日本通信 【東証プライム:9424】「情報・通信業」 へ投稿
企業概要
当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
(1)経営の基本方針
当社は、「安全・安心にビットを運ぶ」という使命(ミッション)を実現するため、モバイル通信サービス及びFPoS事業を展開しています。モバイル通信サービスでは、2024年2月に株式会社NTTドコモ(以下、「ドコモ」という)とドコモの音声・SMS網との相互接続に合意し、当該接続による新サービスを2026年5月に開始する予定です。これにより、当社はネオキャリアとしての新たな事業展開が可能となり、2034年には1,000万回線の提供を想定しています。FPoS事業では、技術的な安全性に加えて、電子署名法の認定による制度的な信頼性についての評価が浸透してきたことから、等比級数的な成長が見込まれており、2034年には1億件の電子証明書の提供を想定しています。当社は、この2つのサービスにより、2034年において、国内売上2,400億円、税引き後当期純利益360億円のレベルを想定しています。まずは、2026年5月に向けてドコモの音声・SMS網との相互接続の準備を進め、同時に認知度を向上させるための施策を通して顧客基盤の拡大に努めるとともに、FPoSの評価定着及び事例拡大に努めてまいります。
(2)経営環境及び経営戦略
① モバイル通信サービス(MVNO事業・MVNE事業)について
当社は、2020年6月の総務大臣裁定を受け、2020年7月に大手携帯電話事業者と同等の音声定額プランを提供する「日本通信SIM」を発売して以来、契約回線数及び四半期売上ともに成長を続けています。
当社は、「日本通信SIM」の競争力を強化するため、利便性の向上による他のMVNOとの差別化を図っており、2022年4月には、スマートフォン等に内蔵されているeSIMへの対応を開始(2022年4月6日公表)し、2023年3月までに、携帯電話不正利用防止法に基づく本人確認において、マイナンバーカードに格納された電子証明書による方法を導入したほか、2023年5月には、MNPワンストップ方式(注)にも対応しました。
また、「日本通信SIM」の商品力についても、2023年4月から2024年3月までに、月額基本料を据え置いたまま、データ量の増量及び音声通話オプションの拡充等の強化をしており、2024年5月現在、「日本通信SIM」のラインアップは、データ利用量が少ない方向けの「合理的シンプル290プラン(1GB・月額290円)」、データ利用量が平均的な方向けの「合理的みんなのプラン(10GB+5分かけ放題(または70分無料通話)・月額1,390円)」及びデータ利用量がやや多い方向けの「合理的30GBプラン(30GB+5分かけ放題(または70分無料通話)・月額2,178円)」となり、お客様がご自身にとって合理的な携帯料金プランを選んでいただけるようになりました。なお、「日本通信SIM」の音声通話サービスは、業界最安値でありながら、MVNOの多くが採用しているプレフィックス方式ではなく、大手携帯電話事業者と同等の通話品質のサービスを提供しています。
このような商品性を評価していただき、「日本通信SIM」の売上は個人・法人ともに契約回線数が順調に伸長しています。また、パートナーブランドでの音声通信サービスの契約回線数も順調に伸長しており、結果として、モバイル通信サービスは、MVNO事業及びMVNE事業ともに成長を継続しています。
なお、当社は、2007年の総務大臣裁定によりドコモのデータ通信網との相互接続を実現しましたが、音声通信網との接続は、携帯電話番号に関する規制の問題等があり実現できていませんでした。しかしながら、2021年12月に、MVNOに対して携帯電話番号を付与する旨の方針が総務省の情報通信審議会から示されたことを受け、2022年6月にドコモに音声通信網との相互接続を申し入れ、2024年2月にドコモと相互接続について合意しました。
当社は、2008年からドコモのデータ通信網と相互接続をしていますが、データ通信網は携帯通信網のごく一部に過ぎないため、今後、ドコモの音声通信網(及びSMS網)との相互接続が実現することで、ようやく、本来の意味での携帯通信網との相互接続が実現することになります。
これにより、当社は安定した事業基盤を確保し、携帯基地局は保有しないものの、大手携帯電話事業者と同等のサービスを提供することのできる「ネオキャリア」を目指します。「ネオキャリア」としての新たなサービスには、海外キャリアとの直接契約による海外ローミング、音声通信の着信料を課金する等のフレキシブルな料金プラン、APN設定の自動化、SIMを用いたWi-Fi認証、1つの電話番号でローカルエリア内とMNO基地局契約で接続するローカルエリア外の両方をカバーする通信サービスなどが考えられます。
当社は、ドコモの音声通信網(及びSMS網)との相互接続に基づく新サービスを2026年5月24日(予定)に開始することを目指し、総務省からの携帯電話番号の取得、当社における音声通信網(及びSMS網)の構築、さらに当社独自SIM等の開発等を可能な限り迅速に進めてまいります。
(注)MNPワンストップ方式は、お客様が携帯電話番号を変更せずに他の通信事業者に乗り換える(これを「MNP」といいます)場合、契約中の通信事業者でMNP予約番号を取得する必要がなく、乗換え先の通信事業者のWebサイトで申し込むだけでMNP手続きを進めることができるものです。
② モバイル・ソリューション(MSP事業)のうちローカル携帯網による通信(ローカル4G/5G)事業について
ローカル4G/5G事業は、先進的な事例の多い米国で実績を作り、その経験を生かして日本で展開することを目指しており、当社米国子会社は、米国市場で、ローカル携帯網との接続に使用するモバイル・ソリューションを提供する事業を進めています。
2023年12月に公表したとおり、当社の米国子会社のJCI US Inc.(以下、「JCIUS」という)は、米国ユタ州とCBRS(ローカル4G/5G)の教育及び遠隔医療ネットワークへの導入をユタ州全体で実現するための契約を締結しました。これは、JCIUSが、当社のセキュアLTEネットワークゲートウェイプラットフォーム(NGP)サービスを主要なサービスとして商業提供する契約を、米国ユタ大学、及び、ユタ教育及び遠隔医療ネットワーク(Utah Education and Telehealth Network、以下「UETN」という)を通じて米国ユタ州と締結したものです。この契約で構想されているローカル4G/5Gネットワークは、Wi-Fiのサービス要件を置き換えて拡張し、ユタ大学とUETNが実装する高速ブロードバンドサービスの現在及び将来のユーザーに安全な(プライベート/クローズド)ネットワークを提供するものです。JCIUSは、ユタ州の人々のネットワークへの接続性を高めるために必要なすべてのSIM及び/または他のハードウェアセキュリティモジュール(HSM)を提供します。
当社は、米国子会社を通じてローカル携帯網による通信(ローカル4G/5G)事業に関する技術及びノウハウを蓄積し、これらを活用することで、パートナー企業や顧客企業が設置するローカル携帯網に接続することのできるSIMを提供しています。当社は、引き続き、日本及び米国で知見を蓄積し、これらを活用して、ローカル4G/5G事業の導入事例を積み上げてまいります。
③ FPoS事業について
社会・経済の多くの分野でデジタル・トランスフォーメーション(DX)が進められる中、デジタルIDの重要性が改めて認識されていますが、当社は、当社の特許技術であるFPoSを利用してスマートフォンで利用できるデジタルIDを構築し提供する事業を推進しています。
FPoSは、電子署名法による認定を受けた電子認証局がお客様のスマートフォン(iPhone及びAndroid)に公開鍵の入った電子証明書を発行し、お客様のスマートフォン内で生成する秘密鍵との組み合わせで、お客様の本人性(本人に間違いないこと)と真正性(本人の意思が改ざんされていないこと)を担保するものです。
これは、マイナンバーカードによる強固な本人確認と同様の仕組みであり、FPoSではマイナンバーカードの代わりにスマートフォンを利用しています。このような高度なセキュリティを備えるデジタルIDは、現在、マイナンバーカードとFPoSのみであり、マイナンバーカードは、利用目的が限定され、カードの携帯が必要となるところ、FPoSは、マイナンバーカードと同等の高度なセキュリティを備えながら、利用目的が限定されず、スマートフォンで利用することができるものです。
なお、スマートフォンのアプリでサービスを利用する場合、お客様のデータ(個人情報を含む)がなりすましまたは改ざんされるおそれがあるという問題がありますが、FPoSは、マイナンバーカードと同等の高度なセキュリティを備えているため、なりすましまたは改ざんされるおそれはありません。また、お客様のデータ(個人情報を含む)が連携される事業者をお客様自身で管理することが難しいという問題もありますが、FPoSは、お客様の個人情報の提供先を一覧で表示し、お客様自身で個人情報の提供を許諾しまたは許諾を取り消すことができる機能(「ダイナミック・オプトイン」)を搭載しており、お客様のデータ(個人情報を含む)が連携されている事業者をお客様が確認し管理することが容易です。
当社は、このようなFPoSの可能性を実証するため、前橋市並びに民間企業及び大学による官民連携会社であるめぶくグラウンド株式会社と協業しており、めぶくグラウンド株式会社は、2022年10月から、FPoSの技術を利用したデジタルIDである「めぶくID」を発行する「めぶくアプリ」を運営しています。
「めぶくID」はFPoSによる高度なセキュリティが最大の強みですが、高度なセキュリティにより、複数の事業者が保有する個人情報を安全確実にデータ連携できることが最大の差別化要素と言えます。人々の活動には、行政による公共的な領域、医療や教育等の準公共的な領域、さらにそれ以外の民間の領域がありますが、これらの領域を横断して個人情報を安全確実にデータ連携することができれば、利用者に個別最適化されたサービスを提供することができるとともに、新たな価値を生み出すデータが示されることで、様々な社会課題が可視化され、解決に向けた糸口となります。また、「めぶくID」は「ダイナミック・オプトイン」機能を実装しているため、利用者の同意に基づいてデータ連携を実施することができます。
「めぶくID」は、他のID等に比べて圧倒的に高度なセキュリティを備えているだけでなく、事業者を横断してデータ連携をすることができ、かつ、どの事業者にどのようなサービスでデータ連携できるかを「ダイナミック・オプトイン」機能で提供していることが、多くの自治体、企業、組織等に高く評価していただいております。
さらに、2023年12月には、「めぶくID」及び「めぶくアプリ」により、前橋市の電子地域通貨である「めぶくPay」のサービスが開始しました(前橋市及びめぶくグラウンド株式会社により2023年9月発表)。「めぶくPay」は、決済データが地域に残り、地域で活用されることで地域社会に還元されることを最優先して設計開発されています。「めぶくID」及び「めぶくPay」は、社会及び経済のデジタル化による恩恵を地域が享受することのできる取組みであり、社会課題を解決することのできる有効な手段になりうると考えています。
なお、「めぶくPay」のサービスでは、前橋市の子育て給付金及び非課税世帯向け給付金を「めぶくPay」で受け取ることができます。これは、「めぶくID」による高度なセキュリティ、及び、「ダイナミック・オプトイン」機能による本人同意の取得により、個人情報を安全確実にデータ連携できることから実現したものです。
また、2024年3月には、群馬県前橋市、北海道江別市に続き、長崎県大村市でも「めぶくID」及びデータ連携基盤の活用が開始されました。この取組みでは、めぶくグラウンド株式会社が「めぶくID」を発行し、官民連携で設立されたCONNECT株式会社(本社:長崎県大村市)が、大村市ポータルアプリ「おむすび。」やデジタル地域通貨「ゆでぴ」等、しあわせ循環コミュニティの運用を担います。
当社は、めぶくグラウンド株式会社による地域単位の横展開の活動を、引き続き支援してまいります。
(3)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社は、上記を踏まえ、以下の事項を優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題として認識しています。
① 公正な競争環境の確保のための取組み
当社は、創業以来、お客様のニーズに合った多様なサービスの提供を可能とし電気通信事業を成長・発展させることのできる事業モデルとしてMVNO事業を提唱しており、MVNO事業の成立後は、MNOとMVNOとの間で公正な競争環境を確保するための取組みを進めています。
当社は、2007年の総務大臣裁定により、ドコモのデータ通信網との相互接続を実現しました。一方、音声通信網との接続は、携帯電話番号(090番号等)の付与対象をMNOのみとする規制等により、実現できず、ドコモから卸提供を受けてお客様に提供しているところ、MNOがMVNOに提供する音声通話サービスに係る卸電気通信役務の料金は10年以上据え置かれており、MVNOがMNOと競争することのできる事業環境ではありませんでした。
そのため、当社は、2019年に2度目の総務大臣裁定を申し立て、2020年6月の裁定により、ドコモが当社に提供する音声通話サービスに係る卸電気通信役務の料金について、能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えた金額を超えない額で設定するものとされました。
これにより、ようやくMNOと競争することのできる環境が整い、当社は、2022年3月期から3期連続で黒字を継続しております。
なお、2021年12月に、総務省の情報通信審議会において、携帯電話番号(090番号等)をMVNOにも付与する方針が示されたことを受け、当社は2022年6月にドコモに音声通信網の相互接続を申し入れ、2024年2月にドコモと相互接続について合意しました。当社は、データ通信網と音声通信網の両方を相互接続で調達することで安定した事業基盤を確保し、携帯基地局は保有しないものの、MNOと同等のサービスを提供することのできる「ネオキャリア」を目指します。まずは、ドコモの音声通信網との相互接続に基づく新サービスを2026年5月(予定)に開始するため、総務省からの携帯電話番号の取得、当社における音声通信網及びSMS網の構築、さらに当社独自SIM等の開発等を可能な限り迅速に進めてまいります。
公正な競争環境の確保は、MVNOが本来の目的を果たして成長するための最大の課題であり、当社は、引き続き、MNOとMVNOとの間の公正な競争環境の確保に取り組んでまいります。
② MVNO事業モデルの進化による安定的な収益の確保
当社が今後も安定的に収益を確保するためには、公正な競争環境の確保のための取組みを進めつつ、MVNO事業モデルを進化させることが必要です。
まず、モバイル通信サービス(MVNO事業)の月額課金商品については、2020年7月に「日本通信SIM」のブランドで発売した音声定額プランが多くのお客様の支持を獲得し、2021年3月期下半期以降の収益に大きく貢献しています。MVNO事業は、MNO4社及び多数のMVNOにより今後も激しい価格競争が想定されますが、当社は2020年6月の総務大臣裁定により、ドコモが当社に提供する音声通話サービスに係る卸電気通信役務の料金について、能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えた金額を超えない額で設定するものとされているため、当面の間、MNO及び他のMVNOに対抗することのできる競争力を確保しています。
当社は、「日本通信SIM」ブランドの競争力を維持するため、利便性の向上による他のMVNOとの差別化を図っています。2022年4月には、スマートフォン等に内蔵されているeSIMへの対応を開始し、2023年1月からは、携帯電話不正利用防止法に基づく本人確認においてマイナンバーカードに格納された電子証明書による方法を導入したほか、2023年5月には、MNPワンストップ方式にも対応しました。さらに、「日本通信SIM」の各プランは、月額基本料金を据え置いたままデータ容量を増量するなど、商品力も強化しています。
また、モバイル通信サービス(MVNO事業)のプリペイド商品については、新型コロナウイルスの影響下で訪日旅行者向け商品の売上が減少していましたが、当連結会計年度においては、コロナ後の本格的な回復が認められるため、eSIMへの対応を開始し、売上の回復を目指します。
以上の取組みにより、当社は、引き続き、MVNO事業モデルを進化させ、安定的な収益を継続して確保することを目指します。
③ 中長期的な成長のための取組み
当社は、安定的な収益を継続して確保する一方で、中長期的に成長するための取組みとして、FPoS事業及びモバイル・ソリューション(MSP事業)のうちローカル携帯網による通信(ローカル4G/5G)事業に注力しています。
まず、FPoS事業については、2018年11月に設立したmy FinTech株式会社において、スマートフォンに秘密鍵及び電子証明書を搭載する「my電子証明書」サービスについて、2021年11月10日に、電子署名法に基づく特定認証業務の認定を受けました。現在は、FPoS事業を実際のビジネスに落とし込んでいく段階となっていますが、当連結会計年度においては、前橋市において、同市並びに民間企業及び大学による官民連携会社であるめぶくグラウンド株式会社に協力して、2023年12月に、同市の電子地域通貨である「めぶくPay」のサービス提供を開始しました。なお、新型コロナウイルスの影響下においてデジタル化の機運が高まる中、FPoSが備えている高度な安全性は、当初想定していた金融取引に限らず、社会全体で利用されるデジタルIDとしての役割を期待されるようになっています。今後は、FPoSの利用地域及び利用分野の拡大に向けて取り組んでまいります。
また、ローカル4G/5G事業は、当社米国子会社であるJCI US Inc.が、ローカル携帯網との接続に使用するSIMを米国市場で提供しており、2023年12月には、米国ユタ州とCBRS(ローカル4G/5G)の教育及び遠隔医療ネットワークへの導入をユタ州全体で実現するための契約を締結しました。当社は、これらの知見を活用して、ローカル4G/5G事業の導入事例を積み上げてまいります。
④ 優秀な人材の確保及び育成
上記①から③のいずれの取組みにおいても、多種多様な調査や企画、さらに技術開発や事業開発が必要であり、これを担うことができる人材の確保及び育成が極めて重要となります。例えば、FPoS事業においては、金融業界に関する法律、制度、経営課題、技術課題等、顧客の事業領域に対する一定の知見が必要です。そのため、当社グループは、優秀な人材の採用を進めるとともに、採用した人材に会社の優先順位に応じた多様な業務を担当させることによって、様々なノウハウや技術を身に付けさせるとともに、必要な資格を取得させるなど、人材への投資を推進しています。当社が取り組んでいる課題はいずれも前例のないもので、手本となる企業が存在するものではありませんが、当社は、創業時からMVNO事業モデルを定着させる今日までの道のりにおいて、前例のない環境で培った経験及びノウハウがあるため、これらを活用して人材の育成を進めます。
当社は、「安全・安心にビットを運ぶ」という使命(ミッション)を実現するために、上記の課題に取り組みながら、モバイル通信サービス及びFPoS事業を成長させる計画です。
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