ヘリオス 【東証グロース:4593】「医薬品」 へ投稿
企業概要
当連結会計年度においては、体性幹細胞再生医薬品、iPSC再生医薬品の各分野において、以下のとおり研究開発を推進いたしました。
当連結会計年度における研究開発費の総額は、2,304百万円(前連結会計年度は3,808百万円)であります。
(1)体性幹細胞再生医薬品分野
当連結会計年度において、体性幹細胞再生医薬品を用いて、日本国内における脳梗塞急性期及びARDSに対する治療薬(開発コード:HLCM051)の開発を進めました。
<炎症>
脳梗塞急性期に対する治療薬の開発においては、有効性及び安全性を検討するプラセボ対照二重盲検第Ⅱ/Ⅲ相試験(治験名称:TREASURE試験)を実施しました。2022年3月末にすべての治験登録患者の投与後365日後データの収集が完了し、同年5月に試験データの一部を解析し速報値を公表しました。その結果、主要評価項目は未達となりました。一方で、脳梗塞患者の日常生活における臨床的な改善を示す複数の指標を通じて、全般的に1年後の患者の日常生活自立の向上が示唆されました。この結果を受け、当社がライセンス契約を締結しているアサシス社は、米国・欧州で同じ薬剤を使用している脳梗塞急性期の治験(治験名称:MASTERS-2試験)の主要評価項目を投与後90日から365日に変更する等について米国FDA(Food and Drug Administration)と協議し、2023年3月に要請が受理されました。2023年10月にはアサシス社が、米国・欧州で実施している治験(治験名称:MASTERS-2試験)の中間段階でのデータ解析を行い、統計学的有意性を満たすためには組み入れ患者数の追加が必要との結論になりました。2024年1月にTREASURE試験の結果に関する学術論文がJAMA Neurologyに掲載され、学術的に一定の評価を得ました。
ARDSに対する治療薬の開発においては、肺炎を原因疾患としたARDS患者を対象に、有効性及び安全性を検討する第Ⅱ相試験(治験名称:ONE-BRIDGE試験)を実施しました。2021年8月と11月に、ONE-BRIDGE試験におけるHLCM051投与後90日と180日の評価項目のデータの一部を発表し、有効性並びに安全性について良好な結果が示されましたが、2022年3月末にPMDAと実施した再生医療等製品申請前相談の中で、本製品の有効性及び安全性に関する一定の合意は得られたものの、承認申請にあたってはデータ補強が必要との助言を受けました。2023年2月末にPMDAと追加試験に関する相談を実施し、データ補強に必要な臨床試験の概要について一定の合意が得られました。また、2023年7月には本試験開始に向けPMDAより、本試験に使用する治験製品に関し、大量生産が可能となる三次元培養法によって製造された治験製品を用いることの合意が得られました。なお、2023年8月にONE-BRIDGE試験の結果に関する学術論文が、査読付きジャーナルStem Cell Research & Therapyに掲載され、学術的に一定の評価を得ました。2023年10月には、アサシス社とARDSの開発・製造・販売に関する国内での独占的なライセンス契約について、その対象地域を全世界に拡大することで合意しました。また、今後あらたに当社が実施予定の臨床試験に使用する治験製品について、三次元培養法によって製造された治験製品を確保しました。2024年1月に本疾患を対象とした臨床試験に関する治験計画届を提出し、治験を開始しました。
(2)iPSC再生医薬品分野
当連結会計年度において、がん免疫療法(開発コード:HLCN061)、細胞置換療法に関する研究開発を進めました。
<がん免疫>
eNK®細胞を用いて、固形がんを対象にしたがん免疫療法の研究を進めています。これまで当社グループが培ってきたiPS細胞を取り扱う技術と遺伝子編集技術を用いることで、殺傷能力を高めたeNK®細胞の作製に成功しており、更に大量かつ安定的に作製する製造工程を開発するなど、次世代がん免疫療法を創出すべく自社研究を進めています。神戸医療イノベーションセンター内に、2022年7月、当社の自社管理による細胞加工製造用施設が本稼働し、eNK®細胞の治験製品の製造に向けた試作製造に着手しております。
現在までの研究の成果としては、国立研究開発法人国立がん研究センターとの共同研究において、複数種類のがん腫に由来するPDX(Patient-Derived Xenograft:患者腫瘍組織移植片)サンプルにより、eNK®細胞が認識する特定の分子候補の発現をRNAシーケンシングと免疫染色で確認しています。次のステップとして、PDXを用いてeNK®細胞の抗腫瘍効果などの評価を実施しています。更に、国立大学法人広島大学大学院とeNK®細胞を用いた肝細胞がんに対するがん免疫細胞療法に関する共同研究を、兵庫医科大学とeNK®細胞を用いた中皮腫に対するがん免疫細胞療法に関する共同研究を進めています。また、自社研究において、eNK®細胞が肺がん同所生着モデルマウス、肝がん皮下移植モデルマウス、胃がん腹膜播種モデルマウス、及び中皮腫皮下移植モデルマウスに対して抗腫瘍効果を有すること、生体におけるがんと同様の環境を有している肺がん患者由来のがんオルガノイド*1においても、同様に抗腫瘍効果があることを確認しております。現在、eNK®細胞を用いた治験の開始を目指し、PMDAとの相談を進めています。
*1 生体内の組織・器官に極めて似た特徴を有している3次元的な構造をもつ組織・細胞
<細胞置換>
iPSCプラットフォームとして、遺伝子編集技術を用いた、HLA型に関わりなく免疫拒絶のリスクを低減する次世代iPS細胞、UDCに関する研究を進めております。患者の免疫細胞に認識されにくいiPS細胞を作製することで拒絶反応を抑制し、有効性と安全性を高めた再生医療等製品を開発するための次世代技術プラットフォームの確立を目指しております。現在、UDCの臨床株及びマスターセルバンクが完成し、様々な細胞に分化できる能力を有することの確認など具体的な臨床応用に向けた研究を進めております。細胞治療への応用としては、国立研究開発法人国立国際医療研究センターと、血糖値に応じてインスリンを生産・分泌し血液中の糖の調整を担う膵臓β細胞に関し、UDCからの作製に成功しています。また、米国ノースウェスタン大学の研究チームが、UDCから分化させた聴神経前駆細胞が、遺伝子編集前の親株細胞から分化させた聴神経前駆細胞に比べて、蝸牛への移植後生着率向上を示すことを確認しました。
眼科領域において、iPS細胞由来網膜色素上皮(RPE)細胞(開発コード:HLCR011)を用いた治療法開発を住友ファーマと共同で進めており、2023年5月にはPMDAによる事前の調査が終了し、2023年6月に網膜色素上皮裂孔の患者を対象とするフェーズ1/2試験を開始しました。
肝疾患領域において、機能的なヒト臓器をつくり出す3次元臓器(開発コード:HLCL041)を用いた治療法開発に向けた研究を進めており、2022年4月より、国立大学法人東京大学医科学研究所再生医学分野と、肝疾患に対する肝臓原基*2を用いた治療法の実用化に向け、UDCを用いた肝臓原基の製造法確立を目的とした共同研究を進めてまいりました。2023年2月には、開発のさらなる加速のため、当社からカーブアウトした上でベンチャーキャピタル等の外部パートナーと共同で研究開発を推進する方針を決定いたしました。
新たな治療薬の研究や細胞置換を必要とする疾患に対するさらなる治療法の研究を目的に、国内外の企業・研究機関10社以上にUDCやiPS細胞を提供し様々な疾患への適応可能性について評価を実施しています。
*2 肝臓の基となる立体的な肝臓の原基。肝細胞に分化する前の肝前駆細胞を、細胞同士をつなぐ働きを持つ間葉系細胞と、血管をつくり出す血管内皮細胞に混合して培養することで形成されます。
なお、当社グループは医薬品事業のみの単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。
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