レナサイエンス 【東証グロース:4889】「医薬品」 へ投稿
企業概要
当社は、医薬品・医療機器・AIを活用したプログラム医療機器など、多様なモダリティ(治療様式)にわたる複数パイプラインの研究開発を進めており、当事業年度における主要パイプライン開発の進捗及びこれまでの開発実績は以下のとおりです。
なお、当事業年度における研究開発費は236,331千円であり、当事業年度末日の当社研究開発従事者人員は8名(臨時雇用者を含む)です。
a.RS5614(PAI-1阻害薬)
(a) 慢性骨髄性白血病(CML)治療薬
CML患者を対象とした後期第Ⅱ相医師主導治験において、チロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinase inhibitor、TKI)とRS5614を併用し、RS5614投与開始後48週における累積の深い分子遺伝学的奏効(deep molecular response、DMR:がんの原因遺伝子が検出されない状態)の達成率(※1)は33.3%(33例中11例でDMRを達成)であり、TKI単独でのヒストリカルコントロール(8-12%)に比べて有意に上昇していることを確認しました(2021年3月治験総括報告書完成、POC取得)。特に、TKI治療期間が3年以上5年以下の患者での累積DMR達成率は50.0%に達しました。また、RS5614の1年間の長期投与でも治療薬と因果関係のある重篤な有害事象は認められませんでした。本試験結果は、科学誌『Cancer Medicine』に掲載されました。
後期第Ⅱ相医師主導治験の成績に基づいて、東北大学、東海大学、秋田大学等、12の大学/医療機関と共同で慢性期CML患者を対象にTKIとRS5614の併用効果を検証するプラセボ対照二重盲検(※2)の第Ⅲ相医師主導治験を実施中です。本試験は、2022年3月にAMED「革新的がん医療実用化研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」に採択されました。PMDAと2021年11月及び同年12月に対面助言を行い、2022年5月にPMDAに治験計画届を提出し、多施設共同の第Ⅲ相試験が開始されました。TKI治療期間が3年以上6年未満の慢性期CML患者60例を対象とし、TKI単独投与群よりも治験薬RS5614の併用群がTFRの指標である2年間以上のDMR維持率の有意な上昇の検証を行います(2026年まで実施予定)。2023年12月末の症例登録期間内に解析に必要な症例数を上回る57例が登録され、治験は予定通り進行中です。後期第Ⅱ相医師主導治験の結果が、2022年9月に科学誌『Cancer Medicine』に掲載されました。また、CMLを含む当社のがん治療薬の取組みが、2023年9月科学誌『Nature』に掲載されました。
(※1)DMR達成率とTFR:現在の慢性期CML治療では高額なTKIを生涯服用する必要がありますが、最も深い治療効果であるDMRを達成し、一定期間維持した一部の患者では、TKIを中止しても再発がないこと(無治療寛解維持;TFR)が近年明らかとなっています。これまでに既存TKIで公表されている1年間(48週)の累積DMR達成率は8-12%(ヒストリカルコントロール)です。なお、DMR維持とは、DMRを達成した状態が一定期間継続することです。
(※2)二重盲検:対象患者を無作為に、治験薬(今回はRS5614)を投与する群と対照薬(今回は効果がないプラセボ)を投与する群に分け、医師も患者もどちらが投与されるかを知らない条件で、両群同時に薬を投与する臨床試験方法。医師が効果の期待される患者に対して被験薬を投与するなどの故意が生じる怖れや、効果があるはずといった先入観が評価に反映される可能性や、患者が知った場合もその処置への反応や評価に影響が生じることを避けるための試験方法です。それぞれの群で出た結果を比較評価することで、治験薬の効果があるかを判断します。
(b) 悪性黒色腫(メラノーマ)治療薬
国内の悪性黒色腫患者では、海外とは異なるサブタイプの悪性黒色腫が多いことから、抗PD-1抗体(ニボルマブ)単剤療法による治療が奏効しにくいとされています。RS5614が免疫チェックポイント分子を制御しがん免疫系を活性化する作用に基づき、NPO法人「JSCaN」を立ち上げて悪性黒色腫の治療成績向上のために連携している東北大学、筑波大学、都立駒込病院、近畿大学、名古屋市立大学、熊本大学の6大学と共同で、悪性黒色腫治療薬としてのRS5614の有効性と安全性を確認するための第Ⅱ相医師主導治験を2021年7月に開始しました
本試験は、2021年5月にAMED「橋渡し研究プログラムシーズC(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」の支援を受けた、進行性悪性黒色腫患者40例を対象とする多施設共同、非盲検試験です。ニボルマブ併用のもと、RS5614を1日1回120-180 mgで投与し、8週間投与後に有効性と安全性の評価を行い、40例の患者登録が2023年3月で終了しました。本治験の結果、悪性黒色腫患者29例に対して、当社が開発した PAI-1阻害薬RS5614を8週間併用することにより、主要評価項目で7例において奏効が見られました(奏効率 24.1%)。
被験者数 | 29 |
| 分類 | 例数(%) |
奏効(%) | 7 (24.1%) |
| 完全奏功(CR) | 1 (3.4%) |
95%信頼区間 | [10.3%, 435.5%] |
| 部分奏功(PR) | 6 (20.7%) |
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| 安定(SD) | 11 (37.9%) |
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| 進行(PD) | 11 (37.9%) |
この奏効率は、現在承認されている、ニボルマブとイピリムマブの併用の有効性と同等以上の成績でした(ニボルマブ無効例におけるニボルマブとイピリムマブ併用の奏効率は、海外21%、国内13.5%)。また、ニボルマブとRS5614の併用による疾患制御率は62%に達しました。ニボルマブとイピリムマブ併用では重篤な免疫関連副作用が多発することが問題となっていますが、ニボルマブとRS5614の併用においては特に問題となる重篤な副作用も見られていません。本試験の速報結果は2023年8月に開示しており、2024年2月に同内容で治験総括報告書が作成されました。
悪性黒色腫の次相試験に関して、2023年12月にPMDA対面助言を実施し、臨床プロトコールを確定しました。また、悪性黒色腫治療薬を希少疾患用医薬品指定制度に申請しました。希少疾患用医薬品指定を受けられた場合には、PMDAの優先的な指導・助言や、医薬基盤・健康・栄養研究所を通じての助成金交付などの優遇措置を得られる可能性があります。また、承認後の再審査期間が延長され、本治療薬事業の独占期間が長くなります。
2023年12月に、PAI-1阻害薬の新規用途特許「免疫チェックポイントの発現抑制剤」が日本において特許査定が得られ、2040年9月まで有効です(米国、欧州は出願中)。本特許により、免疫チェックポイント阻害薬としての当社PAI-1阻害薬の医薬用途に関する発明が保護され、更に特許期間の延長が可能となります。また、悪性黒色腫を含む当社のがん治療薬の取組みが、2023年9月科学誌『Nature』に掲載されました。
(c) 非小細胞肺がん治療薬
非臨床試験から、PAI-1が肺がんの腫瘍進展、更にはがん細胞の増殖能亢進や血管新生に関与していること、更に抗PD-1抗体に耐性となった肺がん細胞がPAI-1を高発現することなどの知見が明らかとなり、当社と広島大学との共同研究で小細胞性肺がんモデルマウスを用いた非臨床試験を実施した結果、抗PD-1抗体とRS5614の併用投与は抗PD-1抗体単剤投与よりも高い抗腫瘍効果を示すことを確認しました。そこで、2つ以上の化学療法歴を有する切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん患者(3次治療患者)39例を対象に、ニボルマブとRS5614との併用投与の有効性及び安全性を検討することを目的とした国内第Ⅱ相医師主導治験を開始しました。2023年3月にPMDA相談を終了し、治験実施計画書が確定したことから、広島大学、島根大学、岡山大学、鳥取大学、四国がんセンター、広島市民病院などの医療機関と協力して2023年9月から3年間を見込んだ治験を実施しています。2024年3月までに13例の症例が登録されました。本治験において有効性が確認できれば、3次治療以降で有効な治療法を提案できます。悪性黒色腫から肺がんへの適応拡大は、抗PD-1抗体などの免疫チェックポイント阻害薬と同じ展開です。
当社は、2022年10月に国立大学法人広島大学と非小細胞肺がんに対する非臨床試験及び臨床試験に向けての共同研究契約を締結しました。研究段階が非臨床試験から臨床試験(医師主導治験)に移行したこと、更には広島大学の特色や強みを生かし、医師主導治験実施を含めた医薬品及びプログラム医療機器の共同研究開発を行い、研究開発の効率化及び推進並びに人材育成などを目的としたオープンイノベーション拠点(Hiroshima University x Renascience Open innovation Labo:HiREx)を設けるため、2023年4月に広島大学と包括的研究協力に関する協定書を締結しました。本治験はHiRExを主体に実施しています。
(d) 血管肉腫治療薬
東北大学との共同研究において、血管内皮細胞の腫瘍である血管肉腫はPAI-1を高発現しており、その発現頻度が高い患者では1次治療でのタキサン系抗がん剤の効果が得られにくいことが報告されています。タキサン系抗がん剤の作用機序としては、アポトーシスの誘導が考えられていますが、1)PAI-1は主として血管内皮から産生され、2)PAI-1を高発現しているがん細胞はアポトーシス耐性であることから、タキサン系抗がん剤とPAI-1阻害薬RS5614を併用することにより、タキサン系抗がん剤の血管肉腫治療効果を増強できる可能性が強く示唆されます。
2023年1月にPMDA相談を終了、治験実施計画書が確定し、同年8月に治験計画届を提出しました。東北大学、自治医科大学、九州大学、名古屋市立大学、国立がん研究センター中央病院、がん研究会有明病院などの大学/医療機関と共同で、タキサン系抗がん剤パクリタキセルが無効となった皮膚血管肉腫患者16例を対象にパクリタキセルとRS5614の併用による有効性及び安全性を評価する第Ⅱ相医師主導治験を2023年10月に開始しました。治験期間は2年間を見込んでいます。2024年3月までに5例の症例が登録されました。本研究で有効性を検証できれば、有効な治療薬のない皮膚血管肉腫患者に対して新たな治療法が提案できます。本治験はHiRExを主体に実施しています。
(e) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴う肺傷害治療薬
当社は、RS5614の肺微小血栓、線維化、肺気腫改善作用及び肺(上皮)保護作用に着目し、COVID-19に伴う肺傷害治療薬(経口薬)を開発しています。2020年秋から前期第Ⅱ相医師主導治験(非盲検)を実施し、2021年6月に治験総括報告書が完成しました。特筆すべき副作用は無く、肺傷害で入院し本治験薬を投与された26名全員が無事退院されました。
前期第Ⅱ相医師主導治験の成績に基づき、東北大学、京都大学、東京医科歯科大学、東海大学等国内20の大学等の医療機関と共同で、COVID-19に伴う肺傷害患者(中等症、入院患者)を対象とするプラセボ対照二重盲検の後期第Ⅱ相医師主導治験を実施しました。本治験は、2021年3月にAMED「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」に採択され、2021年4月のPMDA事前面談に基づき実施計画書を確定して2021年6月から開始しました。本治験は、COVID-19の流行時期やウイルス株変異の影響を受け、治験の対象となる肺炎入院患者数が減少したため、最終的に入院患者75例(RS5614群39例、プラセボ群36例)を対象にプラセボ対照第Ⅱ相試験を実施し、2023年4月に治験総括報告書を纏めました。有効性の主要評価項目である「酸素化悪化指標スケール(※1)の総和」は、両群間で統計学的な有意差は認めませんでしたが、プラセボ群に対してRS5614群で悪化の抑制が見られ、特に中等症Ⅰ患者(※2)での有効性が示唆されました。更に、酸素治療が必要となる症例の割合も、入院後3~5日でRS5614群の方が少ないことから、早期治療でのRS5614の有効性が示唆されました。また、RS5614群では、プラセボ群と異なり、肺炎画像所見の改善も認めました。副作用発現率はRS5614群とプラセボ群で同程度であり、COVID-19に伴う肺傷害患者に対する本被験薬(RS5614)投与の安全性も確認できました。
RS5614は抗ウイルス薬とは作用機序が全く異なり、肺炎に対する内服薬です。現時点で抗ウイルス薬以外のCOVID-19に伴う肺傷害に対する治療薬は高額な注射薬ですが、RS5614は経口投与が可能であり、化学合成で製造される低分子医薬品であるため、その価格も低く抑えられます。現在、COVID-19は落ち着いていますが、肺炎を惹起する新たな株の発生に際して速やかに次相臨床試験(軽症から中等症Ⅰの肺炎患者を対象)を実施できるよう準備をし、2023年4月にPMDA事前面談を実施しました。
2020年12月にCOVID-19に伴う肺傷害及びその他肺傷害等の肺疾患治療用途について第一三共株式会社とオプション権付優先交渉権に関する契約を締結しました。本契約締結時はオプション期間を1年後の2021年12月としていましたが、後期第Ⅱ相医師主導治験の期間に合わせてオプション期間を2022年12月まで延長しました。更に、2022年11月には、COVID-19に伴う肺傷害だけではなく、抗がん剤治療等から生じる間質性肺炎に対するRS5614の有効性を確認する臨床試験も視野に入れ、オプション期間を2025年3月まで延長する覚書を締結し、オプション期間延長の対価を受領しました。
2023年10月に、PAI-1阻害薬の新規用途特許兼用法用量特許「線溶系亢進薬、及びその用途」が日本において特許査定が得られ、2041年5月まで有効です(米国、欧州は出願中)。本特許により、当社PAI-1阻害薬の医薬用途及び用法用量に関する発明が保護され、更に特許期間の延長が可能となります。
(※1)被験者の酸素化の状況を、酸素なし(0点)~人工呼吸器エクモ装着(5点)までの点(例えば、酸素投与2L以上、5L未満は2点)を毎日付けて14日間の合計で比較
(※2)定義は「新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き、第10.0版」」に記載
・ 中等症Ⅰ:新型コロナウイルス感染症で、血中の酸素の値が93%から96%の間で、呼吸困難や肺炎初見が認められるが、呼吸不全はなく、酸素投与治療は行われていないステージ
・ 中等症Ⅱ:血中の酸素の値が93%以下で、呼吸不全があり、酸素投与治療が必要なステージ
・ 重症:集中治療や人工呼吸器が必要なステージ
(f) 全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(SSc-ILD)治療薬
数々の国内外との共同研究にてRS5614が非臨床試験で種々の肺傷害(気腫、線維化、炎症)の改善と上皮細胞保護作用を示すことから、SSc-ILDの線維化を抑制する治療薬としての開発に着手しました。SSc-ILDのモデルであるブレオマイシン誘導皮膚/肺線維化モデルマウスを用いて、SSc-ILD治療薬であるニンテダニブ(10、50 mg/kg/日)とRS5614(1、5 mg/kg/日)の4週間連続投与における有効性比較の非臨床試験を行った結果、肺傷害の抑制作用の指標であるヒドロキシプロリン量の増加及びAshcroft scoreにおいて、RS5614はニンテダニブに比して、より低用量で有意な改善を示しました。そこで、SSc-ILDに対するRS5614の安全性と有効性を検証する第Ⅱ相医師主導治験(プラセボ対照二重盲検試験)を開始しました。2023年2月に実施したPMDA事前面談に基づき同年5月に実施した対面助言で最終的な臨床プロトコールが確定し、2023年9月に治験計画届を提出しました。東北大学、東京大学、金沢大学、福井大学、大阪大学、和歌山県立医科大学、群馬大学、横浜市立大学、札幌医科大学、藤田医科大学の国内10の大学/医療機関と共同で、2023年10月からSSc-ILD患者50名を対象に2年半の治験を実施しています。本試験は、2023年3月にAMED「難治性疾患実用化研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」に採択されました。
(g) 特発性間質性肺疾患治療薬
RS5614が間質性肺疾患(間質性肺炎・肺線維症)を改善することを示唆する非臨床試験の成績に基づき、特発性間質性肺炎の急性増悪を対象としたRS5614の臨床試験実施を視野に入れて、2022年12月に京都大学と共同研究契約を締結しました。また、抗がん剤投与に伴う間質性肺炎に対する本医薬品の有効性を確認する臨床試験も視野に入れ、第一三共株式会社との契約も延長しました。非臨床試験成績の結果で、RS5614の有効性を確認できれば、医師主導治験での臨床開発に進める予定です。肺障害領域での研究開発を更に展開するため、2023年6月に京都大学及び第一三共株式会社と当社の3者での共同研究契約を締結しました。
(h) RS5441(PAI-1阻害薬)脱毛症治療薬
当社は、2016年6月に皮膚科疾患用途におけるRS5441の独占的権利をエイリオン社に許諾しました。また2023年4月及び6月にエイリオン社が行使したオプション権の対価を受領しました。同社は、2024年度に第Ⅰ相試験を実施する予定です。
b.RS8001(ピリドキサミン)
(a) 月経前症候群(PMS)及び月経前不快気分障害(PMDD)治療薬
PMS/PMDDに対するRS8001の第Ⅱ相医師主導治験を、AMED「医療研究開発革新基盤創生事業(CiCLE)(当社が代表機関)」として、近畿大学、東北大学、東京医科歯科大学、東京女子医科大学と共同で実施しました(プラセボリードイン方式(※1)プラセボ対照二重盲検3群比較試験、目標症例数105例、2023年12月終了)。本治験は、として実施されています。
精神領域における医薬品開発と同様に、本治験における最大の課題はプラセボ効果の影響です。そこで、プラセボ効果を排除するために、プラセボリードインという試験デザインを採用しました。当初、COVID-19拡大の影響により患者来院数が減少したため、症例登録促進を目的として、2021年度に新たに2施設を追加したほか、院内ポスターや啓発用の冊子の作成、治験調整医師による薬剤師対象Webセミナーを実施しました。2021年9月にはAMEDによる中間評価の結果、本治験支援の継続が承認されました。また2022年7月には、AMEDによる第2回中間評価が行われ、治験継続の判断とともに、症例登録加速のための支援を受けられることが決定しました。これを受けて、2022年11月に治験実施施設を3施設追加するとともに、ボランティアパネル(※2)の活用、治験責任医師等による公開講座の開催、症例登録加速のための全体会議の開催等を対応してきました。その結果、2023年7月までに近畿大学、東北大学、東京医科歯科大学、東京女子医科大学と民間5施設で434名の同意を取得し、最終的に2023年10月末までに目標症例数を超える120例の本登録を行い、2024年2月には問題となる有害事象等を生じることなく治験を終了し、2024年6月に治験総括報告書が纏められました。
有害事象及び副作用ともに、本剤低用量群及び本剤高用量群に、特に多く発現したものはなく、本剤の安全性に問題はありませんでした。有効性に関しては、「最終評価時点における黄体期後期のDRSP negative mood(※3)の総和の月経周期3周期目からの変化量」を主要評価項目としましたが、本剤低用量群、本剤高容量群、プラセボ群で、統計的な有意差は認められませんでした。副次評価項目である「DRSP Negative mood score及びDRSP総和のVisit3からの変化量(絶対値)の平均値」はプラセボ群に比べて低用量群、高用量群の順で大きく、また同じく副次評価項目である「黄体期HADS(※4)のVisit 3からの不安尺度合計点の変化量」においても実薬群で低下する傾向がみられましたが、いずれも統計的な有意差は認められませんでした。
プラセボリードインという試験デザインを採用しましたが、今回の症例数はばらつきが大きく統計的有意差は認められませんでした。ばらつきの原因として、評価指標が検査値などの客観的な数値ではなくインタビューフォームという主観的な評価であったことや、PMS/PMDDの疾患は、幅広い対象患者を含んでいる可能性があり患者集団の不均一差が影響していたことが考えられます。
RS8001のプラセボリードイン治験の概略図
2019年12月にRS8001のPMS/PMDD治療薬の日本における開発及び商業化の独占的実施許諾(ライセンス)に関する優先交渉権をあすか製薬株式会社に許諾しました。
(※1)プラセボリードイン方式:プラセボには有効成分は含まれていませんが、心理的な効果で病気の症状が改善することがあります(プラセボ効果)。そこで、実薬投与の前に一定期間プラセボを服用していただき、プラセボ効果の大きな被験者は試験に参加していただかない試験デザインを採用しています。
(※2)ボランティアパネル:治験支援企業・団体が運営する治験参加希望者の登録システムです。
(※3)DRSP negative mood:DRSPはDaily Records of Severity of Problemsの略です。PMSやPMDDは血液検査や画像検査での異常がありませんので、症状と月経周期との関連を観察することしか診断の手立てがありません。そこで、毎日自分の症状と月経周期を記録してその記録を医師が確認することが、正確な診断には必要です。DRSPは臨床試験でのPMSの重症度尺度としても、最も広く使用されています。21項目のPMS症状と、それによる日常生活への支障を問う3項目の、計24項目から成り、それぞれに1(全く無い)〜6(非常に強い)までの6段階を記載します。DRSP negative moodは、DRSPの中でもコア症状である、抑うつ、不安、怒り、興奮などの総和です。
(※4)HADS:HADSはHospital Anxiety and Depression Scaleの略で、患者の不安と抑うつを評価する質問票になります。14の設問に0~3点で回答し、不安と抑うつのそれぞれの合計点を算出します。合計点が高いほど不安と抑うつが強いことを示します。
(b) 更年期障害治療薬
2021年12月に東京医科歯科大学と共同研究契約を締結し、更年期障害の2大症状(ホットフラッシュ(※)とうつ)の治療薬としてRS8001の臨床研究を準備してきました。2023年3月にAMED「女性の健康の包括的支援実用化研究事業(代表機関:東京医科歯科大学、当社は協力機関)」に採択され、東京医科歯科大学などで3年間の臨床研究が開始されました。本臨床研究では、プラセボ効果をできる限り排除する目的でプラセボリードイン方式を採用した二重盲検法(各群25名)で実施しています。
(※)ホットフラッシュ:更年期障害の代表的な症状として上半身ののぼせ、ほてり、発汗等が起こります。
c.RS9001(ディスポーザブル極細内視鏡)
腹膜透析は透析液を注入するチューブを常に腹膜に挿入されていますが、当社は、この細いチューブを通して挿入し、開腹手術にも腹腔鏡にもよらず非侵襲的に腹腔内を観察する極細内視鏡(径1mm程度)を東北大学等複数の大学と共同開発しました。
2022年8月にはファイバースコープ(※1)がPMDAに承認申請され、同年12月に厚生労働省から薬事承認されました。本製品の詳細は、以下のとおりです。
・ 承認番号:30400BZX00294000
・ 一般的名称:軟性腹腔鏡
・ 販売名:経カテーテル腹腔鏡 PD VIEW
・ 類別コード:器 25
2022年9月に株式会社ハイレックスコーポレーション及びその子会社である株式会社ハイレックスメディカルと付属品であるガイドカテーテル(※2)作成を含めた医療機器開発に関する共同研究契約を締結しました。ディスポーザブル極細内視鏡については、2020年5月に米国Baxter Healthcare Corporation とライセンス契約を締結しておりましたが、2024年5月にBaxter Healthcare Corporationとのライセンス契約を解約し、新たに株式会社ハイレックスメディカルとライセンス契約を締結しました。ガイドカテーテルとファイバースコープを合わせて2024年度後半~2025年度に薬事申請する予定です。
(※1)ファイバースコープ(使い捨て):ディスポーザブル極細内視鏡の本体です。先端部は径1mm程度で、腹部に留置されているチューブの中を通ります。
(※2)ガイドカテーテル(使い捨て):ファイバースコープと組み合わせて使用することでファイバースコープの先端部分を自由に動かすことができます。ガイドカテーテルを使用しなくても、ファイバースコープのみで腹膜の状態を観察することが可能ですが、使用することで操作性が向上します。
d.AIを活用したプログラム医療機器の開発
(a) RSAI01(呼吸機能検査診断プログラム医療機器)
呼吸器疾患や呼吸機能の検査の中でスパイロメトリー(※)が最も重要ですが、その普及は進んでいません。被験者(患者)の協力(努力呼吸)が必要である点に加えて、正しく検査が行えたかどうかを判定し、かつ出力された結果(フローボリューム曲線)を解釈することが非専門医には難しいためです。非専門医でも簡便に結果を解釈できるシステムの開発は、呼吸器疾患を診断し、早期治療を行う上で重要な医療課題と考えられます。フローボリューム曲線を解釈するAIを、京都大学及びNESと共同で開発しています。約1,000症例(2,500データ)の医療データを取得、実用化へ向けた開発を進めています。
2020年7月にスパイロメトリーのリーディングカンパニーであるチェスト株式会社と共同開発及び事業化に関する契約(ライセンス契約)を締結し一時金を受領しました。また、2023年6月には事業化段階移行に合意し、対価としてマイルストーンを受領しました。
(※)スパイロメトリー:呼吸機能生理検査で、被験者が吐き出す息の量と吐き出す時間を測定します。慢性閉塞性肺疾患(COPD)及びその他の肺の病気の診断に重要な検査です。
(b) RSAI02(維持血液透析医療支援プログラム医療機器)
慢性腎不全患者は、廃絶した腎臓の代わりに除水と老廃物の除去を行うために週3回、生涯にわたって血液透析を受けます。除水不足は心不全、高血圧等心肺機能に障害を与える一方、過度な除水は透析中の低血圧を生じ、気分不良、意識消失といった有害事象をもたらします。不適切な除水量の設定により除水不足や過除水が生じ有害事象が発生すると医療従事者は患者対応に追われ、大きな負担となります。安全安心な血液透析を実現するために、適切な目標総除水量を予測するAI(Dual-Channel Combiner Network、DCCN)を、東北大学及びNECと共同で開発しています。聖路加国際病院や民間透析医療施設から取得した透析回数72.5万件の透析記録(患者情報、透析情報、検査情報)を学習させ、患者の過去の5回の透析記録及び透析当日の透析前データから、医師が経験的に設定した目標総除水量と7-8%程度の平均絶対誤差率(mean absolute percentage error、MAPE)で目標総除水量を予測するAIが開発できています。
2023年4月にはPMDA開発前相談を終了し、2024年1月に臨床性能試験実施のためのPMDAプロトコール相談を完了しました。現在、承認申請のための臨床性能試験の準備をしています。本AIプログラム医療機器の開発は、2023年2月にAMED「医療機器開発推進研究事業(代表機関:東北大学、当社は協力機関)」に採択されました。2022年10月に基本となる知的財産権を出願し、2023年5月に国際出願を行いました。また、2024年1月には新たな特許を追加出願しました。
2021年5月に本AIプログラム医療機器(ソフトウェア)の開発に関してニプロ株式会社と共同研究契約を締結し、2022年5月には契約期間延長に伴う契約一時金を受領しました。開発段階が臨床性能試験の実施まで進捗したことから、2024年3月にニプロ株式会社と共同開発契約を新たに締結し契約一時金を受領しました。さらに、血液透析における除水量や血流量の調節を制御する血液透析機器搭載型AIの開発に着手し、2023年12月に東レ・メディカル株式会社と共同開発契約を締結しました。
(c) RSAI03(糖尿病治療支援プログラム医療機器)
糖尿病の血糖値を厳格にコントロールし、糖尿病合併症を予防するためにはインスリン注射治療が必要です。しかし、インスリンの安全な用量域は狭く、過剰投与で低血糖を生じるために、患者ごとに最適な種類と投与量を選定する必要があります。一方、糖尿病専門医は医師全体の2%もおらず、地理的にも偏在しているため、現状では糖尿病患者の主治医が糖尿病専門医であるとは限らず、むしろ非専門医に受診することが多いです。非専門医にも専門医レベルのインスリン治療を実行できるよう支援するAI(Skill Acquisition Learning、SAiL: スキル獲得学習)を、東北大学及びNECと共同で開発しています。東北大学病院に入院する約1,000名(約1,080,000臨床パラメータ)の患者データに基づく学習が終了し、専門医の処方するインスリンの投与量から2単位程度の誤差で予測するAIを開発できています。現在、NESと共同で、本AIを医療機関で活用するためのシステム開発を進めており、デモシステムの開発を完了しました。
2022年12月にはPMDA開発前相談を終了し、2023年5月に実施したPMDAプロトコール相談の助言に従い、臨床性能試験のための予備的な試験を実施しました。予備試験の結果を基に、2024年2月にPMDAプロトコール相談を追加で実施し、承認申請のための臨床性能試験のプロトコールが確定しました。2024年度臨床性能試験を実施する予定です。本AIプログラム医療機器の開発は、2022年4月にAMED「医工連携イノベーション推進事業(開発・事業化事業)(当社が代表機関)」に採択されました。2022年6月に東北大学と共同で基本となる知的財産権を出願し、2023年4月には国際出願を行いました。
(d) RSAI04(嚥下機能低下診断プログラム医療機器)
加齢に伴い口腔機能が低下しますが、その状態(オーラルフレイル)を放置すると摂食障害や構音(発話)障害等多くの身体的、社会的障害、更には全身性の筋肉虚弱(フレイル)につながるため、早期の診断と適切な処置が重要です。高齢社会において口腔機能低下のひとつである摂食嚥下障害は増加し、高齢者の主な死因とされる肺炎の約7割が誤嚥によるとの報告もあります。誤嚥性肺炎の予防には嚥下機能低下の早期発見とリハビリテーション等の治療介入が重要ですが、現在では、嚥下内視鏡検査、嚥下透視検査方法等患者負担の大きい嚥下評価法しかありません。嚥下と会話で使用する器官は舌や口腔・咽頭等共通部分が多く、会話から嚥下機能を評価できる可能性に着目し、嚥下機能障害を会話時の音声データから評価可能なAIを開発しています。東北大学の複数の診療科(耳鼻咽喉科、歯科、医工学部リハビリテーション科)及びNECと共同で、東北大学病院嚥下治療センターに受診する患者の話す音の全周波数を時系列データの分析に特化したAIエンジン(時系列モデルフリー分析)で解析することで、健常者の音声のベースライン(性差、年齢差、個人差等)を確認し、健常者の発音と患者の発音の違いを検出することで、嚥下機能の低下を診断するAIが開発できています。今後、嚥下機能低下を有する高齢者データで学習させることで、実用化に向け開発を進めます。2023年12月にPMDA開発前相談を終了、今後、臨床性能試験実施のためのPMDAプロトコール相談を予定しています。2023年3月に東北大学と共同で基本となる知的財産権を出願しました。また、2024年3月には新たな特許を追加出願しました。
上記の実用化に向けたプログラム医療機器の開発研究に加えて、下記の複数の探索的な研究開発を進めています。
(e) 探索研究(乳がん病理診断プログラム医療機器)
乳がんは日本人女性のがんの中で最も患者数が多く、生涯に乳がんを患う日本人女性は11人に1人と言われています。しこりや画像診断等で乳がんが疑われた場合、最終診断は病理診断ですが、診断には経験を積んだ病理医が必要です。当社は東北大学と共同で、病理画像から乳がんの病変部を検出するAIを開発しています。現在、探索研究段階では、検出モデルを3クラス(良性、非浸潤がん、浸潤がん)または2クラス(良性、悪性)で分類し、それぞれ88.3%と90.5%での診断精度を達成しました(科学誌『Journal of Pathology Informatics』に掲載)。今後、乳がん領域では「術中迅速病理検体画像」を用いたAI診断にも取り組む予定です。
(f) 探索研究(心臓植込み型電気デバイス患者における不整脈・心不全発症予測プログラム医療機器)
心不全患者には植込み型除細動器(ICD)、両心室ペースメーカ(CRT-P)など心臓植込み型電気デバイスが広く使用されます。これら心臓植込み型電気デバイスを活用することで、自宅にいながら、刻々と変化する生体情報の経時的な遠隔モニタリングが可能となります。当社は東北大学と共同で、心臓植込み型電気デバイス患者の遠隔モニタリング情報を活用し、心不全及び致死性不整脈の発症を事前に予測するAIを開発しています。
(g) 探索研究(人工心臓患者における血栓発生予測プログラム医療機器)
植込み型補助人工心臓は末期心不全患者の生命維持には欠かせない治療ですが、血栓など合併症が課題です。当社は、株式会社ハイレックスメディカル及び東北大学と共同で補助人工心臓の血栓発生を予測するAIの開発に取り組んでいます。2022年9月に本AIの開発等に関して株式会社ハイレックスコーポレーション及び株式会社ハイレックスメディカルとの共同研究契約を締結しました。
e.診断薬:血中フェニルアラニン測定キット
フェニルケトン尿症は、適切な治療を行わないと知能発達遅延等の重篤な症状が出現します。1977年に生後マス・スクリーニング検査が実施され、ほぼ全ての患児が早期に発見されるようになりました。フェニルケトン尿症の治療には、フェニルアラニンを制限するための食事療法を正しく行う必要があり、定期的な医療機関での検査が必要ですが、数か月に1度の採血では、きめ細やかな食事管理ができません。自宅で簡便かつ正確に血中フェニルアラニン濃度を測定するシステムを、東北大学と共同で開発しています。糖尿病患者での自己血糖管理のように、家庭でいつでも自己測定が可能になれば、フェニルケトン尿症を有する患者のきめ細やかな食事管理が実現できます。2021年5月には診断薬に関する特許を東北大学と共同で出願し、同年6月にはPMDA相談を行いました。2023年5月に本研究内容が科学誌『Molecular Genetics and Metabolism Reports』に掲載されました。
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