東洋紡 【東証プライム:3101】「繊維製品」 へ投稿
企業概要
文中の将来に関する事項は、当社グループが有価証券報告書提出日現在において合理的であると判断する一定の前提に基づいており、実際の結果とはさまざまな要因により大きく異なる可能性があります。
(1)サステナビリティ戦略
当社グループは、創業者である渋沢栄一が座右の銘の一つとしていた『順理則裕』を企業理念としています。2019年、改めて創業の精神に立ち戻り、時代の変化に対応しながら、社会への貢献を通じて、成長軌道を描き続ける会社となるべく、企業理念体系「TOYOBO PVVs」として再整理しました。さらにこの企業理念体系を具体的にするべく、2022年に、長期ビジョン「サステナブル・ビジョン2030」を策定しました。
「サステナブル・ビジョン2030」は、今後の事業環境の変化を想定し、企業理念体系のビジョン「素材+サイエンスで人と地球に求められるソリューションを創造し続ける」を基軸として、当社グループの「2030年のありたい姿」と「サステナビリティ指標」およびその「アクションプラン」を示すものです。当長期ビジョンでは「サステナブル・グロースの実現」、すなわち「社会のサステナビリティに貢献するサステナブルな(成長を実現する)会社」を目指します
① ガバナンス
当社グループは、社長執行役員を委員長とする「サステナビリティ委員会」を設置し、統括執行役員会議メンバー(事業本部長、コーポレート・スタッフ部門の管掌役員)が出席し、全社的なサステナビリティ活動を推進しています。当事業年度までは年4回、翌事業年度からは年6回開催し、当社グループのマテリアリティ(重要課題)として設定した項目に紐づくKPI設定、およびその進捗状況につき、モニタリングしています。また、マテリアリティの各項目に関し、社会動向等を踏まえ、議論しています。サステナビリティ委員会での議論は取締役会に適宜報告します。
② 戦略
「サステナブル・ビジョン2030」では、サステナビリティ経営に向けたアプローチを「“Innovation”と3つの“P”、すなわち“People” “Planet” “Prosperity”」と整理しました。この“Innovation”は、1. 「人」と「地球」を最終的な「お客さま」と捉えたマーケティング思考、2. 「素材+サイエンス」に基づき、独自の工夫やアイディアによるサイエンスベースド・イノベーション、3. 多様なパートナーとのオープンイノベ―ション等を通じた価値共創、を意味します。
また、“People”は、「人」を中心とした社会課題の解決策を、“Planet”は「地球」全体を意識した社会課題の解決策を、そして当社グループが考える“Prosperity”とは、企業理念に則り、課題解決を通じて「ゆたか」な社会を実現し、同時に当社グループの企業価値も向上させることを意味します。その実現に向けて、当社グループが事業等を通じて解決に貢献する5つの社会課題――「People」に関する「従業員のウェルビーイングとサプライチェーンの人権」「健康な生活&ヘルスケア」「スマートコミュニティ&快適な空間」、「Planet」に関する「脱炭素社会&循環型社会」「良質な水域・大気・土地&生物多様性」――を設定し、これらの解決にチャレンジします。
③ リスク管理
当社グループは、社長執行役員を委員長とするリスクマネジメント委員会を設置し、統括執行役員会議メンバー(事業本部長、コーポレート・スタッフ部門の管掌役員)が出席し、全社的なリスクマネジメント活動を推進しています。本委員会は、当事業年度において4回開催しました。本委員会では、リスクマネジメント活動(特定・分析・評価・対応)を統括し、当社グループに重大な影響を与えるリスクを中心に、当該リスクの主たる担当部門を選定し、その回避・低減策を策定しています。各部門が中心となって対応し、本委員会でその活動状況を確認することにより、リスク管理体制の強化に努めています。
リスクマネジメント活動の起点として、全社的なリスクに関するアセスメントを実施しました。各種リスクシナリオをベースとして影響度(※)と発生可能性(※)の2軸で評価した結果に基づき、重視すべき全社重大リスクを抽出しています。なお当該リスクについては、「3 事業等のリスク」に記載のとおりです。
(※)影響度と発生可能性の詳細
影響度:「影響範囲」、「業務停止期間」、「人的被害」、「レピュテーション」、「財務」に関して「大規模の被害に相当」、「中規模の被害に相当」、「小規模の被害に相当」の3段階で評価
発生可能性:「頻繁に発生」、「度々発生」、「稀に発生」の3段階で評価
④ 指標と目標
マテリアリティの取組みの進捗管理を確実なものとするため、マテリアリティごとに担当役員を決定し、KPI(目標)を設定しています。事業活動によるマイナスの影響を最小化しつつ、プラスの影響を最大化する取組みを整理していきます。なお、この進捗はサステナビリティ委員会で管理し、指標・目標は年1回見直ししています。
(2)気候変動への対応(TCFD提言への取組み)
当社グループでは、気候変動が当社グループやステークホルダーにもたらす影響の大きさを認識するとともに、「脱炭素社会&循環型社会」の実現を重要なサステナビリティ目標としています。また、2020年1月には、TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosure:気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に賛同し、同提言にのっとった取組みと開示を進めています。
2022年5月には、「カーボンニュートラルへのロードマップ」を含む「サステナブル・ビジョン2030」を公表しました。パリ協定が求める水準と整合させ、2030年度に事業活動におけるGHG排出量(以下、Scope1,2)を2013年度比で46%以上削減することを目標としています。また、2050年度までにネットゼロにすることを目指しています。さらには、自社のバリューチェーン全体のGHG排出量を上回る削減貢献量創出の実現を2050年度の目標としています。
<カーボンニュートラルへのロードマップ>
① ガバナンス
気候変動関連課題の最高責任者は、社長執行役員としています。社長執行役員を委員長とする「サステナビリティ委員会」を設置し、気候変動関連課題の解決に向けた上位方針や目標設定について審議しています。取締役会はその報告を受け、上位方針や目標などの重要事項を承認し、活動進捗の監督をしています。2022年5月には、取締役会での決議の下、「カーボンニュートラルへのロードマップ」を含む「サステナブル・ビジョン2030」を公表しました。
また、2021年度からカーボンニュートラルの実現に向けた戦略策定と推進を目的として、「カーボンニュートラル戦略検討会議」および「カーボンニュートラル戦略検討クロスファンクションチーム(以下、CN-CFT)」を設置しています。カーボンニュートラルの実現に着実に取り組むために、全社横断的なメンバーで構成されるCN-CFT内に、ワーキンググループを設置しています。
<体制図>
2023年度からは、委員会体制を見直し、新たに「気候変動・生物多様性委員会」を設置しました。国際的なサステナビリティ基準等も視野に入れ、全社的な気候変動対応を進めます。なお、CN-CFTは同委員会の傘下で活動を展開し、カーボンニュートラル実現に向けた各種取組みを推進します。
② リスク管理
当社グループは、気候変動課題を含むグループ全体のリスクを一元的に管理する「リスクマネジメント委員会」を2021年度に設置しました。本委員会では、リスクマネジメント活動(特定・分析・評価・対応)を統括する他、グループ全体のリスク管理に関する方針を策定し、PDCAサイクルを回すことにより、実効的かつ持続的な組織・仕組みの構築と運用及び、リスク管理体制の強化に努めています。
「(1)サステナビリティ戦略 ③ リスク管理」に記載した、全社的なリスクに関するアセスメントの結果を踏まえ、気候変動により激甚化する水害(洪水・高潮等)リスクを含む自然災害リスク等を当社グループの重要なリスクとして管理しています。
③ 戦略
(イ)概要
当社グループは、「サステナブル・ビジョン2030」の中で「脱炭素社会&循環型社会」の実現を重要なサステナビリティ目標の一つとしています。また、TCFD提言に沿い、パリ協定に基づく気候変動シナリオを前提とした将来リスクと事業機会を分析・整理しました。それらリスクと機会の影響と財務インパクトを特定した上で、対応策とそれに基づく指標・目標を設定し、経営戦略の強靭性(レジリエンス)向上を図ります。
(ロ)シナリオ分析
温暖化対策の進展によってさまざまなシナリオが考えられる中、分析の前提として、以下のシナリオを典型的なものとして参照しました。
今世紀末までの世界の平均気温の上昇が2℃未満に抑えられるシナリオと、4℃まで上昇するシナリオのそれぞれについて、2050年までの事業への影響と、当社グループの新たな機会を検討しました。
設定シナリオ | 2℃未満シナリオ | 4℃シナリオ |
社会像 | 今世紀末までの平均気温の上昇を1.5℃に抑える努力を追求し、持続可能な社会の発展をかなえるため、大胆な政策や技術革新が進められる。脱炭素社会への移行に伴う社会変化が、事業に影響を及ぼす可能性が高い社会になる。 〈事例〉 ●炭素税の導入・炭素価格の上昇 ●自動車の電動化シフト、再生可能エネルギーの拡大 | パリ協定に即して定められた約束草案等の各国政策が実施されるも、今世紀末までの平均気温が成り行きで最大4℃まで上昇する。温度上昇等の気候の変化が、事業に影響を及ぼす可能性が高い社会になる。 〈事例〉 ●大雨による洪水被害の増大 |
参照シナリオ | ●「SDS」(IEA WEO2021/ETP2020) ●「NZE」(IEA Net Zero by 2050 A Roadmap for the Global Energy Sector) ●「RCP2.6」(IPCC AR5) ●「SSP1-1.9」(IPCC AR6) | ●「RCP8.5」(IPCC AR5) ●「SSP5-8.5」(IPCC AR6) ●「STEPS」(IEA WEO2022/ETP2020) |
リスクと機会の傾向 | 移行面でのリスクおよび機会が顕在化しやすい | 物理面でのリスクおよび機会が顕在化しやすい |
(ハ)シナリオ下のリスクと機会の洗い出し
2℃未満シナリオと4℃シナリオを踏まえ、気候変動に特化した当社グループのリスク・機会の抽出を行いました。前期は、「フィルム事業」を対象にしましたが、当期は、当社グループの事業全体に対象を広げました。抽出されたリスク・機会の項目を集約し、社会の変化という観点でまとめ直した上で、それぞれの対策案を検討しました(下表参照)。影響度と発生可能性の2軸による評価の結果、特に重要であると認識したリスクと機会は、後述の通りです。
当社グループでは、原材料調達を含むサプライチェーン全体でのGHG排出量の削減を、リスク低減と機会創出の両面で捉えています。具体的には、Scope1,2の計画的な削減により、将来の炭素価格負担を軽減するとともに、お客さまからの脱炭素化要求に確実に応えられるように備えます。また、原材料をリサイクル材やバイオマス由来素材へシフトすることにより、石油由来資源への依存度を下げ、将来の事業リスクを低減するとともに、事業機会の獲得・拡大につなげていきます。
さらに、全世界でリスクが高まる水不足の問題に対して、低エネルギーで淡水の造水が可能な海水淡水化用膜を販売することで、社会課題の解決を通じた事業機会の獲得・拡大を図ります。
社会の変化およびその影響 | リスク/機会項目 | 当社グループの対策 | ||
区分 | 期間 | 内容 | ||
脱炭素社会への移行に伴う影響 (広範囲に及ぶ政策・法規制・技術・市場の変化等) | 移行・ リスク | 短期 | 炭素価格の導入 | ・GHG排出量削減計画の推進 (省エネルギー、生産効率向上、燃料転換、再生可能エネルギー導入他) ・インターナルカーボンプライシング制度の活用 |
中期~ 長期 | 原材料価格の上昇 (炭素価格の転嫁等) | ・サプライヤーへの働き掛け・連携(低炭素原料開発、生産技術支援等) ・原材料調達手段の多様化(複数購買・現地調達を拡大) | ||
省エネルギー化推進・高効率設備導入等に伴うコスト増加 | ・生産プロセスの革新・超高効率化の追求 ・バリューチェーン全体における生産の高効率化(関係会社との統合・連携強化、M&A等) | |||
再生可能エネルギー導入に伴うコスト増加 | ・再生可能エネルギーの調達手段の選定 | |||
製品製造時の低炭素/脱炭素化要求によるコスト増加 | ・再生可能エネルギーの導入・調達拡大 ・生産プロセスの高効率化、省エネルギー化推進 ・自家発電用燃料の転換(脱石炭) ・カーボンフリー燃料(水素、アンモニア等)利活用の検討 ・CCU/CCS等の革新技術の導入検討 | |||
石油由来資源を削減や代替化する要請の高まり | ・原材料のリサイクル材やバイオマス由来素材へのシフト加速 ・石油由来資源に依存する汎用素材事業の見直し | |||
移行・ 機会 | 中期 | 低炭素/脱炭素型素材や製品の需要増加 | ・原材料のリサイクル材やバイオマス由来素材へのシフト加速 ・原材料(リサイクル材やバイオマス由来素材)の調達課題(材料の逼迫)への対応 ・低炭素/脱炭素型素材での製品開発・商品企画の推進 ・低炭素/脱炭素型製品の生産/品質体制の強化 | |
再生可能エネルギー・蓄電池関連市場の拡大 | ・再生可能エネルギー/蓄電池関連事業(※)の製品開発・商品企画の強化 (※)浸透圧発電用膜、定置型蓄電池用電極、浮体式洋上風力用特殊繊維・フィルム、リチウムイオン二次電池(LIB)工場用VOC回収装置、LIBリサイクル工場用分離膜、リチウム精製用分離膜等 |
社会の変化およびその影響 | リスク/機会項目 | 当社グループの対策 | ||
区分 | 期間 | 内容 | ||
気候変動の進行に伴う影響 (資産に対する直接的な損傷や、サプライチェーンの寸断による間接的な影響、技術・市場の変化等) | 物理的・ リスク | 短期~ 中期 | 自然災害による原材料の供給停止 | ・在庫水準見直し、複数購買の拡大 |
水害(洪水・高潮等)による設備損壊、操業停止 | ・BCP訓練実施 ・生産設備/動力設備等の高耐久化や高台移設/かさ上げ ・生産拠点の分散・移転・集約 | |||
物理的・機会 | 中期 | 土木工事の需要増加 | ・減災/復旧工事用製品(※)の拡充 (※)防砂シート、コンクリート剥離防止シート、軟弱路床改善素材等 | |
水不足や干ばつによる海水淡水化の需要増加 | ・海水淡水化用膜(RO/FO膜等)の販売拡大 ・RO/FO膜等の省エネルギー/高耐久性化開発 ・RO/FO膜等の生産/品質体制の強化 | |||
長期 | 気温上昇に伴う感染症対策 (予防・治療)の需要増加 | ・食品パッケージ関連製品の需要拡大 ・感染症関連製品・技術の研究開発促進 |
(ニ)特に重要であると認識したリスクと機会
<重要リスク1:水害(洪水・高潮等)による建物・設備への被害リスク>
当社グループの主力工場である、敦賀・岩国・犬山工場において、水害リスクがあることを認識しています。気候変動が進行する場合、海面上昇や降雨パターンの変化により、水害リスクはさらに高まると想定しています。2030年代における水害による資産減少額(建物および装置等の被害額)を簿価より試算した結果、当該3工場の合計金額は最大で約500億円となりました。なお、当算定は、それぞれの簿価に国土交通省の基準による被害率(※)を乗じて、概算しています。
当社グループは、工場における水害リスクを気候関連の重要リスクと捉え、生産設備や動力設備等の高台移設/かさ上げ等の水害対策の強化を順次実施しています。
(※)国土交通省『治水経済調査マニュアル(案)』(令和2年4月)
<重要リスク2:炭素価格の導入>
2030年度のGHG排出量(Scope1,2)は、2020年度(実績90万トン-CO2)を基準とした成り行き(BAU)(※)シナリオにおいて、売上拡大に伴い約130万トン-CO2に増加します。BAUシナリオにおいて2030年度の炭素価格単価を1.5万円/トン-CO2と想定した場合の年間コストは約200億円となります。
当社グループは、GHG排出量(Scope1,2)の増加を気候関連の重要リスクと捉え、2022年度に2030年度までの「カーボンニュートラルへのロードマップ」を含む「サステナブル・ビジョン2030」を公表しました。このロードマップでは、省エネルギー化(生産効率向上含む)、燃料転換等、再生可能エネルギー導入を含むエネルギーの最適化等により2030年度のGHG排出量(Scope1,2)を65.5万トン-CO2以下に低減することを目標としています。この場合の炭素価格による年間コストは、約100億円となり、BAUシナリオと比較し、約100億円のコスト削減効果があります。この「カーボンニュートラルへのロードマップ」に沿った2025年までの累積投資額は、環境・安全・防災投資額(約330億円)に含まれる計画です。
(※)Business As Usualの略。ここでは特段のGHG排出削減対策を行わなかった場合を指します。
<重要リスク3:石油由来資源の削減や代替化する要請の高まり>および
<重要機会1:低炭素/脱炭素型素材や製品の需要増加>
当社グループの主力事業であるフィルム・機能マテリアル事業はグループ全体の売上高の4割以上を占めます。今後の脱炭素に向けた社会変化(移行)の中で、お客さまを含む社会から石油由来資源の使用量削減や代替化の要請が高まることが予想され、気候関連の重要リスクとして認識しています。また、同時に低炭素/脱炭素型素材や製品の需要は増加し、事業機会が存在すると認識しています。
現状のフィルム事業の売上高のうち、約90%の1,200億円が石油由来資源に依存したものです。2022年度に公表した「サステナブル・ビジョン2030」において、石油由来資源の使用量低減につながる技術や取組み(※)をグリーン化と定義し、2030年度にフィルム製品の60%でグリーン化を実現することを目標に設定しました。石油由来資源の使用量を減らすフィルム製品は、低炭素/脱炭素型製品でもあり、フィルム製品のグリーン化を推進することで、リスクの低減と共に、事業機会の獲得・拡大を図ります。
フィルム事業の2030年度の目標売上高である約2,200億円のうち、約1,300億円が、当機会の獲得・拡大によるものです。
(※)バイオマス原料を用いたフィルムの開発、薄型軽量素材のフィルム開発(高強度化)、使用後のフィルムのリサイクルを容易にするための環境配慮設計(モノマテリアル化)、リサイクル原料を使用したフィルム開発およびリサイクル化自体の技術開発
<重要機会2:海水淡水化の需要増加>
当社グループは、気候変動の進行により、全世界で水不足や干ばつの発生リスクが高まると認識しています。今後、多くの地域で工業用水だけでなく生活用水の確保にも課題が生じ、海水淡水化の需要がますます高まると予測しています。
当社グループの中空糸型逆浸透膜モジュール“ホロセップ”は、汚れにくい特徴があり、特に閉鎖性海域(中東地域等)などの微生物が増殖しやすい海水での海水淡水化に強みがあります。耐塩素性に優れる“ホロセップ”は、塩素処理した原水をモジュールに直接供給できるため、比較的低コストでモジュール内の微生物増殖を抑制し、さらにはメンテナンスの容易性から淡水化設備の稼働率向上に寄与します。
当社グループは、2022年度に公表した「サステナブル・ビジョン2030」において、2030年度に、膜による海水淡水化で1,000万人分の水道水相当量を造水する目標を設定し、社会課題の解決を通じた事業機会の獲得・拡大を図ります。
④ 指標と目標
当社グループは、気候変動に対する目標を下表の通り設定し、それぞれの施策を進めています。なお、GHG排出量のScope1,2とScope3に対する目標はパリ協定が求める水準としており、2022年12月にSBTイニシアチブにより科学的根拠に基づいた目標(Science Based Targets)として認定されました。
売上高が前期比6.4%増加する中、2022年度のGHG排出量(Scope1,2)は、89万トン-CO2となりました(前期実績90万トン-CO2,前期比1.0%削減)。
カテゴリ | 指標 | 目標 | 主な施策 | |
GHG | GHG排出量 | Scope1,2 | 2030年度: 27%削減(SBT)(※) (2013年度比:46%削減に相当) (※)基準年度:2020年度 | ・省エネルギー化、生産効率向上、燃料転換、再生可能エネルギー導入等 |
2050年度:ネットゼロ | ・カーボンフリー燃料導入、再生可能エネルギー調達、生産プロセス革新等 | |||
Scope3 (カテゴリ1と11) | 2030年度: 12.5%削減(SBT)(※) (※)基準年度:2020年度 | ・カテゴリ1:原材料のリサイクル材やバイオマス由来素材へのシフト加速 ・カテゴリ11:VOC回収装置の省エネルギー化等 | ||
気候関連の 機会 | フィルム製品のグリーン化比率 (移行リスクの低減も兼ねる指標として設定) | 2030年度:60%以上 | ・マテリアル/ケミカルリサイクルの推進、バイオマス原料の開発と採用増、フィルムの減容化等 | |
膜による海水淡水化 | 2030年度: 1,000万人分の水道水相当量 | ・海水淡水化膜(RO/FO膜等)の販売拡大 ・RO/FO膜等の省エネルギー化/高耐久性化開発 ・RO/FO膜等の生産/品質体制の強化 | ||
資本配備 | 設備投資額 | 2022-25年度累計:330億円 (環境・安全・防災設備投資額の合計) | 自家発電設備の低炭素化、再生可能エネルギー設備の導入等 | |
インターナルカーボンプライシング | - | ・社内炭素価格を10,000円/トン-CO2と設定 (必要に応じ毎年見直し) ・CO2排出量の増減を伴う設備投資、開発設備への投資判断の拡大 | ||
報酬 | - | GHG排出量削減状況に応じた役員報酬の設定を検討 |
(3)人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針
当社グループは、「現場が主役」の精神の下、経営方針・事業戦略の実現に向けた人事・労務施策を展開し、企業価値創出を加速させることを目指しています。
企業理念体系 「TOYOBO PVVs」を根本とした経営方針・事業戦略を実現するためには、「人」こそが最も重要で大切な経営資本であり、「人」=従業員が誇りとやりがいを持ち活躍する“人材マネジメント”の仕組み構築が必要不可欠です。
具体的には「TOYOBO PVVs」を体現するという“カエない”ものを柱にしつつ、経営方針や事業戦略の変化に応じて能力や専門性を“カエ続ける”人材活躍サイクルを実現します。同時に従業員が安心して働ける環境の土台を構築していきます。これらの実現が、従業員の幸せと当社グループの持続的成長に繋がると確信しています。
人材マネジメントに関する実行責任者は、人事部門を統括する役員(執行役員)が選任されています。人事・労務総括部が主体となって、各事業所やグループ会社の人事部門責任者と定期的に情報交換・議論の場を設け、人材マネジメント関連の施策立案・実行につなげています。
① 戦略
(イ)人材育成
当社グループでは、人材を最も重要な経営の源と考えています。多様な個性や意見を持つ従業員一人一人の成長をサポートし、社内外で活躍・自己実現できる環境を整えることで、グループ全体の存続・発展が可能になると考えています。
当社の人材育成は、新入社員教育から幹部教育まで、階層別・職種別・目的別に定めた教育体系の下、運営しています。最も重要な経営資源である「人」を大切に育てるという考え方は、当社の長い歴史の中で醸成されており、今では全社の共通認識となっています。
この考え方に基づき、2022年7月から運用がスタートした新人事制度においては、従業員全員が「成長」「誇り」「やりがい」を感じることができるように、「能力向上を促進・支援」「職責に応じた処遇と評価」「マネジメント力の強化」「多様な専門人材の活躍推進」という四つの方針を掲げて実行しています。
当社グループでは、次世代経営人材育成の取組みとして、選抜した人材に対して、経営幹部育成のための社内外の研修を計画しています。当社グループでは、次世代経営人材の育成施策を討議する「人材会議」を運用しています。主にマネジメントポストの後継者を討議する「全社人材会議」と、主に業務専門性の高いポジションの後継者討議をする「部門人材会議」の二つの会議を連携させることで、人材の発掘と育成を実践し、より効果を高めていきます。併せて、ダイバーシティ&インクルージョンを推進し、女性活躍推進に加えて、社外の知識や経験を多く取り入れるようキャリア採用や外国人採用も積極的に行っていきます。
また、グローバル対応として、当社では、国内従業員を対象に、海外グループ会社で行う「短期海外業務研修」を実施しています。若手、中堅の従業員にとってグローバルビジネス参画への強い動機付けとなり、キャリアアップの大きな機会ともなっています。また、海外グループ会社の幹部候補を対象として、日本で教育を受ける「ナショナルスタッフ研修」を実施しています。いずれも新型コロナウイルス感染症の影響で中断していましたが、短期海外業務研修は2022年度下期から再開し、ナショナルスタッフ研修は2023年度から再開予定です。
(ロ)ダイバーシティ&インクルージョン
当社グループでは、働き方・キャリア・性別・国籍・人種・信条の異なる人たちの中にあって、お互いを認め合い、協力して目標に向けた努力をすることが、個人と組織の成長につながると理解しています。
異なる意見、多様な人材の存在価値を認め合い、高い目標へと力を合わせて努力することを大切にしています。
女性の活躍推進のため、2015年から人事・労務総括部に女性活躍推進グループを設置し、女性の活躍推進活動に取り組んでいます。各事業所での説明会、上司向けセミナー、女性リーダー育成セミナーなどを継続して実施し、従業員の意識改革を図っています。女性管理職(課長職以上)比率の数値目標を設定し、当該目標の達成に向け、新卒採用の女性比率を40%とする取組みを推進しています。また、社外のイニシアチブへも積極的に参画し、活動しています。こうした活動を通じ、当社(東洋紡株式会社)は、女性活躍推進に関する「えるぼし(2段階目)」認定を2021年12月に取得しています。
また、育児支援として総合研究所内(滋賀県大津市)に企業内保育園「おーきっずⓇ」を開設しています。育児休業からの早期復帰、計画的な復帰を可能にするだけでなく、安心して出産できる環境の整備にもつながっています。
当社は、女性活躍推進活動以外にも、性別や国籍などの違いによることなく能力を重視する評価と処遇を実施するとともに、多様な人材がそれぞれ働きがいを感じながら活躍できる企業風土の醸成を目指しています。
60歳で定年退職した従業員で、本人が希望し、通常勤務が可能と認められた者を再雇用するシニア社員制度を導入し、雇用を推進しています。再雇用されたシニア社員は、若手の育成や技術伝承の担い手として活躍しています。
障がい者雇用率の向上については、労働環境の問題点の洗い出しを行って環境整備につなげています。労働環境の整備として、敦賀事業所、犬山工場の事務所をバリアフリー化し、その他の事業所についてもバリアフリーを意識した建物への改良を順次実施し、積極的な採用を進めています。
(ハ)環境の土台の構築
当社グループは、従業員が誇りとやりがいを持ち、互いに尊重しあい、心理的に安心して働ける職場の実現を目指します。従業員が意識を変えて効率的に働き、仕事と私生活の充実を図ることができるよう、「働き方改革」に取り組むとともに、育児・介護、フレックスタイム、テレワークなどの制度を整備しています。「東洋紡グループ企業行動憲章」では、「私たちは、従業員の個性を尊重し、個々の能力を発揮できる働き方をサポートします。また、健康と安全に配慮した働きやすい職場づくりを行います」と宣言しています。
企業と従業員個人は対等な関係として、組織目標の達成と個人の成長のベクトルを一致させていく必要があります。そのために、2021年度から、全役員・全従業員を対象とする「組織風土・働きがい調査」を開始しました。同調査によって定期的に従業員エンゲージメントの状況を把握し、従業員が誇りとやりがいを持って主体的に業務に取り組める環境を整えていきます。
当社は、法定基準を上回る内容の「育児短時間勤務」「介護休職」などの制度を導入している他、5日間の「育児休職」制度を設けています。子どもが生まれた男性従業員に個別に制度の案内を行い、上司からも取得を勧めることで、男性の育児休業取得を促しています。「男性の育児休業取得は当たり前」となるよう、引き続き奨励していきます。
また、当社グループは、従業員の健康に配慮した働きやすい職場づくりを行うため、従業員の心身の健康保持・増進に向けて取り組んでいます。健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する「健康経営」に着手し、従業員の健康保持・増進、生産性の向上などを通じて組織の活性化や業績向上に寄与する取組みを推進しています。健康管理最高責任者(CHO)である人事部門を統括する役員(執行役員)の下、労務部、産業医・看護職、健康保険組合が連携する推進体制を構築し、「TOYOBO健康経営宣言」における以下の重点施策に取り組んでいます。
・ 従業員の健康意識向上(啓発・教育)への取組み
・ 従業員の生活習慣改善(運動・食事・禁煙支援など)への取組み
・ メンタルヘルス対策の強化(高ストレス従業員・職場への改善対応など)への取組み
2022年度には、受動喫煙やニコチン依存について解説する禁煙セミナーやオンライン禁煙外来の案内、女性特有の健康課題に対する理解促進を目的としたセミナーを開催するなど、従業員に対する啓発活動を強化しました。
健康診断は、生活習慣病やがんなど、法定項目以上に充実した検査を実施しています。がん検診については、健康保険組合と協働で希望者(本人・被扶養者)に実施し、家族も含めた疾病の早期発見・早期治療に努めています。必要な場合には診療所での検査・治療、専門医療機関への紹介も行っており、健康に関する相談体制・環境整備を行い、従業員の健康保持・増進を支援しています。
当社では、長時間労働抑制のため、3ヶ月連続で一定の基準を超えた場合、経営会議の場で再発防止策を検討することとしています。また、各事業所において労使で一定のラインを設定し、長時間労働につながる動きをチェックし、過度な労働時間の削減を進めています。さらに、各事業所で労使が協力し「定時にカエルデー」を設定して定時帰宅を促し、自分や家族のために時間を使うよう働きかけています。
また、年1回、管理職向けにメンタルヘルスの研修を実施し、啓発・教育に取り組んでいます。ストレスチェックの結果を基に、高ストレス従業員への個別対応を行うとともに、2022年度の集団分析結果を各職場の管理職向けにフィードバックするなどの対応に取り組んでいます。
当社は、グローバル展開の加速に伴って海外赴任者が年々増加しています。海外赴任者には赴任前に人間ドックの義務付け、予防接種、現地での医療体制支援および渡航先情報の提供など、健康状態を維持しながら従事できる支援を行っています。
当社(東洋紡株式会社)は、経済産業省と日本健康会議が共同で実施する「健康経営優良法人認定制度」において、「健康経営優良法人2023(大規模法人部門)ホワイト500」を取得しました。今後も「ホワイト500」の認定取得継続を目指します。今後も従業員の健康保持・増進に積極的に取り組むなど、健康経営をより一層強化・推進することで、企業価値のさらなる向上を目指します。
※本項において「当社グループ」と記載していない箇所は、特段の注記がない箇所を除き、東洋紡株式会社、東洋紡STC株式会社、株式会社東洋紡システムクリエートにおける記載です。
② 指標と目標
上記方針に関する指標の内容および、当該指標による目標と当期の実績は以下のとおりです。
戦略項目 | 指標(KPI) | 目標 | 2021年度実績 | 2022年度実績 |
(イ) 人材育成 | 海外基幹人材の日本での研修受講者数 (注2) | 15人/年 (注1) | コロナ禍のため 開催中止 | コロナ禍のため 開催中止 |
従業員一人当たりの教育投資額(教育時間) | 50千円/年 (21時間) (注1) | 50千円/年 (17.67時間) | 50千円/年 (17.97時間) | |
(ロ) ダイバーシティ& インクルージョン | 管理職に占める 女性比率 | 5.0%以上 (注1) | 3.7% | 4.7% |
(ハ) 環境の土台の構築 | 年休取得率 | 75%以上 (注1) | 72.3% | 80.2% |
年間法定時間外労働削減(360時間超の人数/対象者数) | 2.0%以下 (2019年度比20%削減) (注1) | 3.8% | 4.2% | |
男性の育児休業取得率 | 取得率80%以上、 平均取得日数14日以上(2020年度比20%増加)(注1) | 取得率64.4% 平均取得日数9日 | 取得率104.3% 平均取得日数14.8日 | |
健康経営ホワイト500 認定 | 取得・維持 (注1) | 健康経営優良法人2022 | 健康経営優良法人2023(大規模法人部門)ホワイト500 認定 | |
エンゲージメントサーベイに基づく従業員の「働き方肯定度」の肯定的回答率 やりにくさがない」 意見や考え方を尊重」 | 肯定的回答率の向上 | ① 33% ② 42% | ① 38% ② 50% |
(注)1.2025年度目標です。
2.注2を除き、東洋紡株式会社、東洋紡STC株式会社、株式会社東洋紡システムクリエートにおける目標と実績です。
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