第一三共 【東証プライム:4568】「医薬品」 へ投稿
企業概要
当社グループにおける経営方針、経営環境及び優先的に対処すべき課題等は次のとおりであります。
なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループ(当社及び連結会社)が判断したものであります。
(1) 第一三共の価値創造プロセスとESG経営
当社グループでは、ESG経営を「ESGの要素を経営戦略に反映させることで、財務的価値と非財務的価値の双方を高める、長期目線に立った経営」と定義し、実践しております。
社会からの多様な要請に応えるため、社内外の様々な経営資源を価値創造プロセスに投入し、サイエンス&テクノロジーを競争優位の最大の源泉として、各ステークホルダーや社会への価値を提供しております。この価値創造プロセスを循環させることで、企業と社会の持続的成長を両立させることができると考えております。
中長期的な企業価値へ影響を及ぼす重要度と、様々なステークホルダーを含む社会からの期待の両面から、8つの重要課題をマテリアリティとして特定し、事業に関わるマテリアリティと事業基盤に関わるマテリアリティに整理しております。
(2) 2030年ビジョン
ESG経営のもと、新たに「サステナブルな社会の発展に貢献する先進的グローバルヘルスケアカンパニー」となることを2030年ビジョンとして掲げました。
パーパス(存在意義)である「世界中の人々の健康で豊かな生活に貢献する」の実現に向けて、当社グループに期待される社会課題の解決(革新的医薬品の創出、SDGsへの取り組み等)を目指し、われわれの強みであるサイエンス&テクノロジーに基づき、イノベーティブなソリューション提供に挑戦し続けます。
(3) 第5期中期経営計画(2021年度-2025年度)
ESG経営を実践しつつ、2025年度目標「がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業」を達成し、2030年ビジョン実現に向けた成長ステージに移行することを目指した計画として、第5期中期経営計画を策定し、4つの戦略の柱を設定いたしました。
① 4つの戦略の柱
(ⅰ) 3ADC最大化の実現
第5期中期経営計画においては、エンハーツ、Dato-DXd、HER3-DXdの3ADC(注1)の最大化の実現が最重要課題となります。
エンハーツについては、アストラゼネカとの戦略的提携を通じた市場浸透と新適応の取得を加速して参ります。また、HER2を標的とする競合品に対する優位性を確立するとともに、乳がん治療におけるHER2低発現コンセプトの定着を目指しております。
Dato-DXdについては、アストラゼネカとの戦略的提携を通じて、より早いタイミングでの承認取得とその後の適応追加を目指しております。また、効果的な上市計画を策定・実行するとともに、TROP2を標的とする競合品に対する優位性を確立して参ります。
HER3-DXdについては、自社開発による最速での上市を目指しております。また、効果的な上市計画を策定・実行した上で、がん治療ターゲットとしてのHER3を確立して参ります。
以上の取り組みに加え、注意すべき副作用の一つである間質性肺疾患(ILD)のモニタリングとリスク分析を通じた適正使用を促進するとともに、製品ポテンシャルに合わせて効率的かつ段階的に要員と供給キャパシティを拡大して参ります。
<2021年度-2023年度の主な進捗>
エンハーツについては、着実な市場浸透、上市国・地域の拡大とHER2陽性乳がんの2次治療、化学療法既治療のHER2低発現乳がん等の新適応の取得により、当初計画を上回る ペースで売上収益が拡大いたしました。加えて、乳がんの早期治療をはじめとする更なる新適応の取得や適応がん種の拡大に向けた臨床試験も進捗いたしました。Dato-DXdについては、非扁平上皮非小細胞肺がん及びホルモン受容体陽性かつHER2低発現又は陰性乳がんの2次治療以降の承認申請が受理される等、承認取得とその後の適応追加に向けた開発が進展いたしました。HER3-DXdについては、I-DXd(抗B7-H3 ADC)及びDS-6000(抗CDH6 ADC)とともに、良好な臨床試験データが蓄積し、製品価値極大化を計画するステージに移行いたしました。加えて、ADCの開発競争が一層激化していることを受け、DXd ADCフランチャイズ極大化のためのキャパシティ、リソース、ケイパビリティ増強の必要性が高まってきたことから、より早く、より多くの患者さんにお届けするために、当該3製品について米国メルクとの戦略的提携契約を締結し、同社と共同開発・販促することを決定、開始いたしました。また、HER3-DXdについてはEGFR変異を有する非小細胞肺がんの3次治療の承認申請が受理される等、承認取得とその後の適応追加に向けた開発が進展いたしました。今後も、効果的な開発投資により、第5期中期経営計画後半における飛躍的成長に繋げるよう、製品価値最大化の実現に向けた取組みを着実に進めて参ります。
(注)1.ADC:
Antibody Drug Conjugateの略、抗体薬物複合体。抗体医薬と薬物(低分子医薬)を適切なリンカーを介して結合させた医薬品で、がん細胞に発現している標的因子に結合する抗体医薬を介して薬物をがん細胞へ直接届けることで、薬物の全身曝露を抑えつつ、がん細胞への攻撃力を高めた薬剤。
(ⅱ) 既存事業・製品の利益成長
持続的な成長に向けた投資を継続していくために、がん事業のみならず、既存事業・製品における利益成長も重要な課題であります。
リクシアナについては、収益性の高い、安定した利益を生み出す製品であることから、当該製品より得た収益を、3ADC及び3ADCに次ぐ成長ドライバーへの投資の源泉とすべく、売上収益の更なる拡大に取り組んで参ります。
タリージェ、Nilemdo等の新製品については、適応追加等を通じた、早期拡大を目指しております。リクシアナに加え、これら新製品の早期拡大により、がん以外の新薬事業においても持続的な成長を目指しております。
各国・各地域においては、新薬を軸とした収益構造へのトランスフォーメーションを強化することで、持続的な利益成長を支える事業構造へと転換を図って参ります。
アメリカン・リージェントについては、インジェクタファー、ジェネリック注射剤を中心とした利益成長を目指しております。第一三共ヘルスケア株式会社については、店舗販売や通販事業を中心とした利益成長を目指しております。
<2021年度-2023年度の主な進捗>
リクシアナは、用法及び用量の追加により製品価値が向上し、順調に売上収益が拡大いたしました。更に、各国・各地域においてタリージェ、ヴェノファー、Nilemdo/Nustendi等も着実に成長を遂げました。加えて、エムガルティをはじめとする新製品の上市や、各国・各地域における独占販売期間満了後の製品譲渡及び日本のジェネリック医薬品事業を取り扱う第一三共エスファ株式会社の株式譲渡等が進展し、新薬を軸とした事業構造へのトランスフォーメーションが進みました。今後も、収益性の高い製品の売上を拡大することで、持続的な利益成長を支える事業構造へと転換を図って参ります。
(ⅲ) 更なる成長の柱の見極めと構築
持続的成長を図るため、3ADCに次ぐ成長ドライバーを見極めるとともに、マルチモダリティ研究戦略によりポストDXd-ADCモダリティを選定することも重要な課題であります。
3ADCに次ぐ成長ドライバーについて、DXd-ADCファミリー、第二世代・新コンセプトADC、改変型抗体等の領域から見極めて参ります。
様々なモダリティ技術の中から、持続的成長のためのポストDXd-ADCモダリティを選定して参ります。LNP-mRNAについては、新型コロナウイルス感染症以外でのワクチンにも活用して、ワクチン事業の成長につなげて参ります。
<2021年度-2023年度の主な進捗>
I-DXd、DS-6000については、良好な臨床試験データが蓄積し、製品ポテンシャルが一層高まったことから、3ADCに次ぐ成長ドライバーと位置づけ、将来の更なる成長に向けて、エンハーツ、Dato-DXd、HER3-DXdとともに、両製品の開発を加速しております。加えて、第二世代ADC DS-9606(ターゲット非開示ADC)の臨床試験を開始するとともに、COVID-19に対するmRNAワクチンの承認を取得し、供給する等、ポストDXd ADCモダリティ選定も進展いたしました。今後も、当社独自のADC技術等を用いた更なる成長の柱の見極めと構築を進めて参ります。
(ⅳ) ステークホルダーとの価値共創
長期視点でESG経営を進めていく上で、患者さん、株主、社会・環境、従業員といったステークホルダーとの価値共創も重要な課題であります。
3ADCによる様々ながん種への展開や、希少疾患の比重が高まる中、医薬品開発のみならずバリューチェーン全体で、患者さんを中心としたマインド(Patient Centric Mindset)による取り組みを強化し、患者さんへの貢献を果たして参ります。
持続的な企業価値の向上を図るため、バランスのとれた成長投資と株主還元を実現して参ります。
脱炭素社会、サーキュラーエコノミー、自然共生社会といった、社会・環境課題に対し、研究開発から営業に至るバリューチェーン全体で、環境負荷の低減に向けた様々な取り組みにチャレンジし、社会・環境へ貢献して参ります。
平時における自社生産拠点からの季節性インフルエンザワクチン等の安定供給に加え、COVID-19及び将来の新興・再興感染症ワクチンにも応用可能な技術の確立、将来のパンデミック時のワクチン供給体制の整備を通じて、社会へ貢献して参ります。
グループ共通の核となる行動様式(Core Behavior)を定め、グループ全体で実践していくことで、独自の企業文化「One DS Culture」の醸成を図り、グローバル組織と人材における強みを更に強化して参ります。
<2021年度-2023年度の主な進捗>
COVID-19に対するmRNAワクチンであるダイチロナ筋注(1価:オミクロン株 XBB.1.5)の日本における供給等、パンデミックリスクへの対応が進捗いたしました。また、事業活動で消費する電力を100%再生可能エネルギーにすることを目指す国際的イニシアチブである「RE100(注2)」に加盟するとともに、日本の自社拠点における使用電力を再生可能エネルギー化する等、環境課題に対する取組みが進展いたしました。引き続き、ステークホルダーとの価値創造プロセスの強化に向けた諸施策を実践して参ります。
(注)2.RE100:
国際環境NGOであるThe Climate Groupと企業に気候変動対策に関して情報開示を促しているCDPによって運営される、企業の再生可能エネルギー100%を推進する国際的イニシアチブ
② 戦略の実行を支える基盤
4つの戦略の柱の実行を支える基盤を強化するため、DX推進によるデータ駆動型経営を実現するとともに、先進デジタル技術による変革を進めて参ります。加えて、新たなグローバルマネジメント体制により迅速な意思決定を実現して参ります。
<2021年度-2023年度の主な進捗>
社内外のエンハーツの統合データ分析が可能な分析基盤をグローバルで運用開始いたしました。また、オンコロジービジネスユニットを新設し、がん領域における治療体系や市場環境の急速な変化に対し、ビジネスとサイエンスの両面から迅速に対応いたしました。今後も、業容の変化と拡大にあわせてデータ駆動型経営を加速するとともに、グローバル体制を強化して参ります。
③ 株主還元方針
普通配当1株当たり27円の維持に加え、利益成長に応じた増配や機動的な自己株式取得を実施することで、株主還元のさらなる充実を図って参ります。
KPIとして、株主資本を基準とする株主資本配当率(DOE)を採用し、安定的な株主還元を行う方針とし、2025年度のDOEは株主資本コストを上回る8%以上を目標に掲げ、株主価値の最大化を目指しております。
<2021年度-2023年度の主な進捗>
前連結会計年度においては、エンハーツの想定以上の売上拡大を受け、当初計画で想定していた増配時期を前倒しし、2022年度の1株当たり年間配当を2021年度実績の27円から30円に増配いたしました。
当連結会計年度においては、エンハーツの更なる売上収益拡大等により、引き続き業績が好調に推移していることに加え、米国メルクとの戦略的提携契約締結に伴う契約時一時金を受領したこと等を受け、2023年度の1株当たり年間配当予想を2022年度実績に比べ20円増配の50円とすることを決定いたしました。
引き続き、利益成長に応じた増配や機動的な自己株式取得により、株主還元の更なる充実を図って参ります。
④ 計数目標
第5期中期経営計画における2025年度の計数目標として、売上収益1兆6,000億円(うち、がん領域において6,000億円以上)、研究開発費控除前コア営業利益率40%以上、ROE16%以上、DOE8%以上を目指しております。なお、2025年度の為替レートの前提は1USD=105円、1EUR=120円であります。
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