三井化学 【東証プライム:4183】「化学」 へ投稿
企業概要
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題
当社グループは、「地球環境との調和の中で、材料・物質の革新と創出を通して高品質の製品とサービスを顧客に提供し、もって広く社会に貢献する」ことを企業グループ理念として掲げ、ESGを中核に据えた経営を行っていくことで、事業活動を通じた社会貢献を目指しております。また、目指すべき企業グループ像として、「化学の力で社会課題を解決し、多様な価値の創造を通して持続的に成長し続ける企業グループ」を掲げております。
2021年度に策定した長期経営計画「VISION 2030」では、当社グループが目指す未来社会「環境と調和した循環型社会」、「健康・安心にくらせる快適社会」、「多様な価値を生み出す包摂社会」の実現に向けて、取り組むべきマテリアリティ(重要課題)を特定し、それらを前提に5つの基本戦略を策定しました。「社会課題視点」、「ソリューション型ビジネスモデル」、「サーキュラーエコノミー型ビジネスモデル」、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」を全社・全事業に展開して従来型の素材提供型ビジネスからの転換を図るとともに、強靭な「経営基盤・事業基盤」を構築し、変革を加速してまいります。
<目指す未来社会/マテリアリティ>
<VISION 2030基本戦略>
また、マテリアリティに紐づくKPIを非財務指標として定めました。KPIマネジメントを推進することにより、事業・機能部門の相互連携を強化し、VISION 2030の実行力の強化に取り組んでおります(KPIの詳細は次頁をご参照ください)。
<VISION 2030 計数目標(KPI)/投資資源配分>
財務KPI | 目標(2030年) |
| 投資資源配分 | |||||||
コア営業利益 | 2,500億円 |
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親会社の所有者に帰属する当期利益 | 1,400億円 |
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ROIC | 8.0%以上 |
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Net D/E | 0.8以下 |
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ROE | 10%以上 |
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マテリアリティ | 非財務KPI | 目標(2030年) |
持続可能な社会への貢献 ・気候変動 ・サーキュラーエコノミー ・健康とくらし ・住みよいまち ・食の安心 ・ライフサイクル全体を 意識した製品設計 | Blue Value®製品売上収益比率 | 40% |
Rose Value®製品売上収益比率 | 40% | |
GHG排出量削減率(Scope1+2) | 40%(2013年度比) | |
事業継続の前提となる課題 | ||
人権尊重 | 人権リスクへの対応 | 国内外全拠点での人権デュー・ディリジェンスシステム構築によるリスク把握と是正 |
安全 | 重大事故・重大労災件数 | ゼロ (VISION 2030期間を通じて) |
リスク・コンプライアンス マネジメント | 重大な法令・ルール違反数 | |
品質 | PL事故、重大品質インシデント件数 | |
安定生産 | AI・IoTを中心とした先進生産技術の実装件数 | 100件 (2021~2030年の累計) |
事業継続に不可欠な能力 | ||
企業文化 | エンゲージメントスコア | 50% |
人的資本 | 戦略重要ポジション後継者候補準備率 | 250% |
執行役員多様化人数(女性・外国籍・中途採用) | ≧10名(うち、女性≧3名)(提出会社) | |
女性管理職(課長級以上)比率 | 15%(提出会社) | |
生活習慣病平均有所見率 | ≦8.0%(提出会社) | |
メンタル不調休業強度率 | 0.25(提出会社) | |
デジタルトランスフォーメーション | データサイエンティスト数 | 165名(2025年度) |
イノベーション | 事業部所管テーマ数 | ≧2倍(2020年度比) |
未来技術創生センターにおける開発新領域数 | ≧3領域 | |
パートナーシップ | 持続可能な調達率 | 80% |
(注)Blue Value®とRose Value®とは、当社グループが目指す未来社会実現のため、提供する製品・サービスの環境および社会への貢献を見える化し、その価値をステークホルダーの方々と共有できるようにしたものです。製品・サービスを用途別に独自の指標で評価し、環境貢献価値の高いものをBlue Value®製品、QOL向上貢献価値の高いものをRose Value®製品として認定しております。
また、当社は、長期経営計画に基づき毎年向こう3ヵ年の事業計画の見直しを行うというローリング方式を採用しています。社会環境の変化が急速かつ大きくなる中で、長期的な視野を持ちつつ、経営の環境適応性を高め、戦略推進を加速してまいります。
このような経営ビジョン及び経営計画のもと、2023年度において、当社は、次のように経営環境を認識し、重点課題に取り組んでまいります。
<経営環境>
2023年度の世界経済は、ウクライナ危機の長期化、欧米における金利上昇等による世界的なリセッションリスクの発現等が懸念されるものの、中国の経済再開やインフレ率の緩やかな低下等もあり、回復基調となることが見込まれます。
日本経済においても、上記リスクに加え、為替や原燃料価格の変動を受けた業績悪化も懸念されますが、コロナ禍による経済活動への制約がほぼ解消されることもあり、回復基調となることが見込まれます。
化学工業界においても、為替や原燃料価格の変動の影響が懸念されますが、景気の持ち直しの動きに伴う需要拡大が見込まれます。
<重点課題>
①財務目標
・事業環境変化を踏まえたキャッシュ・フローマネジメントの徹底(資源投入の優先順位付)と投資の確実な回収
・成長領域における事業領域の拡大・深耕による更なる成長実現
・ベーシック&グリーン・マテリアルズにおける事業再構築及びダウンフロー強化による高機能品拡大
・ソリューション型ビジネスモデルの構築
②非財務目標
・グループ全体の安全文化の醸成(「安全は全てに優先する」の徹底と自主改善活動推進)
・サプライチェーン全体を俯瞰した品質マネジメント体制構築に向けた設計・開発プロセスの改善・強化
・VISION 2030の実現に向けた新しい取り組みや果敢なチャレンジを通じた、従業員のエンゲージメント向上
・Blue Value®及びRose Value®製品・サービスの創出・拡大の推進
・2050年カーボンニュートラルの実現及びサーキュラーエコノミー対応製品・ビジネスの拡大に向けた方策の具体化
・新たな価値創造に向けたオープンイノベーションの推進、具体策の実行と、Beyond 2030に向けて解決すべき社会課題の抽出
・デジタルリテラシーの向上等を通じた業務変革の推進、開発力の強化、事業モデル変革による、コーポレートトランスフォーメーションの実現加速
・留意すべき人権課題抽出に向けた取り組みの推進と、バリューチェーン全体を通じた責任あるビジネスの追求
このような情勢のもと、2023年度の当社グループの業績は、下表のとおりとなることを予想しております。
| 2023年度連結業績予想 | 2022年度連結業績 | |
売上収益 | (億円) | 19,000 | 18,795 |
コア営業利益 | (億円) | 1,500 | 1,139 |
営業利益 | (億円) | 1,450 | 1,290 |
親会社の所有者に帰属する当期利益 | (億円) | 1,000 | 829 |
※当社は2020年度より国際財務報告基準(IFRS)を適用しております。コア営業利益は、営業利益から非経常的な要因(事業撤退や縮小から生じる損失等)により発生した損益を除いて算出しております。
(2) 事業領域ごとの環境分析及び戦略
①ライフ&ヘルスケア・ソリューション
世界の総人口増加・健康寿命延伸、パンデミックによる衛生環境ニーズの高まりなどを背景として生活の質(QOL)向上、安全・安心な食への貢献が求められています。ライフ&ヘルスケア・ソリューション事業は、ライフケア、ウェルネス、メディカルという3つの事業領域にわたって、いのちと健康、豊かな暮らしに貢献するソリューションを提供し、第1の収益の柱として当社グループの持続的成長に寄与していきます。
(主要製品)
ビジョンケア材料、不織布、オーラルケア材料、パーソナルケア材料、農業化学品を事業展開しています。
低屈折率から高屈折率まで、幅広く展開しているメガネレンズ用材料は、当社グループにて、世界シェア45%を占めています。薄肉中空構造によりプラスチック使用量を削減した不織布(エアリファ™)は、環境対応ニーズを捉え市場の評価を得ています。オーラルケア材料は、修復材、義歯関連、3Dプリンターインク、接着用セメントなど幅広いラインナップで世界中に販売しています。パーソナルケア材料では、得意とする酵素技術、有機合成技術を武器に、QOL向上に資するファインケミカル製品を提供しています。農業化学品は世界の創農薬をリードする研究開発力で、作物保護およびQOL向上に貢献する製品とサービスをグローバルに展開しています。また、整形外科材事業では、素材技術を活かした医療機器の開発を進めていきます。
(強み)
<ライフケアソリューション>
▶ビジョンケア材料
・幅広い製品ラインナップ
▶不織布
・原料樹脂から加工まで一貫した技術力
▶パーソナルケア材料
・酵素技術、有機合成技術を基盤とした研究開発力
<ウェルネスソリューション>
▶農業化学品
・有機合成を基盤とした独自性の高い創薬力と生産技術
・安全で環境負荷の少ない天然物由来の製品ポートフォリオ
・顧客ニーズに立脚した開発に対応可能な製剤開発力
<メディカルソリューション>
▶オーラルケア材料
・グローバルでのブランド力
・素材から歯科材料までの研究開発力
▶整形外科材
・歯科材料などに展開している素材技術
(基本戦略)
<ライフケアソリューション>
▶ビジョンケア材料
・多様な顧客ニーズに応じた高付加価値材料の開発
▶新領域
・ビジョンケア以外の新たな柱の育成(生活環境・水環境分野での新事業・新製品開発)
<ウェルネスソリューション>
▶農業化学品
・成長ドライバーのブラジル、インド、東南アジア等、成長市場への展開加速
・環境配慮型農薬の拡充
・蚊が媒介する伝染病撲滅への取組み、衛生害虫の防除および防蟻等の拡大
▶新領域
・健康・バイオ技術関連領域を拡大(ニュートリション分野、検査・診断分野での新事業・新製品開発)
<メディカルソリューション>
▶オーラルケア材料
・グループ連携強化
・注力歯科領域(修復材、義歯関連、3Dプリンターインク、接着用セメント)の新製品開発・投入
▶新領域
・整形外科領域、医薬CDMO事業への拡大
②モビリティソリューション
世界的な環境意識の高まりや社会的責任への対応要請を背景に、サプライチェーンにおける環境負荷低減の重要性が高まっており、モビリティの燃費向上、リサイクル材料、バイオ材料の活用、省エネルギーや再生可能エネルギーの利活用拡大等への貢献が求められています。また、CASEやMaaSの進展により、移動空間としての快適性の向上や車室の高機能化といった、モビリティにおける多様なニーズや機会の創出に繋がると期待されています。
当社では、自動車を中心としたあらゆる種類の人・モノの移動手段を「モビリティ」と定義しています。このモビリティ領域において、多様化するニーズに対応したソリューションの提供と個々の事業の競争力強化を通じた持続的な成長を実現していきます。
(主要製品)
エラストマー、機能性コンパウンド、ポリプロピレン・コンパウンド、複合材料、ソリューション事業等において、モビリティにおける軽量化、燃費向上、電動化、自動化等のためのソリューションを提供しています。
自動車のバンパーに用いられるポリプロピレン・コンパウンドは、世界シェア2位、アジアシェア1位を誇っています。独自の配合レシピは原料に遡り樹脂そのものを設計する技術を強みとして保有しており、顧客の高い評価を得ています。
(強み)
・幅広い材料ラインナップ
・高い技術力と品質
・グローバルネットワークを活かした幅広い顧客基盤
・技術サービス
・バリューチェーンを通じたトータルソリューション提案力
(基本戦略)
<素材提供型ビジネス>
・「高成長 & サステナビリティへの貢献」×「競争優位」な領域に対する販売・開発の集中
・需要に応じた生産能力増強、グローバル拠点を最大活用したレジリエントな生産体制の構築
<ソリューション型ビジネス>
・当社グループが保有する機能・技術・素材と、他社との連携により創出するコンセプトブッシュ型ビジネスの推進
・当社グループが保有する技術・知見を活かしたサービス提供による事業機会探索
③ICTソリューション
デジタル化の進展により、半導体等ICT関連製品への需要は益々高まっています。ICTソリューションでは、①半導体・実装、②イメージング、③電池材料、④コンバーティングの各領域に重点的に取り組んでおり、事業ポートフォリオの変革を通じたソリューション型ビジネスモデルの構築を加速してまいります。
また、安全・快適なインフラ、健康な暮らし、持続可能な地球環境を支えるAI、6G、ロボティクス等の進化といった様々な社会課題の解決に貢献する『ユニーク』なICTソリューション事業の創造・拡大を図ります。
(主要製品)
半導体・電子部品工程部材、光学材料、リチウムイオン電池材料・次世代電池材料、高機能食品包装材料等を事業展開しています。半導体製造におけるウェハー裏面研削時(BGプロセス)の回路面保護テープとしてのイクロステープ™、スマホカメラのレンズ材料としてのアペル®はそれぞれ世界シェア1位です。LSI製造工程における防塵用超薄膜部材として用いられる三井ペリクル™については世界最先端EUVペリクルの事業強化と旭化成事業の統合効果でNo.1の地位を確立していきます。
(強み)
・半導体・実装領域およびイメージング領域におけるユニークでシェアの高い製品
・高い技術力と品質、技術サービス
・グローバルでの顧客基盤
・バリューチェーンを通じたトータルソリューション提案力
(基本戦略)
<半導体・実装ソリューション>
グローバルな技術サービス・評価・マーケティング機能強化
<イメージングソリューション>
先端ニーズへの先着に向けた開発加速
<電池材料ソリューション>
次世代電池材料の開発強化
<コンバーティングソリューション>
環境対応包材の拡大
④ベーシック&グリーン・マテリアルズ
石化・基礎化学品を中心とする当本部の事業は、自動車、住宅、家電、インフラ、食品包装をはじめ、様々な分野に素材提供を行っています。特徴のある技術と付加価値製品群の拡大、さらなるコスト競争力強化により、安定した収益を確保し、当社グループの基盤事業を目指します。
近年、事業最適化・再構築の実行により、収益構造が着実に改善してきています。基礎原料であるエチレンについては、エボリュー®に代表される高付加価値ポリマーの拡販を通じた稼働の安定、採算性向上を進めています。また、合成樹脂などの原料となる基礎化学品フェノールを生産するシンガポールの製造子会社の他社への譲渡や、ウレタン樹脂原料となるTDI(トルエンジイソシアネート)の、需要動向に合わせたプラント能力の最適化を意思決定するなど、市況変動を受けやすい事業の整理、縮小を進めております。事業を取り巻く環境は不透明なものの、高付加価値製品の拡充や、地産地消化による高稼働率維持など、徹底した合理化を推進し、市況・需給等の変動を受け難い、安定した収益基盤を築き上げていきます。
また、「グリーンケミカル」を成長領域と位置付け、バイオマス原料の導入やプラスチックリサイクル、CCUS(Carbon dioxide Capture Utilization and Storage)などの幅広い分野での事業化を目指します。バイオマス原料への取り組みとしては、バイオマスナフサを日本で初めて導入した実績をもとに、ナフサクラッカーを起点としたバイオマス製品の拡充を図っていくとともに、バイオマス原料の多様化や他社との調達連携を推進してまいります。プラスチックリサイクルに関しては、マテリアルリサイクル・ケミカルリサイクルいずれも他社との協働により、優位な技術を互いに持ち寄ることで新しいビジネスモデルの創出を積極的に進め、これらの早期の社会実装化を目指しています。これら施策により当社グループの基盤となる事業展開を目指します。
(主要製品)
エチレン、プロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、触媒、フェノール類、高純度テレフタル酸、ペット樹脂、ポリウレタン材料、工業薬品等の事業を展開しています。当社のナフサクラッカーにおいて、ナフサを熱分解してエチレン、プロピレン等の基礎原料を生産し、さらに付加価値を高めた様々な製品を生産しています。海外の専門機関から、当社のナフサクラッカーは、アジアの新規大型クラッカーと比較して遜色なく、高いエネルギー効率を有しているとの評価を得ており、これが当本部以外の高付加価値製品群も含めた誘導品における競争力の源泉となっております。
(強み)
・世界トップクラスの競争力を有するナフサクラッカー
・メタロセンをはじめとするポリオレフィン触媒技術
・ウレタン製品差別化のための高機能ポリオール、高機能MDI
・バイオマスポリオールの開発、製造技術
・バイオマスナフサ導入による幅広い製品でのバイオマス化
(基本戦略)
<再構築>
フェノール・PTA/PET・ウレタン事業の再構築の加速によるボラティリティの低減
・コストダウン
・各拠点での製品チェーン最適化
・提携拡大等でライトアセット化
<ダウンフロー強化>
高機能化・ニッチ品の拡大など、ダウンフロー強化による収益安定化
・高機能PP、高機能MDI
・本州化学(ヘルスケア、ICT材料)
・HQ、触媒ライセンス
<グリーンケミカル>
グリーンケミカルの拡大による環境対応強化
・バイオマス原料への転換、バイオマス原料の多様化
・バイオマス誘導品(バイオマスポリオレフィン、バイオマスポリオール)
・リサイクル(マテリアル/ケミカルリサイクル)
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