ANYCOLOR 【東証プライム:5032】「情報・通信業」 へ投稿
企業概要
当社の経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。
なお、文中における将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものになります。
(1)経営方針
当社は、「魔法のような、新体験を。」というコーポレート・ミッションを掲げており、今までにない新しいエンターテイメントの体験を世の中に提供することを目的に、VTuberグループ「にじさんじ」の運営等のサービス展開を行っております。
(2)経営環境
① VTuberグループとしての特徴
当社の強みはVTuberによるライブ配信におけるVTuberとユーザーとの双方向のコミュニケーションを通じて培うVTuberとユーザーとのファンコミュニティであると考えています。当社のVTuberビジネスにはその特性上、以下に掲げる3つの強みがあると考えております。
1.当社ではVTuberのイラスト、キャラクターを会社がデザイン・設定し、VTuberのIPを会社が保有しております。会社がIPを保有することで、IPを活用したコマース領域やプロモーション領域への展開のしやすさや、ライバーの高い活動継続率などといった安定的な事業体制につながっております。
2.バーチャル世界においては現実世界における知名度を活かすことができず、バーチャル世界における知名度が重要となると当社では考えております。有名キャラクターや芸能人が一時的にVTuberビジネスを開始することは予想されるものの、グループとして成功する上では、ライブストリーミングを通じて獲得したファンとライバーとの間の関係性は他社の参入障壁となると考えております。
3.VTuberはバーチャルキャラクターであるため、ライバーの現実世界における制約(性別、職業、国籍等)を受けることなく配信が可能です。また、定期的なコンプライアンス研修の実施や動画内容のパトロールを行うことでコンテンツの健全性を確保し、炎上の発生を抑えることに繋がると考えております。
② 当社の業績について
当社は、VTuberグループ「にじさんじ」の運営を起点として、ライブストリーミング領域、コマース領域、イベント領域、プロモーション領域を展開しており、VTuberをライブストリーミングにとどめることなく活動領域の拡大に取り組んで参りました。
所属VTuber数の増加とサポート体制の拡充を両立することで、「にじさんじ」のファン数が着実に増加し、それによりコマース領域が大きく伸長しております。また、VTuberの活動の幅の拡がりと共に認知度も高まることで、「にじさんじ」に企業案件を依頼いただける顧客企業が増加し、プロモーション領域も大きく伸長しております。このようにコマース領域とプロモーション領域が中心となって、売上高の成長を牽引しております。
また、当社の営業利益率についても改善傾向にありますが、当社が計上している売上原価のうちには、デザイナー、エンジニア、映像制作等の原価的な性質を持つ人件費や外注費の一部や配信スタジオの賃料等といった、必ずしも売上高の成長に比例して増加するとは限らないコストも含まれております。また、販売費及び一般管理費に含まれるコストも、営業、事業開発、経営管理等の原価項目以外の人件費、地代家賃等をはじめとして売上高の成長に比例して増加するとは限らないものが大半となります。
③ 当社所属VTuberとファンコミュニティについて
約150名のVTuberで構成されるVTuberグループ「にじさんじ」では、各VTuberの動画配信を視聴したユーザーとの間で、他の「にじさんじ」所属VTuberの動画配信の視聴やコマース領域、イベント領域及びプロモーション領域を通じた接点を持つこと等により、当該ユーザーの「にじさんじ」のファンとしての定着を図っております。また、当社の新人VTuberは「にじさんじ」グループの一員としてデビューすることで、「にじさんじ」の既存ファンコミュニティを活用して、ファンを獲得することが可能となっております。
VTuberはキャラクターとしての魅力に加えて、ライバーと配信を通じたコミュニケーションを通じて各VTuberそれぞれがファンとの関係を築いていくという特徴があると考えております。また、当社は特定のVTuberへの依存が低いと認識しており、幅広いVTuberの活動に支えられて運営を行っております。それは収益分散状況に表れていると考えており、2024年4月期売上高のうち、約30%はTOP10のVTuberにより獲得された収益であり、約50%はTOP30のVTuberにより獲得された収益となっております。こうした収益の分散状況から、仮に特定のVTuberが卒業をすることになったとしても収益基盤への影響が限定的であり、当社事業の継続性・安定性は高いと考えております。
④ VTuber市場の更なる成長可能性
VTuber市場は、誕生から間もない市場であり、VTuberの活動の幅の拡大に合わせて、アクセス可能な市場規模は今後も拡大していくと当社は考えております。VTuberは、2016年12月頃より、バーチャルな存在として活動するYouTuberを呼称する用語として用いられるようになった言葉であり、2017年には主に個人で活動するVTuberが多く生まれました。当社がVTuberグループ「にじさんじ」の活動を開始したのは2018年2月で、2018年以降は当社のように個人ではなくグループとして活動するVTuberが増加した時期であり、また、既存キャラクターのVTuber化や企業の広報宣伝を目的としたVTuberが誕生する等、VTuberはその活動を多様化していきました。こうした発展を背景に、日本国内のVTuber市場の規模は2023年度に800億円と見込まれており、2020年度からの年平均成長率は77%となっております(注1)。
より長期的なビジョンでは、VTuberの活動を拡げることでアニメ業界を中心としたエンターテインメント業界の広大な市場を開拓していくことを目指してまいります。ライブストリーミング領域においては、既存のYouTube配信やアニメの配信市場(1,652億円(注2))が類似した市場であると考えており、その一部を置き換えうると考えております。同様に、コンテンツ販売においては国内アニメ市場のグッズ販売市場(6,693億円(注2))を、イベントは国内アニメ市場のライブ市場(972億円(注2))の一部を置き換えうると考えております。また、プロモーション領域においては、日本の動画広告市場(6,253億円(注3))の一部を置き換えうると考えております。加えて、今後VTuberが活動領域を拡げることで、更にアクセス可能な市場は拡がっていくと考えております。例えば足元ではVTuberが歌手デビューを通じて、国内の音楽市場にアクセス可能となっているほか、VTuberがTVに出演する機会も増えていることから、今後リアルとバーチャルにおける芸能人/タレントの垣根がなくなっていくことで、VTuber市場が更に拡大する可能性があるものと考えております。
(注)1.株式会社矢野経済研究所「2023年 VTuber市場の徹底研究 ~市場調査編~」
2.一般社団法人日本動画協会「アニメ産業レポート2023」
3.株式会社サイバーエージェント「サイバーエージェント、2023年国内動画広告の市場調査を発表」
(3)中長期的な経営戦略等
当社は中長期的な経営戦略として、引き続きVTuberの育成・デビューに取り組むとともに、エコシステムの強化を通してVTuber1人あたりの収益を拡大することを基本戦略としており、以下のような取組みを通じて①事業基盤の強化、②継続的なVTuberの輩出、③VTuber当たり収益の拡大を目指してまいります。
① 事業基盤の強化
当社では新規VTuberのデビューに加えて、既存VTuberの強化やユニットプロデュースの促進に合わせ各領域での人的リソースを強化してまいります。当社事業に必要な人材例としては、VTuberの活動をサポートし、出演するリアルライブをVTuberと一緒に作り上げるタレントマネージャー、デザイン力×自社IPによって、ファンの方々へ質の高いコンテンツをデザインするイラストレーター、ライバーの3D配信や、社内外含む大型イベントに使用する3Dのキャラクターモデル、もしくは小物・背景を制作する3Dモデルデザイナー、スタジオにて配信/収録業務の映像、音声オペレーションを担当するスタジオエンジニアなどが挙げられます。当社では採用広報の強化など組織的に採用戦略を展開することで、VTuberを支える会社基盤を強化してまいります。
また、当社では2024年秋に配信スタジオへの設備投資を行うことを計画しており、新スタジオは面積規模をこれまでの3倍の規模に拡張し、VTuberの人数増加や、多様なコンテンツ制作ニーズに対応してまいります。新スタジオでは、様々な用途で活用可能な2D/3Dスタジオ、レコーティングスタジオ、個人配信ブースといった各種のスタジオ機能をこれまで以上の規模・クオリティに拡充し、配信コンテンツ、音楽、イベントなどの領域で魅力的なコンテンツの提供を実現いたします。
② 継続的なVTuberの輩出
当社では所属VTuberの活躍を通じて「にじさんじ」のファンコミュニティが拡大することで、「にじさんじ」というプラットフォームで活動を希望するライバー候補者の人数が増加し、それがより魅力的な才能に出会える可能性の最大化に繋がると考えております。
当社は、2021年6月にバーチャル・タレント・アカデミーと呼ばれるVTuberの養成所を開設しております。ライバー候補の方々をVTuberとしてデビューさせる前段階において、配信トレーニング、ボイス・歌唱トレーニング、ダンス・モーショントレーニング、ファンとの向き合い方、動画編集・スタジオ活用能力の強化等、個々人が希望する活動の方向性等を加味しながら、能力の育成に努めております。バーチャル・タレント・アカデミーでは継続的なVTuberの輩出に向けた幅広い才能を集めるオーディションを定期的に開催しており、年間で50人から60人程度の候補生を選抜しております。また、よりユニークな才能を持ったVTuberの輩出に向けた通常とは異なるオーディションも開催しており、長期的な視点から、現在所属するVTuberとは異なるファン層の開拓に繋がり得る人材を発掘することも目指しております。
③ VTuber当たり収益の拡大
当社ではユニットプロデュースの展開と成長を通じて、業界を牽引するようなTop VTuberへの投資と育成を行っております。ユニットプロデュースとは複数人のVTuberでVTuberユニットを組成し、VTuber個人としての活動に加えて、当該ユニットでの音楽コンテンツ、グッズ、ライブイベント、YouTubeでの番組コンテンツなどを提供するものです。多様なVTuberが所属する当社の強みを活かしたユニット展開を加速し、既存ユニットの成長と新規ユニットの輩出を通してファンコミュニティのさらなる拡大を目指してまいります。ユニット活動では、VTuber同士の掛け合いなどから新たな方向性や特徴が生まれることで従来とは違うファン層の開拓に繋がると考えております。
また当社では、コマース領域での企画充実による各VTuberのファンコミュニティ拡大、スケジュール管理による機会損失の回避と販売機会の拡大を図るため、ファンコミュニティが求めるアイテムをより幅広く企画・供給出来る体制を整備しております。具体的には、①製品の企画・製造ラインを拡大し、ニーズのある製品を毎月安定的に供給できる体制を構築すること、②適切な販売スケジュールの管理を行い、製品リリースのタイミング等を適切に管理し機会損失を低減すること、③時流に合わせた商品企画を行い、ファンがより求める新製品や高品質な製品の企画・提供することを通じて、コマースのポテンシャルを最大化し、VTuber当たりの売上を拡大してまいります。
(4) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社のコーポレート・ミッションの実現及び持続的な成長と企業価値向上を表す指標として、売上高、各領域別売上高、営業利益、営業利益率を経営上重要な指標として位置付けております。また、売上高の拡大には、にじさんじVTuber数、ANYCOLOR ID数の拡大が必要であると考えております。以下では、当社のサービス別の売上高推移と営業利益を掲載しており、これらは多様な収益基盤を軸とした成長性と収益性の拡大を示していると当社では考えております。
領域別業績と営業利益の推移
(単位:千円) |
| 2021年4月期 | 2022年4月期 | 2023年4月期 | 2024年4月期 |
売上高 | 7,636,041 | 14,164,140 | 25,341,711 | 31,995,554 |
ライブストリーミング領域 | 2,464,063 | 3,710,255 | 5,074,234 | 4,993,539 |
コマース領域 | 3,363,513 | 7,162,421 | 14,247,400 | 18,937,365 |
イベント領域 | 602,302 | 785,559 | 1,600,210 | 1,906,571 |
プロモーション領域 | 1,037,759 | 2,304,140 | 4,048,748 | 5,884,578 |
その他領域(注1) | 168,400 | 201,762 | 371,117 | 273,499 |
営業利益 (営業利益率) | 1,452,015 (19.0%) | 4,191,075 (29.6%) | 9,410,018 (37.1%) | 12,361,867 (38.6%) |
(注)1.その他領域には中国でのVTuberビジネス等を含んでおります。
2.当社が2024年6月12日に公表した「中期的な成長に向けた経営方針」に基づき、当期において各事業領域への集約を行っており、各領域には国内、英語圏、韓国、インドネシアにおける売上高を含めて表示しております。
KPIの推移
|
| 2021年4月期 | 2022年4月期 | 2023年4月期 | 2024年4月期 |
VTuber数(日本・英語圏) | (名) | 103 | 129 | 156 | 158 |
ANYCOLOR ID数 | (万アカウント) | 22 | 53 | 93 | 126 |
(5)優先的に対処すべき事業上の課題
当社の優先的に対処すべき主な課題は以下のとおりであります。なお、優先的に対処すべき財務上の課題はございません。
① サービスの健全性の確保
当社では、健全なコンテンツを発信していくことが、中長期的にはファンや顧客企業の獲得・蓄積に資すると考えており、当社に所属するライバーに対するコンプライアンス研修やコンテンツ管理に注力しております。また、SNS等の普及により、インターネット上でのクリエイターに対する誹謗中傷等が社会的に問題となっております。当社では、所属するライバー等をそうした脅威から保護するための体制の強化を進めてまいります。
② サービスの認知度向上
当社が今後も高い成長率を持続していくためには、VTuber及び「にじさんじ」の認知度を向上させ、継続的に新規ファンを獲得していくことが必要不可欠であると考えております。これまでの活動を通じて、10代後半から20代前半の方々を中心に主には若年層の方々の間で一定の認知が広がってきているものの、更に幅広い層のファンを獲得するために、SNSを中心としたマーケティングや広報活動の拡充を推進してまいります。
③ ライバーの発掘と育成
当社にとって、所属するライバーの育成と、新規でのライバーの発掘は事業上の根幹をなすものとなっております。当社は現在所属しているライバーに向けて、動画やコンテンツの制作に係る支援や企業案件の獲得、視聴者やファンの増加のための各種サポートを引き続き一層強化するとともに、VTuberの世界観やキャラクターデザインの改善等、様々な取り組みを継続してまいります。また、未来のライバーの発掘や育成のために、これまでに実施しているオーディションの形に捉われず、様々な可能性を追求してまいります。
④ 新技術への対応
当社は、技術の発達によりエンターテイメントにおける新たな方法による表現が可能になり、ファンの方々に提供できる体験を進化させることができるという認識のもと、新技術への対応を適時に行うことが重要な課題であると考えております。したがって、当社では、VRやAR等を含む、近年において次々と登場する新技術に対応すべく、必要な対応や投資を積極的に行ってまいります。
⑤ 優秀な人材の採用と育成
当社の継続的な成長には、事業拡大に応じた優秀な人材を採用するとともに、組織体制を整備していくことが重要であると考えております。当社のコーポレート・ミッションに共感し、高い意欲を持った優秀な人材を採用していくために、積極的な採用活動を行っていくとともに、従業員が働きやすい環境の整備や人事制度の構築を行ってまいります。また、採用後も、当社で存分に力を発揮することを後押しするために、業務を通じたトレーニングの他、研修制度等の充実にも努めてまいります。
⑥ 海外市場の開拓
当社では現在、英語圏及び中国を中心に海外でもVTuberビジネスを展開しておりますが、これらの地域におけるVTuberの普及は発展途上の段階であり、積極的に事業拡大を図っていく中で、海外におけるVTuberの浸透に努めてまいります。また、現在進出していない国・地域におけるVTuberビジネスの可能性についても、継続的に検討してまいります。
⑦ 情報管理体制の強化
当社では、所属ライバーや顧客に関する個人情報を保有しており、その情報管理を強化していくことが重要であると考えております。今後も社内規程の厳格な運用や、役職員に対する定期的な社内教育の実施、情報セキュリティシステムの整備等に取り組み、一層の情報管理体制の強化、徹底を図ってまいります。
⑧ 内部管理体制の更なる強化
当社の更なる成長のためには、業務の効率化や、事業の規模やリスクに応じた内部管理体制の更なる強化が重要な課題であると認識しております。今後も、事業上のリスクを適切に把握・分析したうえで、リスク管理規程やコンプライアンス規程等の改定、社内教育の充実等を通じて、適正な内部管理体制の整備に取り組んでまいります。
- 検索
- 業種別業績ランキング