしていくことにより、地球観測地域とデータ取得頻度を高めることが可能となり、サービス品質の向上に繋がります。そのため売上高の継続的かつ累積的な増加を実現するため、地球観測衛星データ取得のためのSAR衛星の軌道投入・運用機数を重要指標とし、2028年5月期中に24機の小型SAR衛星によるコンステレーション構築を目指しております。
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