日本精工 【東証プライム:6471】「機械」 へ投稿
企業概要
(1)基本方針
当社グループは、企業理念の中で掲げている「円滑で安全な社会に貢献し、地球環境の保全をめざす」を実現するため、社会の変化やお客様の新たなニーズを的確にとらえ、コアテクノロジー(トライボロジー(摩擦・潤滑)技術、材料技術、解析技術、メカトロ技術、生産技術)を駆使した製品開発を進めています。これらの開発活動を通して、高機能・新機能製品をタイムリーに市場へ供給することにより、より豊かな社会の実現と省エネルギーやCO2排出量削減など地球環境の保全を図り、持続可能な社会の実現に貢献します。
特に研究開発では、『中期経営計画2026』において“Bearings & Beyond”を掲げ、トライボロジーとデジタルの融合による価値創出で、既存製品の商品力強化と新商品の創出・新事業の拡大に取り組んでいます。
(2)研究開発の状況
①コアテクノロジー
カーボンニュートラル社会の実現に向けた低摩擦や軽量化、電動化に伴う高速化や静音、水素などの特殊環境下も含めた耐久性など、高度化する要求にスピード感をもって応えていくために、リアルデジタルツイン(注)を活用してコアテクノロジーの強化に取り組んでいます。
当社コアテクノロジーの一つであるトライボロジー技術の領域を拡げるとともに深めていくために、当分野で権威ある日本国内の大学と軸受をはじめとする転がり機械要素のトライボロジー解明の鍵となる、材料、潤滑、力学の3分野において革新的な研究開発を継続的に行う「NSKトライボロジー協働研究拠点」を設置しました。転がり軸受製品の寿命延長や性能向上など、高機能な軸受製品や直動製品の創出につながる画期的なソリューションを産み出していきます。さらに、高度な基礎研究を推進できる人材の育成にも継続的に取り組んでいきます。
そのほか新商品・新事業の創出に向けて、40年以上自社でグリース開発をしてきた化学的見地を活かし、製品内に使用されるグリースを少量サンプリングするだけで、余寿命を測定することが可能なグリース劣化診断技術を開発しました。設備の状態保全において、点検/交換などのメンテナンス負担の軽減とグリース使用量削減を通じた環境負荷低減に貢献します。
(注)リアルな現象を再現して詳細に把握し、そのカラクリを推理してデジタル上にモデル化することにより、リアルとデジタルの両面から目に見えない本質を理解し、エンジニアの創造性を高め、既成概念を打ち破るようなソリューションを生み出すことを目指す当社独自の取り組み。
事業別の技術開発の状況は以下のとおりです。
②産業機械事業
産業機械の電動化・自動化による生産性向上、さらに状態監視や予知保全にとどまらず補修や再利用までを組み合わせた循環型社会やカーボンニュートラルなど持続可能な社会の実現などが求められる中、当社グループは、これらのニーズに貢献する製品やサービスを開発しています。
生産性向上に関しては、「サーボモータ用低発塵・高機能軸受」を開発し、新開発のグリースとシールにより従来比2倍以上の低発塵性能を実現し、サーボモータの安定稼働、信頼性向上に貢献します。また、開発した「NSKリニアガイドTM NH型/NS型 高作動オプション」では、業界初となる弾性ボールを採用した独自の高作動化技術により、検査装置、測定機などのなめらかな動きを実現します。また、機械加工の高精度化につながる工作機械の設計や要素技術に関する業績が評価され、日本機械学会から「2023年度 生産加工・工作機械部門 技術業績賞」を受賞しました。さらに、「NSKリニアガイド™ 長寿命シリーズDH型/DS型」は、「2023年“超”モノづくり部品大賞」において「機械・ロボット部品賞」を受賞しました。
状態監視については、回転機械だけではなく複雑な加工プロセスで動作する機械設備においても高い精度で状態監視を可能にする直動製品の状態監視システム実用化に向けた開発を開始しました。トライボロジー技術を活かした当社独自の診断技術と既存の状態監視製品やサービスを融合し、より多くのお客様のニーズや幅広い産業の予知保全に対応します。
さらに予知保全については、当社の産業機械設備に関する知見と情報処理サービスを展開する国内メーカーのRFIDタグ技術を掛け合わせた産業機械設備向けの新しい保全管理システムの開発も開始しました。温度センサを搭載したRFIDタグを活用し、現場での点検/保守履歴や設備稼働状態の見える化で作業負担の軽減と安全性向上に貢献します。
そのほか、日本国内における大規模な洋上風力発電ファームを早期に、かつ確実に実現させるための技術的課題の解決にも取り組んでいます。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプログラムで採択された「大型風洞設備による浮体式風車ウエイク現象の評価技術の研究開発」を通じて、ウエイク現象(注)が風車に作用する荷重変化の特性を把握することで、風車用軸受の信頼性向上を通して今後の風力発電の普及に貢献していきます。
上記に加え新事業への挑戦として、ロボティクス分野では、AGVやサービスロボットへの組み込みが可能な「アクティブキャスタ(PalGo)」を開発しました。これは自社技術を活かした電動駆動用キャスタユニットで、床面の段差や凹凸などを問わずスムースな全方向移動を可能とし、商業施設、医療機関、物流拠点など様々な環境で活用が期待されています。また、「令和5年度神奈川県県内産業DXプロジェクト支援事業」に参加し、実際の医療現場で、当社が開発した搬送アシストロボットについて、薬剤カートを使った自律走行搬送の検証を行いました。そのほか、現場の様々な搬送環境に対応する為に、野外環境の走行に適したリンク式サスペンションや、振り子構造による姿勢維持・免振機能などの独自技術を開発し、サービスロボット向けプラットフォームとしての提案も開始しました。さらに、サービス業を中心とした人手作業の自動化に貢献するフィンガーモジュールの共同開発をドイツ航空宇宙センターと開始し、2023国際ロボット展に出展しました。
今後一層高度化する産業機械市場のニーズに応え、『変わる 超える』の新商品を提案し続けます。
(注)「風車ウエイク」は、風車特有の現象で、前方からの風が風車の後ろに流れる際に、風速が落ちたり、風の流れが乱れたりする現象。
③自動車事業
自動車の電動化や自動化の進展、モビリティとしての多様化も進む中で、当社はそれら機能の省エネルギー、安全性、快適性を実現する製品・技術の開発に全方位で取り組んでいます。
省エネルギーに関しては、脱炭素社会を目指した自動車の電動化が急速に進む中、第7世代「低フリクション円すいころ軸受」を開発しました。ころ数の最適化により全回転域で低フリクションを実現し、トランスミッションやeAxleの効率向上を通して、ICEVやEVなどあらゆるモビリティの燃費・電費向上に貢献します。
加えて、航続距離延伸のため多くのバッテリーを積載するなどで増加する車両重量に対し、高負荷容量となる円すいころ軸受を用いたハブユニットの内部部品一体化を拡げ、更なる重量低減と最高水準の低フリクションを実現させた第3世代「円すいころハブユニット軸受」の量産を開始しました。
また電動化の進展に伴い、駆動用モーターの高出力化や駆動電圧の高電圧化により、軸受性能が低下する電食の発生リスクが高まることに対しては、「耐電食ソリューション」の拡充に引き続き取り組んでいます。
さらに、当社の要素技術を高めるために、当社製品が使われるユニット全体を視野に入れて研究開発を進めています。「電動シフトアクチュエータ」や「磁歪式トルクセンサ」など当社が開発した独自機構に、世界最高水準の高速回転軸受を組み合わせることで、トランスミッション機構の省エネルギー化や滑らかな変速制御の実現へ貢献します。
安全性に関しては、「電動ブレーキアクチュエータ用循環溝一体ボールねじ」の改良を進めています。ボールの循環経路を軸受や周辺部品と一体成型されたナット内径面に直接循環溝を成形することで、循環部品の配置が不要になり、小型・軽量を実現します。
また快適性に関しては、独自の材料技術で軸受を長寿命化した「電動コンプレッサー用軸受」を開発しました。車室内空調に使用されている電動コンプレッサーは、電動車では車載バッテリーや電子機器の熱マネジメントにも使用され、稼働率が高まることから軸受の信頼性の向上が重要になってきています。
多様化するモビリティに関しては、新たな交通手段として注目されるeVTOL(電動垂直離着陸機)に対し、「eVTOL向けガスタービン発電機用軸受」を開発しました。航続距離の延長やカーボンニュートラルの観点で最も現実的な推進機構として使われるガスタービン発電機に対し、新しい軸受潤滑機構を開発することで給油量を減らし、軽量かつ動力損失を抑えつつも、高出力を実現する高速回転性能を確保しました。
そのほか、軸受の摩擦低減、軽量化、長寿命化などのコアテクノロジーを通して、持続可能なモビリティ社会の実現に貢献していきます。
当連結会計年度の当社グループにおける継続事業の研究開発費は15,602百万円であり、その内訳は、産業機械事業9,278百万円、自動車事業5,998百万円、その他326百万円です。
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