企業兼大株主丸井グループ東証プライム:8252】「小売業 twitterでつぶやくへ投稿

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企業概要

 文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものです。

1.会社の考えるサステナビリティ

Ⅰ. サステナビリティ全般

 当社グループでは、2016年から環境への配慮、社会的課題の解決、ガバナンスへの取り組みがビジネスと一体となった未来志向のサステナビリティ経営への第一歩を踏み出しました。それまで取り組んできた「すべての人」に向けたビジネスを「インクルージョン(包摂)」というテーマでとらえ直し、重点テーマを整理し、取り組みを進めてきました。これらは、国連の持続可能な開発目標「SDGs(Sustainable Development Goals)」の実現にも寄与するものです。

 そして、2019年には本格的なサステナビリティ経営に向け、2050年を見据えた長期ビジョン「丸井グループビジョン2050」を策定し、「ビジネスを通じてあらゆる二項対立を乗り越える世界を創る」ことを宣言しました。

 前述の「中期経営計画について」に記載のとおり、2021年には「ビジョン2050」に基づき、サステナビリティとWell-beingに関わる目標を「インパクト」として定義しました。インパクトは、「ビジョン2050」に定める取り組みをアップデートし、「将来世代の未来を共に創る」「一人ひとりの『しあわせ』を共に創る」「共創のエコシステムをつくる」という共創をベースとする3つの目標を定めています。

 ビジネスを通じて社会課題の解決と利益の両立をめざし、「インパクト」と「収益」の主要な取り組み項目を、中期経営計画の主要KPIとして設定しています。具体的な指標は「(4)指標と目標」に記載しています。

(1)ガバナンス

 すべてのステークホルダーの「利益」と「しあわせ」の調和と拡大に向け、ステークホルダーをインクルードした経営の仕組みづくりに着手します。

ステークホルダー経営

ステークホルダーの求める利益としあわせを共に実現する共創経営に向けて、ステークホルダーをボードメンバーに迎えることで、ガバナンス体制を進化させていきます。

サステナビリティマネジメントの推進

サステナビリティ経営の推進に向けて適時活動を検証するとともに、サステナビリティとビジネスの両立をめざす重点指標(KPI)の進捗を確認しています。サステナビリティマネジメント体制の強化に向け、2019年にサステナビリティアドバイザーおよび取締役会の諮問機関としてのサステナビリティ委員会を設置しました。外部有識者や将来世代を含むメンバーにて、グループ全体のサステナビリティ戦略および取り組みなど、未来に向けた対話を深め、積極的に取締役会に報告・提言を行っています。

リスクマネジメントの推進

サステナビリティ経営の礎として、「グループ行動規範」を定め、そのもとに「丸井グループ人権方針」「丸井グループ安全衛生方針」「丸井グループ環境方針」等を定めています。外部環境の変化に対応し、デジタル化・技術革新の事業構造転換のさらなるスピードアップに向けて、CDO(Chief Digital Officer)を配置しています。また、情報セキュリティリスクへの対応を強化するため、情報セキュリティ委員会を設置し、グループ全体の情報資産などを保護・管理する最高セキュリティ責任者としてCSO(Chief Security Officer)を配置しています。規範・各種方針は、実効性を年1回検証するとともに、研修などを通じてグループ社員へ周知を図っています。今後も適宜見直しを行い、時代に合わせたリスクマネジメントを推進していきます。

次世代リーダーの育成

2017年4月より次世代経営者育成プログラム「共創経営塾(CMA)」を開設しました。毎年10人~20人程度を選抜し、社外取締役の監修のもと、次世代の経営を担う人材の発掘と育成をめざします。

(2)戦略

 当社グループは、「お客さまのお役に立つために進化し続ける」「人の成長=企業の成長」という経営理念に基づき、「すべての人が『しあわせ』を感じられるインクルーシブな社会を共に創る」ことをミッションとしています。金融と小売の融合を通じて、経済的な豊かさだけでなく精神的な豊かさとしての「しあわせ」を提供すること、一部の人たちだけでなく、すべての人が「しあわせ」になれる社会の実現をめざします。

2050年を見据えた長期ビジョン「ビジョン2050」の策定に合わせ、当社グループが優先的に取り組むべき社会課題を定義し、2050年のめざすべき世界を「国・人種・自然すべてがつながり合う世界」としました。

 共創を基盤とした三位一体のビジネスモデル「小売」「フィンテック」「未来投資(共創投資 + 新規事業投資)」の推進により、「インパクト」と「収益」の両立をめざしています。

 当社グループが取り組むべきことを3テーマ9つの重点項目として設定し、「ビジョン2050」の実現に向け取り組むことで、すべての人が「しあわせ」を感じられるインクルーシブで豊かな社会をめざしていきます。

■ 将来世代の未来を共に創る

「脱炭素社会の実現」や「サステナブルな選択肢の提供」、「将来世代の事業創出の応援」などにより、地球と共存する持続可能な未来を将来世代につなげます。

脱炭素社会の実現

<自社排出の削減>

温室効果ガス削減への取り組みとして、2019年9月に策定した新たな温室効果ガス削減の中長期目標は、国際的なイニシアティブである「Science Based Targets(SBT)イニシアティブ」により「1.5℃目標」として認定されました。グループ全体の温室効果ガス削減目標は次のとおりです。

 

2030年までに、2017年3月期比で

・Scope1(※1)+Scope2(※2)を80%削減

・Scope3(※3)を35%削減

 

2050年までに、2017年3月期比で

・Scope1+Scope2を90%削減

 

2023年3月期の実績

・Scope1(10,043トン)+Scope2(25,582トン)合計35,625トン

 2017年3月期比 69.9%削減

・Scope3(255,620トン)2017年3月期比 47.8%削減

温室効果ガス排出量原単位(※4)は7.5(前年比92.5%)となりました。

 

2018年7月にRE100に加盟し、2030年までにグループの事業で使用する電力を、すべて再生可能エネルギー化していくこととしています。2023年3月期の再生可能エネルギー比率は68%となりました。
 ※1自社の燃料の使用による温室効果ガスの排出量
 ※2自社の電力等の使用による温室効果ガスの排出量
 ※3自社のバリューチェーンに関わる温室効果ガスの排出量
 ※4温室効果ガス排出量(トン)/連結営業利益(百万円)にて算出

 

<お客さまとの共創による社会排出の削減>

当社グループは、株式会社UPDATER(旧みんな電力株式会社)と共に、「みんなで再エネ」プロジェクトをスタートしました。カード会員の皆さまに対し、再エネ電力をかんたんに申し込めるサービスをご提供し、お客さまと共にCO2の社会排出削減に取り組みます。2026年3月期には、50万人のお客さまとCO2 100万トンの削減をめざします。

サステナブルな消費・暮らしの革新

サステナブル基準を満たした加盟店・テナント・共創投資先を通じて選択肢を提供することで、サステナブルな消費・暮らしを実現していきます。

将来世代の「事業創出」を応援

将来世代の事業家への共創投資や、エポスオーナーカードの展開を通じて、将来世代の「事業創出」を応援する投資および融資を加速していきます。

■ 一人ひとりの「しあわせ」を共に創る

 一人ひとりの「好き」「個性」「健康」「お金の活かし方」を応援し、個がエンパワーできる社会の実現を加速させます。

一人ひとりの「好き」を応援

アニメ・Kコスメ・KPOPなどの新規事業の創出や共創投資を通じて、一人ひとりの「好き」を応援していきます。あわせて、コンテンツカードの発行や店舗でのイベントの開催など独自性の高い取組みを推進し、拡大をめざします。

一人ひとりの「個性」を応援

「小売」「フィンテック」「未来投資」の三位一体の共創投資を通じて、アレルギー・サイズ・ⅬGBTQ・障害者支援などのインクルーシブな選択肢を提供することで、一人ひとりの「個性」を応援していきます。

一人ひとりの「健康」を応援

フェムテック・ヘルステック・マインドフルネスなどライフステージの基盤となる「健康」をサポートする選択肢を提供することで、一人ひとりの「健康」を応援していきます。

一人ひとりの「お金の活かし方」を応援

「信用の共創」によるカード発行を中心としたファイナンシャルインクルージョンの機会提供、「応援投資(ソーシャルボンド)」など社会貢献と資産形成を両立する投資を通じて、一人ひとりの「お金の活かし方」を応援していきます。

■ 共創のエコシステムをつくる

 当社グループが持つアセットを通じて、ステークホルダーの皆さまと共創のエコシステムをつくり、イノベーションの創出をめざします。

共創の場づくり

「Future Accelerator Gateway」「Marui Co-Creation Pitch」「アプリ甲子園」などイノベーションを創出する場をつくり、店舗・カードなど当社グループの基盤を通じて、将来世代の起業を支援します。

働き方と組織のイノベーション

「共創チーム」などのプロジェクト型組織・DX研修などを通じて、着実にイノベーションを起こしやすい環境づくりおよび人材育成を推進していきます。

(3)リスク管理

 当社グループは、サステナビリティに関する課題を把握し評価するため、リスク・機会を特定しています。特定したリスク・機会はサステナビリティ推進体制のもと、戦略策定・個別事業運営の両面で管理しています。グループ会社(クレジットカード業務・小売業・施設運営・物流・総合ビルマネジメント等)の役員で構成されるESG委員会で議論された内容は、代表取締役を長とするコンプライアンス推進会議や、取締役会の諮問機関であるサステナビリティ委員会において定期的に報告し協議を行い、案件に応じて、取締役会への報告・提言を行っています。企業戦略に影響する世の中の動向や法制度・規制変更等の外部要因の共有や、グループ各社の施策の進捗状況や今後のリスク・機会等の内部要因を踏まえて、戦略・施策等の検討を実施していきます。

(4)指標と目標

 当社グループは2031年3月期インパクトKPIとして共創をベースとする3つの目標「将来世代の未来を共に創る」「一人ひとりの『しあわせ』を共に創る」「共創のエコシステムをつくる」を設定し、具体的な取り組みを進めています。

 早期のインパクト実現に向け、グループ各社・各部が中期経営計画を策定し、経営層へ進捗を報告する会議にて、年1回モニタリングを実施しています。


Ⅱ.気候変動への取り組みとTCFDへの対応

気候変動は、もはや気候危機としてとらえるべきことであり、当社グループは、重要な経営課題のーつと認識し、パリ協定が示す「平均気温上昇を1.5℃に抑えた世界」の実現をめざしています。「丸井グループ環境方針(2022年3月改定)」に基づき、パリ協定の長期目標を踏まえた脱炭素社会へ積極的に対応すべく、ガバナンス体制を強化するとともに、事業への影響分析や気候変動による成長機会の取り込みおよびリスクへの適切な対応への取り組みを推進しています。当社グループはFSB(金融安定理事会)により設立されたTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)による提言に賛同し、有価証券報告書(2019年3月期)にて、提言を踏まえ情報を開示しました。さらに分析を重ね、有価証券報告書(2020年3月期)にて、気候変動による機会および物理的リスク等の内容を拡充しました。今後も情報開示の充実を図るとともに、TCFD提言を当社グループの気候変動対応の適切さを検証するベンチマークとして活用し、サステナビリティ経営を進めていきます。

(1)ガバナンス

 気候変動に関わる基本方針や重要事項等を検討・審議する組織として、取締役会の諮問機関であるサステナビリティ委員会を設置しています。また、関連リスクの管理水準の向上を図る機関としてESG委員会を設置し、代表取締役を長とするコンプライアンス推進会議を通じて、当社グループ全体のリスク管理を行っています。事業戦略の策定や投融資等に際しては、こうした体制をもとに「丸井グループ環境方針」や気候変動に係る重要事項を踏まえ総合的に審議し決定することで、気候変動に関するガバナンスの強化を進めていきます。

(2)戦略

(事業のリスクと機会)

 気候変動による世界的な平均気温の4℃上昇が社会に及ぼす影響は甚大であると認識し、気温上昇を1.5℃以下に抑制することをめざす取り組みへの貢献が重要であると考えています。2℃以下シナリオ(1.5℃目標)への対応力を強化すべく、気候関連のリスクと機会がもたらす事業への影響を把握し、戦略の策定を進めています。

 当社グループは、小売・フィンテックに、経営理念やビジョンを共感しあえるスタートアップ企業等への投資により、相互の発展につなげる「未来投資」を加えた、三位一体のビジネスモデルの創出をめざしています。気候変動は、台風・豪雨等の水害による店舗・施設等への被害や規制強化にともなう炭素税の導入による費用の増加等のリスクが考えられます。一方、消費者の環境意識の向上に対応した商品・サービスの提供や環境配慮に取り組む企業への投資は当社グループのビジネスの機会であるととらえています。

(財務影響の分析・算定)

 事業への財務的影響については、気候変動シナリオ等に基づき分析し2050年までの期間内に想定される利益への影響額として項目別に算定しています。リスクについては、物理的リスクとして、気温上昇が1.5℃以下に抑制されたとしても急性的に台風・豪雨等での水害が発生しうると予測しています。店舗の営業休止による不動産賃貸収入等への影響(約19億円)および建物被害(約30億円)を算定。移行リスクとしては、将来のエネルギー関連費用の増加を予測し、再生可能エネルギーの調達コストの増加(約8億円)および炭素税導入による増税(約22億円)を算定しています。機会については、環境意識が高い消費者へのライフスタイル提案による店舗収益への影響(約19億円)およびカード会員の増加による長期的収益(約26億円)、環境配慮に取り組む企業への投資によるリターン(約9億円)を算定。カード会員の再生可能エネルギー電力の利用によりリカーリングが増加しゴールドカード会員化につながることでの長期的収益(約20億円)、電力小売事業への参入による調達コストの削減(約3億円)および炭素税の非課税(約22億円)を算定しています。今後もさまざまな動向を踏まえ定期的に分析し、評価の見直しと情報開示の充実を進めていきます。

(前提要件)

対象期間

2020年~2050年

対象範囲

丸井グループの全事業

算定要件

気候変動シナリオ(IPCC・IEA等)に基づき分析

項目別に対象期間内に想定される利益影響額を算定

リスクは事象が発生した際の影響額で算定

機会は原則、長期的な収益(LTV)で算定

公共事業等のインフラ強化やテクノロジーの進化等は考慮しない

(気候変動によるリスクおよび機会)

 

世の中の変化

丸井グループのリスク

リスクの内容

利益影響額

台風・豪雨等
による水害
※1

店舗の営業休止

営業休止による不動産賃貸収入等への影響

約19億円

浸水による建物被害(電源設備等の復旧)

約30億円

システムセンター

の停止

システムダウンによるグループ全体の営業活動休止

 対応済
※2

再エネ需要の

増加

再エネ価格の上昇

再エネ調達によるエネルギーコストの増加

約8億円

(年間)

政府の

環境規制の強化

炭素税の導入

炭素税による増税

約22億円

(年間)

 

世の中の変化

丸井グループの機会

機会の内容

利益影響額

機会

環境意識の向上・

ライフスタイルの変化

サステナブルな
ライフスタイルの提案

環境配慮に取り組むテナント導入等による収益

約19億円

※3

サステナブル志向の高いカード会員の増加

約26億円
※4

環境配慮に取り組む企業への投資によるリターン

約9億円

一般家庭の再エネ需要
への対応

カード会員の再エネ電力利用による収益

約20億円
※5

電力調達の
多様化

電力小売事業への参入

電力の直接仕入れによる中間コストの削減

約3億円

(年間)

政府の

環境規制の強化

炭素税の導入

温室効果ガス排出量ゼロの達成による炭素税非課税

約22億円

(年間)

※ 1 ハザードマップに基づき影響が最も大きい河川(荒川)の氾濫を想定(流域の2店舗に3カ月の影響)

※ 2 バックアップセンター設置済みのため利益影響は無いと想定

※ 3 不動産賃貸収入の増加およびクレジットカード利用の増加

※ 4 クレジットカードの新規入会や利用による収益を算定

※ 5 リカーリング等でのゴールドカード会員の増加による収益を算定

(3)リスク管理

 当社グループは、グループの事業が気候変動によって受ける影響を把握し評価するため、シナリオの分析を行い、気候変動リスク・機会を特定しています。特定したリスク・機会はサステナビリティ推進体制のもと、戦略策定・個別事業運営の両面で管理しています。グループ会社(クレジットカード業務・小売業・施設運営・物流・総合ビルマネジメント等)の役員で構成されるESG委員会で議論された内容は、代表取締役を長とするコンプライアンス推進会議や、取締役会の諮問機関であるサステナビリティ委員会において定期的に報告し協議を行い、案件に応じて、取締役会への報告・提言を行っています。企業戦略に影響する気候変動を含めた世の中の動向や法制度・規制変更等の外部要因の共有や、グループ各社の施策の進捗状況や今後のリスク・機会等の内部要因を踏まえて、戦略・施策等の検討を実施していきます。

(4)指標と目標

・温室効果ガスの削減については、グループ全体の温室効果ガス削減目標「2030年までに2017年3月期比Scope1+Scope2を80%削減、Scope3を35%削減(2050年までに2017年3月期比Scope1+Scope2を90%削減)」が、2019年9月にSBTイニシアティブにより「1.5℃目標」として認定されています。

・2030年までにグループの事業活動で消費する電力の100%(中間目標:2025年までに70%)を再生可能エネルギーから調達することを目標として、2018年7月にRE100に加盟しています。

2.会社の考える人的資本経営

当社グループでは「人の成長=企業の成長」という理念のもと、継続的な企業価値向上をめざし、2005年より企業文化の変革に取り組んできました。企業文化の変革に向けて、「企業理念」「対話の文化」「働き方改革」「多様性の推進」「手挙げの文化」「グループ会社間職種変更異動」「パフォーマンスとバリューの二軸評価」「Well-being」等の施策を同時進行で進めてきました。

当社グループの「人的資本経営」のパフォーマンスデータについては、「2023年3月期ESGデータブック」の「社会(Social)」のカテゴリーをご覧ください。

ESGデータブック

(https://www.0101maruigroup.co.jp/sustainability/lib/databook.html)

<企業文化変革のための取り組み>

1)企業理念

当社グループの人的資本経営は「人の成長=企業の成長」という経営理念が根本となっています。この理念について、働く理由や会社に入って成し遂げたいことなどを対話の場を設けて話し合うことで、会社のパーパスと個人のパーパスのすり合わせを行い、10年以上で4,500名以上の社員が参加しました。その結果、理念を共有できない人が退職したことで一時的に退職率は上がりましたが、その後、退職率(定年退職者を除く)は約3%前後の低水準で定着しています。また、入社3年以内の離職率は約11%と世の中の平均を大きく下回る水準で推移しており、会社と個人との「選び選ばれる関係」の基盤が構築されています。

2)対話の文化

 かつての一方通行から、双方向のコミュニケーションを通じた「対話の文化」が醸成されてきました。「1.安全な場宣言から始める」「2.特に目的を定めない」「3.結論を求めない」「4.傾聴する」「5.人の発言を受けて発言する」「6.人の意見を否定しない」「7.間隔を置いて熟成させる」の7つの目安に沿って、会議やミーティングは必ず対話を交えて行われています。

3)働き方改革

働きやすい環境の実現のみならず、仕事の本質を「時間の提供」から「価値の創出」と考える企業文化の転換をめざしています。社員によるプロジェクト活動の結果、2008年3月期には月間11時間だった1人当たり残業時間は、2023年3月期では約5.2時間まで大幅に減少しました

4)多様性の推進

2014年から「男女」「年代」「個人」の3つの多様性を掲げ、組織改革を推進しています。「男女」の多様性については、2014年3月期から女性活躍推進のプロジェクトをスタートし、「女性イキイキ指数」という独自のKPIを掲げて取り組みを進めた結果、2023年3月期では男性社員の育休取得率が5年連続で100%を達成し、さらに女性の上位職志向も58%まで向上しました。2022年3月期からは新たに「男性の産休取得」と「男女の性別役割分担の見直し」を目標に掲げ、より本質的な取り組みにも着手しています。


5)手挙げの文化

10年以上にわたり、社員が自ら手を挙げて参画する「手挙げの文化」づくりを進めてきました。手挙げの文化の目的は、社員一人ひとりの自主性を促し、自律的な組織をつくり、イノベーションを創出する企業になることです。「公認プロジェクト・イニシアティブ」「中期経営推進会議」など、幅広い手挙げの機会を設け、2023年3月期では自ら手を挙げて参画した社員の割合は約8割に達しました。


6)グループ会社間職種変更異動

社員の手挙げに基づいて、当社グループ内のさまざまな事業を跨ぐ「グループ会社間職種変更異動」を2013年から本格的に推進し、2023年3月期までに、全グループ社員の約85%が職種変更を経験しています。2016年実施のアンケートでは、約86%が「異動後に成長を実感した」と回答しており、個人の中の多様性とレジリエンス力が育まれています。今後は、共創投資先を中心に他企業への出向にも拡げ、より変化に強い人材の育成を進めます。


7)パフォーマンスとバリューの二軸評価

 人事評価制度においては、業績に基づく評価だけでなく、バリューに関わる上司、同僚、部下からの360度評価を実施することで、「人の成長」という企業理念の実現をめざします。

8)Well-being

 当社グループでは、一人ひとりがやりがいを持ってイキイキと仕事に取り組める活力のある組織をめざして、2016年からWell-beingに取り組んできました。CWO(チーフウェルビーイングオフィサー)で取締役上席執行役員の小島玲子氏が中心となり、「幹部向けのレジリエンスプログラム」や社員の手挙げによる「Well-being推進プロジェクト」を通して、組織の中での一人ひとりのしあわせを実現していきます。

<企業文化変革を通じた社員エンゲージメントの向上>

当社独自の取り組みを含む8つの施策を通じて、経営のOSである企業文化を新しいOSへと更新してきました。また、これらの施策の結果、社員のエンゲージメントが高まりました。当社が独自に計測しているエンゲージメント指標を2012年と2022年の10年間で比較すると、仕事での「期待」は46%から80%へ、職場での「尊重」は28%から66%へ、自分の「強みを活かす」は38%から52%へと、それぞれ大幅に改善しました。



(1)戦略

当社グループは、2019年に策定したビジョン2050で「インパクトと利益の二項対立を乗り越える」というビジョンを掲げています。企業文化の変革によって、このビジョンの実現に向けたイノベーションが創出できるようになりましたが、これらはまだ小さな「芽」にすぎません。インパクトと利益という「双葉」をつけたこれらの「芽」を増やし、成長させることで、大きな樹に育て上げ、たくさんの果実を実らせることで、「社会課題解決企業」へと進化していきます。


「利益追求」と「社会課題解決」の2つを両立するための高いハードルをクリアするためには、一人ひとりの「創造力」を全開にすることが不可欠であり、そのために「仕事を通じてフロー体験できる」組織づくりに取り組みます。

「フロー」は心理学者のチクセント・ミハイが提唱する概念で、人が能力と挑戦のレベルが釣り合っている時にしばしば体験する、「時を忘れ、我を忘れて」没頭する状態のことを指します。人はフローを体験することで、想像力をフルに発揮することができ、それによって高いハードルを乗り越え、成長することができます。また、フローはその体験自体が「しあわせ」をもたらします。「仕事を通じてフローを体験できる組織」を創ることで、めざす姿の実現と働く一人ひとりの幸せの両立をめざします。そのために「働き方と組織のイノベーション」と「DXの推進」の2つの取り組みを進めます。


■ 働き方と組織のイノベーション

 働き方と組織のイノベーションでは、プロジェクト型の働き方と組織づくりを促進します。インパクトを実現したいという思いを持った社員が自ら手を挙げ、グループ会社の枠を超えて集まり、プロジェクト的に働くことでイノベーションを進めてきましたが、このような働き方はこれまで例外的でした。今後は、プロジェクト型を例外ではなく、当たり前の働き方として広げていきます。


ⅰ.公認イニシアティブの拡大

インパクトと利益を両立させ、さまざまなテーマを設定した「公認イニシアティブ」を前年から4チーム追加し、9チームに拡大します。各テーマについて自ら手を挙げて集まったメンバーが、社内外の枠を超えてプロジェクト的に活動することでイノベーションを創出します。


ⅱ.課長のいない組織

人と組織の管理を担う課長が、組織の長ではなく、チームのサポーターとして、上から横に回ることで、一人ひとりのメンバーが自立自走するフラットな組織を創り、チームとしての創造力を促します。


ⅲ.早期管理職登用

人事制度を改定し、「企業価値向上への貢献が期待できる人材」には、「人的資本投資」として早期昇進を後押しすることで、現状、最短で29歳の管理職への登用を26歳に早めます。若手の優秀な人材が早期に活躍できる舞台を用意することで、イノベーションの創出を加速します。


■ DXの推進

DXにおいて、現状とめざす姿のギャップを埋めるためには、デジタルの力を活かすことが欠かせません。デジタルのレバレッジとスピードを活用し、高速に仮説検証を繰り返すことが不可欠です。


ⅰ.Mutureによる専門人材の採用

2022年4月、UXデザインの先進企業であるグッドパッチ社との合弁会社Mutureを設立し、当社グループのブランドでは採用できなかった高度な専門人材の採用を開始しました。業界でも有数の人材が続々と参画しており、ライフスタイルアプリやOMEMIEの開発に貢献しています。

ⅱ.テック系組織の開発

Mutureを通じた専門人材の活躍で、プロダクトを開発することはできるようになりましたが、プロダクト開発を全社的に広げ、継続的に進化させるためには、関連する組織全体をアジャイルな組織へと変革しなければならないという課題に直面しています。当社はこれまで、いわゆる基幹系システムを得意としてきましたが、社会課題の解決に向け、これとは全く異なるテック系の組織開発を推進していきます。


ⅲ.CDXOの招聘

アジャイルな組織開発を推進するため、組織開発に関しても高度な知見を持ち、デジタルの専門家と経営者の両方の視点を持つ株式会社グッドパッチ社の土屋尚史氏を2023年6月よりCDXO(チーフデジタルトランスフォーメーションオフィサー)に迎えました。

また、2022年3月期において、経営管理上の費用を見直し、これまで人材投資としていた教育・研修費に加え、単年度の損益項目の中で中長期的に企業価値向上につながる項目として、研究開発費に含めていた新規事業に係る人件費や共創チームの人件費、さらにグループ会社間職種変更異動した社員の1年目の人件費などを「人的資本投資」として再定義しています。この再定義による2023年3月期の人的資本投資は91億円です。


(2)ガバナンス

経営戦略と人材戦略の連動を図るため、2022年4月から取締役会の諮問機関として、人材戦略委員会を新設しました。委員長にはCHRO(チーフヒューマンリソースオフィサー)で専務執行役員の石井友夫氏が就任し、委員には社外取締役の岡島悦子氏が就任しました。人材戦略委員会は戦略検討委員会と連携し、人材戦略を取締役会に提言する役割を果たします。

(3)リスク管理

当社グループの成長は、社員一人ひとりの成長や活躍により実現できると考えています。今後、人材獲得競争の激化や既存社員の流出、それにともなう将来の経営人材の不足等が顕在化した場合、事業の進化や継続性に影響を及ぼす可能性があります。当社グループは、すべての社員が自ら手を挙げてチャレンジできる風土をベースとした、将来の企業価値の源泉となる無形資産としての人的資本投資を重視しています。公募型の教育・研修プログラムはもとより、対話を通じてグループ経営にとって重要なテーマを考える「グループ横断プロジェクト」や、経営に革新を起こせる人材を育成する「次世代経営者育成プログラム(共創経営塾:CMA)」の開設、さらにスタートアップ企業への出向など、計画的な人的資本投資により、さまざまな視点から、成長とやりがいを実感できる環境づくりを進めています。

(4)指標及び目標

更なる企業文化の変革に向け、自ら「社会実験企業」を宣言することで、「失敗を許容し、挑戦を奨励する」文化を育みます。そのために、行動KPIとして、チャレンジに向けた「打席数」や「試行回数」などを設けます。「たくさん実験して、早く失敗することで、成功のためのノウハウを蓄積する」fail fast,fail forwardを奨励し、イノベーションを創出し続ける企業をめざします。


当社グループの2017年3月期から2021年3月期までの5年間の人的資本投資は320億円です。一方で、同期間に創出された、アニメ事業や家賃保証、共創投資などの新たな事業による限界利益をリターンとみなすと、2017年3月期から2026年3月期までの10年間に生み出される限界利益は560億円です。投資採算、資本効率に関しては、IRRによるリターンを算出する測定モデルを用いており、2026年3月期までを投資回収期間とするとIRRは12.7%となり、株主資本コストを上回る見込みです。この測定モデルをもとに効果検証を継続しながら、企業価値向上につながる人的資本投資をさらに推進していきます。 



また、人的資本投資のIRR12.7%は、店舗などを中心とした有形投資のハードルレートである10%を上回っています。したがいまして、今後は実効性を高めつつ人的資本投資を5年間で650億円以上に拡大することで、高効率な経営を実現します。


◇人的資本経営に関する指標



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