企業兼大株主神戸製鋼所東証プライム:5406】「鉄鋼 twitterでつぶやくへ投稿

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企業概要

 当社グループ(当社及び連結子会社)は、幅広い技術分野での高度な技術力を源泉として、当社グループならではの顧客価値を実現する製品の創出と、それに必要な「ものづくり力」の強化を中心に取り組み、また、拡販のための技術支援、ソリューション提案など多くの成果をあげています。

 当社グループでは、2023年3月末に、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)助成事業の大規模水素エネルギー利用技術開発プロジェクトとして2022年3月に採択された「液化水素冷熱の利用を可能とする中間媒体式液体水素気化器の開発」(以下、本事業)において、運転圧力1MPa以下での実証試験を予定通どおり完了しました。本事業では、液化天然ガス気化器で実績のある中間媒体式気化器※1の要素技術をベースに、CO2排出を冷熱回収の形で抑制する冷熱回収型液化水素気化器を採用しました。この実証試験において、実用規模では世界で初めて安定した気化性能及び冷熱回収が可能であることが確認できました。また、水素発電において求められる臨界圧(約1.3MPa)以上での課題点の抽出・検証を行うために、NEDOによる「水素社会構築技術開発事業/地域水素利活用技術開発/(ロ)地域モデル構築技術開発」の2023年度第1回公募「水素CGSの地域モデルにおける水素燃料供給システムの効率化・高度化に向けた技術開発」に川崎重工業(株)と応募し、2023年6月に採択されました(実施期間:2023~2024年度)。

 また、「ハイブリッド型水素ガス供給システム」の実証試験を予定どおり2023年3月から当社高砂製作所(兵庫県高砂市)内で開始するとともに、2023年6月より試験用ボイラーへの水素供給による水素燃焼試験において、水素混焼を開始しました※2。さらにNEDOから調査委託として採択された「水素社会構築技術開発事業/地域水素利活用技術開発」に係る水素製造・利活用ポテンシャル調査では、主要なエネルギー消費設備であるボイラー及び加熱炉でのCOフリー水素の利活用について、当社高砂製作所で実稼働する設備を対象とした水素利用ポテンシャルの調査と水素利活用モデルの検討を行い、100基以上の加熱炉で消費される化石燃料を水素に置き換える場合、最大36,000t/年の水素利活用ポテンシャルがあるとの試算結果が得られました。本調査で抽出された課題解決に向けた方策として、実機規模のボイラー及び加熱炉での水素利活用を「ハイブリッド型水素ガス供給システム」を用いて実証することを、NEDOによる「水素社会構築技術開発事業/地域水素利活用技術開発/(ロ)地域モデル構築技術開発」の2023年度第1回公募「熱エネルギー消費が主体の工場の脱炭素化に向けた燃焼式工業炉での水素利活用の実証」に応募し、2023年6月に採択されました(実施期間:2023~2025年度)。今後、各種実証試験において水素気化器と水電解式水素発生装置の同時運転等を行い、水素供給時の水素コストやCO発生量/炭素集約度を評価し、安価で安定した水素供給ができる運転マネジメントシステムの構築を行っていきます。

 また、加古川製鉄所の大型高炉(4,844 m3)でCO2排出量を25%削減(高炉単体、SCOPE1+2)できる技術の実機実証に成功しました。これは、2021年2月に当社が公表した「KOBELCOグループの製鉄工程におけるCO2低減ソリューション」での実証結果(約20%)を大幅に上回る結果であり、高炉実機でのCO2削減手法としてこれまで公表されている中では、世界最高水準のCO2削減効果を有する極めて先進的な技術です。多様な事業を営む企業としての特長を活かし、エンジニアリング事業のミドレックス技術※3と鉄鋼事業の高炉操業技術がより一層、融合・深化した結果となっています。当社グループは、今回の実機実証実験の成功も含めて、生産プロセスにおける2030年のCO2排出削減目標の実現に向けた取組みを着実に進展させていきます。

※1 気化熱源として海水や工業用水を用い、プロパン等の中間媒体を介して、液化天然ガス(LNG)等の低温流体を気化させるタイプの気化器

※2 本システム実証の一部は、NEDOによる「水素社会構築技術開発事業」に採択されています。

※3 当社の100%子会社(Midrex Technologies, Inc.)が有する直接還元製鉄法に関する技術

 本社部門では、2024年4月1日付で、2050年のCN(カーボンニュートラル)に向けた対応や、将来的な人材不足リスクへの対応(工場の省力化など)といった、中長期での全社共通課題に対する技術戦略立案を目的に、「技術戦略企画部」を新設しました。全社技術開発に関する機能及びものづくり力強化に関する機能に加え、全社活動である「研究開発委員会」や「ものづくり変革WG」の推進役を担うとともに、「GX戦略委員会」に設置する「CN技術検討部会」の推進役も担います。

 技術開発本部では、①CNやデジタル化に関する先進技術の開発、②新規事業創出活動の加速、③既存事業の競争力向上、の3点に注力します。将来の成長分野・新規分野への取組みでは、未来洞察型の研究開発を推進することで、KOBELCOの事業ポートフォリオ変革に挑戦していきます。また、幅広い事業分野で培った技術資産を当社グループ内に広く展開し、複合経営ならではのシナジーを追求していきます。

 当連結会計年度における当社グループの研究開発費は、404億円であります。なお、本費用には、当社技術開発本部で行っている事業部門横断的又は基礎的研究開発などで、各事業区分に配分できない費用として計上する費用66億円が含まれています。主な事業の種類別セグメント毎の研究開発活動の状況は、次のとおりであります。

[鉄鋼アルミ]

 鉄鋼アルミでは、特殊鋼線材、自動車用高強度鋼、ディスク用アルミ板などの戦略製品の差別化による拡販と生産性・歩留まり向上による収益改善のための技術開発に注力しています。また、CO2排出量削減に直接貢献できる技術開発にも引き続き取り組んでいます。

 鉄鋼では、当社の低CO高炉鋼材「Kobenable Steel」が、トヨタ自動車(株)(以下、トヨタ自動車)の競技車両「GR86(カーボンニュートラル燃料車)」に使用される(株)青山製作所製のエンジン部品締結ボルトに、自動車用特殊鋼線材としては初めて採用されました。採用された鋼材は、マスバランス方式により鋼材製造工程におけるCO2排出量を100%削減した「Kobenable Premier」です。また、本ボルトは、非調質ボルト用鋼を使用することで「焼鈍(軟化熱処理)」と「調質(焼入れ焼戻し熱処理)」というボルト製造工程における熱処理を省略しており、鋼材の製造工程とボルトの製造工程の両面においてCO2排出量を低減した製法で製造されています。

 また、厚鋼板に疲労亀裂の発生を抑制する機能を付加し、疲労亀裂発生寿命を改善した耐疲労鋼板「EX-Facter®」を商品化しました。金属材料の疲労過程は、亀裂発生と亀裂進展に分けられます。当社は、厚鋼板の疲労亀裂発生までの損傷に着目し、最適成分設計とTMCP技術※1を駆使した製造法により、亀裂の発生を抑制可能とする業界初の鋼板を新たに開発しました。全厚試験片での疲労試験の結果、従来鋼に比べて繰返し数1千万回における疲労強度が36%向上したことを確認しました。「EX-Facter®」は特に造船分野における従来以上の燃費効率の改善及び橋梁分野における路面下の床構造部位である鋼床版の疲労損傷対策の課題解決に貢献でき、耐久性・安全性向上に関するお客様のニーズに応えるべく、「EX-Facter®」の特長を活かした利用技術の開発、提案活動を通じ、当社グループのマテリアリティのひとつである「安全・安心なまちづくり・ものづくりへの貢献」を推進していきます。

 また、塗装とのマッチング機能を具備させた高湿潤環境対応型耐食鋼板「エコビュー プラス®」を鉄鋼業界で初めて開発、商品化し、2024年2月20日付けで国土交通省の新技術情報提供システム(NETIS)※2に登録されました。鋼橋の桁端部は狭隘、閉鎖的空間のうえ、路面端部に設置されている伸縮装置が経年劣化した場合、路面からの凍結防止剤や雨水、土砂の流れ落ちや堆積により、高湿潤環境になり易いため、部材腐食が生じ易く、腐食進行も速いと考えられています。「エコビュー プラス®」は当社のロングライフ塗装用鋼板(商品名:エコビュー®)にTa、Mg、REMを適量添加することで、高湿潤環境下でも塗装弱点部からの腐食進行を抑制することが可能となり、従来鋼に比べて塗装塗り替え周期が1.5倍に長期化すると考えています。当社は、「エコビュー プラス®」の特長を活かした提案活動を通じ、当社グループのマテリアリティのひとつである「安全・安心なまちづくり・ものづくりへの貢献」を推進していきます。

 なお、当連結会計年度における研究開発費は、62億円であります。

※1 Thermo Mechanical Control Process(熱加工制御)の略。鋼板圧延時の温度と圧下率、圧延後の冷却速度を管理する製造方法

※2 NETIS(New Technology Information System):国土交通省が民間で開発された優れた新技術を公共工事に積極的に活用していくために、これらの新技術に関わる情報を広く開示・提供することを目的としたシステム。NETIS登録されることで、お客様が設計及び施工段階において容易に採用できるようになる。

[素形材]

 素形材では、自動車、航空機、船舶、半導体分野向けの主力製品の開発と、生産基盤の強化に注力しています。また、カーボンニュートラルに資するリサイクル関連の技術開発にも引き続き取り組んでいきます。

 チタンでは、燃料電池セパレータ用チタン圧延材「NCチタン」が、トヨタ自動車とともに「市村産業賞 功績賞」を受賞しました。NCチタンは、チタン表面の緻密な酸化皮膜中に導電性のカーボン粒子を分散含有させており、プレス成形でも皮膜が剥離せず、燃料電池内部の腐食環境でも表面導電性を維持できます。これにより、従来セパレータ製造において、律速となっていたプレス成形後の表面処理を省略できるプレコート型セパレータの実用化を可能としました。また、トヨタ自動車とともに、コイル状チタン材への連続表面処理技術を確立し、NCチタンの量産化を実現しました。NCチタンはトヨタ自動車の「MIRAI」に独占的に供給されています。今後、乗用車に限らず、商用車や鉄道、船舶等へと適用を拡大し、水素社会実現に貢献していきます。

 なお、当連結会計年度における研究開発費は、23億円であります。

[溶接]

 溶接では、「世界で最も信頼される溶接ソリューション企業」の実現を目指し、突出した単一の技術もしくは複数技術の組合せにより、お客様の溶接に関する課題解決を図ります。溶接材料と溶接プロセス・溶接機器・ロボットによる「溶接ソリューション」を提供する企業として、引き続き特徴ある製品の開発に注力しています。

 溶接材料では、NEW REGARC™プロセスに最適なソリッドワイヤを新たに2銘柄リリースしました。400MPa級鋼用FAMILIARC™ MG-50R(A)、550MPa級鋼用FAMILIARC™ MG-60R(A)では、新ワイヤ表面技術により、安定したワイヤ送給性、良好な耐チップ摩耗性を実現しました。従来よりも多様な鋼種で、NEW REGARC™プロセスによる高能率な溶接が可能になります。引き続き、溶接の自動化を課題とする国内外の建築鉄骨市場向けに生産性向上を提案していきます。

 溶接システムでは、新たな立向溶接法SESLA™へ対応した新エレクトロスラグ溶接装置SG-3用の「リモートモニタリング機能」を開発しました。溶接装置から離れた場所で、溶接波形のモニタリングや溶接完了予定時間の表示が可能となります。SG-3は、SESLA™法に加え、以前より定評のあるエレクトロガスアーク溶接を用いるSEGARC™法も適用可能であり、トーチや水冷摺動銅板の動作をすべてデジタル制御することで、溶接品質の向上に加え、操作性向上による作業負荷軽減と技能レス化を実現しており、造船分野への採用決定や、エネルギー分野でも洋上風力発電への採用の検討が進んでいます。モニタリングデータの活用により施工管理・品質管理を効率化することで、お客様の製造現場での、更なる生産性向上に貢献していきます。

 また、建築鉄骨市場向けに、「鉄骨梁CAD連係ソフトウェア SMART TEACHING™」を開発しました。一般的に溶接ロボットは、溶接線位置と溶接施工条件をロボットに記憶する教示作業が必要になります。特に梁部材はすみ肉溶接が主体の多様な形状であるため、建築構造物における梁部材数量は非常に多いものの、教示作業に時間を要するなどの課題から、溶接自動化が遅れています。これに対し、鉄骨製作のために設計されたモデルの梁部材の3Dデータから溶接に必要な情報を取り込み、ロボットの動作軌跡や溶接条件データを自動生成する機能を実現しました。既に鉄骨ファブリケータより受注しており、今後、国土交通省の建築BIMデータ利用拡大の推進も背景に、溶接の自動化を課題にする建築鉄骨市場向けでの拡販が期待されます。

 新たな溶接プロセスとして、短絡フリーワイヤ送給制御プロセス「AXELARC™」を開発しました。本プロセスは、ワイヤ送給方向を反転させた際の「慣性」を利用して溶滴移行を制御する、世界初のアーク溶接プロセスです。低電流から高電流にわたる広い条件範囲において低スパッタかつ低ヒューム溶接が可能となり、深い溶込みを維持します。同プロセスを用いることで、高溶着かつ高速度溶接をも実現することができ、中・厚板分野の溶接品質及び能率向上に大きく貢献します。今後、中・厚板溶接の市場に対し、これまでの溶接プロセスの枠を超える新たな溶接ソリューションとして提案していきます。

 なお、当連結会計年度における研究開発費は、34億円であります。

[機械]

 機械では、「2050年のカーボンニュートラルの実現に貢献する」をキーワードに、オンリーワン・ナンバーワン技術や商品を創出することで独自性を徹底追求するとともに、マーケット及び生産の両面から更なるグローバル化を推進し、世界トップレベルの「ものづくり」の実現を目指しています。

 産業機械関連分野では、一般社団法人未来生産システム学協会が主催する岩木トライボコーティングネットワークアワード※1(以下、岩木賞)において事業賞を受賞しました。この度、主に切削工具の表面処理において、寿命向上や難加工を可能とするコーティング技術の確立と新型装置の設計、販売実績が評価され事業賞の受賞に至りました。当社は従来上限とされてきたAl含有率65at%に対して、高硬度かつ良好な皮膜構造を維持した状態でAl含有率70at%以上という画期的な皮膜開発に成功しました。また、精密加工に有効な皮膜の表面粗度を大幅に改善する技術も確立し、2023年の春に新型PVD※2コーティング装置(製品名:AIP-iX(アイピックス))の販売を開始しました。

 また、分析・試験技術分野では、エネルギー、自動車、エレクトロニクス、土木・建築、環境など広範囲にわたる分析・試験技術を蓄積するとともに、高度で先端的な評価・解析技術の開発を進めています。開発を効果的・効率的に進めるために、事業所別であった技術組織を要素技術別の組織へと再編を行いました。また、ターゲット材料・半導体ウェハ検査装置分野に関しては、高移動度酸化物ターゲット材料の用途拡大や、半導体ウェハ向け検査・測定装置の高精度、高機能化のための開発にも取り組んでいます。

 なお、当連結会計年度における研究開発費は、62億円であります。

※1 トライボコーティング技術研究会(会長:大森整 理化学研究所 主任研究員)によって2008年度に創設され、表面改質、トライボコーティング分野で多大な業績を上げた故・岩木正哉博士(理化学研究所元主任研究員、トライボコーティング技術研究会前会長)の偉業を讃えて、当該技術分野とその関連分野での著しい業績を顕彰するものです。

※2 PVD(Physical Vapor Deposition)は物理蒸着と呼ばれる薄膜形成技術の総称。AIP(Arc Ion Plating)はPVDの一種で、真空中のアーク放電によって材料を蒸発・イオン化させて、母材に薄膜をコーティングする技術。耐摩耗性、低摩擦化等の特性を母材に付与することが可能で、工具や金型、機械部品などに用いられる。

[エンジニアリング]

 エンジニアリングでは、循環型社会、脱炭素社会の実現に向け、将来の成長が見込まれる分野における独自プロセス・技術の開発、更なる差別化、競争力強化に向けた開発を推進しています。

 還元鉄関連分野では、天然ガスを還元剤とするMIDREX NG™に加え、天然ガスを最大100%まで柔軟に水素に置き換えることが出来るMIDREX Flex™や、水素を100%還元剤として用いるMIDREX H2™の競争力維持・強化に向けた開発を継続しています。

(株)神鋼環境ソリューションでは、長崎県長崎市にDX推進の新たな拠点として「デジタルイノベーションLab長崎」を新設することを決定しました。技術系大学等から優秀なIT関連人材を多く輩出し、IT企業も充実している長崎県に新拠点を設置し、2024年8月より事業を開始する予定です。新拠点を設置することで、研究開発等におけるDX推進(データ分析による課題提起・ソリューション提供等)を加速するとともに、産学官での連携によるイノベーション創出や更なる変革へ挑戦していきます。

 水処理関連分野では、日本下水道事業団と共同で、下水処理における「水熱炭化技術」の実証実験を富士市西部浄化センターで開始しました。従来、下水汚泥を炭化方式で固形燃料化する場合、乾燥工程と炭化工程で多くのエネルギーを必要としていましたが、本技術では汚泥を低温かつ湿式状態で炭化することで、固形燃料化に要するエネルギーの大幅削減が可能になります。下水汚泥のメタン発酵と本技術を組み合わせて導入することにより、CO2排出量を実質ゼロにすることを目指します。

 廃棄物処理関連分野では、大栄環境(株)、DINS関西(株)、三菱ガス化学(株)、三菱化工機(株)とともに、環境省の「令和4年度 二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金 脱炭素社会を支えるプラスチック等資源循環システム構築実証事業」に採択された「廃プラスチックのガス化及びメタノール化実証事業」に取り組みました。今後も開発を継続し、これまで廃棄されていたプラスチックについてケミカルリサイクルによる資源循環システム構築を目指します。

 水素事業においては、グリーン水素需要の高まりを見据え、水電解式水素発生装置の大型化や次世代技術の開発を推進しています。次世代エネルギーとして期待される水素の普及拡大及び低炭素化社会の実現に貢献できるよう、水電解式水素発生装置の新商品開発に取り組んでいきます。

 なお、当連結会計年度における研究開発費は、46億円であります。

[建設機械]

 建設機械では、主力製品である油圧ショベル、クローラクレーンなどの安全性向上、省エネ性向上、排ガス対応・騒音低減などの環境対応に加え、建設リサイクル機械・金属リサイクル機械の開発に取り組んでいます。クラウドやAI、IoT等の先進テクノロジーの活用により「建設現場のテレワーク化」を実現し、深刻化する建設技能者の不足に対する多様な人材活用、現場生産性の向上、現場無人化による本質的な安全確保などを目指しています。

 ショベルでは、コベルコ建機(株)(以下、コベルコ建機)は、(株)安藤・間(以下、安藤ハザマ)と、これまでの共同研究や現場実験を踏まえ、1人の作業管理者が2台の自動運転ショベルの運転管理を同時に行う実証実験を行いました。今回の実験では、ダンプトラックへの土砂積込みの作業時間について、有人運転(1人で1台)と自動運転で比較を行い、1人で2台の自動運転ショベルを管理することにより、1人あたりの土砂積込み量が有人運転時より約3割増加することを確認しました。このことで、建設現場での省人化と生産性の向上に寄与すると考えています。本件は、初期段階での結果であり、今後、お客様の現場毎に動作を最適化することで生産性をさらに向上できると考えています。

 コベルコ建機は遠隔就労を実現するプラットフォーム「JIZAIPAD」の開発を手掛ける(株)ジザイエ(以下、ジザイエ)に対し、Human Augmentation(人間拡張)を投資テーマに掲げるベンチャーキャピタルである15thRock Fund等とともに出資を行いました。今回の出資に合わせ、コベルコ建機はジザイエと遠隔技術分野における業務提携を行いました。本業務提携により、コベルコ建機は、自身が長年培ってきた遠隔技術分野に関する技術・ノウハウをジザイエに提供し、ジザイエが他業種展開も可能な知的財産・技術として発展させて活用することによって成長し、その技術を当社K-DIVE®等へ還元すること、さらには本取組みによって豊かな社会の建設に貢献していくことを期待しています。

 また、カーボンニュートラルに向けた取組みの一環として、燃料電池式電動ショベルの試作機を開発し、水素を駆動源とした稼働評価を開始しました。この試作機は、中型油圧ショベルに電気駆動システムを搭載し、トヨタ自動車の燃料電池ユニットと水素タンクを採用しています。評価結果では、従来のエンジン搭載機と遜色がない動作速度、圧倒的な低騒音、CO排出量がゼロであることを確認しました。今後、試作機での改善を進め、従来のエンジン搭載機と同等の作業性能を実現させ、商品化を目指す予定です。また、KOBELCOグループの総合力を活かし、安全性と信頼性の確立に向けた研究開発、及び水素供給と充填方法等インフラ面での課題解決に取り組み、上市販売に向けた環境構築を加速します。

 コベルコ建機と(株)冨島建設は、国土交通省近畿地方整備局主催の「建設技術展2023近畿」の「2023年度インフラDX※1」で、K-DIVE®を活用した重機遠隔操作の実用化検証により「優秀技術賞」を受賞しました。今回の実用化検証では、土砂災害の対策工事現場でK-DIVE®を使用して油圧ショベルの無人化施工を問題なく、実施できることを確認しました。 K-DIVE®は、建設現場の生産性向上、多様な人材活用、働き方改革に加え、無人化施工により、災害現場での安全確保にも役立ちます。

 コベルコ建機と安藤ハザマは、K-DIVE®に自動運転機能を搭載し、コックピットから遠隔操作と自動運転を切り替えながら、2台の油圧ショベルを、同時に稼働させる現場検証を行いました。現在、建設現場の生産性向上等を実現するため、建設機械の自動化、遠隔化技術が期待される一方、現場における安全に関する新たなルールが必要となります。今回、国土交通省が募集した「建設機械施工の自動化・遠隔化技術に係る現場検証」として、油圧ショベルと人が混在するエリアでは、K-DIVE®の非常停止機能を使うというルールに基づき、2台の油圧ショベルを同時に稼働させ、ダンプトラックへの土砂積み込み作業を安全に実施できました。

 また、コベルコ建機と安藤ハザマは、現場人員が自動運転システムを扱うのは難しいという課題に対し、「システム設定に関する手順書を作成、加えてタブレット内アプリの設定に関するユーザーインターフェース(UI)を再設計」と、「システム操作に関しても直感的に扱えるようにUIを再設計、加えて分かりやすい取扱説明書を作成」の改良を加えたうえで、シールド工事にて自動運転ショベルでダンプトラックに土砂積込みを実施、その効果検証を行いました。結果、ショベル搬入から自動運転システムの初回設定迄を半日程度で完了でき、また、誤操作等によるトラブルは発生せず2週間自動運転ショベルを安全に稼働できました。本検証により、機能面と安全面に加え、実用面でも、自動運転ショベルの本格展開について一定の目途がついたと考えています。今後、さらに自動運転の適用工種の拡大と現場展開に向けた取り組みを加速させる予定です。

 クレーンでは、国土交通省が従前よりBIM/CIM※2の活用を推奨しており、2022年度に「建築BIM加速化事業」を創設、さらに2023年4月以降に入札を開始する小規模を除く、全ての公共工事へのBIM/CIM原則適用を開始しました。これらによりBIM活用の流れは加速しており、その潮流にこたえるべく、コベルコ建機は、安全性と生産性向上に貢献するためのツールとして、クレーン施工計画の策定支援ソフト『K-D2 PLANNER®』の一般販売を開始しました。開発にあたり多くのお客様のご意見をもとに製品改良を重ね、直感的な操作性や現場へ施工計画を共有するためのプレゼンテーションに加え、クレーンブームのたわみ・接地圧等のシミュレーションや最適クラスのクレーン選定等、建機メーカならではの機能も実装しました。これらにより施工計画が容易に作成でき、運用経費の削減に繋がるとともに、現場の安全性と生産性の向上が期待できます。

 また、クローラクレーン「Mastertech7200G NEO」が機械工業デザイン賞 IDEA※3の日本産業機械工業会賞を受賞しました。このクローラクレーンは、従来のコンパクトボディを継承しながらも、つり上げ能力が最大25%向上し、大幅な作業性能向上を達成しています。また、新型運転席「delight(デライト)キャブ」やオペレータアシスト機能等、安全性や快適性にも配慮しています。受賞理由として、ヒューマンコンセプト・クレーンを基軸に、輸送性・組立性・省エネ性等の既得性能を継承しつつ、機能・性能・品質をより向上させ、ハードとソフトにバランスの取れた完成度の高い仕上がりとした点が評価されました。

 なお、当連結会計年度における研究開発費は、104億円であります。

※1 国土交通省近畿地方整備局は、これまで生産性向上として取り組んできたi-Construction 等をより進化させるため、インフラ分野のDXに活用できる優れた技術を発掘、試行フィールドを提供することによってインフラDXを推進しています。

※2 BIMはBuilding Information Modeling、CIMはConstruction Information Modelingの略を示します。

※3 (株)日刊工業新聞社が、日本の工業製品におけるデザインの振興と発展を目的に1970年に創設した賞であり、製品の機能や外観だけではなく、市場性や社会性、安全性等、さまざまな面から総合的な審査を行います。審査委員会は関係省庁や大学、各工業団体の専門家等で構成されています。

[電力]

 電力では発電所設備の予防保全および低炭素化等に関する研究開発を行っています。

 なお、当連結会計年度における研究開発費は、1億円であります。

[その他]

 上記外の事業セグメントに係る当連結会計年度における研究開発費は、1億円であります。

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