日本製鋼所 【東証プライム:5631】「機械」 へ投稿
企業概要
文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。
(1)経営方針
① Our Philosophy
当社は、将来予測が困難な事業環境において、当社グループが一丸となって変化に対応していくための判断と行動の軸となる「Purpose(パーパス)」を“「Material Revolution®」の力で世界を持続可能で豊かにする。”と制定しました。また、「Purpose(パーパス)」を起点として、当社グループが将来目指す姿である「Vision(ビジョン)」及び当社グループ独自の提供価値を生み出す「Value Creation Process(価値創造プロセス)」を再定義し、これら3つを合わせて企業グループ理念体系「Our Philosophy」として制定しました。同時に、「Purpose(パーパス)」を実現するために優先的に取り組むべきテーマとして6つのマテリアリティ(重要課題)を特定し、これらを2022年11月29日に公表しております。
当社グループは、全ての役職員が「Purpose(パーパス)」を共有し、マテリアリティ(重要課題)の重要性を認識した上で、実効性のある経営、事業活動に取り組み、不適切行為の再発防止につなげていくことはもとより、様々な社会課題を解決する産業機械と新素材の開発・実装を通じ、将来にわたって全てのステークホルダーに貢献し、社会価値の創出と持続的な企業価値の向上を同時に実現してまいります。
Purpose(パーパス)を起点とした日本製鋼所グループの企業理念体系及びマテリアリティの概要は以下のとおりです。
<Purpose(パーパス)を起点とした日本製鋼所グループの企業理念体系「Our Philosophy」>
○Philosophy Structure
○Purpose(パーパス)
Material Revolution® 「Material Revolution®」の力で世界を持続可能で豊かにする。 |
○Vision(ビジョン)
社会課題を解決する産業機械と新素材の開発・実装を通じて全てのステークホルダーに貢献する。 |
○Value Creation Process(価値創造プロセス)
当社グループは、「プラスチック」加工機械の開発においては、装置内で素材を「溶かす」、均一に「混ぜる」、求められる形に「固める」技術をベースとし、これに「機械要素技術」「精密制御技術」を加えて、広範な業種にわたる顧客の多種多様なニーズに応えて来ました。 結晶材料においても、容器内で原材料を「溶かす」、「固める」技術に「精密制御技術」を加えて、良質で用途が多岐にわたる結晶を製造して来ました。 当社グループは、これらの「溶かす」「混ぜる」「固める」技術と「機械要素技術」「精密制御技術」というコア・コンピタンスをより一層磨き、社会課題を解決する産業機械と新素材を開発・実装する「Value Creation Process(価値創造プロセス)」により、社会価値の創出と持続的な企業価値の向上を同時に実現していきます。 |
<マテリアリティ(重要課題)>
○価値創造領域:当社グループの事業を通じた価値創造と社会課題の解決
・プラスチック資源循環社会の実現
・低炭素社会への貢献
・超スマート社会への貢献
○経営基盤領域:当社グループの持続的成長に向けた経営基盤の強化
・人的資本の強化とダイバーシティ&インクルージョン
・未来への投資とイノベーションマネジメント
・JSWグループにおけるガバナンス強化
なお、当社ホームページに「Purpose(パーパス)」及びマテリアリティ(重要課題)の詳細を掲載しておりますのでご参照ください。当社ホームページは随時、最新の情報に更新しておりますが、下記の参照先につきましては、第97期有価証券報告書の提出日現在において更新の予定はございません。
Purpose(パーパス)
(https://www.jsw.co.jp/ja/guide/vision.html)
マテリアリティ(重要課題)
(https://www.jsw.co.jp/ja/sustainability/materiality.html)
② 日本製鋼所グループ 企業行動基準
当社グループは、持続可能な社会の実現を目指す企業として、次の10原則に基づき、国の内外において、全ての法律、国際ルール及びその精神を遵守するとともに、高い倫理観をもって社会的責任を果たしてまいります。
1.持続可能な経済成長と社会的課題の解決を図るために、イノベーションを通じて、社会に有用で安全性に配慮した製品・技術・サービスを開発・提供する。 2.公正かつ自由な競争に基づく適正な取引、責任ある調達を行う。また、政治、行政とは健全な関係を維持する。 3.企業価値向上のため、適切な企業情報を積極的かつ公正に開示し、幅広いステークホルダーとの建設的な対話を行う。 4.全ての人々の人権を尊重する。 5.市場や顧客のニーズを製品・技術・サービスに反映した上で、顧客からの問い合わせ等に速やかに対応することにより、社会と顧客の満足と信頼を獲得する。 6.従業員の多様性、人格、個性を尊重する働き方を実現し、良好な職場環境を確保する。 7.環境問題への取り組みは企業としての重要な責務であることを認識し、主体的に活動する。 8.企業市民として、社会に参画し、その発展に貢献する。 9.市民社会や企業活動に脅威を与える反社会的勢力やテロ、サイバー攻撃、自然災害等に対して、組織的な危機管理を徹底する。 10.経営トップは、この行動基準の精神の実現が自らの役割であることを認識し、実効あるガバナンスを構築した上で、当社および関連会社に周知徹底を図り、あわせてサプライチェーンにも本行動基準の精神に基づく行動を促す。 また、本行動基準の精神に反し、社会からの信頼を失うような事態が発生した時には、経営トップが率先して問題解決、原因究明、再発防止等に努め、その責任を果たす。 |
(2)経営環境と対処すべき課題
① 製品検査に関する不適切行為について
当社グループでは、2022年2月下旬に日本製鋼所M&E株式会社(以下「M&E社」といいます。)の製品検査についての内部通報を受け、当社としてM&E社に対し抜き打ちによる社内検査を実施したところ、同年3月下旬に、M&E社が製造する一部製品の検査において、不適切行為がなされている事実を確認し、それらを検証しました。これを受けて、2022年5月9日に同事案を対外公表したうえで、外部弁護士から構成される特別調査委員会を設置して調査を実施し、2022年11月14日付で不適切行為の内容、原因分析に係る調査結果と再発防止に向けた提言を受領しました。調査の結果、電力製品や鋳鍛鋼製品などで検査結果・分析値の改ざん、ねつ造、虚偽記載などが確認され、原子力製品においても手続仕様の逸脱が確認されるところとなりました。本件不適切行為が、M&E社の扱う様々な製品において長期に亘って行われてきたこと、また、過去の他社事例を戒めとして自らの行為を是正できなかったことは誠に遺憾であり、お客様や株主の皆様をはじめとする関係各位に多大なるご迷惑とご心配をお掛けしたことを改めて深くお詫び申し上げます。
当社グループでは、不適切行為の原因やその背景に真摯に向き合うとともに、後述の再発防止策を最優先課題として、全力でこれに取り組んでいるところであります。「高い倫理観とチャレンジ精神」「心理的安全性」を醸成・両立することで、皆様からの信頼を取り戻し、企業価値の向上に資するよう引き続き努力してまいります。
<原因分析>
1.牽制機能が働きにくい不十分な組織管理体制
M&E社では、製品部がお客様との仕様調整から、製品の製造・品質確認に係る各工程を計画・指示しており、権限が集中していました。また、素材製造という性質上、製造工程に関わる部門が限定的となり、かつ製品部が直接・間接に関与し指導していたことから、工程間での牽制機能が働きにくい体制となっていました。一方、機械製造を事業とする他製作所では、設計・機械加工・組立など一連の製造工程が、生産管理部門による工程管理を軸として各々分業体制を基本としており、工程間で一定の牽制機能が働く体制となっており、同様の不適切行為は確認されておりません。
2.品質コンプライアンス意識の低さ
M&E社では、製品の最終品質に重きを置き、お客様と取り決めた製造工程における仕様・検査の一つひとつの積み重ねによって品質がつくり込まれるという意識が十分とは言えず、品質保証の「プロセス」を軽視しがちでした。また、独自の基準による品質上の問題がなければ、ある程度の仕様違反は許容されるといった誤った考えや、規定や仕様の定義や解釈を独自に変えることで、問題の解決を図ろうとする傾向が見られました。
3.経験・実績への過信とお客様要求・対話へのプレッシャー
M&E社では、高度な品質や納期確保に対しても完全を期する姿勢が強く見られます。このような背景のもと、品質トラブルを生じた場合、お客様との十分なコミュニケーションを行うことなく対策することを個人や組織レベルで正当化し、不適切行為に至っていました。
4.紙ベースや手作業を中心とした検査業務プロセスと慢性的な人員不足
紙ベースでの管理かつ手作業による記録では、検査結果の書き換えなどが可能な環境となっています。また、M&E社では、手作業の多さや管理の煩雑さは、特に突発事象対応において業務負荷の増加や人的リソースの逼迫を招き、効率化の名のもとでの必要な業務の省略などの誘因となりました。
<主要な再発防止策>
当社は、原因分析に基づき、特別調査委員会からの提言も踏まえつつ、本件不適切行為に対する以下の再発防止策を策定し、実施しております。また、取締役会で、当社グループにおける再発防止に向けた取組みの全体像を決議したうえで、その進捗状況と効果を定期的にモニタリングしていくこととしています。
1.組織管理体制の構築
ア)全社的な品質保証体制の構築
事業部あるいは製作所における自己完結型の品質保証マネジメント体制に対して、コーポレートとしての監視・監督機能を強化するために、各事業部・製作所における品質保証機能を統括する部門として全社品質担当役員をトップとする「品質統括室」を2022年9月16日付で新設し、以下の業務を行っています。
a. 全社品質方針および品質基本行動指針の策定 b. 当社の経営戦略と各事業・製作所(M&E社を含む)における品質活動方針との整合指導 c. 各事業部・製作所における品質保証活動の監督および評価(独自監査を含む) d. 当該評価に基づく業務改善指導・勧告 e. 品質保証活動に係る全社的な教育・研修の実施 f. 各事業部・製作所における有用な品質改善活動や問題、共有すべき情報の全社水平展開 g. 重大な製品事故や品質不正問題発生時の対処指揮 h. 全社的または各事業部・製作所の重要な品質保証活動に係る経営報告 |
また、各製作所の品質管理部門長を兼務者として当社品質統括室に組み入れることで人的統制を図るほか、各製作所の品質管理部門が当社品質統括室からの品質監査を受けることにより、親会社からの監視・監督機能を強化しました。
イ)M&E社における品質保証機能の独立性強化
M&E社においては、納期およびコストに責任を有する製品部による品質管理業務への干渉を防ぐために、品質保証機能を品質管理部に集約し、M&E社の社長直轄組織とします。当該組織改正は2022年6月1日付で実施済みです。また、2023年1月1日付で、製作所の有する人員・設備能力を適切に検証・管理するため、納期およびコストの管理に関わる機能を製品部から分離・再編しております。
2.品質コンプライアンス意識の強化・向上
ア)経営トップからのメッセージ発信
経営幹部による品質コンプライアンスに対する真摯なコミットメントを示すことで、その下で働く従業員への啓発活動としています。また、当社社長による従業員とのタウンホールミーティングを定期的に開催しており、対話を重ねることで、品質コンプライアンス意識の醸成を図り、また風通しの良い職場風土へと刷新します。
イ)「品質コンプライアンス月間」の制定
不適切行為に関わる教訓を風化させないために、毎年5月を「品質コンプライアンス月間」と定めました。経営トップメッセージやポスターの掲示等のほかに、当社グループ全体を対象とし、品質コンプライアンスに係る教育・研修に加え、eラーニングなどを実施し、品質コンプライアンス意識の向上に取り組んでいます。
ウ)組織風土の改革と人事ローテーション
特別調査委員会の報告では、社内の問題を指摘することが容易でない企業風土があることがうかがえると指摘されています。恐れずに間違いを指摘でき、それが受入れられ、自由に意見が言える、風通しの良い職場風土にしていきます。当社では、「何でも気軽に相談できる風通しの良い組織」「チャレンジが推奨できる組織」への変革を目指して、組織風土改革プロジェクトを2023年3月に立ち上げ、活動を推進しています。
また、人材が固定化しがちな部門では同調圧力が働きやすいことから、業務プロセスの見直しと並行して、部門の壁を越えた人事ローテーションも進めます。その有効性は、定期的な社内意識アンケート調査などを通じて検証していきます。
3.ガバナンス・内部統制の強化
ア)内部監査機能の強化
本社監査室の内部統制機能を強化し、品質統括室による品質検査を含めた品質管理プロセスにおける内部統制の整備および運用状況の監査を適宜実施し、マテリアリティの一部として取締役会および経営戦略会議に報告します。
イ)内部通報制度の強化
内部通報制度の一層の周知を図るとともに、社内での自己申告に対するリニエンシー(処分軽減)制度の検討などを含む制度のさらなる強化を行います。
ウ)取締役会の体制の整備
今後、取締役会の機能をよりモニタリング型に移行していきます。
2023年4月1日からは、業務執行取締役の「管掌」業務を原則廃止するとともに、本社部門は取締役または執行役員が、事業部門は執行役員または使用人が、それぞれ取締役会から委嘱・任命された業務を総括・執行する体制としました。これにより事業部門の業務執行と取締役会による監督を明確に区分しました。
また、今後、取締役会の構成において、社外取締役(独立役員)の割合を増やすほか、多様性も確保します。
4.検査業務のデジタル化と適正な経営資源の投入
検査成績書作成過程における故意・過失による検査データの誤記入、記入漏れなどを防ぐために、デジタル化した検査業務システムを構築します。DX推進室(2022年7月1日発足)が主導して、M&E社を含めた各製作所における検査業務のデジタル化を順次進めており、M&E社においては2023年度下期中にシステムの部分運用開始を目指しています。
また、検査を含む品質管理に必要な人員、設備の不足が不適切行為への要因となったことを踏まえて、所要の人員の増強、検査員の養成のための教育投資やデジタル化を含め必要な設備・計測機器などへの設備投資を継続的に行います。
② 経営環境
今後の経済見通しにつきましては、物価高騰、ウクライナ危機、世界的な金融引締めに伴う海外景気の下振れリスク、各国の安全保障政策の動向等のリスクはあるものの、アフターコロナへの経済活動の適応とともに、環境規制・人手不足を背景とする省力化投資が進むなど、企業の設備投資は着実に進展していくものと考えます。
当社グループを取り巻く経営環境は、産業機械事業では、低炭素社会の実現に向けたEV普及の動きを背景とするリチウムイオン電池素材の需要拡大に加え、プラスチック資源循環に不可欠な3R+Renewableを実現する各種プラスチック加工機械の需要の高まりも見込まれます。素形材・エンジニアリング事業では、多様なエネルギー関連投資の高まりを背景に鋳鍛鋼製品の安定的な需要が見込まれます。
(3)中期経営計画「JGP2025」
当社グループは、2022年3月期を初年度とする5ヵ年の中期経営計画「JGP2025」を推進しております。中期経営計画「JGP2025」の概要は以下のとおりです。
1)当社グループにおける「JGP2025」の数値目標は以下のとおりです。
○数値目標
2)「JGP2025」においては、以下の4つの基本方針を掲げて事業に取り組んでまいります。
① 世界に類を見ないプラスチック総合加工機械メーカーへ
② 素形材・エンジニアリング事業の継続的な利益の確保
③ 新たな中核事業の創出
④ ESG経営の推進
それぞれの基本方針に対する事業戦略は以下のとおりです。
① 世界に類を見ないプラスチック総合加工機械メーカーへ
現有製品の競争力強化によって各製品でグローバルシェアNo.1を目指すとともに、プラスチック加工機械コンプレックス化を推進します。
主な事業戦略は次のとおりです。
○造粒機
・好調な中国市場を中心に更なるシェア拡大を目指します。
○二軸混練押出機
・中国・東南アジアを中心に海外展開の強化を進めます。
○フィルム・シート製造装置
・セパレータフィルム用装置の高品質化対応を更に進めます。
・ポストセパレータとして、5G関連フィルムなど成長分野への対応に注力します。
○射出成形機
・グローバル生産体制の最適化を図るとともに、生産能力を拡大します。
○プラスチック加工機械コンプレックス化
・M&Aを活用した新たな製品の取り込みと育成を進めます。
② 素形材・エンジニアリング事業の継続的な利益の確保
2020年4月1日に設立した日本製鋼所M&E株式会社を中心に、継続的な利益の確保に向けた体制の強化と変革を進めます。
主な事業戦略は次のとおりです。
○鋳鍛鋼製品
・付加価値の高い機能性材料の取り込みによる収益拡大を図ります。
・中小型製品・量産品の生産体制を確立し、受注拡大に努めます。
○クラッド製品
・工場変動費・固定費を圧縮し、操業負荷変動に強い生産体制の構築を進めます。
○エンジニアリングサービス
・水素関連製品の製品競争力を強化し、海外展開を図ります。
・国土強靭化政策に対応したプラント・インフラ溶接構造物の取り込みを図ります。
・独自技術を活用し、検査サービス事業を拡大します。
③ 新たな中核事業の創出
M&Aを活用して新たな産業機械製品を取り込むとともに、「フォトニクス」、「複合材料」、「金属材料」の3つの分野における新事業を早期に収益事業化し、新たな中核事業の創出を図ります。
④ ESG経営の推進
組織横断的な「ESG推進委員会」を新設し、ESG活動を効果的に推進します。
○Environment:環境
・環境と調和した社会の持続的な発展のため、CO2排出量の削減、省資源・リサイクルの推進、製品による環境負荷の低減などの環境に配慮した事業活動を展開します。
○Society:社会
・持続的成長に資する人材基盤を形成するため、「働き方」重視から「働きがい」重視への取り組みを行うとともに、次世代リーダーの育成・人材の多様性確保を図ります。
○Governance:企業統治
・成長性と資本収益性を確保するため、4象限フレームワークによる事業ポートフォリオ評価を行うとともに、事業撤退基準の制定と投資採択基準の高度化を行います。
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