大同特殊鋼 【東証プライム:5471】「鉄鋼」 へ投稿
企業概要
文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)サステナビリティ全般に関するガバナンス及びリスク管理
当社は、1916年の創業以来、特殊鋼をベースとしたモノづくりで社会からの要請に応え、その発展に貢献してきました。世界が大きな変革期を迎える中、未来社会からも評価され求め続けられる企業グループを目指し、2030年のありたい姿として“高機能特殊鋼を極め「グリーン社会の実現」に貢献する”を掲げております。
当社は気候変動対策や高機能製品供給を通じた「地球環境の保護」をマテリアリティの第一と考え、モノづくりによるサステナビリティへの貢献に取り組んでまいります。また人権の尊重、人的資本の強化、地域社会との共生といった「社会への責任と貢献」に対しても、責任ある一企業として実践し、取り組んでまいります。さらにマテリアリティの実践基盤としての「ガバナンスの強化」についても、積極的な取り組みを図ってまいります。
経営理念である“素材の可能性を追求し、人と社会の未来を支え続けます”はこれらのサステナビリティに対する考え方に反映され、当社の企業活動として実践されております。
(ガバナンス)
サステナビリティに関する事項を検討・審議する組織として、従来のCSR委員会を再編し、2022年4月より新たにサステナビリティ委員会を設置しました。当委員会は社長執行役員を委員長とし、ここで審議、決定した事項を取締役会に上程します。サステナビリティ委員会の事務局は、2023年1月に新設されたESG推進統括部に置かれております。
サステナビリティ委員会は以下の事項を取り扱います。
・サステナビリティ経営の基本方針およびサステナビリティ推進活動の基本計画の策定に関する事項
・全社および各部門、各委員会におけるサステナビリティ推進状況の確認に関する事項
・TCFD(気候変動関連財務情報開示タスクフォース)において要求される気候変動リスク低減に向けた施策に関する事項
・CSR(人権、社会貢献活動、健康経営等)およびこれらに関わるガバナンスに関する全社方針、施策に関する事項
・統合レポートの編集および発行に関する事項
(体制図)
(リスク管理)
当社は、サステナビリティの管理プロセスとして、サステナビリティ委員会において、マテリアリティとそのマテリアリティごとのリスクと機会を特定し、それぞれの進捗管理等を実施してまいります。
サステナビリティ委員会において審議、決定された内容は取締役会に上程され、リスク管理を行っております。
なお、気候変動への取り組みにおいては、シナリオ分析を実施し、気候関連リスクの優先順位付けを行い、影響度の高い事項に注力して対策に取り組んでまいります。
(2)重要なサステナビリティ項目
①気候変動への取り組み
(戦略)
気候変動が当社に与えるリスク・機会とそのインパクトを把握し、当社の中長期的な戦略のレジリエンスと、さらなる施策の必要性の検討を目的に、2030~2050年についてシナリオ分析を実施しました。シナリオ分析では、国際エネルギー機関(IAEA)や、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による気候変動シナリオ(1.5℃シナリオおよび4℃シナリオ※)を参照しております。リスク、機会の抽出は幅広く行い、「発生する可能性が高いもの」と「発生したときに影響が大きいもの」の観点から、当社の事業に及ぼす影響が高いリスクと機会を選定し、対策を検討しました。また、今回分析の対象としなかったリスク・機会についても、継続的に注視してまいります。
各リスクと機会への対策を検証した結果、脱炭素に向かう社会変容に対して、中長期経営計画の基本戦略を軸に、今後の成長市場であるCASE(自動車)、グリーンエネルギー分野向けの高機能材料や革新的な環境対応エンジニアリング製品を開発し販売拡大していくことで、企業価値を向上させていくことができると結論付けました。以上より、当社戦略はレジリエンスを有していると評価しました。
※1.5℃シナリオ :気温上昇を最低限に抑えるための規制の強化や市場の変化などの対策が取られるシナリオ
4℃シナリオ :気温上昇の結果、異常気象などの物理的影響が生じるシナリオ
TCFDシナリオ分析
シナリオ | 要因 | 変化 | 当社への影響 | 当社の対策 | |
1.5℃ | EV化の進展 | EV化の進展によるエンジン/排気系部品の需要減少 | リスク
| □内燃機関車(ICE)向けの需要は2030年までは横ばい程度を見込むが、EV化の進展で、2030年以降、大幅な減少が想定される。 | □今後の成長市場である、CASE(自動車)、半導体関連製品、グリーンエネルギー分野の売上を拡大し、持続的な事業成長を果たす |
EV車向け高機能材料の需要増 | 機会
| □EV化の進展で高機能材料の需要が増加する。 ※e-Axle部材、バッテリー部材、制御系部品などに使用される高強度鋼、磁性材料等 | □各製品ニーズに対応した材料開発 □需要増加に対応した生産能力向上 □次世代自動車向けの新製品・新事業の立上げおよび市場参入 | ||
GHG排出規制を含む各種規制の強化 | 再生可能エネルギーの利用による電力コスト増加 | リスク
| □再生可能エネルギー使用比率増加により電力コストが増加する。 | □省エネ、製品歩留向上などによるコスト改善で電力コスト増を吸収 □再生可能エネルギーの自社導入 | |
カーボンプライシング導入 | 操業・調達コストの増加 | リスク
| □合金や資材等の調達コストおよび操業コストが増加する可能性がある。 | □CO2削減投資と全電力の再生可能エネルギー化によりコスト負担を相殺 □調達先にCO2排出量の削減を要請 | |
電炉材の需要増 | 機会
| □脱炭素要請の強化や低排出製品の志向の高まりなどを受け、相対的にCO2排出量の少ない電炉材の需要増加が見込まれる。 | □当社開発の先進イノベーション電気炉「STARQ®」から製造した「低CO2排出特殊鋼鋼材」を積極拡販 □再生可能エネルギーへのシフトを進め、更なる差別化を促進 | ||
スクラップ原料の需要増 | スクラップ調達コストの増加 | リスク
| □世界的に電炉材ニーズが高まり、高品位スクラップ需要が増加する。 □これにより、価格の高騰や調達難の影響が出る可能性がある。 | □顧客と連携したスクラップ回収スキームの拡大、および低品位スクラップの利用が可能な技術確立により、価格高騰の抑制と必要なスクラップ量の確保 |
シナリオ | 要因 | 変化 | 当社への影響 | 当社の対策 | |
1.5℃ | 環境対応や新エネルギー関連技術の普及 | 革新的な環境対応エンジニアリングの需要増 | 機会
| □脱炭素に向けて、エネルギー効率の向上に資する投資が増えることで、当社の環境対応エンジニアリングの需要が高まる。 | □大同ブランド省エネ製品の積極拡販 ※STARQ®、DINCS®、モジュールサーモ®、プレミアムSTC®炉 等 □ユーザーニーズに合わせたエンジニアリング製品(水素燃焼工業炉等)開発の推進 |
水素関連技術・製品の需要増 | 機会
| □水素社会の進展により、耐水素脆化用鋼などの高機能材の需要が高まる。 ※水素ステーション、燃料電池車、水素内燃機関などに使用される高機能材 | □各製品ニーズに対応した材料開発 □新規ユーザー、市場の開拓 | ||
4℃ | 気象災害の 激甚化 (急性) | 調達先や生産拠点が被災する事による操業停止リスク | リスク
| □調達先や主要工場が自然災害に見舞われ、操業が停止する可能性が高まる。 | □調達先と連携したリスク管理や適正な在庫確保などのBCP対策を推進 □主要工場は浸水対策を継続実施中 |
(指標及び目標)
大同特殊鋼では、気候関連問題が経営に及ぼす影響を評価・管理するため、温室効果ガス(CО2)の総排出量を指標として削減目標を設定しております。
2021年4月にDaido Carbon Neutral Challengeを公表し、「2013年度対比2030年CO2排出量50%削減、2050年カーボンニュートラル実現を目指す」を目標として、CО2排出量削減活動を推進しております。
Daido Carbon Neutral Challenge
※CO2排出量は大同特殊鋼単体のSCOPE1+SCOPE2(エネルギー起源)
CO2排出量実績(2013年と2022年)の電力係数は契約電力会社の各年度の排出係数にて算定
②人的資本経営への取り組み
当社は経営理念である“素材の可能性を追求し、人と社会の未来を支え続けます”を実現する人材像として、5つの行動指針を定めております。
<行動指針>
〔高い志を持つ〕 時代の先を読み、パイオニア精神を持つ
プロフェッショナルとして、自身のミッションに最後まで取り組む
〔誠実に行動する〕 相手の立場で考え、多様な価値観と存在を認め合う
ステークホルダーの期待に応える
〔自ら成長する〕 常に成長を意識して仕事に取組む
進んで経験を重ね自分を磨く
〔チームの力を活かす〕組織を超えてグループの知恵を結集する
スピード感をもち、協力してやり遂げる
〔挑戦し続ける〕 自由な発想で時代を切り開く
失敗を恐れず困難に立ち向かう
この5つの行動指針は創業107年の歴史を振り返り、当社の強み(Core competence)を生み出してきた人材の行動様式を端的にまとめたもので、我々にとってサステナブルな人的資本の姿であると考えております。変化の激しい時代にあっても素材に求められるニーズや可能性を追求する姿勢は我々の強みであり続けると考えております。これを実践し続けるための人的資本の確保を目指し、以下の施策を実践しております。
なお、今後、従業員には環境変化に対応するための新たな知識やスキル習得の促進を進め、人的資本経営の深化とともに事業戦略に合わせた指標及び目標を設定していきます。
a.人材の多様性の確保を含む人材育成に関する方針
(人材育成について)
当社の高品質な素材を安定して生産しつづける力の源泉は、高いスキルをもった信頼性の高い製造現場の人的資本です。当社は1952年に設立した入社採用者向け教育施設である「大同特殊鋼技術学園」を保有しており、特殊鋼製造のエキスパートとしての知識・技術の基礎を身に着けるとともに、社会人・企業人としての心構え、自立した生活の支援を行っております。技術学園における研修期間は1年間で、集中したカリキュラムの中で育成を図っております。
また、管理部門および営業・開発技術部門においても、「5つの行動指針を実践できる人材育成」を念頭に、各職能グレードで期待される具体的な行動様式を設定し、体系づけた上で教育訓練を実践しております。この内容は「能力開発ガイドブック」としてまとめられ、人材育成目標として周知されるとともに従業員の評価基準としても活用されております。職能グレード別教育の他にも将来の経営を担う中核人材を育成するための選抜研修、グローバル人材育成のための海外トレーニー・留学制度や各種の資格取得奨励など、各人の成長、挑戦を後押しする教育・訓練制度が揃っており、行動指針の〔高い志を持つ〕〔自ら成長する〕〔挑戦し続ける〕人材育成に努めております。
(ダイバーシティへの取り組み)
行動指針の一つである〔誠実に行動する〕には、“多様な価値観と存在を認め合う”という意味が込められており、当社のダイバーシティへの取り組み姿勢を表しております。少子高齢化の影響で優秀な人材を確保することが難しくなっていく中、性別、国籍、価値観、性的指向、障がいの有無など、お互いの違いを尊重し認め合える職場環境を整備することが不可欠となっております。当社では2014年にダイバーシティ推進プロジェクトを発足し、<ダイバーシティ推進3Step>としてStep1〔多様性の理解・受容〕、Step2〔多様性の活用・促進〕、Step3〔多様性による創造性の発揮〕を定め、これまで段階を踏みながら活動してまいりました。現在はStep2〔多様性の活用・促進〕を図っており、人事部内のダイバーシティ推進室を中心に活動推進しております。具体的には、個人、組織の成果の最大化、心身の健全化を図り、時代変化対応力に優れた多様な人材が活躍できる風土の形成と持続的に成長するための基盤構築を推進しており、今後も社員一人ひとりが「いきいきと働くことができる会社」を目指し、これからもダイバーシティ経営実現のための基盤構築に取り組んでまいります。なお、女性管理職については2030年までに人数を倍増(15人から30人)させる目標を定め、環境整備等に取り組んでおります。
b.社内環境整備に関する方針
(働き方改革への取り組み)
労働人口の減少や働くスタイルの多様化など、『働く姿』を取り巻く環境は大きく変化しております。当社においても従業員が「自分に合った働き方」を通じたワークライフバランスの実現が図れるよう「新しい働き方改革WG」を中心とした各種の取り組みを実践してまいりました。活動目的としては、生産性向上を図るための「価値を生み出さない時間を減らす」取り組みと、従業員が安心して自律的に働ける場の実現を目指した「働きがいのある職場づくり」としており、これらの活動を通じて行動指針に掲げた〔チームの力を活かす〕働き方を推進してまいります。
これまでの取り組みとしては、在宅勤務の拡大、会議の効率化、ペーパーレス化の推進といった各種の効率化・働く自由度拡充のほか、従業員が安心して自律的に働ける職場づくりや働きがい調査を通じた従業員とのエンゲージメントの充実、意欲の向上を図ってきました。また、コミュニケーション活性化を通じた職場での安心感の醸成を目的に、2021年度から「明日も行きたくなる会社をつくろうプロジェクト」を立ち上げ、職制や階層に対応した研修や職場毎のアプローチなど、知多工場をモデル職場として推進しております。
(安全・健康への取り組み)
当社は「安全と健康は幸せの原点であり企業経営の基盤である」という基本理念を掲げ、労働災害の撲滅と健康経営の推進に取り組んでおります。従業員が安心して働くことができる職場づくりと、一人ひとりが心身とも将来にわたって健康であり続けることは、人的資本経営の骨格です。当社では社長を頂点とした安全健康管理体制を整備し、専門組織である安全健康推進部を主体にグループ一体となった活動を継続しております。
取り組みの一例として2022年より各生産職場に安全教育に精通したベテランを「安全伝道師」として配置し、若年層や経験値の浅いメンバーへの現地指導、危険感受性の向上を図っております。また健康経営としては、メンタルヘルス・フィジカルヘルス向上のための4本柱〔感染予防/疾病予防、フィジカル、受動喫煙防止対策、メンタル〕をキーワードに取り組んでおり、最終目標として「心身活力を持って業務に取り組めている評価割合(※)50%以上」を目標に活動しております。
※健康診断時の問診表回答より評価割合は測定します
指 標 | 目 標 | 実績(2022年) |
休業度数率(労働災害の発生頻度についての指標) | 0.20%以下 | 0.30% |
有所見率(健康診断を受けた者のうち所見があった者の割合) | 55%以下 | 70% |
「心身活力を持って業務に取り組めている」評価割合 | 50%以上 | 35% |
- 検索
- 業種別業績ランキング