企業兼大株主住友化学東証プライム:4005】「化学 twitterでつぶやくへ投稿

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企業概要

 当社グループ(当社及び連結子会社)は、事業拡大と収益向上に寄与すべく、独自の優位性ある技術の確立を基本方針とし、各社が独自に研究開発活動を行っているほか、当社グループ全体としての効率性を念頭に置きながら、互いの研究開発部門が密接に連携して共同研究や研究開発業務の受委託等を積極的に推進しております。

 当連結会計年度においては、2022年度から2024年度までの中期経営計画に従い、引き続き、食糧、ICT、ヘルスケア、環境の4分野に研究資源を重点投入するとともに、異分野技術融合による新規事業の芽の発掘とその育成に取り組んでまいりました。

 これに基づき、当連結会計年度に計上された研究開発費は、前連結会計年度に比べ116億円減少し、1,840億円となりました。

 セグメントごとの研究開発活動を示すと次のとおりであります。

 エッセンシャルケミカルズ分野では、持続可能な社会の実現に向けて、資源循環に関する研究開発成果の早期社会実装を目指すとともに、既存ビジネスのグローバル競争力強化に注力しております。

 資源循環技術では、総合リサイクル企業であるリバー株式会社との間で締結された業務提携契約に基づき、使用済み自動車から得られる廃プラスチックのマテリアルリサイクルに関する共同技術開発が進行しております。2023年12月には、廃プラスチックの精度の高い選別及び異物除去を行う実証プロセスが完成し、2024年度からの実証実験及びサンプル提供を開始することで、2025年度の製品供給を目指しております。アクリル樹脂に関しては、株式会社日本製鋼所と共同で開発した二軸混練押出機を使用した熱分解プロセスにより、メチルメタクリレート(MMA)モノマーのケミカルリサイクルを実現する基本技術を確立しました。これにより、愛媛工場に設置した実証プロセスを通じて2023年度からのサンプル提供が開始され、実証実験が進行中です。これらのプロセスによって得られるマテリアルリサイクルポリプロピレン及びケミカルリサイクルMMAモノマーは、当社のリサイクル技術を活用したプラスチック製品等に適用される「Meguri(メグリ)」ブランドの対象製品となります。

 包装用ポリオレフィン材料の開発においては、素材メーカーとしての強みを活かし、剛性と耐熱性を単一の樹脂で両立するポリエチレン及びポリプロピレンのモノマテリアル包材の開発を継続して推進しております。

 また、事業のグローバル競争力を強化するため、モノマー製品の触媒・プロセス改良、合成樹脂の製造プロセスの改良、既存素材の高性能化、新規高付加価値製品の開発にも力を注ぎ、当連結会計年度にはプロピレンオキサイド単産法、塩酸酸化、MMAモノマー、ポリオレフィン等のライセンス関連プロセスにおける触媒の高性能・長寿命化、安全性及び安定生産性の向上に関する改良研究を継続して実施しました。

 なお、エッセンシャルケミカルズ部門における当連結会計年度の研究開発費は70億円であります。

 エネルギー・機能材料分野では、環境・エネルギー関連事業を拡大させるため、リチウムイオン二次電池用部材、スーパーエンジニアリングプラスチックス、無機材料、機能性樹脂材料等の幅広い製品領域で、既存製品の競争力強化や新規製品創出に向けた研究開発に取り組んでおります。

 当連結会計年度において、リチウムイオン二次電池用各種部材は、自動車向けを中心に、性能向上の要請や需要拡大に応えるため、開発を鋭意進めました。耐熱セパレータでは、性能向上とコスト削減を両立させる技術開発が進捗し、幾つかの新規顧客での採用が決定しました。また、京都大学産学共同研究講座「固体型電池システムデザイン」では、圧力を加えなくても電極との界面接合が可能になる柔軟な固体電解質の実用化に向けた材料開発が進捗しております。

 機能樹脂分野では、ICT分野、モビリティ分野、ライフ&ヘルスケア分野向けにスーパーエンジニアリングプラスチックスの需要が増大しております。ポリエーテルサルホン(PES)では、半導体工程部材や高機能膜向けの開発・拡販を積極的に進めております。また液晶ポリマー(LCP)では、高流動性や高剛性を活用した電動車用エレクトロニクス材料に加え、高周波特性に優れたグレードによる高速通信コネクタやフィルム用途グレードの開発を進めており、LCPの製造については、愛媛工場での生産能力増強工事が計画通りに完了し、稼働を開始しました。

 無機材料分野では、世界に先駆けて超微粒αアルミナの量産技術の開発に成功し、量産を開始しました。次世代半導体向けの研磨材用途のほか、超微細な粒子で焼結させやすい特長により、高強度・耐薬品性が必要な半導体製造装置用部材等の先端分野や、高強度・審美性が求められる人工関節や歯科材料といったライフサイエンス分野等、新たな領域での利用が見込まれております。

 なお、エネルギー・機能材料部門における当連結会計年度の研究開発費は90億円であります。

 情報電子化学分野では、日本国内に留まらずグローバルな技術・研究開発能力を結集し、IT関連の先端技術進化を支える新規材料・部材・デバイスに関する新製品の開発に積極的に取り組み、高成長・高収益を目指してまいります。

 当連結会計年度において、まず、ディスプレイ材料分野においては、ハイエンドディスプレイの主流の一つであるOLEDパネルに対し、当社独自のキーコンポーネントである液晶塗布型位相差フィルムを中小型モバイルまで用途拡大するとともに、薄型化に寄与し耐久性や折り曲げ特性に優れた液晶塗布型偏光板についても開発を完了し拡販を積極的に進めております。今後は、より高機能化する様々なディスプレイに対応する新規機能性フィルム等各種高機能材料の開発・事業化を加速してまいります。また、当社の高分子有機EL材料を用いた中型パネルは、技術確立が完了し、国内外の主要セットメーカーによって各種モニター・ディスプレイとして採用されました。この中型パネルの技術をベースとして、モニターのみならずノートPCやタブレット等のいわゆるIT-OLEDを製造すべく、主要パネルメーカーがより生産性の高い大型基板を用いた印刷法パネル量産に向けた検討を進めており、当社はパネルメーカーとの共同開発の中で、材料の改良、量産実証を進めております。

 半導体材料分野においては、AI半導体対応のプロセス技術革新により半導体プロセスの前工程・後工程において新たな市場が形成され始めております。前工程用材料では、半導体集積度向上という命題に対し、微細加工分野において、当社独自の有機分子レジストにより、最先端技術である次世代超短波長EUV(極端紫外線)光源向けフォトレジストの性能の向上及びトップシェアの獲得を目指していくとともに、従来の液浸ArFレジストや多層配線用厚膜レジストについてもラインナップを拡充・強化してまいります。また、技術転換期にある後工程材料については、今後の成長分野と位置付け積極的に事業参入していくために、韓国をはじめとした海外拠点とのグローバルな連携により研究開発体制を一層強化することで、次世代材料の開発・事業化を加速してまいります。

 化合物半導体材料分野においては、今後大きな成長が期待される次世代パワー半導体デバイスに用いられる大口径GaN(窒化ガリウム)基板等を中心にさらなる事業基盤強化を図るとともに、高速・大容量通信、省エネ、自動運転等の技術を支え、より高度な社会の実現に貢献すべく、高周波デバイス用各種エピウェハの設計開発も行っております。

 IoT次世代技術として拡大が見込まれる高速通信用デバイス分野においても、窓ガラス等に貼り付け可能なフレキシブル透明アンテナやそれを用いた中継器の開発を加速し公共エリア等での実証実験を進めております。加えて、自動運転技術等に欠かせないセンシングデバイス分野においては、薄膜形成を中心とした要素技術を活用し、鉛フリーで環境に優しい新規圧電薄膜材料やフォトニクス構造を用いたセンサー技術の開発に取り組んでおります。

 また、モバイル端末等に使用されるイメージセンサー用途に対しては、ディスプレイ・半導体双方の領域で蓄積した技術とノウハウを活用し、高解像度・高感度化に貢献する多様な機能材料の開発を行っております。

 なお、情報電子化学部門における当連結会計年度の研究開発費は236億円であります。

 健康・農業関連事業分野では、世界の食糧増産、健康・衛生や環境の改善といった課題解決を通じてサステナブルな社会の実現に貢献するため、環境負荷低減効果を重視した技術による新製品やアプリケーション、競争力のある製造プロセスの開発を加速化し、コア事業のさらなる強化と周辺事業の拡大に取り組んでおります。

 当連結会計年度において、国内農業関連事業については、ブドウの着色促進用途として開発を続けてまいりました天然物由来の植物生長調整剤であるアブシシン酸含有製品の「アブサップ液剤」を上市しました。また、近年上市しました殺虫剤「アレス」、殺菌剤「インディフリン」についても、新製品の開発を進めております。コメ事業においては消費者や生産地のニーズに合う特徴のある新品種の開発を継続しております。さらに、省力化・環境負荷低減技術の開発やDXの活用を通じて農業生産者への革新的なソリューションの提供を拡大すべく、農薬、肥料、コメ事業の製品ポートフォリオ拡充及び付随するサービスに関する研究開発を進めております。海外農業関連事業においては、有効成分「インディフリン」含有製品をアルゼンチンで上市しました。また、当社新規殺菌剤「パベクト」は欧州及び南米市場を中心とした展開が期待されており、鋭意開発を進めております。バイエル社との雑草防除体系の創出プロジェクト(当社が新規除草剤、バイエル社が耐性作物の開発を担当)では、新規PPO除草剤である「ラピディシル」の登録申請を米国、カナダ、ブラジル及びアルゼンチンで完了し、大きく開発を進展させたことに加え、本剤は多様な雑草に効果を示すことから、土壌からの二酸化炭素の放出抑制に資する不耕起栽培に適しており、カーボンニュートラルへの貢献が期待できます。コルテバ・アグリサイエンス社との種子処理技術の開発、商業化プロジェクトにも引き続き取り組んでおります。さらに、当社が戦略的分野と位置付けているバイオラショナル事業では、米国のFBサイエンス社の買収を通じ、成長著しいバイオスティミュラント分野への本格参入を果たしました。バイオスティミュラントは天然物由来の農業資材で、非生物的ストレスに対する防御機能を誘導し作物の健全な成長を促すとともに、栄養素の吸収を促進することによって作物の品質改善や増収効果をもたらします。当社は、化学農薬、バイオラショナルの強固な基盤をもとにリジェネラティブ農業への貢献を追求いたします。

 生活環境事業については、重点強化領域の市場セグメントにおける新製品の開発と製品群の拡充を推進しております。引き続き強い市場ニーズのある天然物由来製品に対応すべく、グループ会社と共同で、新規ボタニカル殺虫剤の登録申請、これに続くボタニカル成分の開発及び登録申請に向けたデータ取得を順調に進めております。業務用殺虫剤分野では、ゴキブリ防除用新製品「ヴェンデッタ360」を上市するなど、さらなる新製品の開発に取り組んでおります。熱帯感染症対策資材分野では、抵抗性を持つ蚊へ卓効を示す室内残留散布剤の普及に取り組むと同時に、蚊の発生源対策として幼虫防除用新製品の開発・登録を引き続き進めていくことで、長期残効性蚊帳と併せて熱帯感染症を媒介する蚊に対して総合的な防除を可能とする製品拡充に取り組んでおります。また、グループ会社と共同で感染症拡大防止へ向けた抗ウイルス製品の開発も継続しております。

 アニマルニュートリション事業については、競争力強化のためメチオニンの合理化製法の開発やプロセス改善に加え、機能性飼料添加物分野における製品ラインナップ拡充のため、飼料効率の改善と安心・安全な畜産物生産に貢献できる新規製品の開発に取り組んでおります。また、近年問題となっている家畜排泄物由来の温室効果ガス(GHG)の低減を目的として、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構や国内大学等との共同研究プロジェクトに参画し、引き続きメチオニンを含むアミノ酸バランス改善飼料の技術普及を推進しております。

 ファーマソリューション事業については、当社の有機合成プロセスの技術力を駆使した新薬の受託製造品目の拡充、及びジェネリック原薬の製法開発に取り組んでおり、有望な複数の開発品・新製品に対して商業生産へ向けた準備を進めております。核酸医薬原薬につきましては、長鎖RNA需要の成長に対応するため、大分工場内に新工場を建設し、2023年8月より稼働を開始しました。新工場の稼働開始に合わせて研究機能の一部を大分に移管したことにより、迅速なスケールアップを可能にするとともに競争力のある要素技術の獲得、独自技術の拡張を目的とした研究開発を推進しております。

 なお、健康・農業関連事業部門における当連結会計年度の研究開発費は332億円であります。

 医薬品分野では、精神神経領域、がん領域及びその他領域において、医薬品、再生・細胞医薬、非医薬等による多様なアプローチで人々の健康で豊かな生活に貢献するため、住友ファーマ及び日本メジフィジックス株式会社における自社研究に加え、技術導入、ベンチャー企業やアカデミアとの共同研究等、あらゆる方法で先端の技術を取り入れて研究開発活動に取り組んでおります。

 当連結会計年度においては、精神神経領域では、①他家iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞(開発コード:CT1-DAP001/DSP-1083)について、2023年12月、日本において、京都大学医学部附属病院が実施していたパーキンソン病治療に関するフェーズ1/2試験(医師主導治験)の2年間の観察期間が終了しました。また、米国において、カリフォルニア大学サンディエゴ校が非凍結細胞(CT1-DAP001)を用いたパーキンソン病治療に関するフェーズ1/2試験(医師主導治験)を開始しました。さらに、同じく米国において、凍結細胞(DSP-1083)を用いたパーキンソン病治療に関するフェーズ1/2試験(企業治験)を開始しました。②他家iPS細胞由来網膜色素上皮細胞(開発コード:HLCR011)について、日本において、網膜色素上皮裂孔を対象としたフェーズ1/2試験を開始しました。③ウロタロント(開発コード:SEP-363856)について、2023年7月、米国において、統合失調症を対象として実施していた2本のフェーズ3試験の解析結果を得ましたが、いずれの試験においても主要評価項目を達成することができませんでした。その後、本剤の開発方針を検討した結果、住友ファーマにおける開発を中止し、大塚製薬株式会社に開発を委ねることとしました。④SEP-4199について、米国及び日本において、双極Ⅰ型障害うつを対象としたフェーズ3試験を実施していましたが、被験者登録の進捗の大幅な遅れにより、試験を中止しました。その後、本剤の開発方針を検討した結果、住友ファーマにおける開発を中止しました。⑤EPI-589について、米国におけるパーキンソン病を対象としたフェーズ2試験並びに米国及び日本における筋萎縮性側索硬化症(ALS)を対象としたフェーズ2試験の結果を踏まえ、本剤の開発方針を検討した結果、住友ファーマにおける開発を中止しました。

 がん領域では、①TP-3654について、米国及び日本において、骨髄線維症を対象としたフェーズ1/2試験を推進しました。②DSP-5336について、米国及び日本において、急性白血病を対象としたフェーズ1/2試験を推進しました。

 その他の領域では、①「ジェムテサ」(一般名:ビベグロン)について、2024年2月、米国において、前立腺肥大症を伴う過活動膀胱に対する適応追加申請を行いました。②「オブジェムサ」(一般名:ビベグロン)について、2023年5月、欧州において、提携先が過活動膀胱に対する承認申請を行いました。③レルゴリクス配合剤の「ライエクオ」(一般名:レルゴリクス・エストラジオール・酢酸ノルエチンドロン配合剤)について、2023年11月、欧州において、提携先が子宮内膜症に対する適応追加承認を取得しました。④rodatristat ethylについて、米国において、肺動脈性肺高血圧症(PAH)を対象としたフェーズ2試験を実施していましたが、期待した有効性及び安全性が認められなかったことから、すべての試験を中止しました。その後、本剤の開発方針を検討した結果、住友ファーマにおける開発を中止しました。⑤「ゼンレタ」(一般名:lefamulin)について、2023年11月、中国において、市中肺炎を適応症とした承認を取得しました。⑥ユニバーサルインフルエンザワクチンについて、2024年3月、ベルギーにおいて、TLR7アジュバント(開発コード:DSP-0546LP)を添加して作製した新規のユニバーサルインフルエンザワクチン製剤のフェーズ1試験の開始申請を提出しました。

 放射性医薬品については、AMEDによるCiCLE事業の研究開発課題として採択されたセラノスティクス(治療と診断の融合)薬剤開発プロジェクト「CRADLE(Consortium for Radiolabeled Drug Leadership)」を日本メジフィジックス株式会社が中心となって推進しました。

 なお、医薬品部門における当連結会計年度の研究開発費は942億円であります。

 全社共通及びその他の研究分野においては、上記5事業分野の事業領域を外縁部へ積極拡大するための研究及びマテリアルズ・インフォマティクス等のデータ科学・計算科学をはじめとする共通基盤技術開発の強化により、環境、ヘルスケア、食糧、ICTの重点4分野における次世代事業の創出加速を進め、社会的課題の解決の実現を推進しております。また、カーボンニュートラル実現の視点からの研究開発の重要性が増していることから、当社は、2021年12月に公表した住友化学グループのカーボンニュートラル・グランドデザインに基づき、「責務」として自らが発生するGHG排出量を2030年度までに2013年度比50%削減、さらに2050年度までにネットゼロ達成に向けた取り組みを進めるとともに、「貢献」についてはGHG削減に貢献する製品・技術の開発、社会実装及びライセンスを通じたグローバル展開に取り組んでおります。当連結会計年度においては、次の進展がありました。

 環境分野では、創エネ・蓄エネにつながる次世代電池、地球温暖化対策となるGHG排出削減や資源リサイクルによる環境負荷低減に関する技術開発を加速しております。具体的には、炭素資源循環技術の確立を目指し、グリーンイノベーション基金事業の助成を受けた様々なプロジェクトを進行中です。千葉工場の袖ケ浦地区において、エタノールからプロピレンを直接製造する実証に向けたパイロット設備の建設に着手しました。2025年前半に同設備を完成させるとともに、早期の社会実装を目指してまいります。愛媛工場においては、CO2からメタノールを高効率に製造する実証パイロット設備を新設し、2023年12月より運転を開始しました。本技術は、国立大学法人島根大学と共同開発を進めてきた内部凝縮型反応器(Internal Condensation Reactor)により、従来技術の課題を解決したものになります。2028年までには実証を完了し、2030年代の事業化及び他社へのライセンス供与を目指してまいります。

 また、当社は、合成生物学のパイオニア企業である米国ギンコバイオワークス社と、バイオものづくりの連携を強化し、合成生物学を用いた機能化学品の開発に着手しました。今回の取り組みで、ギンコバイオワークス社は、菌株設計の技術を生かした商業化に必要な菌株開発を担い、当社は、製造プロセスの開発及びそのスケールアップによる商業化に向けた検討を行います。両社は、化石資源を原料とした製造方法に代わって、微生物の発酵生産によって機能化学品を量産化することで、よりカーボンフットプリントの低い製品を提供し、カーボンニュートラル社会の実現への貢献を目指してまいります。

 ヘルスケア分野では、再生・細胞医薬や体調モニタリング等の先端医療・予防・診断に関する技術の開発に引き続き取り組んでおります。名古屋大学大学院と、住友ファーマ、当社及び藤田医科大学らの共同研究グループにおいて、ヒト胚性幹細胞(ヒトES細胞)及びヒト人工多能性幹細胞(ヒトiPS細胞)を用い、高効率かつ高純度で下垂体ホルモン産生細胞を作製する方法を開発しました。本研究の成果は下垂体の機能が低下した患者に対する再生医療の実現に向け、一歩前進したものと言えます。

 食糧分野では、当社の保有技術を活かすことが可能と思われる機能性飼料やバイオラショナル資材等の食糧の品質・収量向上に資する技術の開発に取り組んでおります。

 ICT分野では、有機ELディスプレイ材料、5G・6G等の通信対応材料、次世代半導体関連材料及びイメージセンサー材料等の技術開発に引き続き取り組んでおります。環境に配慮したデバイスの実用化に向けて、次世代量子デバイスの重要材料の一つとして期待される「強相関電子材料」の研究開発を行うため、2023年4月より東京大学大学院、東京工業大学、国立研究開発法人理化学研究所のそれぞれに研究拠点を設け、共同研究を開始しました。研究員が複数の組織で開発を実施するクロスアポイントメントも活用しながら、プロジェクト間の連携を進め、研究成果の最大化や早期の社会実装を目指してまいります。

 以上の研究開発の早期の事業化に向け、下記のような取り組みも強化しております。

 デジタル技術の活用により、研究開発活動の生産性向上の取り組みを継続、深化させ、顧客接点強化や顧客満足度向上等事業の競争力強化(DX戦略2.0)を計るとともに、新規ビジネスモデルの構築による事業創出(DX戦略3.0)にも取り組んでおります。DX戦略3.0による新たな価値創造として、天然素材のデジタル・ネットワーキング・プラットフォームBiondo(ビオンド)を2024年7月に公開予定です。本サービスは天然素材の有効活用を促すための3つのサービスを提供するものであり、当社の強みである網羅分析技術による成分分析サービス、天然素材と機能性成分に関する豊富なデータベース及びプラットフォーム上でのマッチングサービスを、ウェブサイト上で総合的に提供するものになります。天然素材の新たな価値の発見により有効活用を促し、資源循環へ貢献を目指します。また、生成AIを活用した当社版「ChatGPT」として「ChatSCC」を開発し、約6,700名の全従業員を対象に運用を開始しました。足元では生産性の飛躍的向上を実現するとともに、将来的には当社独自データの有効活用による既存事業の競争力確保、さらには新規ビジネスモデルの創出へとつなげてまいります。

 また、千葉地区にて環境負荷低減技術や新素材の開発拠点として2024年6月末に新たな研究棟が稼働開始予定です。これにより、環境負荷低減テーマの加速と早期実現化を目指し、研究体制の強化を図ってまいります。

 なお、全社共通部門における当連結会計年度の研究開発費は170億円であります。

 このように、新製品・新技術の研究開発及び既存製品の高機能化・既存技術の一層の向上に取り組みつつ、食糧、ICT、ヘルスケア、環境の4つの重点分野の社会課題をイノベーティブな技術で解決する企業(Innovative Solution Provider)を目指してまいります。

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