カバー 【東証グロース:5253】「情報・通信業」 へ投稿
企業概要
文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。
(1) 経営方針
当社は「つくろう。世界が愛するカルチャーを。」を企業ミッションとしております。日本発のエンターテインメント・カルチャーを作り出し世界中のユーザーに広めていくことにより、日本のユニークな強みであるアニメ、ゲームといった文化に関わるクリエイターの活動の場を増やしていくことを目指しております。
(2) 中長期的な経営戦略等
当社はこれまで掲げていた中長期戦略を発展させる形で、①VTuberビジネスの確立、②IPビジネスへの進化、③クリエイター経済圏の拡大の3段階の事業戦略を定めております。これらに沿って内製での事業開発、外部企業との戦略的パートナーシップ、又はM&A等により能力拡充を図り、持続的な成長を目指してまいります。
① VTuberビジネスの確立
デジタル・エンターテインメントにおいて高い成長性と収益性を安定的に維持するには、再現性高く付加価値の高いIPを生み出す仕組みの確立が重要と考えております。
当社ではYouTube等の動画配信プラットフォームを通じて、高頻度にVTuberのライブ配信、3Dモーション・キャプチャー・スタジオを用いたバーチャルライブ・コンサート、IPアセットを用いたアニメーション・コンテンツやミュージックビデオ等の供給を行っており、当社所有のYouTubeチャンネルの累積動画コンテンツ供給数は約9.2万本、それらの動画コンテンツの累積再生回数は約148億回に上ります。
また、当社では二次創作ガイドラインを定めたうえでファンによる二次創作活動を広く奨励しており、こうした大規模なPGC(注1)供給及びそれに呼応するUGC(注2)発信の文化形成の結果として、当社のVTuberは幅広いファンからの支持を得ていると認識しております。当社が保有するホロライブプロダクションのYouTubeチャンネル登録数は延べ8,841万以上、VTuberあたりの当社年間収益は2024年3月期において約3.5億円(注3)となっており、大きなファンベースの存在が魅力的な演者や国内外の主要なクリエイターとの継続的な共創を可能としております。結果として、当社は2024年3月時点で日本、北米(英語圏地域)、東南アジア地域それぞれにおいてYouTubeチャンネル登録数No.1(注4)のVTuber IPを有しております。
今後は、最先端モーション・キャプチャー技術、3DCG技術の拡充、コンテンツ企画の多様化、音楽を通じたプロモーションの拡大、多言語でのコンテンツ・ローカライズの推進等を通じて、再現性高く付加価値の高いIPを生み出す仕組みを更に強固なものとして行きたいと考えております。
(注) 1.Professional Generated Contentの略
2.User Generated Contentの略
3.2024年3月期売上高を2024年3月期末の在籍VTuber数で除して算出
4.出所:ユーザーローカル。2024年4月30日時点。
② IPビジネスへの進化
VTuberの特徴の一つとして、コマース展開の多様性が挙げられます。アニメルック・アバターで活動するVTuberはキャラクター・コンテンツIPとしての側面を持つため、漫画、アニメ、ゲームといったコンテンツIPと同様に、必ずしも演者の稼働を前提とせずに多様な商品、サービスとしての展開が可能となっております。
マーチャンダイジングの商品種に関しましては、2024年3月末時点でデジタル商品も含めた同時展開商品数が2,500SKU程度まで拡大しており、消費者のニーズを鑑みた更なる拡大の余地は今後も大きいと考えております。今後はトレーディング・カードゲーム等のシリーズ商品を通じて、特定のIPのファンにブランド内の別のIPへの興味も深めていただくようなクロスセルを推進してまいります。
また、商品販売チャネルに関しましてもこれまで大部分を占めていたEC販売に加え、グローバルな小売店網での商品販売を拡大してまいります。こうした取り組みにより、潜在ファンのIPへの接触頻度を増加させ、よりエンゲージメントの高いファンの拡大を目指します。
地域展開に関しましては、日本に加えて、既にアニメ市場の浸透が進んでいる北米及びアジア地域を重視し、各地域の潜在ファンがアクセスできるイベントや商品・サービスの増加を目指します。海外現地営業代理店や現地企業とのパートナーシップ強化により、ローカライズされたコラボレーション商品の拡充や現地商圏での認知度の拡大も推進してまいります。
③ クリエイター経済圏の拡大
中長期の時間軸では、IPの多面的なコマース展開により得た利益をアニメ、ゲーム/メタバースといった近接するコンテンツ領域への展開に向けて投資することにより、更に広範な潜在消費者層からの認知をグローバルに獲得し、当社を取り巻くクリエイター経済圏の一層の拡大を目指します。
ゲーム/メタバース関連のプロジェクトについては、中期的に大きな収益源となり得る一方で、開発期間も長くかかるため、インディーズゲーム・クリエイターによる二次創作ゲーム開発プロジェクト、ゲーム開発・運用会社へのIPライセンスアウト・プロジェクト、内製開発のメタバース・プロジェクトといった類型ごとに財務リスクを分散化して管理しております。
メタバース・プロジェクト「ホロアース」に関しては、2024年にかけてオープンβ版の機能拡充を段階的に実施していく予定であります。これまでのYouTube等の複数のプラットフォームでのVTuberやファンの活動及び交流に加え、ホロアース上では同時性を持った臨場感のあるコミュニケーションが可能となり、より豊かな体験価値が提供可能となることを想定しております。
他のメタバース・プラットフォームの開発・運営者と比較した当社の独自性として、当社がVTuber IPを自社で保有しており、平時からVTuberと世界中のファンのリアルタイムな交流を運営していることが挙げられます。そうしたユーザー体験と統合的なサービスとして「ホロアース」を自社で開発・運営することにより、コミュニティ・サービスとしてホロアースの継続的な集客と拡大を行うことを想定しております。
(3) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社はVTuberのファン数の直接的な指標である「YouTubeチャンネル登録数」、並びに魅力的なコンテンツ制作の原資となる「売上高」及び「サービス別売上高」を重要な経営指標と位置づけ、企業価値の向上を図ってまいります。
(4) 経営環境
当社が提供するVTuber事業は、VTuberというキャラクターIPを中心として、配信/コンテンツ、ライブ/イベント、マーチャンダイジング、ライセンス/タイアップ、及び開発中のゲーム・メタバースサービス等と多岐にわたる領域に広がっております。
VTuber市場は2016年末にはじまり2018年までに初期的な市場が形成されてきたものの、この5~6年で急速に成長しており、国内のVTuber市場については、2023年度は800億円にのぼると推測(注5)され、2020年度から2023年度までにおける年平均成長率(CAGR)は77%の高成長が見込まれております。また近年において、グッズを展開するマーチャンダイジングやBtoBのライセンス/タイアップ領域の成長が期待されており、VTuber自体がアニメルックな見た目であることから、アニメキャラクターのようにIPとして多様なコマース展開が行いやすいため、VTuber とグッズ展開は親和性が高くなっております。また、VTuber IPの価値向上とともに若年層に広範な支持を得ていることから、主にゲームや商品サービスを提供する企業とのコラボレーションが継続的に増加しており、今後もこの成長を維持すると推測(注5)されております。
また、VTuber市場は比較的新しい市場であるものの、その潜在市場規模や動向は広義のグローバルなIPビジネス市場から類推可能であると考えております。2022年の同市場については動画配信プラットフォーム等を通じたアニメコンテンツ配信市場規模が1,652億円程度となっており、その他各種メディアでのコンテンツ提供、商品化、音楽、イベント興行等を含む広義アニメ市場は国内で1.4兆円程度、海外も含むグローバルで2.9兆円程度となっております(注6)。
市場全体が好調に推移する中、当社事業の直接競合他社も複数確認されている状況にありますが、日々ライブ配信コンテンツを提供する当社のVTuberとそれに呼応する形でソーシャルメディア等を通じた自律的な発信を行うファンからなる大規模なファンコミュニティの存在が新規参入事業者に対する当社の競争優位性として機能していると当社は考えております。
当社事業は、VTuberによるライブ配信を通じた付加価値の高いIPの開発とファンベースの確立を軸に、足許で広義アニメ市場におけるグローバルかつ多面的展開を行っている段階にあり、今後は、ゲーム・メタバースサービスといった近接領域への展開により、グローバルコンテンツ市場規模約123.6兆円(注7)を見据えた更に大きな事業拡大を計画しております。
(注) 5.出所:矢野経済研究所「2023年 VTuber市場の徹底研究 ~市場調査編~」)
6.出所:一般社団法人日本動画協会「アニメ産業レポート 2023」2022年のアニメ関連市場規模
7. 出所:内閣官房『第23回新しい資本主義実現会議の基礎資料』にて記載の2019年のコンテンツ産業の世界市場規模
(5) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
① 魅力的なIPの開発
VTuberの人気はアニメルック・アバターや関連するグループ又はユニットIPの魅力の影響を大きく受けるため、付加価値の高いVTuber IPを継続的に開発することは当社の経営課題であります。当社は、IPやコンテンツを共創するクリエイターにとっても意義深い活動の機会を継続的に提供するために、当社IPの認知及びブランド価値の一層の向上に努めております。
② コンテンツ・クリエイターの発掘及び育成
VTuberの活動はアニメルック・アバターを用いて活動するコンテンツ・クリエイターの創作活動に依存しているため、能力のあるコンテンツ・クリエイターの発掘、及びその能力を一層開花させるための育成は当社の課題であります。
当社では定期的なオーディションの実施により新しいコンテンツ・クリエイターの発掘ができるよう努めている他、採用後も社内外のクリエイター・企画チームを活用し、継続的なグッズ企画・衣装企画・ライブ企画等の多様な活動支援によってコンテンツ・クリエイターの個性をより発揮できるような環境を構築しております。
③ 事業拡大と収益性向上を両立した事業運営
当社は付加価値の高いVTuber IPの継続的な開発と育成を主軸に、動画配信プラットフォーム上でのサービス展開のみに留まらない、多面的なIPビジネス市場での事業展開を推進しております。そのため、より大きな市場を捉えるために複数の先行投資を実施しております。具体的には、より付加価値の高いIP開発と集客力の向上に向けた、3Dモデリング、3Dアニメーションに関する人材投資、大型モーション・キャプチャー・スタジオの取得、統合IDサービスの開発及びユーザーの体験価値の向上に向けたゲーム・メタバースサービスの開発等を行っております。
立ち上げたIPをベースとして、マーチャンダイジングやライセンス/タイアップといった収益性の高いコマース領域では更なる事業拡大を計画しており、トレーディング・カードゲーム等のシリーズ商品の企画や海外地域でのライセンシー拡充による現地商流への商品・サービスの配荷拡大等を推進しております。
④ 組織体制の整備
当社の成長には多様な専門性を持った優秀な人材を採用し、組織体制を整備していくことが重要であると考えております。積極的な採用活動を行っていくとともに、従業員が中長期的に働きやすい職場環境や人事制度を整備してまいります。
⑤ 技術力の強化
当社はコンテンツ・クリエイターの活動について、モーション・キャプチャー技術を駆使した自社開発のアプリケーション等で支えており、今後の継続的な技術改善が視聴者に新しいエンターテインメント体験を届けるために重要であると考えております。
高度なスタジオ配信を可能にするアプリケーションのアップデートや豊かな表現を可能にする3Dモデリング技術の向上等、継続的な改善を進めてまいります。
⑥ コミュニティの健全性維持
当社は多数のVTuberを擁しており、それぞれのコンテンツ・クリエイターの裁量で日常的に膨大な数の視聴者との双方向コミュニケーションがライブ配信を通して行われております。
継続的な創作活動や視聴者とのコミュニケーションが維持されるよう、誹謗中傷対策などのコミュニティ健全化の施策は重要であると考えております。
外部専門家と連携しての誹謗中傷対策等、コンテンツ・クリエイター保護のための施策を継続的に実施してまいります。
⑦ その他財務上の課題
当社は、これまで金融機関からの借入に大きく依存せず、資金需要は自己資金及び営業活動によるキャッシュ・フローを源泉とした財務基盤を維持していることから、先述の「事業拡大と収益性向上を両立した事業運営」の他には、優先的に対処すべき財務上の課題はありませんが、上記事業上の課題に対する対処及び継続的な成長に資する設備投資を実行できるよう、内部留保の確保と株主還元の適切なバランスを検討し、既存事業の営業キャッシュ・フローの改善等に対処するなど、財務体質のさらなる強化に努めてまいります。
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