神戸製鋼所 【東証プライム:5406】「鉄鋼」 へ投稿
企業概要
当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであり、既知及び未知のリスクや不確実性及びその他の要素を内包するものです。「3 事業等のリスク」などに記載された事項及びその他の要素によって、当社の実際の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況が、こうした将来に関する記述とは大きく異なる可能性があります。
<企業理念>
KOBELCOグループの現在のグループ企業理念は、2020年に制定したものです。2017年に公表した品質事案を契機に、閉鎖的だった企業風土を変えるべく、「我々は何者なのか」「何を目指していくのか」をあらためて見つめ直し、企業理念を明文化するプロジェクトを実施しました。その際重視したのは、ボトムアップでつくり上げるという制定プロセスです。経営層や特定のメンバーだけでなく、各職場において実施している「語り合う場」等での議論を通じ、グループ社員一人ひとりが考える機会を設けるとともに、そこからグループ社員の思いを抽出したうえで約1年をかけて制定しました。
グループ企業理念は、いわゆるビジョンやミッションにあたる「KOBELCOが実現したい未来」「KOBELCOの使命・存在意義」に、共有すべき価値観や行動規範である「KOBELCOの3つの約束」「KOBELCOの6つの誓い」を加えた4つの要素で構成されています。
「KOBELCOが実現したい未来」には、「末永く安全・安心に使える技術・製品・サービスを提供していくことに加え、社会に新しい価値を提供し、今を、そして、未来をより良いものにしよう」という、創業当時から脈々と受け継がれる精神が込められています。
また、「KOBELCOの使命・存在意義」は、社会のニーズに向き合う中で培ってきた多様な人材・事業・技術の掛け算により、KOBELCOならではの社会課題の解決に挑みつづけるという「あるべき姿」そのものです。
当社グループは、グループ社員が一丸となって制定したグループ企業理念を胸に「安全・安心で豊かな暮らしの中で、今と未来の人々が夢や希望を叶えられる世界。」の実現を目指していきます。
<KOBELCOグループのマテリアリティ(中長期的な重要課題)>
2021年にグループ企業理念を起点とし、中長期的な時間軸の中で社会課題の解決や価値創造を通じて、当社グループが持続的に成長し、社会にとってかけがえのない存在となるために取り組むべき5つのマテリアリティ(重要課題)を特定しました。これらの重要課題を明確にしたことで、当社グループが実現したい未来や使命・存在意義を再確認することができました。
マテリアリティの特定においては、CSR委員会(現サステナビティ推進委員会)委員長が中心となり、マテリアリティの評価プロセス及び分析結果の妥当性を検証し、優先的に取り組むべきマテリアリティを検討しました。具体的には以下の通りです。
また、マテリアリティの項目については、マテリアリティをより具体的に実現するため、指標・目標を設定し、サステナビリティ推進委員会にてその進捗を管理しております。指標・目標については、事業活動を取り巻く環境の変化等を踏まえ、定期的に見直すこととしており、「KOBELCOグループ中期経営計画(2024~2026年度)」の検討と併せて指標・目標の見直しを行いました。
事業活動を取り巻く環境は引き続き大きく変化しています。この1年でも、気候変動対応に対するより一層の取組み強化の動きや、生物多様性に関する取組み、サプライチェーンやダイバーシティ&インクルージョンに対する取組み等といった様々な観点での対応が求められています。当社グループは、5つのマテリアリティに取り組むことでこれらの課題解決を推進し、持続的な成長を達成していきます。
当社グループの事業活動は多岐にわたっており、世界各国に拠点を有しているため、そこで働く社員も多様性に富んでいます。我々はダイバーシティ&インクルージョンに取り組み、一人ひとりの人格・個性・多様性を互いに尊重し、それぞれが最大限に能力を発揮して生き生きと働ける職場環境を実現し、社会課題の解決や新たな価値創造に取り組んでいきます。
*S+3E:Safety + Energy Security, Economic Efficiency, Environment
<企業構造と事業領域>
当社グループは、1905年(明治38年)に鋳鍛鋼メーカーとしてスタートし、機械事業、鉄鋼の圧延、銅、エンジニアリング、建設機械、アルミ、溶接とその事業を徐々に広げてまいりました。110年を超える歴史の中で、社会のニーズに応え、選択と拡大を進めてきた結果、現在、鉄鋼やアルミなどの素材、鋳鍛鋼やアルミ鋳鍛などの素形材、溶接材料などからなる「素材系事業」、機械、エンジニアリング、建設機械からなる「機械系事業」、そして「電力事業」の3つの事業領域で事業を展開しています。これらの幅広い事業分野で培った知見や技術力をもとに、お客様や社会が抱える課題の解決に貢献できる新たな価値を創り出せることこそが当社の強みであると考えています。
当社グループが提供する製品・サービスは、輸送機、電機、建設・土木、産業機械、社会インフラなどあらゆる産業の基礎資材となっています。当社グループは、独自の技術をもとにした代替困難な素材や部材、省エネルギーや環境に配慮した様々な機械製品やエンジニアリング技術等、当社グループ独自の多彩な製品群を幅広いお客様に供給することで、競争優位性を生みだしています。また、電力事業では、極めて重要な社会的インフラである電力の供給という公共性の高いサービスを提供しており、当社グループは社会的にも大きな責任を担っているものと考えています。
素材系事業、機械系事業のいずれにおいても、競合メーカーが国内外に多数存在します。
素材系事業においては、国内外の高炉メーカー、電炉メーカー、アルミメーカーなどが競合先として存在しますが、当社グループは、鉄鋼、アルミといった様々な素材と、その圧延・鋳造・鍛造技術を活用した鋳鍛鋼、アルミ鋳鍛といった多様な素形材、加えて溶接材料・溶接技術を有する当社グループの特長を活かしたソリューション提案をお客様に行うことにより、輸送機関連の分野などで競争優位性の維持・強化を目指しています。
また、機械系事業においても、機械、エンジニアリング、建設機械のそれぞれの製品・サービス毎に国内外に競合先が存在しますが、機械においては、例えば、当社は、スクリュ・ターボ・レシプロの全ての圧縮機タイプを持つ数少ないメーカーの一つであり、お客様の用途に合わせて最適な圧縮機を提供することで競争力の維持・強化に繋げています。エンジニアリングにおいては、例えば、当社グループの持つ天然ガスを還元剤とした直接還元製鉄法(MIDREX®プロセス)が直接還元鉄の生産において世界シェア60%以上を占めています。またMIDREX®プロセスと鉄鋼の高炉操業技術を融合し、高炉工程でのCO₂排出量を大幅に削減できる技術の実証に成功するなど、継続的な技術改良への取組みを進め、加えて、天然ガスの代わりに水素を還元剤とした低炭素製鉄の実証を進め、世界初の100%水素直接還元鉄プラント商業機を受注するなど、技術革新にも挑戦する中で、競争優位性の維持を図っています。建設機械においては、油圧ショベルとクレーン事業に特化する中で、静音性・省エネ技術で高い評価をいただいており、これらの技術をさらに発展させるとともにDXの活用などで競争力強化に取り組んでいます。
電力事業においては、神戸市に石炭火力発電所を、栃木県真岡市にはガス火力発電所を有しており、いずれも現在、実用化されている発電技術の中で最高効率の発電設備を導入し、省エネルギー法で定められた発電効率基準を満たすことにより、国内の火力発電所の高効率化・環境負荷低減に寄与します。
<KOBELCOグループ中期経営計画(2021~2023年度)の総括>
当社グループは、「KOBELCOグループ中期経営計画(2021~2023年度)」で、「安定収益基盤の確立」と「カーボンニュートラルへの挑戦」の2つを最重要課題とし、素材系を中心とする収益力強化などの取組みを深化させて、新規電力プロジェクトの立上げが完遂し、収益貢献がフルに寄与する2023年度にROIC(投下資本収益率)5%以上の収益レベルを達成することを目指してまいりました。
「安定収益基盤の確立」については、「鋼材事業の収益基盤強化」、「新規電力プロジェクトの円滑な立上げと安定稼働」、「素材系事業の戦略投資の収益貢献」、「不採算事業の再構築」、「機械系事業の収益安定化と成長市場への対応」の5つの重点施策のうち、素材系事業の戦略投資案件は、アルミ系事業を中心に、需要拡大時期の後ろ倒し等により収益力が大きく低下しており、今後に課題を残しましたが、その他の施策を着実に進めるとともに、原料・資材、エネルギー価格や人件費などのコストアップ分の販売価格への転嫁にも注力した結果、2023年度の経常損益は1,609億円、ROICは6.7%と目標としていた5%以上を達成し、「安定収益基盤の確立」は計画通り推進することができました。
また、「カーボンニュートラルへの挑戦」については、多様な技術と人材を競争力の源泉として、幅広い事業を営む当社グループの強みを活かし、社会に貢献できる新たなビジネスチャンスと捉え、グループ一丸となって取り組んでおります。具体的には、国内初の低CO₂高炉鋼材“Kobenable® Steel”の販売など、生産プロセスにおけるCO₂削減に加えて、当社グループの保有するMIDREX®技術をはじめ、自動車軽量化・電動化に寄与する素材・部品供給等、多様な技術を通じたCO₂排出削減貢献の取組みについても、着実に推進しております。
<当社グループを取り巻く事業環境>
当社グループを取り巻く事業環境は、カーボンニュートラルの実現など持続可能な社会に向けた要請の高まりや、地政学リスク等を背景とした原材料調達コスト高騰や地産地消へ向かうサプライチェーンの再構築、国内人口減少に伴う国内需要逓減や働き手不足の顕在化、生成AIに代表されるデジタル技術の急激な進歩などのリスクが想定される一方で、カーボンニュートラルの実現に向けた社会変革への貢献や、様々な変化に対応した新技術の開発・実装といった、新たな成長機会の創出も期待されます。
したがって、将来の社会課題へのソリューションとなり得る技術・製品・サービスをお客様へ提供できる事業構造への「変革」や、外部環境変化に柔軟に対応できるような人材・組織・制度等の「変革」に積極的に取り組んでいく必要があります。
<KOBELCOグループ中期経営計画(2024~2026年度)>
2024年5月公表の中期経営計画では、当社グループの重要な課題、当社グループを取り巻く事業環境を踏まえ、「“稼ぐ力の強化”と“成長追求”」、「カーボンニュートラルへの挑戦」の2つを最重要課題といたしました。
まず、「KOBELCOグループ中期経営計画(2021~2023年度)」の期間では、「安定収益基盤の確立」による事業の土台づくりに取り組み、一定の成果がありました。新たな「KOBELCOグループ中期経営計画(2024~2026年度)」の期間では、「稼ぐ力の強化」によりその土台を更に強固なものとするとともに、土台から得られる様々な経営資源を「成長追求」や「カーボンニュートラルへの挑戦」に重点的に投入し、将来の成長機会も捕捉することで、新中期経営計画期間を通じて安定的にROIC(投下資本収益率)6%以上の収益レベルを確保し、好環境下においては、ROIC8%の到達も目指してまいります。さらに、将来の姿として、ROIC8%以上を安定的に確保し、持続的に成長する企業グループを目指します。
「カーボンニュートラルへの挑戦」については、エネルギー転換等を新たなビジネスチャンスと捉え、当社グループの保有する多様な技術によるCO₂排出削減貢献や既存事業の拡大に加えて、技術のかけ合わせなどによる新たな事業機会の創出や新規事業化も積極的に推進してまいります。また、当社グループの生産プロセスについても、引き続き当社独自技術の開発推進、外部の革新技術の活用等により、製鉄プロセス及び電力事業のロードマップに沿った取組みの具体化を進め、2030年で2013年度比30~40%のCO₂を削減し、2050年でのカーボンニュートラル実現に挑戦し、達成を目指してまいります。
加えて、これらを実現・加速させる手段・ドライバーとして、事業構造や人材・組織・制度等の変革(X)や、人材・技術・事業のかけ算(X)など、「KOBELCOらしさ」による様々な「X=変革・かけ算」の取組みについて、AX~GXの7つの「X」を設定し、それらを「KOBELCO-X(コベルコ エックス)」と総称して、当社グループ全体でサステナビリティ経営の強化に取り組み、企業価値を向上させて魅力ある企業へ変革を果たし、「未来に挑戦できる事業体」の確立を目指してまいります。
<4つの重点施策>
最重要課題である「“稼ぐ力の強化”と“成長追求”」、「カーボンニュートラルへの挑戦」を実現するために、4つの重点施策、具体的には、「将来の外部環境を見据えた“事業基盤の再整備”」、「既存事業における“新たな需要の捕捉”、“事業の幅の拡大”による成長」、「生産プロセスのCO₂削減」、「変革を通じたサステナビリティ経営の強化」を着実に実行してまいります。
「将来の外部環境を見据えた“事業基盤の再整備”」については、需要拡大時期の後ろ倒しやものづくり力の課題等により、過去に実施したアルミ板並びにアルミ素形材分野における戦略投資案件の収益化に時間を要しておりますが、早期収益化に向けて数量増や価格改善、コストダウンなどのベース収益改善の取組みに注力するとともに、アルミ板分野の自動車パネル事業における他社との協業も含め、事業構造改革についても取り組んでまいります。加えて、鉄鋼や溶接などその他の素材系事業についても、人口減少に伴う国内需要の縮小や、新興国での需要の増加、カーボンニュートラル対応に伴う原材料管理の厳格化等による地産地消ニーズの拡大などに対応した、グローバルでの競争力維持への取組みを検討してまいります。
「既存事業における“新たな需要の捕捉”、“事業の幅の拡大”による成長」については、エネルギー転換等に関連した事業拡大や新規需要を絶好の機会と捉え、機械やエンジニアリング事業を中心に、既存製品の拡販強化に加えて、新規事業化も積極的に推進してまいります。また、建設機械事業を中心に、従来のものビジネスを中心とした事業活動で培った情報や技術・ノウハウと、DX関連技術のかけ算により、コト売りやソリューションビジネス等の新たな事業領域の拡大にも取り組んでまいります。
「生産プロセスのCO₂削減」については、鋼材と電力の事業継続に向けて、鋼材事業では高炉へのHBI多配合等に取り組むとともに、HBI多配合のための低炭素鉄源確保については、エンジニアリング事業と協力して事業化を推進してまいります。また、電力事業についても、石炭火力発電所におけるアンモニア混焼等に取り組み、生産プロセスにおけるCO₂削減目標の達成への道筋具体化を進めてまいります。
「変革を通じたサステナビリティ経営の強化」については、2024年4月より取締役会のモニタリング機能の更なる強化と、執行側の推進体制の強化を目的とした組織改正を実施しており、今後はこの体制のもと、KOBELCOらしい変革である「KOBELCO-X」に取り組んでまいります。具体的には、「既存事業の深化」×「新たな事業機会の探索」という「両利きの経営」を意味するAXにより「稼ぐ力の強化」×「成長の追求」を推進するとともに、「当社グループのカーボンニュートラルの実現」×「グリーン社会への貢献」を目指すGXにより「カーボンニュートラルへの挑戦」に取り組んでまいります。加えて、AXとGXは事業戦略の両輪と位置付けており、BX、CX²、DX、EX、FXの5つの「X」が推進力となって事業戦略の実現を図るとともに、企業活動の前提となる経営基盤の強化にも継続的に取り組み、サステナビリティ経営の強化を目指してまいります。
<事業管理指標>
当社グループは、7つの事業管理指標を設定し、2019年4月より運用を開始しておりましたが、本年4月より、グループ企業理念の実現に向けた中長期的な重要課題であるマテリアリティに関する指標・目標を再設定するとともに、その中で重点管理する指標を事業管理指標とする運用に変更しております。引き続き非財務指標も含めてグループ全体で企業価値向上に向けた取組みを推進・強化してまいります。
なお、マテリアリティに関する指標・目標については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載しております。
<財務戦略>
財務戦略の基本方針は、未来に挑戦できる事業体の確立に向けて「稼ぐ力の強化」や「成長の追求」を行いつつ、外部環境の変化による業績変動リスクや将来の大型投資に耐え得る財務基盤の更なる強化に取り組み、事業成長を支える財務体質への変革を図ってまいります。新中期経営計画期間においては、2026年度末の純資産比率40%台前半、グロスD/Eレシオ※0.7倍台半ばを財務目標数値として定めております。
※プロジェクトファイナンスを含む有利子負債÷自己資本
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