帝人 【東証プライム:3401】「繊維製品」 へ投稿
企業概要
(1) 研究開発活動
帝人グループは、持続可能な社会の実現に向けて、長期ビジョンである「未来の社会を支える会社」になることを目指しています。
具体的には、モビリティ、インフラ&インダストリアル領域において「地球の健康を優先し、環境を守り、循環型社会を支える会社」となること、ヘルスケア領域において、希少疾患・難病などの疾病領域を中心として「より支えを必要とする患者、家族、地域社会の課題を解決する会社」となることを目指して社会に価値を提供していきます。
帝人グループは未来を想像し、未来の社会を支える製品・サービスの創造に挑戦し続けています。テクノロジーの進化により、社会がこれまでにない速さで変容していく中、イノベーション創出に向け、研究開発においては、技術の連携・活用と融合・複合化により、グループとしての総合力・機動力を発揮することを推進しています。加えて、デジタルトランスフォーメーション(DX)についても、IoTモニタリング技術、機械学習やAI技術、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)による研究開発力の強化を図ると同時に、スマートプラントの推進などによる製造現場の生産性向上など、多様な事業、分野において積極的に取り組んでいます。こうしたDX活動を加速するために、2023年4月にDX推進体制を強化し、デジタル技術やデータ活用の全社戦略策定の他、社内外との連携支援や情報発信、さらには”自律的DX”実現のための人財育成を実施しています。
研究開発体制については、国内12ヵ所、海外13ヵ所の拠点からなるグローバルなネットワークを有しており、グループ各社の連携を強化して組織を活性化するとともに、2023年4月からは、将来投資の領域となる新規事業関連、事業間の協創によるイノベーションの創出を全社横断的に実施するために、各事業統轄下で育成してきた新事業及びコーポレートビジネスインキュベーション部門をコーポレート新事業本部として統合し、多様な人財が能力を発揮してイノベーション創出を加速する仕組みを取り入れています。
なお、当連結会計年度の研究開発費は426億円(前期比106億円増)でした。
報告セグメントごとの研究開発活動の概要は次のとおりです。
<マテリアル事業領域> アラミド事業分野では、その高い機能性を活かして自動車、航空用コンテナ、消防服、ロープやケーブル補強など幅広い分野に使用されており、ライフプロテクション、プロテクティブアパレル、オートモーティブ、エアロスペース、インダストリーの5つを主力テーマとして、アラミド繊維製造技術及び新商品の開発に取り組んでいます。パラ系アラミド繊維である「トワロン」「テクノーラ」の海洋ロープ用途開発では、蘭FibreMax B.V.社とともにJust Transition Fund Groningen-Emmen(JTF)から4百万ユーロの助成金を得て浮体式洋上風力発電を推進しています。2023年度はリサイクル原料を用いた生産機でのリサイクルトワロンの試作に成功しており、2030年までにトワロンリサイクル率25%を目指し長期的な取り組みを継続しています。また、メタ系アラミド繊維である「コーネックス」においては、最新技術への投資により、現在ではパントンカラーの約75%を再現できるようになりました。
樹脂事業分野では、今後成長が見込まれる次世代情報端末、自動車先進化、カーボンニュートラルに対応した高機能材料の研究開発を行っています。ポリカーボネート樹脂では、高度な分子設計技術と重合制御技術を活かして、多様な屈折率要求に対応するスマートフォンカメラレンズ向け樹脂の開発を進めました。コンパウンド製品では、持続可能な社会の実現に向けてリサイクル技術を活用した環境対応材料の開発を進めています。加工製品では多様な用途に適用可能な成形加工用加飾シート、車載ディスプレイ大型化に対応する高機能シート・フィルムの開発を行っています。また、これらの樹脂材料開発全般において、マテリアルズ・インフォマティクスを活用することで研究の加速に役立っています。
炭素繊維事業分野では、高収益・高成長分野での事業拡大を進めるとともに、環境規制の高まりに伴う低燃費化の要請に応え、「軽くて強い」高機能素材の拡大を図っています。特に未来の最新鋭航空機に向けたソリューションとして、炭素繊維原糸から織物基材、熱可塑性及び熱硬化性樹脂を使用した中間材料や工法の開発に積極的に取り組んでいます。環境負荷低減へのニーズに対しては、炭素繊維製品に関わる LCA(ライフサイクルアセスメント)評価の確立などを実施しており、持続可能な国際的認証の一つである ISCC PLUS 認証を取得し、同認証に基づいたマスバランス方式を適用し、環境配慮型の原料を用いた「テナックス」の生産と販売を開始しました。また、炭素繊維リサイクル技術の開発、リサイクル炭素繊維を使用した製品の生産・供給体制の構築に向けた取り組みを進めており、幅広い潜在ニーズに応える製品の開発をより一層強化し、革新的な高性能材料とソリューションを提供していきます。
複合成形材料事業分野では、自動車分野におけるカーボンニュートラルの実現に貢献すべく、特に次世代自動車向けに、環境配慮型の材料やソリューション技術の開発に注力しています。素材から加工、成形、リサイクルに至るバリューチェーン全体のライフサイクルにおけるCO₂排出量削減に向けた技術開発や様々な取り組みの強化を続けており、自動車業界が求める軽量化、安全性と耐久性を実現しながら、素材及び製品の開発・設計の段階から環境負荷低減を組み込んでいくことができる世界にも類をみないTier1サプライヤーとしてのポジションの確立を進めています。また、積極的に自動化及びICT技術の導入を進めることで、製品の性能安定性と品質を向上させると同時に、生産効率やコスト効率を高め、顧客が要求する、より軽く、より複雑な形状の自動車パーツを、安定して量産供給することを可能にしています。今後は過酷な環境でも長く使えるパーツや、リユース・リサイクルが可能なパーツの開発と量産供給を通して、地域ごとに異なるサステナブル要求に応え、自動車の製造段階から使用段階の脱炭素化に貢献していきます。
当セグメントに係る研究開発費は110億円です。 |
| <繊維・製品事業> 繊維・製品事業では、環境戦略「THINK ECO」のもと、独自に開発したポリエステル繊維製造時のCO2排出量算出システム「TLC3(テレックサン)」について、第三者認証機関からの認証を取得し、信頼性の高いライフサイクルアセスメント対応を可能としました。さらに、ポリウレタン弾性繊維を含むポリエステル衣料品から、ポリウレタンを除去する技術を開発するなど、衣料品を回収・分別し、再び繊維にリサイクルする循環型社会の実現に向けた事業戦略を推進しました。また、ICタグをピンポイントで的確に読み取ることで、物流・医療現場におけるピッキングや仕分け作業を効率化するハンズフリータイプのウエアラブル型 RFIDリーダー「RecoHand(レコハンド)」を開発するとともに、フェムテックブランド「itoomof.」を上市し、高機能繊維を活用することで技術的な視点から女性をサポートする製品を開発するなど、暮らしを豊かにするソリューションを提供しました。
当セグメントに係る研究開発費は19億円です。 |
| <ヘルスケア事業領域> 骨・関節、呼吸器、代謝・循環器の領域を中心に、医薬品と在宅医療をキーワードに、患者さんのQuality of Life 向上、新たな治療選択肢の提供につながる医薬品、医療機器、そして付加価値サービスを生み出すために、積極的な研究開発を行っています。今後は、当社の在宅医療分野で培ってきたサービス基盤を活用し、より支えを必要とする患者、家族、地域社会の課題を解決する製品やサービスのパイプラインを提供していきます。
医薬品分野では、「フェブリク錠 10mg、20mg、40mg」について、2023年6月に小児の痛風・高尿酸血症患者に対する用法・用量の追加承認を取得しました。また、希少内分泌疾患のホルモン治療薬として開発中の3剤「TransCon hGH」、「TransCon PTH」、及び「TransCon CNP」の日本における研究、開発、製造、販売に関する独占的ライセンス契約を、2023年11月にAscendis Pharma, A/S.と締結しました。日本での販売に向け、国内臨床開発及び製造販売承認申請を実施します。 医薬品研究では、ナルコレプシー治療を対象とした自社創生候補化合物について、2024年3月に全世界における独占的開発・製造・販売権をフランスの製薬企業であるBioprojet社に供与するライセンス契約を締結しました。また、アクセリード株式会社との創薬研究に関する合弁会社を2024年4月1日に設立及び事業開始する契約を、2023年6月30日に同社と締結し、その会社名を「Axcelead Tokyo West Partners株式会社」とすることを2024年2月に公表しました。設立する合弁会社との連携によって、創薬研究の効率化と、より幅広い研究分野の強化を目指すとともに、国内外の創薬プレイヤーとの協働による創薬研究の強化を図ります。これまで欧米の大手製薬企業等に研究成果を早期導出してきた能力や実績を活かし、研究開発機能が独自に収益を生む、製薬企業としての新たなビジネスモデル確立を図ります。
在宅医療分野では、小型・軽量の携帯型酸素濃縮装置「ハイサンソポータブルαⅢ」を2023年7月に上市しました。本装置は通信端末を搭載しており、当社の携帯型酸素濃縮装置で初めて「HOT 見守り番Web」と連携できるようになりました。これにより医療関係者が携帯型酸素濃縮装置使用においても運転状況や、患者さんの日々の SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)や脈拍数の状態をWeb 上で閲覧し、治療状況を把握することができるようになりました。なお、2020年4月に出資した米国ヘルスケアベンチャーキャピタルファンドであるMedtech Convergence Fundでは米国を中心に医療機器のスタートアップ企業に対する投資やインキュベーション活動を継続しており、これらを通じて画期的なヘルスケア領域の新規製品・サービスの獲得を目指します。
当セグメントに係る研究開発費は229億円です。 |
| <IT事業> ネットビジネス分野において、電子コミック配信サービス「めちゃコミック」へのAIの活用について、またITサービス分野において、ヘルスケア領域等でのクラウドサービス開発等に加え、生成系AIの業務適用に関する調査・研究を行いました。
当セグメントに係る研究開発費は2億円です。
上記セグメントに属さない研究開発活動として、再生医療・埋込医療機器分野では、医療・健康サポートを通じて、人々の健康維持・健康寿命の延伸に貢献する素材の開発に取り組んでおり、大阪医科薬科大学、福井経編興業(株)と共同で開発を進めていた「心・血管修復パッチOFT-G1(開発コード)」が、2023年7月11日付で厚生労働省より製造販売承認を取得しました。今後、製造販売を担う帝人メディカルテクノロジー株式会社が中心となり、販売名「シンフォリウム」として、国内にて上市するとともに、海外での事業化も検討していきます。また、再生医療CDMO(開発製造受託機関)需要の拡大を見据え、2022 年には、日本におけるライフサイエンスの新たな拠点を目指す「柏の葉スマートシティ(千葉県柏市)」に、再生医療等製品の 研究・開発から、事業計画策定、商用生産までの過程をワンストップで実現する 柏の葉「再生医療プラットフォーム」の構築を開始しました。さらに2023 年 8 月には、 再生医療CDMOを専業とする帝人リジェネット(株)を設立し、2024年2月14日より「柏の葉ファシリティ」の稼働を開始しました。本施設は、再生医療 CDMO 事業のうち CDO(製法開発受託機関)事業の拠点として運用していきます。 電池部材・メンブレン事業分野では、高機能素材の活用で、安全性・強靭性を備えた社会の構築に貢献する素材として、リチウムイオン二次電池(LIB)の性能を飛躍的に向上させることのできる革新的セパレータの製造販売及び新製品の開発に取り組んでいます。エンドユーザーや基材メーカーとの連携による次世代製品の開発を進めるとともに、取得した知的財産権のライセンスビジネスも実現しています。
この他、事業間の協創によるイノベーションの創出に取り組んでいるほか、エンジニアリング分野に関する研究開発等を行っています。 これに係る研究開発費は65億円です。 |
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