テクノプロ・ホールディングス 【東証プライム:6028】「サービス業」 へ投稿
企業概要
当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりです。なお、文中における将来に関する事項は、本書提出日時点において入手可能な情報に基づき、当社が合理的であると判断したものです。
(1)会社の経営の基本方針
当社グループは、企業理念体系に掲げる存在意義「パーパス」の実現を通じて、持続的に成長し、中長期的な企業価値を向上させることを経営の基本方針としています。
「テクノプロ・グループ・パーパス」
『技術』と『人』のチカラで
お客さまと価値を共創し、
持続可能な社会の実現に貢献する。
「タグライン」
(2)目標とする経営指標
当社グループは、売上収益、営業利益及び親会社の所有者に帰属する当期利益の中長期的な成長を重視しています。また、当社グループの売上収益と営業利益の大半を占めるR&Dアウトソーシング事業・施工管理アウトソーシング事業においては、売上収益の構成要素である、総在籍技術者数、稼働率、及び技術者一人当たり売上を重要なKPIとして管理しています。加えて、先行投資を伴う領域(M&A、技術者の採用・育成等)については、価値創造の観点から、資本コストを意識したROIC(投下資本利益率)指標を重視しています。
(3)外部環境
新型コロナウイルス感染症による日本・世界経済への直接的影響はほぼ緩和され、当面は、国内における技術者派遣業務への追い風傾向に変化はないと想定しています。一方、中長期的には、構造的な技術者不足問題は解消されず、雇用法制に起因する国内企業における技術者外部依存は継続する見込みです。特に、ローコード/ノーコード開発や生成AI等、常に進化を続けるデジタル技術を自社に取り込むための、IT技術者ニーズはさらに高まると考えています。
総じて、日本を取り巻く中長期的トレンドとして、次のようなことが予想されます。
a.技術変化:デジタル技術・環境技術の開発加速と普及、開発の自動化
b.労働環境・市場の変化:構造的な技術者不足の継続や少子高齢化の進展、雇用の流動化と働き方の多様化
c.グローバル化:開発の海外移転や海外におけるデジタル技術の進展、グローバルな企業間競争の激化
このトレンドは、当社グループを取り巻く中長期的な需要と供給に、下記の影響を及ぼすと考えられます。
<需要面>
デジタル化ニーズの高まりを背景として、顧客の情報システム部門に加え、事業部門や現場でのデジタル化が浸透するとともに、全産業とIT産業の垣根が低下し、自前主義からの脱却(オープンイノベーションの浸透)が進みます。加えて、人材・役務の提供だけでなく、成果物、さらには課題の発見・解決策を求める顧客ニーズが高まります。
<供給面>
構造的な技術者不足を背景に、求職者優位の技術者採用市場が継続し、優秀な技術者獲得競争が激化していきます。加えて、フリーランス、副業といった多様な雇用形態が徐々に浸透し、シニア・女性・外国籍といった技術者供給源の重要性が増します。また、クラウドやリモートワーク・ツールの浸透により、ニアショアやオフショアでのサービス提供の可能性が高まり、特に、海外の技術者をいかに有効活用できるかが、供給制約への対処の一つとなっていきます。
(4)会社の経営戦略
上述の中長期的な外部環境を踏まえると、当社グループの経営戦略の焦点は、いかに魅力的な仕事を採り・創り、有能な技術者を惹きつけるか、になります。
そのためには、コア事業である国内技術者派遣業務で培った、大手顧客基盤とのリレーション、IT系技術者の規模、技術者育成システム、多様な技術・産業領域をカバーする技術者群、豊富なオーダーを背景とする採用力といった、従来のケイパビリティとコアコンピタンスだけでは不十分であり、「デジタル技術に対応した人材育成やリスキリング力」「国内の供給制約や雇用形態を超える技術者獲得力」「技術知見の組織的な蓄積と活用力」「顧客課題の発見や解決策提案と実行力」を新たに強化していく必要があります。
当社グループは、これらケイパビリティの進化に立脚して、コア事業である技術者派遣業務を常に進化させていく必要があり、コア事業の「質」をより重視した成長を図るとともに、「多角化」ではなく『進化』を軸とした事業変革を推進し、中長期的な需要と供給の変化を先んじてとらえた事業拡大とビジネスモデルの変容を目指します。
上記の観点から、以下を主な内容とした、2022年6月期から始まる5ヶ年の中期経営計画『Evolution 2026』を策定し、遂行しています。
(ア)コア事業の基本運営方針
デジタル化や技術者に対する旺盛な需要を背景に、コア事業の短期的成長はまだ十分見込まれます。しかし、中長期的には、技術革新の加速、開発の自動化や海外移転、技術者採用難と賃金上昇等が顕在化した場合には、現行の従来型派遣モデルのまま、売上成長のドライバーとして技術者数の増加、すなわち「規模」のみを追い求める事業リスクは大きくなると考えます。また、同業他社との差別化要因や競争優位の源泉として、これまでの技術者の採用力や顧客への配属力から、人材開発/育成機能の重要性が一段と増しています。採用面においては、国内需給ギャップを解消するため、育成前提の技術者や高スキルの外国籍技術者の採用を強化します。さらに、現在主体とする正社員雇用形態に加え、雇用の流動化や働き方の多様化をとらえた人的資本の活用を志向します。育成面においては、技術者育成機能の強化(教育体制、研修コンテンツ開発、キャリアプラン助言等)やOJT育成環境の拡大(チーム派遣、請負・受託、アライアンス等)を推進します。営業面においても、IT領域における新規顧客セグメント(流通や金融等の非製造業、公共等)を開拓するとともに、顧客接点を活かした、現場技術者による新規オーダー・顧客課題の捕捉を促進します。
(イ)コア事業の進化の方向性
コア事業のバリューチェーン(採用・育成・配属)及び顧客基盤・技術者基盤をレバレッジすることで、「多角化」ではなく『進化』の方向性として、ソリューション事業、技術者育成事業、及びDX推進事業のこれまで以上の成長を図ります。
<ソリューション事業>
従来型技術からデジタルへといった技術領域の拡張、単なる人材だけではなく成果・構想へといったデリバリーの拡張を推進し、デジタル要素技術の役務提供サービス、従来技術にデジタル要素技術を融合した開発サービス、デジタル系グローバル製品に係る技術開発サービス等を提供いたします。ソリューション事業においては、注力するデジタル要素技術・ソリューションを具体的に定めるとともに、グローバル展開を志向することで、国外の技術者・開発ノウハウの活用を推進します。
<技術者育成事業>
当社グループの技術者育成資源を集約化したうえで、コア事業の営業チャネルと技術者育成ノウハウを活かし、技術者育成カリキュラムやコンテンツの企業向け外販を推進します。さらには、上流工程としての技術者育成コンサルティングや技術者育成IT基盤を提供することによって、当事業を当社グループの収益源の柱の一つへと育てます。
<DX推進事業>
技術者の採用から配属・退職に至るライフサイクルデータを一気通貫で蓄積・分析できることは、当社の競争優位性の一つです。これまで開発を進めてきた「タレントマネジメントシステム」を一段と進化させ、現場にて実効性のある分析・施策の仮説検証に基づくAIエンジンを開発し、当社グループのデジタルトランスフォーメーションを実現します。加えて、プロフィットセンター化を視野に、データ知見を活用したビジネスモデルを中長期的に構築していきます。
現行の事業セグメントとの関係では、「ソリューション事業」と「DX推進事業」は、R&Dアウトソーシング事業、施工管理アウトソーシング事業、及び海外事業に包含され、「技術者育成事業」は、国内その他事業に包含されます。それぞれの主な短中期的な取組みは、以下のとおりとなります。
① R&Dアウトソーシング事業・施工管理アウトソーシング事業
当社においては、技術者一人当たり売上の向上や間接業務効率化等のオペレーション改善を通じて、収益性を高める余地はまだ十分にあると考えています。したがって、多様な採用チャネルの活用と技術者リテンションの取組み強化による技術者数の増加を図るとともに、シフトアップ・チャージアップの推進により、成長と収益性向上を実現いたします。そのためには、注力する要素技術やソリューションを明確化したうえで、技術者育成制度や先端的技術力を有するベンチャーとのアライアンス、有望ITベンダーとのパートナリングといった、外部エコシステムを活用したデジタル技術の習得や役務提供を超えるソリューションの提供が不可欠となります。さらには、情報システム投資によるコアプロセスのIT武装化により、技術者の採用・育成・配属・退職等に係る膨大なデータを蓄積・分析することで、より効果的なビジネスプロセスを実現いたします。
② 国内その他事業
人材紹介、技術者向け教育研修はそれぞれ、主力事業であるR&Dアウトソーシング事業・施工管理アウトソーシング事業のコアプロセス(採用・育成)の一翼を担う業務であり、セグメント間のシナジー創出を強化し、当社グループによるデジタル技術者の獲得、技術者の高付加価値化・ソリューション化に寄与することが基本方針となります。加えて、人材紹介では、独自の技術者・外国籍データベースやオフショアオペレーションを活かした差別化を志向いたします。また、技術者向け教育研修では、R&Dアウトソーシング事業の技術者育成で得られた知見・ノウハウを活かし、デジタル技術領域の育成メニューやe-Learningを充実させ、企業顧客への外販を強化いたします。
③ 海外事業
当社グループの海外拠点は、ローカルベースでのビジネス(現地の技術者を現地の顧客に配属)を主力展開してきました。今後は、国内のソリューション提供に資するデジタル技術・技術者資源の獲得を目的とした拡大を進めます。デジタル技術での開発力とコスト競争力といった観点から海外拠点を拡充し、オフショアリングモデルと新技術領域でのCenter of Excellence(COE)拠点の構築を推進することで、海外技術者基盤を活かしたソリューションの提供、コストアービトラージを享受する開発体制の強化、並びに技術・ノウハウの高度化及び技術者の国内移転を加速します。
これらの戦略を遂行するにあたり、具体的な中期事業戦略との整合性を重視したM&Aは重要な手段であると位置付けており、積極的に活用していく方針です。当社グループでは、中期経営計画の5ヶ年累計で400億円のM&A投資枠を設定し、以下のターゲット領域に示すように、国内ソリューションや海外オフショアの中核拠点、補完的なデジタル要素技術や特定のソリューション・顧客セグメントの獲得を推進します。また、M&Aを実行するに際し、買収後3年以内のROIC(投下資本利益率)10%達成、継続的・反復的な買収、1件当たりの買収額は時価総額の5%を上限とする、といった厳格な財務規律を定めています。
<M&A・アライアンスのターゲット領域>
現行の中期経営計画は、2021年8月10日に公表した「テクノプロ・グループ 中期経営計画(FY22.6-FY26.6)『Evolution 2026』」に詳細を記載しています。
2023年6月期の実績及び2024年6月期の予想数値は、以下のとおりです。
| 2021年6月期 (実績) | 2023年6月期 (実績) | 2024年6月期 (予想) | 2026年6月期 (計画) | 5ヶ年平均 伸び率 |
売上収益 | 1,613億円 | 1,998億円 | 2,200億円 | 2,500億円 | 9.2% |
営業利益 | 194億円 | 218億円 | 245億円 | 320億円 | 10.5% |
親会社の所有者に帰属 する当期利益 | 132億円 | 153億円 | 167億円 | 220億円 | 10.7% |
(注)1.5ヶ年平均伸び率は、2021年6月期(実績)を起点として算出しています。
2.M&Aの売上収益への貢献は、2026年6月期に合計300億円を見込んでいます。
(5)対処すべき課題
上記を背景に、対処すべき課題として、以下の内容に取り組んでまいります。これらは各事業セグメントに共通するものとなりますが、特に、②及び④についてはR&Dアウトソーシング事業及び施工管理アウトソーシング事業、⑤についてはR&Dアウトソーシング事業、施工管理アウトソーシング事業及び国内その他事業に、主として関連するものになります。
① 外部環境変化への対応
ウィズコロナが常態化する中、当社グループの主要顧客である大手日系企業は、将来にわたる国際競争力を維持するため、積極的な研究開発投資を継続的に行っており、当社グループの持続的な成長の要因となっています。一方で、国内における技術者の供給逼迫や賃金上昇圧力は継続しており、当社グループにとっては、技術者採用費用増加、技術者育成費用増加、技術者賃金上昇、技術者退職リスクの増加、といったリスク要因が顕在化しつつあります。当社グループでは、引き続き、需要の高いデジタル技術領域を中心とした技術者育成への投資継続等、量から質への転換を図る一方で、最適な採用と育成ミックスの実現、採用効率・育成効率の向上を推進することで、短期・中長期での売上・利益双方の成長を目指してまいります。
② 契約単価の改善
| 2019年 6月期 | 2020年 6月期 | 2021年 6月期 | 2022年 6月期 | 2023年 6月期 |
技術者一人当たり売上(千円/月) | 630 | 630 | 634 | 658 | 669 |
(注)2021年6月期までは㈱テクノプロ及び㈱テクノプロ・コンストラクションのみ、2022年6月期以降は国内子会社全てを対象とした売上高合算/Σ[月末稼働技術者数]により算定
当社グループの技術者一人当たり売上は、働き方改革関連法の影響による残業時間の削減や多くの新卒技術者の入社等が要因となり、2020年6月期まで横ばいで推移してきました。コロナ禍における2021年6月期からは、新卒技術者を含め低スキル技術者の採用を抑制したことにより、既存技術者の契約単価上昇が新規採用による希薄化影響を上回り、また、新中期経営計画『Evolution 2026』で打ち出しているソリューション事業の拡大や技術者育成が寄与し、2023年6月期には669千円/月まで契約単価を上昇させることができました。当社グループでは、中長期的技術者需給や同業他社の水準を勘案すると、技術者一人当たり売上は今後も改善の余地があると判断しています。引き続き、『Evolution 2026』で打ち出しているソリューション事業の拡大や教育研修の充実等を通じ、継続的に顧客に対する付加価値を高めていくことに加え、戦略的シフトアップ(技術者を同一案件に長期間固定させず、技術者のスキル向上に応じた適正価格水準の案件への配属)を進め、契約単価の上昇に取り組んでいます。
③ 高付加価値技術者の確保と育成
人材の確保は当社グループの成長の礎であり、高付加価値技術者をいかに多く獲得し、あるいは在籍技術者のスキルをいかに高めていくかは、重要な経営課題の一つです。技術者採用市場は近年逼迫しており、従来主力のWeb媒体等に加えて、知人紹介や人材紹介会社等の多様な採用チャネルを活用するとともに、外国籍技術者の採用も推進し、ソリューション事業拡大に向けた質重視の採用強化に努めています。また、中長期的に需要が見込まれるデジタル技術を主体としたターゲット要素技術領域(AI/データサイエンス、クラウド、サイバーセキュリティ、IOT、5G等)における技術者育成を、当社グループの教育研修基盤と戦略的アライアンスを活用しつつ進めることで、技術者の高付加価値化を図り、技術者人事制度の充実等を通じて、技術者のリテンションを推進してまいります。
④ IT技術の活用とプラットフォーム化
技術者派遣業務においては、採用母集団の形成、スクリーニングと採用、配属(マッチング)、リテンション、研修、育成・要員計画といったコアプロセスが存在し、IT技術の進展により、各プロセスにおける技術者情報を可視化し、一気通貫で活用する仕組みを推進しています。技術者情報の収集・蓄積・分析をデータサイエンスやAIも活用しつつ充実させることで、採用効率の向上、効果的な人材育成、適正な技術者配属(契約単価向上)等、コアプロセスを強化するための効果的な打ち手を導入いたします。また、中長期的には、これらの仕組みやデータ分析で得られる知見の技術者育成事業への活用や、さらなる事業化(DX推進事業)を図ります。
⑤ 業務プロセスの向上
当社グループの本社及び事業所の事務業務は、プロセス・ルール・帳票の標準化を進めることにより、まだ生産性を向上できる余地があります。営業・人事・会計といった当社基幹システムの抜本的な見直しを進め、ワンシステム化・IT共通基盤の強化を目指しています。情報システムへの投資による基幹システムのバージョンアップとともに、内部統制を具備した事務の標準化・効率化を推進し、事務機能の強化を図ることで、事業の拡大・進化に伴うオペレーティングレバレッジの向上を実現いたします。
⑥ コア事業進化のための投資推進
ソリューション事業、技術者育成事業、及びDX推進事業を加速するうえでは、人材獲得・育成、IT投資、M&A投資等の先行投資が必須となります。コア事業である国内技術者派遣業務で培った資産・ケイパビリティを活かし、これら先行投資によりコア事業を進化させることが、当社グループの中長期的な成長と価値創造の鍵になります。
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