エアークローゼット 【東証グロース:9557】「サービス業」 へ投稿
企業概要
当社の経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。
(1) 経営方針
当社は、「“ワクワク”が空気のようにあたりまえになる世界へ」をビジョンとしてファッションレンタルプラットフォームの運営を中心に事業を行っているファッションテック企業(※1)です。生活に溶け込むことで社会に根付き、長く愛されるサービスを作ることで、この世界に一つでも多くの笑顔を生んでいきます。そのために、単なる利便性や使い勝手を超えたユーザー体験(User Experience)を追求し、「感動」と「出会い」を届けます。また、「発想とITで人々の日常に新しいワクワクを創造する」というミッションのもと、ビジネスモデルの構想力とシステム開発力、データ分析力を強みとして、人々の生活に寄り添い、ライフスタイルをより豊かにしていくビジョン実現に取り組みます。さらに当社は、すべての人が平等に持っている「時間」の使い方を最適にすることが重要と考えております。限られた人生の時間に対して、増え続けるモノと情報が氾濫する現代社会にあって、「モノとの最適な出会い」を実現し、大量消費社会を変革します。また、人々のライフスタイルがより豊かになるよう、時間価値を向上させる事業を創造し続けます。このような事業を実現するなかで、シェアリングの概念が持続可能な経済社会の創造に結びつくことを信じ、2022年2月には、自社が取り扱う洋服に関する衣服廃棄ゼロの実現を発表するなど、サーキュラー・エコノミー(※2)に立脚したサーキュラー・ファッションに関するサービス開発を継続しております。
インターネットや情報通信デバイスの拡充に伴い情報化が進展し、画一的なライフスタイルから独立した一人ひとりの消費者が、自らが好む商品を探し、出会い、消費していく流れが強まっています。ECの発展はその代表的な例の一つであり、コロナウイルス感染症まん延下での消費動向の変化とも相まって、今後ますますこのトレンドは加速していきます。また、当社はこうした市場環境の変化に際し、個々人の洋服の好みを捉えて商品を推薦し、現物の洋服を届け、着用できる仕組みを開発いたしました。推薦する際には顧客の好みに合わせたスタイリングも同時に提供し、洋服をより楽しく、豊かに消費できるよう付加価値を追加します。当社のサービスでは日常生活における着用後に気に入った商品を購入することもできるため、アパレルECの発展形と捉えることもできると考えております。
さらに、SDGs(※3)の重要性に関する認知が広がっている今日の社会において、単なる所有から共有へというシェアリングエコノミーの概念も同時に重要視されてきております。当社のサービスにおいて購入対象とならなかった商品は当社に返却され、メンテナンスを施したのち、さらに別の顧客に提供される仕組みを伴っており、この新しい経済概念にも合致する事業を展開しております。経営環境の詳細は後掲「(3)経営環境」をご参照ください。
※1 ファッションとテクノロジーから作られた造語で、ファッション業界の活性化を目的にテクノロジーを活用してファッションアイテムやサービスを生み出す仕組みのことを言います。
※2 サーキュラー・エコノミー(Circular Economy)とは、これまで経済活動のなかで廃棄されていた製品や原材料などを「資源」と考え、リサイクル・再利用などで活用し、資源を循環させる、「循環型経済」と呼ばれる経済システムのことを指します。
※3 SDGs(Sustainable Development Goals)とは、2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された持続可能でよりよい世界を目指す国際目標のことを指します。
(2) 目標とする経営指標
「airCloset」は顧客から受領するサービス利用料金に加えて、洋服の販売売上も収益として計上しています。サービス利用料金はサブスクリプション型であり、売上の総額を形作る重要経営指標は①月額会員数としております。また、サブスクリプションビジネスの成功においては、月額会員一人当たり利益(一人当たり限界利益)の向上が最優先となるため、限界利益(売上高からオペレーションコストやスタイリングコストなどの変動費を控除)を月額会員数で除した②一人当たり限界利益を、月額会員数と並び重要な指標であると考えております。①および②の指標を重要なKPIと定め、洋服のシェアリングエコノミーサービス、パーソナルスタイリングサービスの先行者として業界有数の会員数を獲得してきた実績とノウハウを最大限に活用し、より一層充実した顧客基盤の確立を目指しています。
①月額会員数については、従来同様に獲得チャネルの多様化・強化を進めてまいります。特に、非広告手段の拡大とサイト流入におけるCVR(コンバージョンレート)を高めてまいります。また、既存会員様の継続率の改善についても継続して取り組んでまいります。②一人当たり限界利益についてはアップセル・クロスセルの機会増進や顧客ロイヤリティーの強化によって改善を推進してまいります。月額会員数の継続的な増加と一人当たり限界利益の改善が成長戦略の基本方針となります。なお、一人当たり限界利益の改善に向けてオペレーションの継続的な効率化を行っており、実際に1配送当たりオペレーションコストの低減(2024年6月期は2019年6月期対比13%の削減)を達成し、一人当たり限界利益の改善が図られています(同年度比30%の改善)。2025年6月期においては、一人当たり限界利益は過年度同水準を見込み、主に月額会員数の増加により成長を図ってまいります。
(3) 経営環境
当社事業に関わる重要な市場として①シェアリングエコノミー市場と②スタイリングEC市場の二つを想定しております。これらの市場において、独自に開発・運用している循環型の物流プラットフォーム、パーソナルスタイリングノウハウ、そしてデータ活用によって生み出される高い顧客満足度等の強みを競争優位性の源泉とし、事業展開を継続していきたいと考えています。当社の強みについては、「第1 企業の概況 3 事業の内容 (3)当社の特徴」をご参照ください。
① シェアリングエコノミー市場
当社を取り巻く事業環境は、シェアリングエコノミー協会が株式会社情報通信総合研究所と共同で調査し2023年1月時点のものとしてまとめた「シェアリングエコノミー関連調査結果」によると、2022年度のシェアリングエコノミー市場規模の合計で2兆6,158億円、高位推計では2032年には15兆1,165億円に上るものとされており、活況を呈しております。一方で、ベンチャー企業はもとより、既存の大手事業会社による当分野への市場参入及び事業強化により、競争の激しい状況が続くものと予想されます。
② スタイリングEC市場
矢野経済研究所レポート及び経済産業省「日本ファッション産業の海外展開戦略に関する調査」によると、2019年の国内のファッション市場の市場規模は約9.2兆円とされていました。一方、矢野経済研究所刊行の「2023 アパレル産業白書」ハイライトによると、2022年の国内アパレル総小売市場規模は前年比105.9%の8兆591億円とされています。ファッション市場へのCOVID-19感染症の蔓延による消費動向の変化が原因と推測される文脈で、マイナス影響が報告されていますが、感染症対策の進展とともに一定程度は過去水準に向けて回復することを想定しています(※1 TAM)。また、「airCloset」の中心的な顧客層にあたる25歳から49歳までの女性人口を前提に、有職者であり世帯年収400万円以上の人口を算出するとおよそ9,676千人となり、これに当社の顧客当たり平均売上(※2 ARPU)を乗じて得られる982億円を当社の行うスタイリングEC市場の想定規模と考えております(※3 SAM)。上記矢野経済研究所レポートによるとアパレル市場全体の市場規模は2014年から2022年までの期間において9.1~8.5兆円の区間を推移し横ばいしているものの、EC比率は年々上昇しており、「経済産業省 令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査))」によると、新型コロナウイルス感染症以前の2015年時点の約9%(1.4兆円)から2022年には21.6%(2.5兆円)に達していることが報告されており、アパレル市場のEC化率は継続して増加傾向にあります。当社は、このアパレルEC市場の中でも「試着できない」、「ネットで選ぶのが面倒」などのECによる課題点を克服できるチャネルとして、スタイリングECが機能するものと考えております。
※1 TAM(Total Addressable Market)とは、ある市場の中で獲得できる可能性のある最大の市場規模、つまり商品・サービスの総需要のことを言います。
※2 ARPU(Average Revenue Per User)とは顧客当たり平均売上のことを言います。
※3 SAM(Serviceable Available Market)とは、TAMの中で当事業が対象とする部分の需要のことを言います。
※1 総務省人口統計より当社作成(2021/01/01時点)
※2 矢野経済研究所 「2023 アパレル産業白書」
※3 内閣府「男女共同参画白書令和三年版」
※4 政府統計の総合窓口(e-Stat)「家計消費状況調査 平成29年改定(2015年1月~) 総世帯」2020より計算
※5 2024/6月期における売上/期末会員数でARPUを試算
(4) 中期的な会社の経営戦略
当社の成長戦略の基本方針は、以下の通りです。
「モノとの最適な出会い」を提供できるビジネスモデルは、国内外問わずエアークローゼットが先行事例です。パーソナルスタイリングをサブスクリプション型のレンタルサービスにより実現し、気に入ったものについては購入することが可能であるビジネスモデルをより一層洗練することにより、パーソナライズ市場の国内シェアNo.1を獲得しアジアを狙うFIRST MOVERになることを目指します。そのために、UXを中核に、技術革新、社会情勢を踏まえ様々なサービスの開発・提供を行い、成長を企図します。
上記を実現するために必要だと考える今後の中期的な経営戦略は、以下の通りです。
① 女性への認知拡大による成長
株式会社インテージの調査における全国女性の「airCloset」の認知度は約4%であり(※)、今後も当該認知度の拡大及び事業領域の拡大により成長を図ることが出来るものと考えています。
(※)2021年1月15日~2021年1月19日実施
② 事業領域の拡大(セグメント展開・物流プラットフォーム展開)
具体的にはスタイリストが顧客とメーカーを仲介する「パーソナルスタイリング」の提供基盤と、洋服やライフスタイル商材をサブスクリプション型でレンタル・販売する「物流プラットフォーム」の2点を強化してまいります。
a.メンズ・ブランド指名等の他セグメント展開
メンズ領域やシニア・キッズ領域などのセグメント拡大や、現行のレディース領域を含め取り扱う商材のラインナップの追加(ビジネス向け、オケージョナル(※)向け、高級ラインなど)に加え、レンタルサービスのプラットフォーム展開等を想定しています。女性向けのサービスとして蓄積してきた洋服のレンタル・スタイリングノウハウを最大限活用し、アクセサリーなどの取り扱い商材の拡充にとどまらず、メンズやキッズなどの隣接セグメントを開拓してまいります。当社がパーソナルスタイリング事業の先行者として蓄積してきたノウハウを一層深化・発展させることにより、他社サービスとの差別化を図ってまいります。
※ オケージョナル(occasional)とは、不定期に起きるもの、あるいは発生頻度が低いものを指す言葉で、転じて入学式や卒業式などの特別な場面に着る洋服のことを指します。
b.物流プラットフォーム展開
商品の個品管理を前提とするレンタル・メンテナンス両機能の一層の高速化・高品質化・低コスト化を企図した改善活動を推進してまいります。なお、物流プラットフォームの展開については、EC物流市場の中でもファッションEC物流市場を狙う新たな事業の柱として推進していきます。また、前掲FaaS型のサービス基盤を自社事業のみならず、外部企業に展開していくことを検討しており、他社ブランド各社の連絡事業参入における物流基盤提供や、欧米同様の返品率を想定したファッションEC業界に対して、保管・発送・返品・メンテナンスなどの各機能を提供することも視野に入れております。また、クリーニングに関しては個人顧客から法人顧客まで、自社開発したクリーニング機能をサービスとして提供することが可能になります。物流の取扱量の増加はスケールメリットによって、「airCloset」事業の変動費の低減にもつながります。
③ アジア展開
既に実現済みの施策も含め、既存のサービスラインをアイテム軸、セグメント軸、地域市場軸で拡大する方針を推進しながら、日本の製品・ファッションセンスに対する親和性が高いと考えられるアジア諸国の市場をターゲットに、海外展開を企図して新規顧客の獲得を加速します。クリーニングの付帯サービスなど、洋服そのものだけではなく、パーソナルスタイリング事業の過程で得られた強みを生かした施策展開も視野に含めます。
以上の中期戦略は下図のようにまとめられます。
■ 認知拡大と事業領域拡大による成長イメージ
(5) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社は、「時間価値」の向上をビジョンとしています。すべてのステークホルダーが関与する時間を有意義にし、その価値を最大化することを目指しています。そのため、お客様の顧客体験(UX)を中心に考えたサービスの提供を重視してまいりました。
市場での存在感を高めるため、創業当初から当社独自のプラットフォーム構築を構想・実現してきました。また、ファッション業界において課題の多いIT活用(データ活用・人工知能(AI)の活用等)を徹底して行い、UXの向上と効率化、新たな価値の創造を目指します。
具体的なプラットフォーム強化に向けて、これまで取り組んできたairCloset事業・airCloset Mall事業・Disney FASHION CLOSET事業のさらなる強化に重点を置いています。これにより、既存の事業基盤を一層強固にし、競争力を高めます。また、メンズやその他セグメントの展開や、オケージョンレンタル事業に向けた準備も進めており、新たな領域での事業展開を計画しています。
上記を踏まえ、今後の戦略の重要点を、プラットフォーム戦略による拡大(ファッション以外の領域も含む)、お客様の会員システム(サブスクリプション等)による経済圏の確立、先端的なIT活用(データ、AI活用含む)と整理しております。
これらをより堅固なものにするための課題を以下のように捉えております。
今後の成長に向けては、既存のレディース領域の事業を中心にセグメント展開及びプラットフォーム展開により成長する方針を基本方針とし、具体的には以下の課題に対処する必要があると考えております。
① 当社サービスの認知度の向上
当社は主にオンライン広告などのWEBマーケティングの手法を通じ、「airCloset」サービスの認知度を徐々に高めてまいりましたが、経営戦略に沿って今後の事業拡大及び競合企業との差別化を図るにあたり、当社サービスの要諦であるパーソナルスタイリングの魅力、自宅に洋服が届く便利さをより一層、認知させていくことが重要であると認識しております。
また同時に、費用対効果を慎重に検討したうえで適切な媒体を選択し、足元のトップライン成長率だけでなく、中長期的な成長に向けた利益を生む仕組みの強化を測れるよう、広告宣伝やプロモーション活動の質を改善してまいります。
② システム及び物流機能の強化
当社の主要事業はインターネット上にてサービス提供を行っていることから、安定した事業運営を行うにあたっては、アクセス数の増加等を考慮したサーバー管理や負荷分散が重要となります。また、ユーザーの増加に合わせた物流機能の強化が重要であると認識しております。また、当社のビジネスモデルにおける物流機能には保管・出庫のみならず、返却物の管理やメンテナンスも含まれるため、その運用精度とコスト管理を追究することが経営上特に重要な要素となります。今後におきましては、引き続きシステムの安定性確保及び効率化、物流機能の強化に取り組んでまいります。
③ プラットフォームサービスの強化
当社は、顧客の好みと当社の取り扱う洋服に関するデータを統合し、スタイリストがネットワーク上で効率的に商品の推薦ができるスタイリング提供システムに係る特許を取得し、自社利用のみならず、モノのレンタルに関して、他企業にも展開できる基盤を有しています。また、当社はレンタル商品の返却後のメンテナンス処理などを効率的に行う「還流物流」を実現することができる倉庫管理システムについても特許を取得しており、上述のスタイリング提供システムと合わせ、プラットフォームサービスとしての展開可能性を強みとしています。当社の中期的な戦略上の重要項目である同プラットフォームの利用拡大に際して、他社様との具体的な協業事案を増やしながら、今後も一層、拡大整備を行ってまいります。
④ 「airCloset Mall」等の新規事業に関する商品展開の強化
当社が経営方針に謳う「“ワクワク”が空気のようにあたりまえになる世界へ」のビジョンの実現に向けてさらなる事業拡大を行うためには、パーソナルスタイリングの要素や自宅に洋服が届く便利さを基軸に、これまでの主要商品であるアパレル以外の生活商材も含めたユーザーのトータル・ライフスタイル・サポートのニーズを満たしていくことが重要であると認識しております。当社はすでに「airCloset Mall」事業としてこれらの生活商材の取扱いを広げておりますが、これまでに構築してきた各パートナー企業様との関係を一層深化させ、魅力的な品ぞろえを実現することが出来るよう努めてまいります。
⑤ 優秀な人材の確保と組織力の強化
今後の事業拡大及び収益基盤の拡充にあたり、優秀な人材の確保及びその定着を図ることは引き続き重要であると考えております。そのため、当社は継続的に採用活動を行うとともに、適正な人事評価を行い、優秀な人材の確保に努めてまいります。また、従業員のモチベーションを企業成長における重要指標と捉え、2016年より従業員アンケートによる測定を継続しており、その結果を高く維持しているほか、週次の全社会議や年2回の全社合宿等、従業員のコミュニケーション促進施策に力を入れてまいりました。今後も引き続き、人材の教育・育成を進めていく方針です。
⑥ 内部統制による業務の標準化と効率化
今後の事業拡大にあたり、業務の標準化と効率化の徹底が、継続的な成長を左右するものと考えております。このため内部統制体制の強化を通じ、コンプライアンスの徹底だけでなく、業務効率の改善を進めてまいります。
⑦ 財務上の課題について
弊社では、新規会員獲得に関する広告宣伝費や今後の成長に向けたレンタル用資産の購入といった先行投資により、2024年6月期まで連続した当期純損失を計上しております。一方で、先行投資に関しては今後の資金繰りに支障が無いように取引金融機関と連携しております。また、当該先行投資の結果として売上も伸長しており、収益力も高まっております。そのため、現時点において財務上の課題は認識しておりません。
今後もプラットフォームを活用した新規事業の開発等に係る先行投資を継続することを前提としております。そのうえで、会員獲得効率の改善に注力し、airCloset事業については営業利益の黒字転換を目指し、中長期的な成長に向けた活動に注力したいと考えております。営業活動によるキャッシュ・フローの水準を注視し、金融機関との協議を継続することで引き続き十分な運転資金を確保できるものと判断しております。
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