企業兼大株主セイコーエプソン東証プライム:6724】「電気機器 twitterでつぶやくへ投稿

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企業概要

(1)研究開発の考え方と体制

 エプソンは創業以来、「省・小・精の技術」に代表される優れた技術を持ち、それをどう社会に役立てていくか、という考え方で価値を提供してきました。そして長期ビジョン「Epson 25 Renewed」では、社会課題を起点とし、解決にはどんな技術が必要かを考える技術開発へシフトしました。

 技術開発において最善の開発シナリオをつくるうえでは、顧客価値や事業性などを加味したうえでエプソンの実力を客観的に評価し、その結果生じたありたい姿とのギャップを分析します。現状把握のなかで、「クリアできなければ企画が成り立たない課題」をボトルネックとして抽出し、解消策を考えながら、目的達成に向け複数のシナリオを準備する手法に取り組んでいます。複数シナリオの考え方は、開発に成功した際の成果がもっとも大きく見込め、最優先で取り組むべきものをプランAとしながらも、QCDいずれかの達成レベルは下がるが、実現の障害が軽減され主目的を達成できるものをプランB、Cとしてあらかじめ考え、商品化・事業化にたどり着くための近道として同時に想定します。ボトルネック解消の具体策は、社外パートナーとの共創・協業も含め検討しています。

 共創については、技術開発における重要なファクターとし、開発の初期段階となる試行錯誤のプロセスから多くの知見ある方々の参画により、検証をしっかり行いながら開発を進めていくという「開発のフロントローディング化」を進めています。これにより、課題を解決するサイクルを早く回して開発の質を高めることで、商品化・事業化までのスピードアップを図っていきます。

 エプソンは、研究開発を経営基盤強化の取り組みのひとつとして位置付け、イノベーションを実現するための基盤技術、コア技術、製品技術の進化を推し進めています。なかでも今後はものづくり力に加え、材料、AI、デジタル技術の強化により、事業強化や新規事業創出のための技術基盤の構築を進めます。主に各事業における製品の競争力向上などを事業部開発部門で行い、複数事業にわたる基盤技術や、長期に取り組む必要がある新規技術、新領域に対応するための技術開発を本社開発部門で行うなど、役割分担を明確にしながら連携のうえ取り組んでいます。

 エプソンは、技術開発を通じた社会課題の解決を目指し、新しい発想や、やり方に果敢にチャレンジしていきます。

(2)研究開発費

 当連結会計年度の研究開発費総額は443億円であり、売上収益の3.3%にあたります。各セグメントの内訳は、プリンティングソリューションズ事業が161億円、ビジュアルコミュニケーション事業が57億円、マニュファクチャリング関連・ウエアラブル事業が70億円、その他および全社が154億円です。なお、その他および全社の研究開発費には、事業強化や新規事業創出のための技術基盤の構築に必要な研究開発などを含みます。

■セグメント別研究開発費

セグメントの名称

研究開発費(億円)

プリンティングソリューションズ事業

161

ビジュアルコミュニケーション事業

57

マニュファクチャリング関連・ウエアラブル事業

70

その他および全社

154

合計

443

(3)セグメント別の研究開発の目的および成果

①プリンティングソリューションズ事業セグメント

<オフィス・ホームプリンティングイノベーション>

 当領域は、インクジェット技術・紙再生技術とオープンなソリューションにより、環境負荷低減・生産性向上を実現し、分散化に対応した印刷の進化を主導することを目指しています。そのために、エプソン独自のインクジェット技術「Heat-Free Technology」による商品ラインアップの拡大、ソリューションの提供を進め、環境性能の訴求によるレーザープリンターからインクジェットプリンターへのテクノロジーシフトの実現に取り組んでいます。

 こうしたオフィス・ホームにおけるプリンティングイノベーションの実現に向け、A3カラーインクジェット複合機の中速帯機種(40~60枚/分の印刷速度帯(※1))となる新商品<LM>シリーズを発表しました。設置場所を選ばないコンパクト設計で、ビジネスで必要とされる印刷速度と高画質を両立し、一般的なオフィス向けのレーザー方式のプリンターと比べ低消費電力、省資源化を実現することで、利用における環境負荷低減を後押しし、業務における生産性の向上や、人々の働き方が大きく変わるなかでの企業における印刷の分散化への対応をサポートしていきます。

 紙再生技術では、乾式オフィス製紙機「PaperLab」の新コンセプトモデル(開発中)を発表しました。水を使わず(※2)多様な素材を繊維化し結合・成形を行う独自技術「ドライファイバーテクノロジー」によって、新たな紙の循環利用サイクルを提供するための取り組みを進めています。紙の再生工程では、繊維化した古紙を結合する際に使用する「結合材」を天然由来の材料に置き換え、再生した紙を繰り返し循環できるようにすることで、さらなる環境負荷の低減に貢献します。

※1 A4横片面。印刷スピード算出条件はエプソンのホームページ参照

※2 機器内の湿度を保つために少量の水を使用

<商業・産業プリンティングイノベーション>

 当領域は、インクジェット技術と多様なソリューションにより、印刷のデジタル化を主導し、環境負荷低減・生産性向上の実現を目指しています。そのために、多様なメディア・素材への印刷を実現するインクジェット技術のポテンシャルを引き出し、商業・産業印刷のデジタル化を後押しするとともに、分散印刷を支援するクラウドサービス「Epson Cloud Solution PORT」を通じて印刷業務における生産性向上のサポートに取り組んでいます。

 このような商業・産業印刷におけるイノベーションの実現に向け、大判インクジェットプリンターSureColorシリーズに、鮮やかな赤が求められるPOPポスターに適したレッドインク搭載の「SC-T7750DL」、人肌など階調性重視のフォト・グラフィックに適したグレーインク搭載の「SC-P8550DL」を発売しました。両機種は、新たに大容量インクサーバーを搭載し作業者のインク交換を軽減することで、現場の人手不足や限られた工数での作業を支援します。また、従来のインクカートリッジと比較し廃棄時の体積が約10分の1となり、廃棄時の取り扱いの簡便化と廃棄プラスチックの減量化を実現します。

 また、インクジェットデジタル捺染機Monna Lisa(モナリザ)シリーズの新商品として「ML-32000」を発売しました。PrecisionCoreプリントヘッドを32個搭載し、標準モードで毎時423平方メートルの高い印刷生産性を実現するとともに、各プリントヘッドチップの波形を個別に制御する「Dynamic Alignment Stabilizer」技術などで、グラデーションや精緻で複雑な幾何学模様まで、高品質で美しい印刷を実現します。これらの商品を基に、新たなものづくりを目指すさまざまなパートナーとの共創拠点である「インクジェット イノベーションラボ富士見」(富士見事業所)での活動を通じ、インクジェットによるデジタル捺染の拡大を目指します。

 エプソンの大判プリンターを活用するためのクラウドサービスのプラットフォーム「Epson Cloud Solution PORT」では、プリンターの稼働状況の見える化機能、エラーをお知らせする遠隔サービスに加え、新たにプリンターの印刷ジョブを管理する「ワークフローソリューション」と、色合わせの業務を効率化する「カラーマネジメントソリューション」を、有償の月額プランサービスでの提供を開始しました。これにより、働く場所にとらわれない分散印刷を実現します。

②ビジュアルコミュニケーション事業セグメント

<ビジュアルイノベーション>

 当領域は、感動の映像体験と快適なビジュアルコミュニケーションで人・モノ・情報・サービスをつなぎ、「学び・働き・暮らし」を支援することを目指しています。そのために、高画質な大画面を実現するレーザー光源採用の高輝度プロジェクターの開発や、スマート化により使用環境・用途・シーンを拡大する設置性の高いホームプロジェクターの開発に取り組んでいます。

 このような方針のもと、明るく鮮やかな色再現が可能な高輝度モデルのビジネスプロジェクター新商品として、世界最小(※3)120,000lm(ルーメン)の「EB-PU2220B」「EB-PU2120W」を発売しました。両機種はレーザー光源を搭載し、高精細な4K相当の高画質映像を実現します。また、従来機「EB-L20000U」に比べ本体サイズは約64%減(※4)、質量は約50%減(※4)となっており、倉庫保管や配送などに関わるさまざまなコスト削減に貢献します。

 また、ホームプロジェクターでは「EH-LS800B/W」「EH-TW6250」を発売しました。プロジェクターで映画やドラマ、ライブを視聴するなど、大画面映像を楽しむシーンが生活の日常的になってきたなか、テレビ代わりにプロジェクターを使用することや、さらにはホテルやグランピング施設など、ご家庭内以外での利用も増えています。両機種は、本格的なホームシアターを気軽に楽しみたい方、初めて高画質プロジェクターを購入する方に適したモデルとなっています。

※3 発売済み20,000lmの3LCD方式プロジェクター商品の本体(突起部、レンズ含まず)において、エプソン調べ(2022年5月17日現在)

※4 「EB-L20000U」と「EB-PU2220B」との比較(突起部含む、レンズ含まず)

      「EB-PU2220B」:本体サイズW×D×H(mm)586×492×218(突起部含む)本体質量約24.4kg(レンズ含まず)

      「EB-L20000U」:本体サイズW×D×H(mm)620×790×358.5(突起部含む)本体質量約49.6kg(レンズ含まず)

③マニュファクチャリング関連・ウエアラブル事業セグメント

<マニュファクチャリングイノベーション>

 当領域は、環境負荷に配慮した「生産性・柔軟性が高い生産システム」を共創し、ものづくりを革新することを目指しています。今後の事業拡大を見据えた生産基盤強化に向けて、国内のロボット工場を富士見事業所に拡大移転し、ロボットを用いた工場の自動化を実現しました。当工場は技術検証の場としても活用し、エプソンのロボット製品の利用価値を進化させていきます。

<ライフスタイルイノベーション>

 当領域は、匠の技能、センシング技術を活用したソリューションを共創し、お客様の多様なライフスタイルを彩ることを目指しています。ウオッチ分野では、感性に訴えるデザイン・高品質な商品を、お値打ち感ある価格で提供すること、センシング分野では、センシング技術や分析アルゴリズムを活用した新たなソリューションの共創に取り組んでいます。

 センシング分野では、2022年6月25日に開催された、「スワコエイトピークス ミドルトライアスロン大会 2022」において、公式大会では日本初(※5)となる、最先端位置測位テクノロジーを採用したGPSトラッキングシステムによる大会支援を行いました。同システムは、エプソン独自の高精度・低消費センシングデバイスおよび低消費無線通信を複合した「M-Tracer」テクノロジーによって、トライアスロンのような長時間競技でも、リアルタイムで位置や運動情報の計測および可視化が可能なシステムです。今後は、安全・安心な大会運営の支援や、参加者、観戦者への運動情報・位置情報を生かした楽しさによるソリューション提供を目指します。

※5 トライアスロン雑誌Triathlon LUMINA編集部調べ

<マイクロデバイス>

 当領域は、「省・小・精の技術」を極めた水晶と半導体の技術融合の強みを生かし、タイミングデバイス、半導体、センサーにより、成長が著しい高速・大容量通信インフラ、IoT社会、およびモビリティ社会など、スマート化する社会の実現に貢献する商品開発に取り組んでいます。

 タイミングデバイス製品では、小型化が求められる次世代800G光通信モジュール向けに、当社従来品(※6)に対し、体積比で54%の小型化を実現した水晶発振器(SPXO)「SG2016」シリーズを開発しました。同製品は、HFF水晶振動子(※7)とエプソン独自開発の小型発振器用ICを採用し、高周波・高精度および低位相ジッタ(※8)特性を従来品からそのまま引き継いでいます。今後も、エプソンはタイミングデバイスのリーディングカンパニーとして、「デバイス技術によるスマート社会の実現」を目指し、さまざまな電子機器や社会インフラのニーズに対応するデバイスソリューションを提供していきます。

※6 「SG2520EGN」「SG2520EHN」および「SG2520VGN」「SG2520VHN」

※7 フォトリソ加工により、励振部のみを数ミクロンという極薄な構造(逆メサ構造)にすることで、強度を保

 ちながら高周波での基本波発振を可能にした水晶振動子。近傍の高調波成分を抑制することができるため、

 高速・大容量通信の安定に貢献する

※8 クロック周期の揺らぎのことで、画像の揺らぎやデータ転送でのビットエラーなどの原因になることがある

④その他および全社

 当領域は、各事業セグメントに共通する生産技術分野の技術開発や、DX基盤を強化するための技術開発、事業強化のための技術基盤となる基礎研究、新事業に関連する研究開発などに取り組んでいます。

 全社的な取り組みとして、「環境ビジョン2050」の実現に向け環境技術開発を行っており、そのひとつが独自技術「ドライファイバーテクノロジー」の紙以外の素材への応用です。繊維・アパレル業界において、衣類の縫製工程で大量に発生する繊維端材の利用が課題となっているなか、エプソンはコットン端材を原料としてアップサイクルした新たな包装材を実用化しました。この包装材は2022年よりエプソンが販売する一部のウオッチ商品に採用されています。

 エプソンは、脱炭素や資源循環に寄与する環境技術開発のひとつとして、この「ドライファイバーテクノロジー」を活用し、紙の再生や高機能化だけではなく、脱プラスチックを目指した梱包材・建材などの構造材・成形材へ展開することで、地上資源を最大限活用し、地下資源に依存しない循環型経済へ貢献していきます。

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