Photosynth 【東証グロース:4379】「情報・通信業」 へ投稿
企業概要
文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 経営方針
当社グループは、世の中の物理鍵とそれに伴う様々な制約から人々を解放し、扉で分断されたあらゆる場所や空間に人々が自由にアクセスできるキーレス社会の実現を目指しております。この物理空間におけるシングルサインオン(SSO)ともいえる世界の実現を通じて、誰もが利用する鍵や扉を起点とした様々なサービスや価値を提供することで事業拡大を目指すとともに、キーレス社会の構築を通じて少子高齢化に伴う人手不足等の様々な社会課題の解決に向けて取り組んでおります。
具体的な経営方針は以下の通りであります。
① 社会インフラとしてのキーレス社会の創出を通じた価値提供と社会課題の解決
近年、日本ではキャッシュレス社会が大きく進展しております。このキャッシュレスの仕組みは、スマートフォンやICカード等の個人を証明する支払用ハードウエア、POSやカードリーダー等のキャッシュレス決済受入のための認証ハードウエアインフラ、そしてそれらハードウエア機器やインフラのためのソフトウエアや決済トランザクションを支える認証システム等によって構成されており、従来の非デジタルな手段としての現金を置き換えております。
当社グループでは、この急速に進展したキャッシュレス社会と同様の産業構造を持ち、ユーザーのさらなる利便性や価値実現をもたらすキーレス社会が今後急速に進展すると考えております。実際に、社会インフラとしてのキーレス社会はキャッシュレス社会と同様に、スマートフォンやICカード等の鍵を開閉する個人を証明するハードウエア、スマートロックやカードリーダー等の鍵に付帯する認証ハードウエアインフラ、そしてそれらハードウエア機器やインフラを支えるソフトウエアや認証のためのシステムによって構成されており、従来の非デジタルな手段としての物理鍵を置き換えております。キャッシュレス社会が急速に立ち上がったように、新たな社会インフラとして、誰もが利用する鍵や扉を起点としたキーレス社会を新たに創出し、セキュリティや生産性・業務効率、利便性の向上に加え、ビジネスや生活にこれまでにない価値を提供することで、ハードウエア及びソフトウエア、そしてクラウド上のアクセス認証基盤「Akerun Access Intelligence」をトータルで提供する社会インフラの企業としてのポジションを確立、拡大していく方針であります。これにより、セキュリティや生産性・業務効率の向上だけに留まらない、IoTにより取得するビッグデータの利活用やアクセス認証基盤を通じた利便性や生産性・業務効率の向上等の新たな価値を提供することで、企業や個人ユーザー、ひいては社会に貢献し、企業価値の拡大と事業成長を実現できると考えております。また、このキーレス社会の創出を通じて、少子高齢化やそれに伴う生産年齢人口の減少、またビジネスにおける生産性の向上等の社会課題を背景とした、人手不足の解決や業務効率化に向けた企業等の取り組みを支援してまいります。
② 認証インフラによるキーレスの適用領域の拡大
現在、当社グループはこのキーレス社会の実現に向けて、オフィス領域を中心に事業活動を行っております。そして、美和ロックとの合弁会社であるMIWA Akerun Technologiesを通じて、住宅領域における事業拡大に積極的に取り組んでおります。
前述の通り、当社グループでは社会インフラとしてのキーレス社会を実現するためのハードウエアインフラ及び認証基盤を有しており、今後はオフィス領域で培った実績をベースに、住宅領域にもインフラとなるハードウエア機器及びソフトウエアを広く提案し、導入を拡大することで、リカーリングビジネスによる売上の拡大を目指しております。
また、当社グループの推進するキーレス社会は、あらゆる場所に存在する扉における認証を起点としているため汎用性が高いと考えており、今後はオフィス領域や住宅領域に加えて、医療機関や行政施設等の非商業施設、そしてホテル等の宿泊施設やレジャー施設等の商業施設、さらには自動車や交通機関等、扉の存在するあらゆる場所へとその対象を拡大していく計画であります。さらに、扉を起点に展開されるインフラを拡大していくことで、その認証を担うアクセス認証基盤「Akerun Access Intelligence」のプラットフォームとしての価値も同時に向上すると考えております。この認証プラットフォームとしての価値の向上により、将来的には当社グループだけでなく外部のサービス提供事業者も共通認証プラットフォームとして利用できるサービス提供モデルを目指しております。
これらの取り組みによって、サブスクリプションモデルによるARRの増加を目指しております。
③ ユーザーへの提供価値を継続的に強化するビジネスの好循環モデル
当社グループのさらなる事業成長のための源泉は、アクセス認証基盤「Akerun Access Intelligence」であります。この認証基盤を中核とした既存のAkerun事業の拡大を通じて、認証のためのエッジ端末の導入の増加、ユーザー数のさらなる増加、1ユーザーあたりの利用可能・開閉可能な扉の増加により事業拡大を図る考えであります。さらに、Flywheel効果(注)として、このAkerun事業の拡大をベースにユーザー体験の向上や新規事業を含めた周辺領域へのサービス展開等のシナジーにより、ユーザーへの提供価値を継続的に向上させることで、成長及び社会課題の解決のための好循環モデルを推進していく考えであります。
前述の通り、現契約社数5,400社超という相当数のユーザーを擁するアクセス認証基盤は、すでに社会インフラ、ひいてはキーレス社会の実現に向けたインフラとして一定レベルの規模を有していると考えており、今後もAkerun事業及び新規事業を通じてさらにこの規模を拡大し、事業成長を果たしていくとともに、ビジネスの世界だけにとどまらない社会課題の解決に向けた取り組みを推進する考えであります。
(注) Flywheel効果とは、機械設備の用語として回転エネルギーを効率的に蓄え、持続的に回転が維持されるように設計された機械装置のことを指す「Flywheel」が転じて、企業における効率的かつ持続的な事業成長をもたらす仕組みやビジネスモデルのことであります。
(2) 当社グループの取り組む市場の規模
当社グループの事業が対象とする市場は、セキュリティ関連市場及び個人認証・アクセス管理型セキュリティソリューション市場であります。当社グループは、当社が主要ターゲットとしている従業員10名以上のオフィス領域における市場規模を4,100億円(注1)と推計しております。また、これに住宅領域における市場を加えた市場規模を7,600億円(注2)、さらに従業員数を問わないすべての企業と住宅領域における市場を加えたTAM(注3)を1兆2,000億円(注4)と推計しております。これらは巨大な市場規模を有しておりますが、オフィス領域及び住宅領域における事業を両輪に、物理的な扉や錠前のセキュリティ及び認証のプラットフォーム化による社会インフラとしての地位拡大により、さらなる顧客基盤の拡大と事業成長を図る考えであります。
さらに、前述の通り、当社グループのAkerun事業におけるオフィス領域、住宅領域それぞれの特徴やサービスの強みに加え、アクセス認証基盤「Akerun Access Intelligence」によりもたらされるFlywheel効果により、これらの市場からの需要に応えていく考えであります。そして、今後はセキュリティや認証だけにとどまらず、プラットフォーム上に蓄積されたビッグデータを活用したユーザー体験の向上や新規事業を含めた周辺領域へのサービス展開等のシナジーによる提供価値の向上を図ることで、キーレス社会の実現と当社グループの提供するサービスのプラットフォーム化による顧客需要の獲得と顧客基盤の拡大、そして事業成長を加速していく考えであります。
(注) 1.10名以上の小売・飲食を除く事業所向け(約170万事務所)に加え、医療・教育・スポーツ施設等での商用利用向け(約17万事務所)。(出所:平成28年経済センサス‐活動調査の調査結果をもとに当社作成、事務所・商用利用・福祉施設向けは月額課金18,000円で試算)
2.上記(注1)に加え、福祉施設等での利用向け(約7万戸)と住宅向け(約5,500万戸)を加算。(出所:平成28年経済センサス‐活動調査の調査結果をもとに当社作成、事務所・商用利用・福祉施設向けは月額課金18,000円で試算。住宅向けは月額課金500円で試算)
3.TAMとは、Total Addressable Marketの略で、特定のサービスや製品によりアプローチ可能な最大の市場規模を示すものであります。
4.上記(注2)に加え、10名以下の小売・飲食を除く事業所向け(約210万事務所)を加算。(出所:平成28年経済センサス‐活動調査の調査結果をもとに当社作成、事務所・商用利用・福祉施設向けは月額課金18,000円で試算。住宅向けは月額課金500円で試算)
(3) 2022年度からの中期経営計画を通じた早期黒字化のための取り組みと成果
直近の数年における当社グループを含むSaaS企業やグロース企業を取り巻く市場環境は大きく変化しており、株式市場、競合環境、部品等の調達、マクロ経済環境等、今後も引き続き不確実要素が残ると当社では分析しております。この状況を受け、当社グループでは様々な変化に対応するために組織としてのレジリエンシーを高めることを目的に、早期黒字化に向けた継続的な事業成長に加え、収益性の強化や生産性の向上を目指し、2022年度を開始年度とした中期経営計画を策定しております。この中期経営計画では、Akerun導入台数の拡大と住宅領域への積極的な投資と事業成長を主軸とした事業の拡大を目指しております。具体的には、Akerun導入台数の拡大にあたり、導入社数/シェア国内No.1の実績を有する法人向けスマートロックを活用したオフィス利用、オフィス向けで培った実績や堅牢性、信頼性を基盤として住宅向けにも拡大・普及を目指す住宅利用、そしてオフィスや住宅だけにとどまらない、より広範な領域での導入拡大を目指す商用利用という3つの柱により、導入台数の増加を図ってまいります。その中でも、住宅利用においては、住宅領域の研究開発への積極的な投資に加え、事業成長も見据えた積極的な営業活動を推進し、サービスや製品の拡充を通じた需要の取り込みとさらなる事業拡大を目指しております。そして、商用利用においては、喫緊の社会課題となっている少子高齢化等に起因した人手不足への対策や業務効率・施設運営効率の向上を目的として普及が進む、商業施設や小売店舗等の無人化・省人化の潮流をインフラとして支えるAkerunの役割が拡大していることから、業種や業態を問わない商用利用におけるAkerunのユースケースの創出と拡充、そして提案機会の増加に伴う売上拡大を推進してまいります。
これらの取り組みの結果、売上成長の達成と同時に、投資効率の最適化に伴う収益性や生産性の向上を実現しており、中期経営計画の目標の1つであった2023年中の連結営業利益の単月での黒字化を同年12月に達成しております。引き続き当社グループでは、2024年12月期の連結営業利益と連結フリーキャッシュフローの通期黒字化の達成を目指し、事業成長と高い収益性を両立する経営体制の拡充に取り組んでおります。
(4) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社グループの優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題は以下の通りであります。
① さらなる新規顧客及び新規ユーザーの獲得
当社グループの事業の基盤となるAkerun事業のサービス導入顧客の新規獲得及びユーザー数の増加が経営方針における最重要課題であると考えております。中核事業であるAkerun事業の各サービスは、既存の扉に後付け可能という特徴から、国内の企業や住宅における導入余地は非常に大きいものと考えております。
今後も営業体制の強化や生産性の向上、販売チャネルの新規開拓と拡大、そして技術開発や外部サービスとの連携拡大を通じたサービス自体の価値のさらなる向上等を通じて新規導入や追加導入を促進することで、それに伴う新規顧客及びユーザー数の拡大を図ってまいります。
② 技術開発力の継続的な向上
技術開発は当社グループの市場競争力の強化と持続的成長に欠かせないものであると認識しております。引き続き優秀な技術者の採用・育成を推進するとともに、研究開発への投資を通じた技術力の強化・拡充により、IoTや認証、クラウド等に関する先端技術を取り入れるなど、ハードウエア、組込み、アプリケーション、Web等の各開発分野のさらなる技術力及び開発力の強化に取り組む計画であります。
③ 利益及びキャッシュ・フローの創出
当社グループは、中長期的な利益及びキャッシュ・フローの創出を目指しておりますが、事業拡大のための先行投資を積極的に進めるなか、第10期連結会計年度(自 2023年1月1日 至 2023年12月31日)は営業損失を計上しております。
当社グループの収益の中心であるHESaaSビジネスは、サブスクリプションモデルで顧客にサービスを提供し、継続して利用されることで収益が積み上がるストック型の収益モデルである一方で、顧客獲得費用や開発費用が先行して計上される特徴があり、短期的には赤字が先行することが一般的であります。しかしながら、直近の株式市場を取り巻く環境や競合環境、及びマクロ経済環境等を鑑み、当社グループでは当初中期目標で掲げていた黒字化の計画を前倒しし、2024年度の連結営業利益と連結フリーキャッシュフローの通期黒字化を目指して取り組んでおります。
当社グループでは、事業の拡大によりストック収益を順調に積み上げるとともに、事業の収益性をより一層高めることで、今後も当社グループの提供するサービスを通じて、連結営業利益の早期黒字化と中長期的な利益及びキャッシュ・フローの最大化に努めてまいります。
④ 営業のマルチチャネル化を通じた販売の拡大
さらなる事業成長に向けて、中核事業であるAkerun事業における各サービスのより一層の導入促進とそれに伴うサービス導入顧客及びユーザー数の増加が、当社グループの市場競争力の強化に必要であると考えております。この課題に対して、営業体制の強化や生産性の向上に加え、より広範な営業網を構築するための販売パートナーの新規開拓や関係性強化を通じて潜在ユーザーへの提案機会の増加を図る専任営業チーム、大規模企業向けの専任営業チームの育成・強化を積極的に進めてまいります。
⑤ サービス提供価値のさらなる向上と新規サービスの提供
当社グループが提供するサービスのさらなる導入促進とユーザー基盤の拡大、そして既存顧客の満足度の向上のために、従来から提供する入退室管理や勤怠管理にとどまらない、提供価値のさらなる向上と新規サービスの提供が必要であると認識しております。
当社グループでは、開発体制の強化・拡充を通じた新規サービスの開発に加え、外部のパートナー企業との技術連携によるサービス拡充を積極的に進めることで、扉を起点としたユーザーへのさらなる提供価値の向上を図ってまいります。また、合弁会社を通じたAkerun事業の住宅領域への進出並びに同領域における事業拡大に加え、さらなる新規事業の開発を検討・推進してまいります。
⑥ 住宅領域を担う子会社の事業拡大と収益性の強化
当社グループのさらなる事業成長と収益性の強化に向けて、住宅領域におけるスマートロック及びその関連システムの普及と事業拡大に取り組む子会社の株式会社MIWA Akerun Technologiesにおける、主に不動産管理会社等のサービス導入顧客の新規獲得及び営業利益の黒字化が必要であると認識しております。
当社グループでは、住宅領域におけるIoT及びクラウド等のテクノロジーを活用した居住者の利便性の向上に加え、特に集合住宅等における不動産管理会社や不動産オーナー等の管理性の向上を目的とした旺盛な需要を取り込むとともに、共同出資会社である美和ロック株式会社の市場における信頼性や実績、販売網等も活用しながら、住宅領域におけるさらなる新規顧客の獲得と事業成長に取り組んでまいります。
⑦ 情報セキュリティ体制の強化
当社グループの提供するサービスでは、認証に用いる個人情報等の機密情報を取り扱っております。この情報資産を保護するため、当社グループでは情報セキュリティ基本方針を策定し、最高情報セキュリティ責任者(Chief Information Security Officer、CISO)を含む専任のセキュリティ担当者を設置しております。さらに、情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)に関する国際規格「JIS Q 27001:2014(ISO/IEC 27001:2013)」の認証を本社及び大阪オフィス、福岡オフィス、札幌オフィス、物流拠点の各拠点で取得しております。また、技術開発にあたっては社内に専任の品質保証エンジニアを配置し、さらに外部のセキュリティ診断等も実施することで、システムとしての安全性と堅牢性の向上を図っております。これらの取り組みにより、全社的な情報管理体制を強化するとともに、従業員への継続的な情報セキュリティ教育を実施することで、情報セキュリティ体制を強化してまいります。
⑧ ガバナンスの強化
当社グループは鍵や認証というセキュリティに関する事業を行う企業として、ユーザーや市場からの信頼が必要不可欠であると考えております。情報管理、財務、IT、その他の社内制度等を含めた内部統制の継続的な策定、強化、改善を実施することで信頼を獲得し、企業価値のさらなる向上に取り組んでまいります。
⑨ 優秀な人材の採用及び育成と定着
当社グループの将来にわたる持続的成長に向けて、優秀な人材の採用及び育成と定着が欠かせないものと認識しております。特に、サービスの開発や継続的な改善によるサービス価値の強化を担うエンジニアと、さらなるサービス導入促進のための営業人員の採用及び育成と定着が不可欠であると考えております。当社グループでは、優秀な人材の育成と定着に向けて積極的な人材の採用活動を実施するとともに、人材の育成と定着のための社内トレーニング体制の強化や企業文化の醸成等の施策を推進してまいります。
(5) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社グループは、中長期的に安定した売上収益を拡大させることが重要であると考えております。そのため、当社グループは達成状況を判断するための経営上の指標としてARRを採用しております。また、2022年12月期を開始年度とした中期経営計画を策定するとともに、ARR、Churn Rate等の目標を設定し、この目標の達成に向けた成長を加速させることに注力する所存であります。
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