INPEX 【東証プライム:1605】「鉱業」 へ投稿
企業概要
① 経営環境
2023年は、前年のロシアによるウクライナ侵攻を契機とした安全保障環境の緊迫化、国際関係における資源・エネルギーの戦略的利用、大幅な円安、物価の高騰等の環境が継続し、国際社会経済は引き続き不透明な状況です。さらに本年10月以降、イスラエル・パレスチナ紛争の激化が新たな不安定要素として加わり、世界経済の回復・成長は足元において見通しが困難な状況が続いています。
しかし、中長期的には世界の人口の拡大、新興国を中心とした経済成長等により、エネルギー需要は持続的に増加する基調は変わらないものと想定しています。このうちエネルギーの過半を占める石油・天然ガス需要については、世界経済の回復・成長に伴い、増加基調となるものと考えられ、中長期的にも、基調としてはアジアを中心とする堅調な需要が見込まれると考えています。また、石油・天然ガスは平時のみならず緊急時の燃料供給に貢献する点で、国民生活・経済活動に不可欠なエネルギー源と認識しています。
日本では、安定的なエネルギー供給確保のための石油・天然ガスの自主開発比率の向上が継続的な課題となっています。日本政府は、2021年に決定した第6次エネルギー基本計画において、石油・天然ガスの開発・生産・輸送はエネルギー安全保障上引き続き非常に重要な位置を占めるとの認識のもと、自主開発比率(2022年度の実績:33.4%)目標を、2030年に50%以上、2040年には60%以上に引き上げました。
他方、2021年、第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)以来、気候変動対応のため、産業革命前からの平均気温上昇を2℃未満に抑え、さらに1.5℃に抑える努力をする長期目標の実現に向けた取組みの強化が進められています。また、EU、英国、日本等の主要国をはじめ、各国で2050年に向けて温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする、いわゆる「ネットゼロ目標」が表明されています。2023年のCOP28の合意文書では、2030年までに世界で再エネ電源容量を3倍に、エネルギー効率を2倍に改善することが盛り込まれました。新型コロナウイルス感染症の影響からの経済回復、エネルギー安全保障、気候変動対応を同時に進める政策や、社会構造の省エネルギー化・クリーン化に向けた政策が展開されています。こうしたネットゼロカーボン社会に向けた議論の進展により、カーボンニュートラルへの対応の緊要性が増すものと考えています。日本政府も「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、温室効果ガス削減目標を掲げている中、水素・アンモニア・CCUS等の石油・天然ガス上流事業のクリーン化及び再生可能エネルギーの導入促進等、カーボンニュートラルを見据えた取組みが大きく加速しているとの認識です。
② 経営方針
当社は、2022年2月に「長期戦略と中期経営計画(INPEX Vision @2022)」(以下「INPEX Vision @2022」という。)を発表しました。「INPEX Vision @2022」では、経営環境の変化を踏まえつつ、2030年及び2050年に向けた当社の長期戦略を示すとともに、2022年から2024年までの3年間の中期経営計画を策定し、当面の具体的な取組みと目標を示しています。
ネットゼロカーボン社会に向けた国内外における様々な変化は、当社にとって新たな挑戦であると同時に、更なる飛躍の機会と捉えています。今後、当社はこの「INPEX Vision @2022」に基づき、以下の経営方針のもと、我が国及び世界のエネルギー需要に応えつつ、2050年ネットゼロカーボン社会の実現に向けたエネルギー構造の変革に積極的に取り組んでまいります。
また、当社は2023年8月9日発表の「企業価値の持続的向上に向けて」において、資本効率の長期的向上を強く意識し、企業価値の持続的向上を目指すことを示しています。
まず、ポートフォリオの強化による着実な利益成長とコスト削減を進め、ROEと株主資本コストを意識しつつWACCを上回るROICの安定的確保を実現しさらなる高みを目指すとともに、ネットD/Eレシオが概ね30%~50%の範囲内で推移するよう適切な財務のレバレッジのコントロールを通じて、資本効率の向上を目指します。
また、石油・天然ガス分野(イクシスLNG、アバディLNG)の成長、再生可能エネルギーの安定収益化、CCSによる石油・天然ガス分野の座礁資産化リスク低減、水素・アンモニア事業等の推進による将来の成長機会等を通じ、当社の将来事業成長への市場の信認を得るための具体的な取組みを推進します。
さらに、将来事業成長へのコンフィデンスに基づき、資本効率の向上に向けてのアクションとして引き続き株主還元を強化します。
1.石油・天然ガス分野
石油・天然ガス分野を引き続き基盤事業と位置づけ、コアエリアへの選択と集中、天然ガスシフト、事業の強靭化とクリーン化の3点を基本戦略として、それらを一体で進めることで、エネルギーの安定供給と気候変動への責任ある対応という二つの社会的責任を果たします。当社は、従来、石油・天然ガス分野を対象としてコアエリアを選定していましたが、「INPEX Vision @2022」にて、各地域に当社が持つアセット、ネットワーク、技術力等を基盤として、石油・天然ガスとネットゼロ5分野全体のコアエリアとして再設定を行い、両者のシナジーを追求していきます。
第一に、豪州・アブダビ・東南アジア・日本・欧州という5つのコアエリアに対して資金・人材等のリソースを集中させ、事業効率の向上とシナジーの発揮を目指します。コアエリア以外については、バランスの取れたポートフォリオ構築の観点から、収益性や将来性を踏まえて売却も含めて検討します。
第二に、当社はエネルギートランジションが進展する中にあっても天然ガスの重要性は引き続き高いものと見ており、当社ポートフォリオにおけるガスの比率の向上を目指したいと考えています。そのため、天然ガスへの投資比率を現在の50%程度から将来的に70%程度に引き上げ、アジア、オセアニアを中心に規模の拡大を図ります。また、将来の水素やアンモニアプロジェクトへの事業参画の転換や拡大についても検討します。油田開発については、早期生産、早期コスト回収、低CO2排出を重視し、厳選していきます。
第三に、強靭化については、需要減少や低油価環境下においても収益を確保できる競争力あるプロジェクトポートフォリオとしていくことを目指し、徹底的なコスト削減を図るとともに、デジタル技術の活用等による生産性向上を推進します。また、クリーン化については、CCS・CCUSの導入、ゼロフレア実現、再エネ電力の活用、森林クレジットの活用などによりプロジェクトの低炭素化を徹底して進めます。
コアエリア | 現在、及び今後推進する取組み |
豪州 | オペレータープロジェクトであるイクシスLNGプロジェクトにおいて、当初の想定より早いペースで、ほぼ所期の生産量を継続できる状態になりました。現在の年間LNG生産能力890万トンを930万トンに引き上げた上で安定生産を継続できる体制を2024年までに構築できるよう生産プロセスの改善を実施します。また、長期的な生産量維持を確実にするため、周辺鉱区における探鉱及び既発見アセットへの参入を通して追加開発を行い、イクシス既存生産設備へ繋ぎこみを今後加速します。その進捗も踏まえつつ、長期的には2030年頃からのさらなる生産能力拡張も検討しています。 |
アブダビ | 2030年に原油生産能力として、日量500万バレルの達成を目標とする全体の増産計画を踏まえ、当社グループがアブダビで参画する油田群の生産能力増強の早期実現を目指します。新規探鉱事業であるOnshore Block4では、複数の油ガス層の評価作業を進め、早期の生産開始に取り組みます。また、増産計画と併せて、生産コストの更なる削減を目指し、デジタル・トランスフォーメーションの導入等を推進するとともに、GHG排出原単位の削減に向け、CO2EOR能力の強化をADNOC(アブダビ国営石油会社)とともに進めてまいります。 |
東南アジア | アバディLNGプロジェクトについては、2023年10月、従来のジョイントベンチャーパートナーであったShell社からPertamina社及びPetronas社に鉱区権益が譲渡され、両社を新パートナーとして迎えました。2023年12月には、経済性強靭化とクリーン化を主たる修正内容とした改定開発計画がインドネシア政府当局より承認されました。これに伴い、現地でのプロジェクト活動を順次再開し、基本設計作業(FEED)の準備を進め、マーケティングやファイナンス等その他必要な作業も経た上で、早期の最終投資決定(FID)と生産開始を目標としてプロジェクトを推進していきます。アジアにおけるエネルギートランジション促進を目的にさらなる天然ガス資源を獲得すべく、ベトナム・マレーシア等において、探鉱・M&Aを推進します。 |
日本 | 南関原における天然ガス探鉱を実施し、その結果を踏まえて早期の天然ガス資源の開発を目指します。ガス供給インフラに関しては、新東京ラインの延伸等を行い、約1,500kmのパイプラインによる供給体制の強靭化を図ります。また、直江津LNG基地においては、ガスシフトの推進による需要増加への対応のほか、水素やアンモニアのプロジェクトの推進に合わせて、設備拡張を検討します。 |
欧州 | 2022年に取得したスノーレ油田などの生産鉱区を含むノルウェーのアセットをプラットフォームとして、保有鉱区における既発見未開発油ガス田の開発及び周辺探鉱機会の追求により事業を拡大し、さらなる価値向上を目指します。ノルウェーは石油・天然ガス事業における低炭素化の取組みにおいて先進地域であり、スノーレ油田における浮体式洋上風力発電施設の建設を進めるなど、プラントにおいて再生可能エネルギーによる電力を使用することで天然ガスなどの操業に必要な燃料の使用を減らし、操業の低炭素化を推進します。 |
2.ネットゼロ5分野
ネットゼロカーボン社会に向け、気候変動対応目標を定めるとともに、5つの事業を強力に推進します。
<気候変動対応目標及びその進捗>
気候変動に関するパリ協定目標の実現に貢献すべく、2050年自社排出ネットゼロカーボン等を目指す気候変動対応目標を定めます。具体的な目標は、「2050年絶対量ネットゼロ(Scope1+Scope2)」「2030年原単位30%以上低減(Scope1+Scope2、2019年比)」「Scope3の低減」です※1。目標達成に向け、CO2地下貯留・活用(CCUS)や森林保全によるCO2吸収等に取り組み、石油・天然ガス分野全体のCO2低減を強力に推進していきます。
「中期経営計画 2022‐2024」においても、排出原単位をさらに4.1kg-CO2e/boe以上低減することを事業目標として立てています。2023年排出原単位は、29kg-CO2e/boe(暫定値)となり、2019年比で約30%低減しており、継続して各種低減策の実行に取り組みます。
※1 Scope1~3の定義は以下のとおり。
Scope1:報告企業が所有又は管理する発生源からの直接排出量
Scope2:報告企業が購入し消費する電力、蒸気、熱及び冷却からの間接排出量
Scope3:報告企業のバリューチェーンで発生するその他すべての間接排出量
<5つの事業>
1.水素事業の展開
2030年頃までに3件以上の事業化の実現、及び年間10万トン以上の生産・供給を目標として設定し、その実現に向けた取組みを進めます。
・国内においては、新潟県柏崎市でのブルー水素・アンモニア製造・利用一貫実証を推進し、2025年中の運転開始を目指すとともに、この実証での成果を元に、2030年頃までに、新潟県における商業規模のブルー水素製造を目指します。
・海外においては、米国における大規模低炭素アンモニア事業における年間110万トン以上の商業生産を目指し推進するとともに、豪州における国際液化水素サプライチェーンの構築に向け、日豪間での実証事業を推進し、将来的な商用化を目指します。
・その他、豪州・アブダビ・米国等において、事業性検討や他社との協業による事業拡大を推進し、さらなるクリーン水素プロジェクトの立ち上げ・参画を目指します。
2.石油・天然ガス分野のCO2低減(CCUS推進)
2030年頃にCO2圧入量年間250万トン以上という目標を設定し、その実現に向けた技術開発・事業化を推進することで、CCUS分野におけるリーディングカンパニーとなることを目指します。
・国内では、2023年に実施した南阿賀油田におけるCO2-EORの実証試験を元に、開発中のEOR効率改善技術の確立を図り、CCUS技術の拡大と、海外油田でのEOR技術の展開を推進します。また、2023年8月には独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構による令和5年度「先進的CCS事業の実施に係る調査」委託事業において、当社が関与する「首都圏CCS事業」と「日本海側東北地方CCS事業」が採択され、事業可能性調査を実施しています。引き続き両案件を推進し、2030年までの日本国内でのCCS事業化を目指します。
・海外では、豪州イクシスLNGプロジェクトにおいて2020年代後半にCCSを導入し、第一段階として年間200万トン以上のCO2圧入開始を目指すとともに、ダーウィン地域でのCCSハブ事業に主導的役割を果たしていきます。また、アブダビにおいて、ADNOCとともに、アブダビ陸上鉱区の現状年間80万トンのCCUS能力の増強を目指します。
3.再生可能エネルギーの強化と重点化
洋上風力・地熱発電事業を中心に、1-2GW規模の設備容量確保を目標に、M&A等により取得したアセットをプラットフォームとして事業を加速的に拡大し、主要なプレイヤーとなることを目指します。
・コアエリアでの事業拡大
2021年から2022年にかけて、当社コアエリアである欧州のロンドンや、同じくコアエリアのASEAN地域のジャカルタに再生可能エネルギー事業の統括拠点を設立し、それぞれの地域において再生可能エネルギー事業を推進する体制を構築しました。これらに加えて、2023年7月、当社は、再生可能エネルギー世界最大手のEnel Green Powerと豪州における戦略的な協業に合意しました。当協業では、再生可能エネルギー電源の開発に留まらず、再生可能エネルギー電力供給のバリューチェーンの構築を推進します。
・他のネットゼロ事業とのシナジー追求
石油・天然ガス事業を低炭素化、脱炭素化するために再生可能エネルギーを活用する取り組みを強化していきます。また、再生可能エネルギーによる発電とグリーン水素等の製造や販売を統合的に行うビジネスモデルの構築も、欧州を中心に追求していきます。
4.カーボンリサイクルの推進と新分野事業の開拓
メタネーション※2の社会実装を推進し、2030年を目途に年間6万トン程度の合成メタンを当社パイプラインで供給することを目指すとともに、さらなる発展を追求します。
・メタネーションについては、新潟県長岡市において、2023年6月に世界最大級のメタネーション試験設備の建設を開始し、2026年2月頃に当社ガスパイプライン経由で需要家への供給開始を予定しています。さらに、7月にはアブダビにてMasdarとe-methane製造事業の実現に向けた共同調査契約を締結しています。同プロジェクトには東京ガス・大阪ガスも参画し、日本へのe-methane輸出を目指してアブダビでのメタネーション事業全体の事業性評価に取り組みます。
・人工光合成技術※3について、「ARPChem(アープケム:人工光合成化学プロセス技術研究組合)」の一員として、ソーラー水素と呼ばれる太陽光による水の直接分解技術の技術開発を担当しており、豪州ダーウィンの実験サイトにてテストプラントを設置し、2021年に約12か月の実験運転を実施しました。これは、日照量が多いサンベルト地域に設置された世界で初めてのソーラー水素生成プラントであり、今後、より高効率化、長寿命化による実用化を目指します。
・また、新分野事業として、メタン直接分解やドローン技術の活用に注目して取り組んでいるほか、次世代型蓄電池、CO2回収技術、核融合関連技術、グリーンギ酸生産技術等を開発するスタートアップ企業との出資協業を進めています。
※2 再エネ電力を用いて、水を電気分解し水素を生産する。これと石炭火力発電所等から排出される高濃度CO2や、当社の天然ガス生産時の随伴CO2を、CO2-メタネーションシステム(メタネーション触媒)によってメタンに変換する。
※3 人工光合成パネルの表面に設置された光触媒を用いて、太陽光により水を酸素と水素に分解し、発生した水素を燃料・原料などに利用する。
5.森林保全の推進
森林保全によるCO2吸収を目的とした事業を支援から事業参画へ強化・拡充していきます。
・顧客向けカーボンニュートラルLNG(生産から消費までのCO2排出を実質ゼロとしたLNG)等の販売を進めています。
・優良なREDD+等の事業を支援してクレジットを確保することに加えて、事業自体にパートナーとして参画していくことを目指します。
・2022年3月より、オーストラリア・ニュージーランド銀行及びカンタス航空とのカーボンファーミング及びバイオマス燃料事業協力に係る協業を開始し、2023年8月から豪州Wheatbeltプロジェクトにて植林を開始しています。
以上の取組みにより、エネルギーの安定供給とネットゼロカーボン社会への対応を推し進め、経済・社会の
発展に貢献します。
なお、本項の記載中、将来に関する事項については、別途記載する場合を除いて本書提出日現在での当社グループの判断であり、今後の社会経済情勢等の諸状況により変更されることがあります。
- 検索
- 業種別業績ランキング