東洋エンジニアリング 【東証プライム:6330】「建設業」 へ投稿
企業概要
(EPC事業)
当連結会計年度において、当社グループは研究開発費2,794百万円を投入し、技術力強化方針として「新たなビジネス・商品開拓」「各事業分野のビジネス戦略強化」「基幹ビジネスの基盤強化」につき、以下の研究開発活動を当社グループ内および産官学連携により実施いたしました。
《新たなビジネス・商品開拓》
(DX(Digital Transformation)利用のスマート保安)
スマート保安分野では、デジタル基盤を介したプラント運営支援を目指し、DX-PLANT®のソリューション深化と拡販を進めております。そのためのシステム基盤を構築し、工場オーナーにとって導入しやすく、要求に柔軟に対応できる体制を整え、現在計9件の導入実績となっています。また、尿素プラント向け性能監視・最適化システム(PMOS®)や、エチレンプラント向けエチレン分解炉の運転状態予測・最適化支援システム(RL-Tracker®)、分解ガス圧縮機性能監視など、当社の知見を活かした高付加価値ソリューションの運用を行っております。分解ガス圧縮機性能監視では、実運転条件によるリアルタイム動力計算を行うことで、従来の設計条件による動力計算に改善余地を確認するという成果を得ています。今後は尿素・エチレン等の化学工場に加え、カーボンニュートラル関連施設にも適用のアプローチを拡げるとともに、更に技術支援サービスにおけるDX技術の活用など新しい顧客支援領域を拡張し、顧客のプラント運営の収益改善に貢献してまいります。
(環境・省エネ)
① SUPERHIDIC®・HERO(Hybrid Energy system Re-Optimization)
環境・省エネ分野では、脱炭素社会に貢献すべく、革新的省エネルギー蒸留システム“SUPERHIDIC®”に加え、プラントを構成するプロセス系・用役系を省エネ・温室効果ガス(GHG)排出削減の観点から数学的に同時最適化するコンサルタントサービス“HERO”のビジネスを積極的に展開しております。“SUPERHIDIC®”は、CO2コストが高い欧州にて複数のフィジビリティスタディーを実施中です。また、経済産業省『省エネルギー投資促進・需要構造転換支援事業費補助金制度』における先進設備・システムに認定され、国内の製造者により導入頂き易くなりました。“HERO”では国内外の顧客から複数の案件を受注し、特にタイ石油化学最大手であるGC(PTT Global Chemical Public Company Limited)向けには、2つの案件を通して5.5万t/年のCO2排出量削減案を創出し、GCで改造プロジェクトが動き出しています。2024年度においても両技術を用いた大規模なGHG排出削減に繋がる案件が期待されております。
② 二酸化炭素回収・有効利用・貯留(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage = CCUS)分野
世界的に急速に加速しているGHGのゼロエミッション実現に向け、CCUSはCO2排出削減に不可欠な技術となっております。当社は、CCUSに関する技術分野において、国内外の協業パートナーと連携を行い、CCUS案件の実現に注力しております。当社が推し進めているカーボンニュートラルバリューチェーン事業においては、グリーン燃料に加え、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)を組み合わせることによりCO2オフセットされたブルー燃料の実現を推進しております。特に、CO2削減に向けた喫緊の対策が必要となる石炭火力、石油精製、金属製錬等の分野の顧客の支援にも取り組んでおります。また、日本CCS調査株式会社への出資・派遣などの対外的な活動も引き続き実施いたします。
③ 地熱エネルギー分野
地熱エネルギーは大きな可能性を秘めており、カーボンニュートラル社会の実現のためベースロードとなり得る再生可能エネルギーとして期待されています。当社は、この地熱エネルギーの可能性を最大限に活用する“カーボンニュートラルパーク”(地下・地上の様々な関連技術を組み合わせた地熱フィールドの全体開発・最適化を進める構想)実現のための取り組みを推進しています。グループ会社で地熱発電設備のEPC実績が豊富なインドネシア・IKPT(PT. Inti Karya Persada Tehnik)とも連携しています。具体的には、2023年9月にインドネシアの地熱事業者であるPT Geo Dipa Energi、2024年2月にインドネシアの地熱事業者であるPT Medco Power Indonesiaとそれぞれ覚書を締結し、今後技術導入を検討します。当社は、地熱分野でインドネシアの持続可能な社会の実現と経済発展に貢献し、将来的には日本の地熱開発にも技術を展開していきます。
④ 持続可能な航空燃料(Sustainable Aviation fuel = SAF)分野
SAF分野では、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託を受け、三菱重工業株式会社、株式会社JERA、および国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で、木質系バイオマス等を原料としたバイオジェット燃料を合成する一貫製造実証プロジェクトの成功裏の完了をもとに、引き続きNEDOの助成を受け、三菱重工業株式会社と共同で、将来のSAF供給の一端を担うべく、商業規模での製造技術確立とサプライチェーン構築検討を進めております。
⑤ 燃料アンモニア分野
水素燃料キャリアとしてのアンモニア利用技術開発の一環として、一般社団法人クリーン燃料アンモニア協会 (CFAA)に理事会員として参画しており、CO2フリーアンモニアサプライチェーン実証を目的として、石炭火力発電所等でのアンモニアへの燃料転換によるCO2排出低減や海外でのアンモニアバリューチェーンの事業化について検討を継続しております。
2022年度に「正確な燃料アンモニア関連情報の発信や、安全性などの社会受容性の向上等に向けた広報活動の検討・推進」を目的としてCFAA企画運営委員会に新設された広報WGのリーダーとして燃料アンモニアの早期社会実装に向けた活動も推進しております。
国立大学法人東京工業大学(東工大)、Ammon Fields株式会社、株式会社エフ・シー・シーと連携し、東工大の原亨和教授らが開発した高性能な鉄-ヒドリド触媒を燃料用アンモニア製造システムに適用することを目指し、触媒の商業化および実証に向けた開発に共同で取り組む覚書を2023年6月に締結しました。中・大型設備において適切な運転条件と鉄-ヒドリド触媒を組み合わせることで、低コストで省エネルギーな燃料用アンモニアの製造技術の確立と社会実装に取り組んでまいります。
アンモニア分解による水素製造技術に関してKBR(KELLOGG BROWN & ROOT LLC)との覚書を2023年7月にEPCパートナーとして初めて締結しました。低炭素社会の実現には水素エネルギーの役割が重要であり、CO2フリー水素バリューチェーンの構築が必須となります。水素エネルギーキャリアであるアンモニアの利点として、運搬や貯蔵の容易さに加えて、アンモニア火力発電などでの直接利用に加え、アンモニアを分解して水素を取り出し水素発電や燃料電池自動車(FCV)へ適用するなど用途の広さが挙げられます。当該技術による設備を主にアンモニアの受入基地に併設し、アンモニアを分解して水素を取り出すことで、将来の水素エネルギー社会の実現を推進してまいります。
アンモニア利用による化石燃料代替技術として、三井化学株式会社、丸善石油化学株式会社、双日マシナリー株式会社と共同で、エチレン分解炉におけるアンモニア燃料実用化研究開発に取り組んでおります。本開発は、燃料アンモニア利用を促進するとともに、エチレン分解炉のカーボンニュートラル化によって石化セクターのCO2排出量の大幅削減を目指すものであり、グリーンイノベーション基金によるNEDO実証事業として採択されました。2022年4月より共同実施者の双日マシナリー株式会社が分解炉に装着されるアンモニア燃焼バーナーの開発を開始し、同時に当社は小型の分解炉(試験炉)の基本設計に着手し、2022年10月からは実施してきた基本設計をもとに試験炉建設の為の詳細設計に引き続き取り組んでおります。
⑥ エチレン分解炉電化分野
もう一つのエチレン分解炉のCO2排出削減技術として有望な分解炉の電化技術については、引き続き、具体的な設計検討を進めております。分解炉電化技術の確立と社会実装に向けた検討を更に加速させてまいります。
⑦ 水素利活用分野
早期水素社会を構築することを目的とした水素バリューチェーン推進協議会に発足当時から参画し、水素利用の社会実装に向けてプロジェクトの提案、需要創出、法令整備等の政策提言などの検討を継続実施しております。
また、NEDOの委託を受けて、海外の水素製造技術の調査を行い、2021年度は中間調査報告書を提出いたしました。 2022年度は海外水素ベンチャーの水素製造装置を用いた実証試験を実施する予定でしたが、デモプラント建設の遅延に伴い実証試験は一旦保留となっております。
⑧ 回収二酸化炭素の利活用分野
回収CO2の利活用については、CO2とグリーン水素から環境循環型メタノールを合成する自社技術であるg-Methanol®を用いて、国内外での具体的な案件に取り組んでおります。お問い合わせが多い10t/日から数100t/日までのFeasibility Study用の情報パッケージを取り揃えると共に、プラント側が再生可能エネルギーによる発電量の変動(再エネ変動)に対応可能とする設備計画最適化ツール「MethaMasterTM」を開発しました。これにより、プロジェクト毎に固有となる再エネ変動プロファイルを基に、水電解設備や水素ホルダー、蓄電池やガスタービン等のシステム全体の迅速かつ効果的な計画提案が可能となりました。
また、東芝エネルギーシステムズ株式会社、株式会社東芝、出光興産株式会社、全日本空輸株式会社、日本CCS調査株式会社と共同で、CO2電解技術(株式会社東芝固有技術)とFT合成技術(当社プロセス設計)を組み合わせてSAFを製造する炭素循環ビジネスモデルの実現を目指し、2021年度採択の環境省委託事業として、脱炭素化の促進と地域振興を両立させるべく検討を進めてまいりました。当社は実証および商用プラント建設の基本計画を進め、2023年度で完了いたしました。
⑨ 資源循環分野
資源循環分野では、世界的なプラスチック廃棄物の問題解決と循環型社会の実現に貢献するために、当社は、廃プラスチックリサイクルの技術開発を進めております。特に、熱分解油化を中心としたケミカルリサイクルを検討しており、タイのSCGケミカルズが60%出資するCircular Plas Company Limited(CirPlas)との間で、同社が保有する混合廃プラスチックの油化技術の商業化に向けた共同検討に関する基本合意書を2022年度に締結しました。現在も、CirPlasおよびSCGケミカルズと共同で、技術面では実証プラントのスケールアップや技術実証を進めるとともに、ビジネス面では外販のためのライセンス供与の準備等に取り組んでおります。
⑩ 原子力分野
原子力分野では、 国内の廃炉分野で主にプロジェクト・マネージメントエンジニアリングサービスに関する取組みを継続しております。核燃料デブリ取出しに関しては、原子力損害賠償・廃炉等支援機構にて提言された、充填剤を原子炉等に流し込み核燃料デブリごと固めて取り出す「充填固化工法」について、掘削技術を中心に検討を進めております。また、核融合市場研究会に加入するとともに、核融合を含めた次世代革新炉の研究開発、社会実装に向けたビジネス展開について検討を行ってまいります。
《各事業分野のビジネス戦略強化》
① 尿素分野
尿素プロセス“ACES21®”は、当社が開発した保有プロセスであり、大型化と省エネを図るためのプロセス改良に取り組んでおります。革新的次世代尿素プロセス「ACES21-LP®」を2022年に発表しました。ACES21-LP®は、従来の ACES21®の特徴を維持しながら、競合プロセスを含め最も低い合成圧力と最も高いCO2転化率を同時に実現する先進的プロセスです。ACES21-LP®は、ACES21®の優れたプロセスコンセプトと最先端の低圧合成技術を組み合わせることで現ACES21®から更なる原料昇圧動力削減・プロセス効率向上によるエネルギー消費減と、合成機器軽量化によるプラントコスト削減を実現し、低コスト尿素製造と地球環境保全に貢献する技術です。2023年度はACES21®を適用するインドネシア肥料プラント向け尿素ライセンス供与プロジェクトを受注いたしました。本設備はACES21-LP®の設計を初めて適用する予定です。今後も一層のプロセス改良に取り組むとともに、DX-PLANT®のソリューション深化と展開を図ることによる設備の運転および保全の最適化やカーボンニュートラルに向けた尿素プロセスの開発も推進してまいります。
② バイオマス発電分野
バイオマス発電分野では、完工済みもしくは現在進行中の複数の50MW/75MW案件の知見・ノウハウを生かし、スケールアップの検討、発電事業参画/アフターサービス事業/燃料供給事業等への展開の検討、バイオマスバリューチェーン構築の検討、および海外案件への展開の検討を積極的に進めてまいりましたが、当社の目指す案件を見出すことが難しく、新規案件への取組みを保留しております。
③ 海洋資源開発分野
海洋資源開発の分野では、近年急速に需要が高まるデジタル機器、再生可能エネルギー設備、ハイブリッド車や電気自動車等の電池材料、磁気材料等に欠かせないレアメタル・レアアース等の鉱物資源を深海から回収する国策技術開発の支援を行ってまいりました。内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)のもと、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)が率いる日本勢は、大水深6,000mからレアアースを回収するプログラムを進めております。ここでは、当社はこれまで培ってきた資源開発技術やサブシー技術を活用してレアアース泥回収システムの技術開発に携わっております。具体的には、2019年度の概念設計、2020年度の基本設計に引き続き、2021年度には「レアアース泥回収用解泥・揚泥機の製作」業務をJAMSTECから受託し、2022年度に実証試験の実施をサポートいたしました。2023年度はレアアース分離・精製・製錬分野の支援を実施いたしました。従来のメタンハイドレート開発への取組みも継続するとともに、統合的な海洋資源開発に向けたビジネス強化を進めております。
④ 医薬品分野
医薬品分野では、テックプロジェクトサービス株式会社(100%出資子会社)が、医薬品製造企業の多様なニーズに応えるエンジニアリングサービスを提供するとともに、将来を見据えた革新的な技術開発を行っております。低分子医薬品向けの原薬連続生産技術開発では、NEDO戦略的省エネルギー技術革新プログラムにて開発した「再構成可能なモジュール型単位操作の相互接続に基づいた医薬品製造用iFactory」の取り組みが評価され、下記の賞を受賞しました。
2022年度「日本オープンイノベーション大賞経済産業大臣賞」
2023年度「NEDO省エネルギー技術開発賞」理事長賞
2023年度「エンジニアリング功労者賞・奨励特別賞」(一般財団法人エンジニアリング協会)
中分子・バイオ医薬品向けには、シングルユース技術を活用した自動化装置開発を行うことで2023年度までに3件の特許を取得し、精製工程連続化の設備開発や不活化、清澄化および無菌ろ過等の各工程省力化システムを納入いたしました。
《EPC事業の基盤強化》
① DX/ICT分野
ICT分野では、当社の基幹ビジネスであるEPC遂行力強化や競争力強化を加速するため、2025年に向けたビジョンとロードマップ、それを実現させるためのICT中期戦略を策定いたしました。本ロードマップに基づき、Engineering、Procurement、Construction、Project Managementのそれぞれの分野において、デジタル技術を活用したデジタルツインを構築することによるマネジメント強化、設計品質の向上、納期遵守、エ期短縮を図っております。デジタル技術を活用したデータセントリックなプロジェクト実行手法が海外拠点展開を含め徐々に定着してきており、2021年8月1日付で、経済産業省が定めるDX認定制度に基づき、DX認定業者に選定され、2023年に認定が更新されています。2022年度には、エンジニアリングデータ統合プラットフォームの構築と実証も完了し、ドキュメント中心の業務からデータ中心の業務変革が加速し、更に、プロジェクト、サプライチェーン、工事の各部門が管理するデータとの統合管理によるEPCプロジェクト全体のDX化の取組みと実プロジェクトヘの適用が進んでおります。また、データ利活用に関しても、業務提携先であるHEROZ株式会社と共同開発を進めていました、工事段階で発生し得る地下工事におけるスケジュール遅延リスクを3D CADモデルから検知するシステムの実案件への適用を2022年に開始しました。2023年には、実案件での効果が表れはじめ、プロジェクトの業績向上への貢献度合いが継続的に増加してきています。引き続き、プロジェクトヘのAWP(Advanced Work Packaging)実装を深化させ、プロジェクト遂行における一気通貫のデジタル化を目指し、ビジネス改革や提供価値向上を通じて社会に貢献してまいります。
② 工事技術分野
工事技術分野では、上記のAWPや4D(3次元および時間軸)計画情報を使った施工技術実用化、またAI活用による地下構造物の施工性確認や潜在的危険の検知、設計変更による対応、工事シーケンスの見直し等の工事遅延リスクの洗い出しについて引き続き検討を行っております。また、現場業務のDX化の一環として、溶接管理システムや品質管理システムのツールは、現在合計12ツールとなり、実ジョブでの運用を通じ継続的に改善を行っております。
また建設ICT関連技術の深掘りとして、2023年度は個別ジョブの業務実施/支援に力を入れてまいりました。得られた知見を工事本部の基礎力UPに繋げていくために、情報を整理し、部門へ水平展開していく準備を行っております。3次元関連技術についてはレーザー測量のみならず、その他の関連新技術の調査と運用方法を検討するとともに、従来通りの溶接や塗装といった基礎技術に関する部員教育および現場作業で得られた各種知見の集約と水平展開にも引き続き注力してまいります。
③ 調達分野
調達分野では、品質管理業務の確実性向上とそれに伴う損失コスト極小化を目的として各種新規技術を検証し、活用しております。例えば、3Dレーザー測定技術に関しては、塔槽類の外部取付品への適用化検証および熱交換器管端溶接部の高精度測定への活用の検証を継続しております。また、複数の国内バイオマス発電案件で発生した熱交換器チューブ欠陥による漏れへの対策として、将来的に音響パルスを使用した迅速且つ正確な欠陥検知手法の確立を目指しております。
④ 技術研究所
当社では1990年代当初から、千葉県習志野市のエンジニアリングセンター敷地内に技術研究所を設け自社商品技術やEPC遂行技術の開発および強化に努めてまいりました。今般、新規事業領域での研究開発活動強化も勘案し、規模を拡張した技術研究所(T-Labo)を千葉市緑区の千葉土気緑の森工業団地内に新設しました。また、新建屋屋上には太陽光発電設備も設置し、技術研究所の運営におけるカーボンニュートラル化とサステナビリティ推進も図ってまいります。
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