企業兼大株主富士フイルムホールディングス東証プライム:4901】「化学 twitterでつぶやくへ投稿

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企業概要

 当社グループは、写真感光材料やドキュメント等の事業で培った材料化学、光学、解析、画像等の幅広い基盤技術のもと、機能性材料、ファインケミカル、エレクトロニクス、メカトロニクス、生産プロセス等の技術領域で多様なコア技術を有しています。現在、様々な分野でビジネスを展開している当社グループでは、これらの基盤技術とコア技術を融合した商品設計によって、重点事業分野への研究開発を進める一方、将来を担う新規事業の創出も進めています。バイオ医薬品の開発・製造受託事業の成長を一段と加速させるため、バイオ医薬品CDMOの中核会社FUJIFILM Diosynth Biotechnologies(以下、「FDB」と記載します。)の北米拠点に約1,800億円の大規模投資を行います。今回、当社は、現在増強中の生産能力を上回る、抗体医薬品の旺盛な製造委託ニーズを受け、現在8基のタンクを建設中のノースカロライナ新拠点に、新たに20,000リットルの動物細胞培養タンク8基を導入し、抗体医薬品の原薬の生産能力を大幅に増強させます。ノースカロライナ新拠点は、原薬製造から製剤化・包装までを一貫して受託できる拠点とするために、現在設備の導入を進めており、原薬の大量製造に限らず幅広い顧客ニーズに応えていきます。また、ノースカロライナ新拠点で使用する全てのエネルギーを、再生可能天然ガスや敷地内の太陽光発電の利用、バーチャルPPA導入による12.5万MWh/年の再エネ電力証書の購入で相殺し、実質的にCO2排出ゼロを実現していきます。当社CSR計画「Sustainable Value Plan2030」で定めた目標の下で、水使用量・廃棄物の削減に対する取組みを推進していきます。

 また、米国の半導体材料メーカーEntegris, Inc.の半導体用プロセスケミカル事業を買収しました。これにより、幅広い半導体用プロセスケミカルを獲得しました。今後、半導体製造プロセスを広くカバーする製品ラインアップで総合提案力を高め、顧客の製造プロセスの課題解決を図っていきます。本買収によって、欧米で製造拠点を拡充したほか、当社の電子材料分野では初めてとなる東南アジアでの製造拠点を取得しました。2024年から稼働する熊本拠点、韓国拠点を加えた計20拠点からなる、より強固でグローバルな製造体制で、サプライチェーンの強靭化に貢献していきます。当社が持つ、幅広い半導体材料を開発・製造できる高度な研究開発力・品質保証力と今回獲得した高い精製技術等を組み合わせて、より高純度化した半導体用プロセスケミカル等最先端ニーズに対応した半導体材料を開発・提供することで、半導体のさらなる高性能化に寄与していきます。

 当社グループでは、富士フイルム㈱、富士フイルムビジネスイノベーション㈱及びその他の子会社とのグループシナジーを強化するとともに、他社とのアライアンス、M&A及び産官学との連携を強力に推進し、新たな成長軌道を確立していきます。

 当連結会計年度における研究開発費の総額は157,108百万円(前年度比1.9%増)、売上高比5.3%となりました。各セグメントに配賦していない汎用性の高い上記基盤技術の強化、新規事業創出のための基礎研究費は10,022百万円です。

 当連結会計年度の研究開発の主な成果は次のとおりであります。

(1)ヘルスケア セグメント
 メディカルシステム事業では、国立がん研究センターと共同で開発したAI技術開発の研究基盤システムを用いて、プログラミング等の専門知識がなくても医師や研究者が自身で画像診断支援AI技術を開発することが可能な「SYNAPSE Creative Space」の提供を2024年4月より開始しました。MRI画像から神経膠腫(グリオーマ)の疑いのある領域を精密に抽出するAI技術を国立がん研究センターと共同で開発しました。本技術により、希少がんである神経膠腫の治療前の画像評価の精度向上が期待できます。また、富士フイルム㈱と国立大学法人神戸大学は、AI技術を活用して腹部の非造影CT画像※1から膵臓がんが疑われる所見の検出を支援する技術を開発しました。これにより、両者が開発した、膵臓がんの検出を支援する技術の適用対象を、造影CT画像※2から非造影CT画像へ拡大します。今後、一般的な検診や人間ドックで撮影される非造影CT画像からより多くの潜在的膵臓がん患者を拾い上げ、早期治療につながることが期待できます。そのほか、富士フイルム㈱と公立大学法人名古屋市立大学は、MRI画像から脳脊髄液腔の各領域を抽出するAI技術を共同で開発しました。本技術により、「治療で改善できる認知症」と言われ早期発見が重要なハキム病(特発性正常圧水頭症:iNPH)※3の診断精度向上が期待できます。

 バイオCDMO事業では、FDB拠点にて500L培養タンクを用いた連続生産システムの開発を進めており、抗体薬の培養工程で連続40日間の高密度細胞培養を達成致しました。また、遺伝子治療薬でボトルネックとなっている大量生産技術の確立に向け、抗体薬で培った連続生産技術を展開することにより、新たな高生産プロセスである連続エレクトロポレーション技術※4を開発致しました。今後、これら技術を用いた受託サービスを通じて顧客をサポートし、アンメットメディカルニーズへの対応等の社会課題の解決、さらにはヘルスケア産業のさらなる発展に貢献していきます。

 ライフサイエンス事業では、米国子会社のFUJIFILM Cellular Dynamics, Inc.(以下、「FCDI」と記載します。)とOpsis Therapeutics,LLC(以下、「オプシス社」と記載します。)が、大手製薬企業Bayer(バイエル) AGの子会社であるBlueRock Therapeutics LP(以下、「ブルーロック社」と記載します。)に、iPS細胞を用いた網膜疾患治療法の開発・商業化に関するライセンスを供与することに合意しました。本ライセンスの供与は、2021年にFCDI・オプシス社・ブルーロック社で行った、iPS細胞を用いた眼疾患治療法の研究開発における戦略的提携にて取り決めたオプション権をブルーロック社が行使したことに基づくものです。今後も、FCDIは、効果的なパートナーシップを継続し、iPS細胞技術の可能性を最大限に生かすことで、眼疾患を対象としたベスト・イン・クラスの細胞治療法の創出を目指します。

 コンシューマーヘルスケア事業では、皮膚への浸透性と保水効果を高めた「ナノ化ワセリン」を開発しました。「ナノ化ワセリン」は、独自のナノ分散技術を活用し、保湿剤として広く使われているワセリンの粒子をナノサイズに微細化したものです。当社は、「ナノ化ワセリン」の皮膚への浸透性向上と、高い保水効果を確認し、「ナノ化ワセリン」により、角層の厚みが増すことを実証しました。また、スギ花粉に含まれる抗原タンパク質「Cryj2(クリジェイツー)」が、皮膚バリア機能低下とシミ・くすみ等の肌トラブルを引き起こす一因であることを解明し、消炎作用をもつ生薬成分として知られる「マグワ根皮エキス」に、「Cryj2」による肌への悪影響を改善する効果を発見しました。今後、これらの研究成果を化粧品の開発に応用していきます。このほか、紫外線や熱で酸化した皮脂である過酸化脂質が、皮膚のバリア機能※5を低下させる一因を解明しました。当社は、今回の研究成果を、皮膚のバリア機能低下を予防する成分の処方設計に応用する等、化粧品の開発に生かしていきます。

 本部門の研究開発費は、55,709百万円となりました。

※1 造影剤を使用せずに撮影したCT画像。

※2 臓器や血管にコントラストをつけて、画像を見やすくするために造影剤を使用したCT画像。

※3 ハキム病(特発性正常圧水頭症:iNPH):歩行障害や認知障害、切迫性尿失禁等をもたらす疾患で、くも膜下出
   血や髄膜炎等に続発する二次性正常圧水頭症と異なり、先行する原因疾患はなく、緩徐に発症して徐々に進行す
   る。iNPHはidiopathic Normal Pressure Hydrocephalusの略。

※4 細胞液を送液しながら連続で電圧を付与し、高効率に目的遺伝子を挿入する技術。

※5 肌の水分の蒸散、外部因子(細菌やアレルギー物質、花粉、大気汚染物質)の侵入等を防ぐ機能。

(2)マテリアルズ セグメント

 産業機材事業では、富士フイルム㈱とIBM Corporation(以下、「IBM」と記載します。)が、世界最大の記録容量※6となる50TB(非圧縮時)のテープ・ストレージ・システムを開発しました。本システムは、「微粒子ハイブリッド磁性体」を採用した富士フイルム㈱開発の磁気テープ「IBM 3592 JFテープ・カートリッジ」と、IBMの最新世代の「TS1170ドライブ」を組み合わせたエンタープライズ向けのテープ・ストレージ・システムです。

 グラフィックコミュニケーション事業のデジタル印刷分野では、世界初※7となる接着機能を持つ「圧着トナー」を発売しました。プロダクションカラープリンター「Revoria Press PC1120」に特殊トナーとして搭載し、用紙への印字と糊付けをワンパスで完結します。インクジェット分野では、ワイドフォーマットインクジェットプリンター向けに、水性顔料インクジェットインク中に光硬化性樹脂※8を安定的に分散させる独自技術「AQUAFUZE(アクアフューズ)技術」を新たに開発しました。「AQUAFUZE技術」は、当社グループが有する、水性インク技術とUV硬化性インク技術の融合により開発したものです。本技術を用いた新インクジェットインクとなるUV硬化性水性インクは、これまで水性インク・溶剤インク・UV硬化性インクといった単一インクでは難しかった、印刷時に生じるインクの臭気等を抑える安全性に加え、高い耐擦性や延伸性を実現する膜質を有するため、多彩な印刷基材に対応します。

 本部門の研究開発費は、49,050百万円となりました。

※6 2023年8月30日発表時点。「Linear Tape Open (LTO)」最新世代LTO-9に対応する磁気テープ の記録容量最大
   18TB(非圧縮時)と、IBM 「エンタープライズ」現行品「IBM 3592 JE テープ・カートリッジ」に対応する磁気
   テープの記録容量最大20TB(非圧縮時)との比較において。「LTO」は、記録容量等の仕様が統一された規格。
   「エンタープライズ」は、IBMが独自に仕様を定めた規格。

※7 2023年4月25日発表時点。接着機能を持つ実用化されたトナー及びその技術は世界初。当社調べ。

※8 UV光の照射によって硬化反応が起こる樹脂。

(3)ビジネスイノベーション セグメント

 オフィスソリューション事業では、デジタル複合機・プリンター「Apeos」シリーズが、一般社団法人日本セキュリティ格付機構(略称:JaSRO)が付与する米国国立標準技術研究所(NIST)のセキュリティ基準「NIST SP800-171」及び「NIST SP800-172」への準拠性を示す情報セキュリティ格付けで、最高評価となる「AAAis」を2年連続で取得しました。

 ビジネスソリューション事業では、企業のDX活動を通じて、お客様の成功体験の具現化を目指すCHX(カストマー・ハッピー・エクスペリエンス)を実現するソリューション・サービスの第1弾として、IT資産の可視化や運用/管理から環境改善支援まで、お客様のニーズに合わせてワンストップで提供するITサポートサービス「IT Expert Services」の提供を2023年6月より開始しました。また、CHXを実現するソリューション・サービスの第2弾として、お客様が現在利用しているシステムを最大限生かした業務プロセス変革を支援し、DXを加速する新たなクラウドサービス「FUJIFILM IWpro」の提供を2023年11月より日本及びアジアパシフィック地域で開始しました。

 本部門の研究開発費は、31,232百万円となりました。

(4)イメージング セグメント

 コンシューマーイメージング事業では、スクエアフォーマットに対応した「INSTAX SQUARE SQ40」を2023年6月に、いつでもどこでも気軽に撮影できる“手のひらサイズカメラ”「INSTAX Pal」を2023年9月に発売しました。また、カメラ内部にLEDを搭載し、ダイヤルの設定値に応じて異なる色の光をフィルムに直接照射することで6種類の色表現ができる「カラーエフェクトコントロール」や、周辺光量を抑え中心部をフォーカスする「ビネットモード」等、アナログ技術でプリント表現の幅をさらに広げる新機能を搭載した「INSTAX mini 99」を2024年4月に発売しました。

 プロフェッショナルイメージング事業では、小型軽量ボディに大容量バッテリー・高性能 AF・動画撮影機能を搭載したオールインワンモデル「FUJIFILM X-S20」を2023年6月に、「GFX シリーズ」の最新モデルとして、シリーズ最高の高速連写・AF・動画性能を実現したフラッグシップモデル「FUJIFILM GFX100 II」を2023年9月に発売しました。また、高級コンパクトデジタルカメラ「X100 シリーズ」の最新モデルとなる「FUJIFILM X100VI」を2024年3月に発売しました。約4020万画素センサーと最新プロセッサーを採用するとともに、シリーズ初のボディ内手振れ補正機能も搭載し、さらなる高画質・高性能を追求しています。このほか、最先端の光学技術・画像処理技術・AIによってトンネル点検業務の効率化を実現する「トンネル点検 DXソリューション」の提供を2023年10月に開始しました。本ソリューションは、トンネル撮像システムの貸与から画像データの保管・活用までワンストップで提供し、トンネル点検業務を刷新します。画像データをもとに高精細なトンネルの画像展開図を生成できるため、従来トンネル内で行っていたひび割れの進行度合い等の点検作業をオフィスにいながら実施可能とします。

 本部門の研究開発費は、11,095百万円となりました。

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