九州旅客鉄道 【東証プライム:9142】「陸運業」 へ投稿
企業概要
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが合理的であると判断する一定の前提に基づいており、実際の結果とは様々な要因により大きく異なる可能性があります。
(1)ESG経営の推進
■ESG経営に対する考え
当社グループの「あるべき姿」には、私たちが、九州の元気をつくっていく、さらに、九州から日本、そしてアジアを舞台に元気をつくっていくという思いが込められています。「誠実」、「成長と進化」、「地域を元気に」の3つの「おこない」は、私たち一人ひとりが常に立ち返るべき拠り所として大切にしている行動指針です。
「あるべき姿」の実現を目指して「おこない」を実践することで、持続的な企業価値と社会価値を創造することが、当社グループの目指すESG経営です。
① ガバナンス
当社は2019年に、ESGの各分野における取り組みを強化・推進するため、専門部署である「ESG推進室」を立ち上げESG経営を推進するとともに、代表取締役社長執行役員を委員長とする「ESG戦略委員会」を設立しました。「ESG戦略委員会」は、ESG経営を全社的な課題と位置づけ、環境・社会・ガバナンスの各分野における取り組みを強化・推進するための審議機関です。委員会で審議した重要事項については、必要に応じて取締役会へ報告しています。
また、ESG経営をさらに推進していくために、ESGに関する知見を有する社外取締役も「ESG戦略委員会」にオブザーバーとして適宜出席しています。
② 戦略
「JR九州グループ中期経営計画2022-2024」の策定において、2030年長期ビジョンの実現方針を具体化したことを踏まえ、マテリアリティを再設定するとともに非財務KPIの設定も行いました。「JR九州グループ中期経営計画2022-2024」策定プロセスでは、長期視点に基づいた新しい中期経営計画の策定にあたり、2030年に当社グループの中核となる若手管理職社員を中心に、ワークショップチームを編成し、執行側にて議論・検討を重ねました。また、検討の初期段階から取締役会での議論を行い、複数回の協議を経て、取締役会にて最終承認を得ています。
マテリアリティと非財務KPI
③ リスク管理
当社グループは、代表取締役社長執行役員を委員長とする「ESG戦略委員会」において、マテリアリティの取り組み状況や非財務KPIの進捗を確認するとともに、ESG分野の動向や課題などについて議論しています。また、必要に応じて取締役会にも報告しています。
④ 指標及び目標
当社グループでは、2030年長期ビジョンの実現に向け、非財務KPIを設定しています。非財務KPI及び進捗状況については、「(1)ESG経営の推進 ②戦略」をご参照下さい。
(2)気候変動対応について
当社は2021年2月、金融安定理事会(FSB)により設置された気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)による提言に賛同を表明しました。
今後もTCFD提言に基づき、「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標と目標」の4つの視点から情報開示を進めるとともに、環境に関する取り組みを推進し、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。
① ガバナンス
当社グループはマテリアリティの一つとして「脱炭素社会の実現」を掲げています。「ESG戦略委員会」では気候変動をはじめとする環境問題への対応について、基本理念・基本方針に則った事業活動が推進されているかを確認し、気候変動問題解決に向けた自主的目標の設定及び進捗の確認、気候変動に伴うリスクマネジメントを実施しています。
また、取締役会は、「ESG戦略委員会」で審議された重要な事項について、必要に応じ報告を受け、指示を出すことにしております。
② 戦略
a. 気候変動関連のリスクと機会
気候変動がもたらすリスクは、低炭素社会への移行に伴うリスク(移行リスク)と物理的な影響(物理的リスク)に分けられます。当社の鉄道事業を対象として、気候関連のリスクと機会が組織の事業、戦略、財務計画に及ぼす影響について検討した結果は次のとおりです。
種類 | 評価 | リスク | 機会 | ||
移行 |
・ 規制 | 炭素税の引き上げ | 大 | (中長期) ・エネルギー調達コスト増加 | (中長期) ・省エネ化、脱炭素化の早期対応によりエネルギー調達コストへの影響が軽微 |
炭素排出や化石燃料の使用に関する規制 | 中 | (中長期) ・規制に対応するための鉄道車両の開発・製造コストの増加 ・規制に対応出来ない場合、気動車の運行が困難 | (中長期) ・脱炭素化の早期対応により鉄道の環境優位性が維持され売上増加 | ||
市場 | エネルギーミックスの変化 | 大 | (中長期) ・エネルギー調達コスト増加 | (中長期) ・太陽光発電や蓄電技術の向上に伴う再エネ事業の導入・拡大による、コスト削減、売上増加 | |
技術 | 次世代技術の普及 | 大 | (中長期) ・電気自動車の普及等による鉄道の環境優位性の低下による売上減少 ・自動車等の自動運転技術の普及による、鉄道の優位性が損なわれ売上減少 | (短中期) ・鉄道の自動運転技術の普及によるコスト削減 ・気象予報の高度化に伴う、効率的な点検業務によるコスト削減 ・MaaSの広がりにより公共交通機関が積極利用され売上増加 ・次世代車両の導入によるメンテナンスコストの削減と、環境優位性の高まりによる売上増加 | |
評判 | お客さまの嗜好の変化 | 大 | (短中期) ・鉄道の環境優位性が低下した場合、お客さまの環境意識の高まりによる代替輸送機関へのシフトが進み売上減少 | (短中期) ・鉄道の環境優位性を維持した場合、お客さまの環境意識の高まりによる鉄道利用へのシフトが進み売上増加 | |
投資家の評判変化 | 小 | (短中期) ・環境対策に積極的でないと評価された場合、投資家の評価の低下 | (短中期) ・低炭素・環境配慮型の事業への移行によるESG投資の呼び込み | ||
物理 | 急性 | 自然災害の頻発・激甚化 | 大 | (短期) ・降雨・強風の増大及び長期化に伴う災害復旧コストの増加と運休の発生による売上減少 ・サプライチェーンの分断による事業継続への影響 | (中長期) ・災害に強い(レジリエント)鉄道事業の運営による災害復旧コストの削減、売上増加 |
慢性 | 平均気温の上昇 | 大 | (短期) ・冷房コスト増加 ・外出手控えによる売上減少 |
⁻ |
b. シナリオ群の定義
当社の鉄道事業における気候変動の影響について、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)やIEA(国際エネルギー機関)などの専門機関が描く1.5℃、2℃と4℃のシナリオに基づき、分析を行いました。また、定性的なリスクのうち、特に影響が大きいと想定されるもの、かつ将来的な予測パラメータが入手できる一部の項目について、2050年の財務的影響増加額を試算しています。
<シナリオ分析に使用した主なシナリオ>
主に移行リスクを分析するために使用 | IEA:NZE、SDS、STEPS、DRS |
主に物理的リスクを分析するために使用 | IPCC:RCP1.9、RCP2.6、RCP8.5 |
<各シナリオに基づく移行リスク及び物理的リスクの将来予測パラメータ※1>
リスク項目 | パラメータ 項目 | 単位 | 将来予測パラメータ(2050年) | ||||
現状 | 4℃ | 2℃ | 1.5℃ | ||||
移行 | 炭素税の 引き上げ | 排出係数※2 | g-CO2/kWh | 463 | 282 | 67 | -5 |
炭素価格※2 | $/t-CO2 | - | - | 160 | 250 | ||
物理的 | 自然災害の 頻発・激甚化※3 | 斜面崩壊 発生確率※4 | % | 10 | 12 | 12 | |
洪水発生 頻度※5 | 倍 | 1 | 4 | 2 |
※1 パラメータは、一部推計した値を使用
※2 IEA 「World Energy Outlook 2020」、「World Energy Outlook 2021」参照
※3 1.5℃シナリオは、将来予測パラメータが十分に揃っていないため、2℃シナリオのパラメータを使用
※4 A-PLAT「気候変動適応情報プラットフォーム」参照
※5 気候変動を踏まえた治水計画に係る技術検討会「気候変動を踏まえた治水計画のあり方 提言」参照
<シナリオ分析に基づく2050年の財務的影響増加額の試算>
リスク項目 | 想定内容 | 財務影響増加額(億円/年) | |||
4℃ | 2℃ | 1.5℃ | |||
移行 | 炭素税の 引き上げ | 排出係数の減少を踏まえ、炭素税導入に伴うコストを想定 | - | +約15 | +約10 |
物理的 | 自然災害の 頻発・激甚化 | 自然災害の増加に伴う設備被害増額を想定 | +約150 | +約75 |
c. シナリオ分析の結果と今後の方針・取り組み
1.5℃及び2℃シナリオでは、炭素税の引き上げや再生可能エネルギー電力の普及によるコストの増加が見込まれる一方で、鉄道の環境優位性を保つことが出来れば、代替輸送機関からお客さまの転換が見られ、売上を増加させる機会を獲得できることが分かりました。さらに1.5℃シナリオを目指すことで、炭素税が増加するものの、全体的な排出係数が低下すれば、炭素税に係るコストが抑制されることが想定されました。
一方で、4℃シナリオでは、気候変動を原因とする自然災害の頻発・激甚化により、鉄道資産に被害が生じ、修繕のためのコストが増加するとともに、運休の発生により売上が減少することが分かりました。
移行リスクや物理的リスクを踏まえ、「JR九州グループ中期経営計画2022-2024」において、脱炭素社会の実現に向けたロードマップを策定しています。
エネルギー使用量の削減や再生可能エネルギーの導入・活用といった緩和策の積極的な実施とともに、降雨対策などの適応策も実施してまいります。
③ リスク管理
当社グループは、代表取締役社長執行役員を委員長とする「ESG戦略委員会」において、CO₂排出量を削減していくための施策の計画・立案、進捗管理を行います。また、当社グループの事業が気候変動によって受ける影響を識別・評価するため、気候変動のリスクと機会を分析し、「ESG戦略委員会」の中で、毎年1回以上報告するとともに、必要に応じて取締役会にも報告します。
④ 指標と目標
当社グループでは2050年CO₂排出量実質ゼロを目指すことを表明しています。また、「JR九州グループ中期経営計画2022-2024」では2030年中間目標を含めた非財務KPIの設定を行いました。今後も、当社グループ全体で脱炭素社会の実現に向けてCO₂排出量削減の取り組みを推進していきます。「脱炭素社会の実現」に関する非財務KPI及び進捗状況については、「(1)ESG経営の推進 ②戦略」をご参照下さい。
<JR九州単体CO₂排出量(2020年3月期~2022年3月期)>
項目 | 排出量[千t-CO2] | ||
2020年3月期 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | |
スコープ1排出量 | 49 | 41 | 43 |
スコープ2排出量 | 209 | 208 | 216 |
スコープ3排出量 | 573 | 435 | 558 |
※1 スコープ1、2については、エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)で定められる定期報告の適用対象施設を集計
※2 スコープ3については、環境省・経済産業省「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」をもとに試算
※3 2023年3月期のCO₂排出量データについては、2023年8月末に開示予定の「JR九州グループ統合報告書2023」及び「ESGデータブック」をご参照下さい。
https://www.jrkyushu.co.jp/company/ir/library/
(3)人的資本について
■基本的な考え方
当社は、2023年4月、新たに人材戦略の2つの基本方針とそれを支える4つの柱を策定しました。当社グループの原動力は「人」です。社員が働きがいを持っていきいきと活躍でき、また、仕事や研修等の挑戦の機会を通した社員の成長が、当社の未来につながっていくと考えています。また、経営戦略を実行するうえで必要な社員の知識やスキルを改めて定義し、「人間力」と「実務力」としました。「人間力」は、誠実さ、向上心、包容力等の人として大切にしてほしい力を、「実務力」は、課題発見力、提案力、実行力等の業務を遂行するうえで必要な力を表しています。これらの力が会社を支え、「あるべき姿」の実現につながっていくと考えています。
① ガバナンス
2022年4月に「JR九州グループ中期経営計画2022-2024」をスタートさせ、経営戦略と連動した人材戦略に関する議論を重ねてきました。2023年4月、ガバナンス強化の観点から、継続して人材戦略を審議する機関として、代表取締役社長執行役員を委員長とする「人材戦略委員会」を設置し、人材に関する各種計画策定や取り組みの進捗確認を行っています。また、必要に応じて取締役会にも報告しています。
② 戦略
a. 人材の育成に関する方針
当社は、人材戦略の基本方針である「社員が働きがいを持ち、いきいきと活躍できる会社づくり」、「人間力・実務力を持った社員の育成」を推進するため、各種人材育成の取り組みを行っています。
安全・サービス及び企業倫理に関する研修等の継続的な実施、目標や目指すキャリア、仕事のやりがいを考える研修や部下社員とのコミュニケーションスキル向上を目的とした管理者に対する研修をはじめとした各種階層別研修や社外教育機関への派遣等の公募制研修の実施、その他動画研修ツール等を活用した各種自己啓発制度により、意欲ある社員への挑戦・成長の機会の提供と支援を行っています。
b. 社内環境整備に関する方針
当社グループは「JR九州グループ健康宣言」を発信し、グループ全体として健康経営の推進に取り組んでいます。
社内体制として、代表取締役社長執行役員を健康経営責任者と定めた健康経営推進体制を構築しています。また、PDCAサイクルを確立し、社員が健康づくりについて知り、社員が健康になるための行動を支援する各種の取り組みを実施しています。社員がいきいきと元気に働き続け、当社グループが持続的に成長するために、健康づくりを経営的な視点で考え、戦略的に実践する健康経営を推進しています。
③ リスク管理
当社は、代表取締役社長執行役員を委員長とする「人材戦略委員会」において、人材に関する各種計画策定とKPIの進捗確認を行います。
また、環境変化や各種施策の浸透度、進捗状況などに応じて、具体的な施策の見直しなど柔軟に対応するなど、人材戦略の実効性を高めていきます。審議の内容は必要に応じて取締役会にも報告をします。
④ 指標と目標
当社グループでは、2030年長期ビジョンの実現に向け、非財務KPIを設定しています。「価値創造の源泉である人づくり」に関する非財務KPI及び進捗状況については、「(1)ESG経営の推進 ②戦略」をご参照下さい。
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