企業兼大株主ニッスイ東証プライム:1332】「水産・農林業 twitterでつぶやくへ投稿

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企業概要

(1)サステナビリティ全般

<ニッスイグループのサステナビリティ>

ニッスイグループは創業以来、様々な自然の恵みを活用して事業を行ってきました。創業の理念、ミッションに掲げるサステナブルな事業活動は私たちの重要な使命です。私たちはニッスイの5つの遺伝子(お客様を大切にする、現場主義、グローバル、イノベーション、使命感)、サステナビリティ行動宣言に基づき、ステークホルダーの皆さまとの連携・協働のもと、事業を通じて重要課題(マテリアリティ)に取り組み、社会課題の解決を目指します。


<ガバナンス>

ニッスイグループでは、持続的な成長と企業価値向上の実現に向けてサステナビリティ経営を進めており、その推進組織として、全執行役員と社外取締役で構成し、CEOを委員長とするサステナビリティ委員会を設置しています。サステナビリティを巡る各課題については、サステナビリティ委員会傘下のテーマ別の8つの部会において、委員長が指名した部会長(執行役員)と、部会長により任命されたメンバーで部門横断的に対応を行っています。また、年6回開催するサステナビリティ委員会では、各部会からの報告や提案を受けてサステナビリティを巡る課題に係る具体的な目標や方針、施策を検討しており、取締役会への定期的な報告を通じて、取締役会からの意見や助言をその取り組みに反映しています。

また2030年ビジョン、経営計画達成に向けて役員報酬体系を2022年度より改定し、業務執行取締役の変動報酬部分の評価指標に、水産物の持続可能性や自社グループ拠点のCO2排出量削減等のサステナビリティ目標の達成度を加えています。


<戦略>

長期ビジョンでは、社会価値、人財価値、環境価値、経済価値の4つの価値創出を目指しており、サステナビリティ経営をビジョン達成のための柱の一つとして位置付けています。サステナビリティ課題をリスクと機会の両面から捉え、社会価値、人財価値、環境価値の創出に取り組むことで非財務資本を強化し、経済価値の創出につなげます。

<リスク管理>

 当社グループは、事業活動の妨げとなるリスクを未然に防止し損失発生を最小限に抑え、経営資源の保全と事業の継続に最善を尽くすため、「リスクマネジメント方針」を制定しています。全執行役員で構成され、社長が委員長を務めるリスクマネジメント委員会がリスクマネジメントシステムの構築と運用と定期的な取締役会への報告を行っております。サステナビリティ課題を含む重要リスクについては、サステナビリティ委員会を中心に対応しています。リスクの詳細は「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」をご覧ください。

<指標と目標>

2022年4月に策定した長期ビジョン、中期経営計画では、経済価値、環境価値、社会価値および人財価値の創出に向け、サステナビリティ目標として7つのKPIを定めました。サステナビリティ委員会により各指標の進捗状況がモニタリングされ、結果に基づき取り組みに反映しています。

 

提供価値

重点テーマ

目標

基準年度

単位

2030年度

目標

2024年度

目標

2022年度

実績

気候変動と海洋環境への貢献

CO2排出量削減

CO2排出量削減

(Scope 1、2)

2018年度
総量

30%

10%

12.7%

プラスチック削減

プラスチック使用量削減

2015年度
原単位

30%(注)

10%(注)

統合報告書にて開示予定

資源の持続可能性への貢献

水産資源の持続可能性

持続可能な調達比率

-

100%

80%

次回調査結果2024年開示予定

責任ある調達(人権)

1次サプライヤーアセスメント比率

-

100%

(主要な1次
サプライヤー)

100%

(ニッスイ個別)

22%

健康課題の解決

健康領域商品の拡大

当社指定の健康領域商品売上

2021年度

3倍

1.3倍

1.0倍

多様な人財の活躍

従業員エンゲージメント

従業員エンゲージメントスコア向上

2021年度

基準年度比

20%UP

基準年度比

10%UP

基準年度比

1%UP

女性活躍

女性幹部職比率

-

20%(注)

10%(注)

6.8%

(注)対象範囲はニッスイ個別

(2)テーマ別課題

≪人的資本への対応≫

<戦略>

人財育成方針および社内環境整備方針

当社グループは、昨年発表した長期ビジョンGood Foods 2030に掲げているとおり、企業価値向上に最も重要な要素の一つは「人財」であると考えており、事業活動を通じて性別・国籍・年齢等異なる多様な人財の能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションや組織の活性化を生み出し、価値創造に繋げるとともに、互いに磨き合いながらグローバルやローカルの社会課題に積極的に取り組む人財の育成を目指しています。また、あわせてグループの社員が安心して気持ちよく活躍できる職場や制度等の環境整備にも努めています。

当社グループの取り組み

①人財育成の基本枠組み

当社グループの正社員は国内外あわせて約10,000人、その約半数は海外グループ会社に所属しています。“食”はそれぞれの地域に根差すことが重要であることから、海外のグループ会社は原則マネジメントを現地に任せており、世界中で経営から社員まで様々な国籍の方が多く勤務しております。国内外とも社員の道標となるものはミッションであり「健やかな生活とサステナブルな未来を実現する新しい"食"を創造する」という考えに共鳴・共感し行動できる人財の育成に向け、グループ各社と取り組んでまいります。

当社においては「新しい食」を創造する人財を育成すべく、その基本方針を『社員一人ひとりが「求める人財像」を念頭に置き、仕事を通じて成長する「自立して自律できる人財」の育成を進める』ことと定めています。

②教育体系

当社においては、その役割や職掌・年齢等に応じ、入社から退職まで一貫した教育研修プログラムを整備しています。新入社員研修以降複数回に渡るフォローアップ研修に加え、役割等級制度で定義する上位等級に必要な知識やスキルの取得にあたり、上長や教育担当者によるOJTとともに、階層別研修・通信教育等を整備しています。また、管理職試験では外部の専門業者を活用したアセスメントにより厳正な審査を行うことで、評価の透明性・公平性を担保しています。

サクセッションを踏まえた選抜型教育や各年齢層に応じて設定するキャリア研修、また専門性を高めるための職掌別研修等も実施しており、2023年度からはDX研修にも注力していきます。

③戦略的な人財確保・配置転換

当社グループでは、各社内部での異動に加えグループ内の出向も人財育成の手段として活用しており、当社から海外を含むグループ会社へ積極的に派遣し、責任あるポジションを経験させることで、将来当社またはグループ会社におけるトップマネジメントを担う人財を早くから育成しています。また、グループ会社から当社に出向することでグループ会社の人財育成にもつなげています。

当社では、事業ごとに次世代課長候補の要件/必要スキルを明確にし、その候補者が常にプールされている状態を目指し、役員と人事部とで人財プールおよびその育成計画を審議するサクセッション会議を毎年実施しており、管理職試験を通過する新たな課長層が毎年生まれています。2023年度からは執行役員や部長のサクセッションについても議論することとしています。

また、若手社員については、2022年度から複数の事業・職種を経験することで、視座を高め、仕事の幅を広げ、変化対応力を高めることを狙いとして「育成ローテーション」をスタートしました。

 具体的には、対象者全員との人事部・所属上長との面談、対象30部署と人事部とのキャリア開発会議を行い、対象社員一人一人のキャリア志向を丁寧に把握するとともに、強み・成長課題・適性を判断し、取締役以上で構成する「人財育成会議」にて異動を決定しました。更に各部署長から対象者全員に、目的や期待する事、今後の育成方針について丁寧に説明するとともに人事部によるフォロー面談も行いました。これにより、対象者がそれぞれ前向きに受け止めるとともに、他の社員も含めて全社的なキャリア意識の向上にも繋がっています。

④ダイバーシティ&インクルージョン

 (イ)グローバル人財

2030年売上高の50%を海外とする事業ポートフォリオの実現には、グループ全体でミッションである「健やかな生活とサステナブルな未来を実現する新しい"食"を創造する」に共鳴・共感し行動に移すことができる人財育成がポイントで、これを国内外で徹底し各社に適した形で育成していきます。

当社では2016年度から将来海外で活躍するグローバル人財候補をあらかじめ登録し、登録者については、海外赴任および研修等について優先的に対象とする「グローバル人財登録制度」を運営し、グローバル人財の母集団形成を図っています。現在登録者数は2022年末時点77名を数えています。

 登録者に対して2023年度は海外グループ会社への複数名の短期派遣を予定しているほか、前年に引き続き将来の海外赴任を視野に入れた全編英語によるマネジメント・異文化理解研修等を実施していきます。

 (ロ)女性活躍推進

 当社では女性職員の母集団を増やす取り組みに加え、入社後幅広い領域で女性が活躍できる環境を作っていくため、女性職員比率が低い営業・生産職種に毎年継続的に複数名配置するなど職種の偏りを是正する取り組みを行っています。

2018年度以降、管理職や女性自身の意識改革にも取り組んでおり、2021年度には女性活躍推進の障壁となる性別無意識バイアスをテーマに、女性職員全員及び役員、部長、課長を対象としたIAT診断を実施、各階層からアプローチを行うことで、無意識バイアスに関する理解を深めるだけでなく、自身の無意識バイアスに気づき、コントロールできるようになることで人的資源の最大活用に繋げました。

また、女性職員に対する意識改革やキャリア支援の一環として、2019年度より社外研修への派遣も実施、社外ロールモデルとの接点創出を通じて、今後のキャリア形成へのヒントを得るだけでなく、同世代の活躍する女性との交流を通じモチベーション向上やネットワーク構築を行いました。

2021年1月からは「30% Club Japan」に参画し女性の採用および登用に関する数値目標を定め、社内制度の整備を進めながら女性がより一層活躍できる風土の醸成に取り組み、2022年3月には、経済産業省と東京証券取引所が共同で実施している、女性活躍推進に優れた上場企業を選定する「なでしこ銘柄」に準じる「準なでしこ銘柄」に初めて選定されました。

 2022年度も女性候補者に対する選抜研修や育成異動を行うとともにチーム制やメンター制度導入も行う中、大卒新卒採用者に占める女性割合を41%に、営業及び生産職種の女性比率も平均20%以上に引き上げる(2018年度比)など、徐々に取り組みの成果が数値として表れるとともに社内の意識の向上も見られています。

 (ハ)障害者雇用

 当社グループにおいては、法定雇用率の遵守はもとより、障害のある方も一人ひとりの特性や強みを活かしていけるよう、安心して働き活躍できる環境づくりに取り組んでいます。雇用のあり方についても、社内で同じ職場において一緒に働くことによりインクルージョンを図っています。

当社においても管理部門、工場、営業など約30の幅広い職場において障害のある社員が働いています。社内では専門知識・資格を持つスタッフの配置を進め各職場の担当者、産業保健スタッフとの協働で、多面的なサポートを行っています。さらに、各地域の行政や支援機関との連携を強化することで、採用から就労継続はもとより、一人ひとりの体調・生活面までカバーできる体制が整ってきました。

また、障害のある社員で構成する「人事部ビジネストラストチーム」は発足8年目を迎え、社内の多数部署から業務を受託し、障害者雇用の推進と業務の効率化に貢献しています。個人のスキルアップに伴い、各部門に常駐するスタイルで働くメンバーも増えてきました。今後も、障害に関する理解促進のために、職場研修の実施、合理的配慮セミナーなどを通して、お互いより良く働くための組織風土づくりを進めていきます。

2023年度からは障害者雇用を促進する組織を設置しました。教育研修の更なる充実、将来を見据えたステップアップ等の課題に取り組み、安心の障害者雇用をさらに促進していきます。

 (ニ)中途採用(経験者採用)

 当社では10年以上前から中途採用を「経験者採用」と位置づけ採用を続けていることから、その経験・専門性を尊重し柔軟に受け入れ活躍してもらう風土が醸成されており、現在では正社員に占める中途採用(経験者採用)比率は約30%に至り、10年で約5%増加しています。また、新卒採用者との間に差を設けず優秀な人財を積極的にプロモートしており、管理職も既に中途採用(経験者採用)が約25%を占め、執行役員に就任している者もおります。

 今後も優秀な人財を確保するとともに、入社時期が異なる経験者が入社後に円滑なスタートを切り、ギャップなく能力を最大限に発揮できるよう、ミッションの共有を継続するとともにフォロー面談や集合研修等を行っていきます。

⑤社内環境整備

 (イ)エンゲージメント

当社では、従業員エンゲージメント向上のため2021年度初めて会社と従業員の間における「信頼と貢献」を測定しました。全体スコアとしては概ね標準レベルではありましたが、2022年度はその結果について改善が必要な部門に対し個別の説明会を実施、アクションプランをたて7月から実行しました。

 2022年度に実施した2回目の調査結果では、初回より僅かながら改善が見られたものの、「全社的な連帯感」「階層間の意思疎通」が課題とされました。2023年度は、改めてミッションの社内浸透を図るとともに全社員が「新しい食」について考え、意見交換を行う「GOOD FOODS Talk」を全職場で実施し、インナーブランディングを進めるとともに、エンゲージメントの向上に繋げていきます。

今後は国内グループ会社にも展開し、各社において自発的貢献意欲の向上と組織風土や職場状況を改善する施策を実施するよう進めていきます。

 (ロ)健康経営の推進

 健康経営をグループ全体で推進するため、まずは2022年9月国内グループ会社を対象に健康経営キックオフミーティングを実施しました。現在、当社を含め既に12社が健康経営宣言をしており、2022年度は各社で目標設定を実施、2023年度から各社協力・連携しながら健康経営の取り組みを推進し、多様な人財が健康で能力を発揮できる環境を整えグループ全体の成長を後押しします。

当社は「健康経営銘柄2023」に選定されました。2019年に水産・農林業で初めて選定されて以来5年連続となっています。EPAや速筋タンパクなどの海産物の機能に着目した健康づくりを推進していること、時間単位の有給休暇など柔軟な働き方制度の拡充、禁煙対策による着実な喫煙率の低減などが評価されており、引き続き活動を深化し従業員のQOLを高めていきます。

<指標と目標>

上記方針を踏まえ、当社では人的資本に関するKPIを以下の通り定めています。

 

2022年度実績

2024年度ゴール

(中期経営計画)

2030年ありたい姿

グローバル人財登録

77名

90名

90名

女性活躍

女性管理職比率

6.8%

10%

20%

女性採用比率

41%

50%

50%

エンゲージメントスコア

(基準年度 2021年度)

基準年度比

1%up

基準年度比

10%up

基準年度比

20%up

≪気候変動への対応(TCFD提言への取組)≫

<ガバナンス>

気候変動問題については、CFOがプロジェクトオーナーを務める部門横断型プロジェクト「TCFD対応プロジェクト」において、リスク・機会の分析と財務インパクト対応策の検討を行っています。検討結果はサステナビリティ委員会での審議を経て取締役会に報告し、取締役会からの意見や助言を反映しています。TCFD対応プロジェクトは2022年度に5回開催しました。CO2排出量削減などの気候変動緩和策については、サステナビリティ委員会傘下の環境部会がグループ全体の取り組みを推進しています。


<戦略>

2021年度に水産事業と食品事業を対象とし、2022年度は対象にFC事業を対象に加え、TCFD提言に基づく気候変動のシナリオ分析を2つのシナリオで実施しました。気候変動リスクと機会の特定、財務インパクトの評価を行い、その対応策を検討しました。明確化された重要なリスクと機会に対して、対応策を講じることで、リスクの低減と機会の確実な獲得につなげ、気候変動に対してレジリエントな状態を目指します。

①戦略におけるシナリオ分析の概要

TCFDの提言に従い、気候変動シナリオ分析を実施しました。分析対象は水産事業と食品事業に2022年度はFC事業を加え、バリューチェーン全体を幅広く分析しました。1.5℃/2℃および4℃の気温上昇時の世界を想定し、リスク・機会の抽出と2030年における財務インパクトの評価、および対応策を検討しました。

その結果、1.5℃/2℃シナリオでは炭素税の導入による操業コストが事業成長の阻害要因となり、積極的なGHG削減とともに生産活動の効率化に取り組み、新たな顧客需要を捉えることにより、事業成長につなげることが可能であることがわかりました。また、4℃シナリオでは自然災害の激甚化に伴う物理リスクが事業成長の阻害要因となり、養殖事業の高度化に取り組みこれらのリスクに対応することで収益への影響を最小化することが必要であることがわかりました。

シナリオ

世界観の描写

1.5℃/2℃

シナリオ

(RCP2.6)

●社会からの脱炭素への要求により、コーポレートやバリューチェーン全体に対して、脱炭素に向けた規制や対応要請が強まる

●社会からの脱炭素への要求により、脱炭素な過程で生産された原材料の仕入れや持続可能な漁業・養殖が必要になる

●消費者や小売業者の志向変化により、低カーボンな製造・製品や持続性に配慮した調達品の取引や販売が求められる

4℃

シナリオ

(RCP8.5)

●自然災害の激甚化に伴い、養殖・製造・物流等拠点の被災リスクが高まり、被災した場合、供給・運営停止などのリスクが高まる

●自然災害の激甚化や気温上昇により、植生や海洋環境が変化することで、作物の収量や水産資源の漁獲量・生産量の減少リスクが高まる

●自然災害が頻発することで災害食に対する需要の増加や、気温変化により健康状態が悪化することで健康ニーズを満たす製品要望が高まる

1.5℃/2℃シナリオ

リスク
/機会

分類

想定される
主なリスクと機会

事業
インパクト

影響
時期

財務
インパクト

主な対応策

移行リスク

規制

環境関連規制強化による影響

カーボンプライシングの導入による対応コストの増加

中期

・事業所毎の排出量削減目標の設定

・再エネ導入拡大、省エネ設備投資

省エネ・GHG排出等の規制強化による対応コストの増加

・容器包装プラスチック削減

・モーダルシフト、輸送効率化

・フードロス削減

・ICP(注1)導入の検討

フロン規制強化による脱フロン要請の高まり

中期

・自然冷媒への切り替え

評判

気候変動対応が不十分な場合の投資家・金融機関からの評判低下

-

中期

・Scope 3まで含めたCO2削減目標の設定

・気候変動対応情報の積極開示

機会

製品

サービス

消費者の購買行動の変化

(環境意識の高まり、持続可能性への配慮)

 

持続可能性に配慮した製品に対する需要増加

短期

・取り扱い水産物の資源状態調査の継続実施

・環境配慮商品や認証品の取り扱い拡大

低カーボン需要の高まりによる代替タンパクへの需要増加

中期

・代替タンパク商品の開発、拡大

低カーボンとしての水産物の需要増加

長期

・LCA(注2)の実施と積極的な情報発信

資源の効率性

省エネ技術導入、再エネ・燃料転換による操業コスト低減

エネルギーの消費量削減、効率化に伴う操業コストの低減

中期

・エネルギー高効率な省エネ設備対応

影響時期は、短期(3年以内)、中期(3-10年以内)、長期(10-20年程度)とした。

(注1)ICP:インターナルカーボンプライシング

(注2)LCA:ライフサイクルアセスメント

4℃シナリオ

リスク
/機会

分類

想定される
主なリスクと機会

事業
インパクト

影響
時期

財務
インパクト

主な対応策

物理リスク

急性

風水害の激甚化による事業停止リスク/管理コスト増加

製造/物流拠点被災による被害

中期

・拠点の分散によるリスクヘッジ

・物理的被害に備える保険内容の見直し

・BCP見直し、社内訓練の実施

養殖施設の損壊による被害

短期

・浮沈式生簀の導入、施設の補強

・赤潮発生を予測し、被害を最小化

・陸上養殖への対応強化

異常気象による原材料(米・鶏肉)の調達リスク

原材料調達コストの増加

短期

・産地の分散化や調達先の多様化によるリスク低減

異常気象による原材料(水産物)の調達リスク

漁獲量減少と調達コストの増加

長期

・EPA原料魚油(カタクチイワシ)の在庫確保

・代替原料(ポストEPA)の開発

急性


慢性

渇水による操業停止リスク

養殖拠点の渇水被害

短期

・高リスク拠点の特定、移転、設備強化

製造/物流拠点の渇水被害

短期

・使用水の節約、井水の使用

・拠点の分散によるリスクヘッジ

慢性

海洋環境の変化による水産物の調達リスク

天然魚、養殖魚の漁獲量の減少

中期

・調達ネットワークの構築

陸上養殖の対応強化

・高温耐性品種の開発、養殖適地の探索

養殖飼料向け原料魚の漁獲量減少・調達コスト増加

中期

・代替飼料の開発(低魚粉配合飼料)

機会

製品と
サービス

災害や気候変動に対応する製品・サービスを通じた需要増加

天然資源減少に伴う養殖需要の増加

短期

・陸上養殖の対応強化

・高温耐性品種の開発、養殖適地の探索

スマート養殖対応によるコスト低減

短期

・AI、IoTを活用した効率化、省人化

気温上昇に伴う健康意識の高まり

健康需要を満たす製品の需要増加

短期

・健康領域商品の販売拡大

・水産物の機能性追求

影響時期は、短期(3年以内)、中期(3-10年以内)、長期(10-20年程度)とした。

②カーボンプライシングの影響

財務インパクトの中でも特に影響が大きかったカーボンプライシングについては、将来CO2排出量(Scope 1、2)を2030年売上予測に基づいて算出し、2℃シナリオ、4℃シナリオごとのIEAの予測(注1)による炭素価格を掛け合わせて運営コストの影響金額を算出しました。2030年目標であるCO2排出量を総量で30%削減することにより、グループ全体で2℃シナリオでは44.1億円、4℃シナリオでは17.6億円の削減につながることがわかりました。

2℃シナリオ

4℃シナリオ

対応策なし(注2)

対応策あり(注3)

対応策なし(注2)

対応策あり(注3)

▲83.8億円

▲39.7億円

▲33.5億円

▲15.9億円

炭素税:2℃シナリオ時 135ドル/t‐CO2、4℃シナリオ時 54ドル/t‐CO2と仮定、為替レートはいずれのシナリオも1ドル=118円と仮定

(注1)IEA World Energy Outlook 2022

(注2)対応策なし:Scope 1、2を対象とし、基準年度である2018年度と同様の原単位でCO2が排出されると仮定

(注3)対応策あり:Scope 1、2を対象とし、2030年目標を達成することでCO2排出量が2018年度から30%削減されると仮定

③天然水産資源(カタクチイワシ・スケソウダラ)の影響評価

2022年度は、調達量が多く重要な魚種であるカタクチイワシとスケソウダラについて、FAOのモデルを使用して2種類のシナリオで2030年、2050年の漁獲可能量の変化を評価しました。その結果、1.5℃シナリオにおいては両魚種ともに微減が予想されました。4℃シナリオにおいては、カタクチイワシは2030年、2050年ともに減少となり、スケソウダラは2030年は微増、2050年は増加が予想されました。2030年時点での漁獲可能量の変化率は大きくないため、財務への影響は軽微であることが確認されました。しかし、2050年の漁獲可能量の変化率は比較的大きいため、特に減少が予想されるカタクチイワシについては、対応策を確実に進めていく必要があります。

漁獲可能量の変化率 (%)


 出所:FAO (国連食糧農業機関)「Impacts of climate change on fisheries and aquaculture(2018)」

④水リスクの評価

水リスク評価のグローバルスタンダードのうち、2021年度は世界自然保護基金(WWF)のWater Risk Filterを用いて国内の製造・物流拠点全体の評価を行いましたが、Water Risk Filterに比べ分析粒度が細かくより精緻なデータ収集が可能である点、水リスク評価の際に拠点別の影響額を試算するために浸水深のデータが必要であるため、2022年度は世界資源研究所(WRI)のAqueduct(アキダクト)を用いて、国内・海外の生産・物流拠点別に評価を行いました。

水害による生産中断による機会損失については、各拠点の所在地に示されるAqueductの浸水深により拠点別に運転停止日数・在庫毀損率を特定し、財務影響金額を算定しました。その結果、財務へ影響は中程度であることを確認しました。また、水ストレス(渇水)については、最も高いリスクレベルに該当する拠点はありませんでしたが、日本、タイ、北米、南米の生産拠点の一部が、水ストレス下にある地域に所在していることがわかりました。今後は継続的に使用水の削減に取り組むとともに、水リスク評価方法の精緻化についても検討を進めていきます。

■Aquiductによる洪水リスク評価結果(拠点数)

浸水幅

1.5℃/2℃

4℃

河川

沿岸

河川

沿岸

0m

51

50

51

50

0-0.5m

7

8

10

10

0.5-1m

9

7

6

5

1-2m

0

2

0

2

 

67

67

67

67

■Aquiductによる渇水リスク評価結果(拠点数)

渇水レベル

1.5℃/2℃

4℃

低(Low)

25

26

低‐中(Low-medium)

19

18

中‐高(Medium-high)

17

16

高(High)

6

7

極めて高い(Extremely high)

0

0

 

67

67

⑤戦略への反映

シナリオ分析の結果を受けて、中期経営計画「Good Foods Recipe1」では、優先度の高い対応策から事業計画に反映し、戦略との整合を図っています。

基本戦略

項目

内容

サステナビリティ

経営への深化

温室効果ガス排出削減

●燃料転換、再生可能エネルギーの活用、省エネ推進、モーダルシフト推進

●特定フロンから自然冷媒への移行 ●代替タンパク商品の販売拡大

プラスチック削減

●養殖フロートの全量切り替え

●容器包装のプラスチック削減、バイオマス切り替え等

●物流資材のプラスチック削減、リサイクル推進

●事業活動に伴う廃プラスチックの排出抑制

水産資源の持続的な利用

●水産資源の持続可能性調査

●各種水産エコラベル認証取得率向上と認証原料の取り扱い拡大

健康訴求の強化

●健康領域商品の拡大 ●素材の機能性強化

グローバル展開加速

欧米を中心とした事業成長

●資源アクセス力の強化

新規事業・事業境界領域の開拓

新規事業

●健康領域商品の拡大 ●代替タンパク商品の拡大

既存事業の強化

●陸上養殖の事業化

生産性の革新

重点成長領域での差別化

●養殖事業モデルの先鋭化 ●スマートファクトリー化

<リスク管理>

事業活動の妨げとなるリスクを未然に防止し、損失発生を最小限に抑え、経営資源の保全と事業の継続に最善を尽くすため、リスクマネジメント規程を制定し、社長が委員長を務めるリスクマネジメント委員会がリスクマネジメントシステムの構築と運用、定期的な取締役会への報告を行っています。気候変動(世界的な気温上昇)による影響を含む事業上の重要リスクは、取締役会で毎年審議し、更新しています。

<指標と目標>

長期ビジョン「Good Foods 2030」において、2018年度比で、2030年にCO2排出量を総量で30%削減し、2050年までにカーボンニュートラルを実現することを掲げています。グループグローバルでの目標達成に向け、各事業所における省エネ施策の実施やエネルギー使用量の少ない高効率設備への更新、再生可能エネルギーの使用など、CO2削減計画を策定し、積極的に取り組んでいきます。

Scope 3についてはGHGプロトコルに整合した環境省のガイドラインに従い、15のカテゴリーに分け算定しました。今後はデータの精度向上を図り、排出量の多いカテゴリー1の削減方法の検討などを行い、ニッスイグループにおけるCO2排出量の削減をさらに推進します。また、調達する天然水産物、プラスチック、フードロス、水などについても、持続可能な利用を実現するための目標と施策をそれぞれ掲げ、取り組みを推進していきます。

①CO2排出量の推移


②目標

 ○ CO2排出量(Scope 1、2)削減目標 2018年度対比・総量

  2024年までに10%削減、2030年までに30%削減、2050年までにカーボンニュートラル実現を目指します。

 ○ 持続可能な利用を実現するための目標と施策

 サステナビリティの目標

 https://nissui.disclosure.site/ja/themes/150

 環境負荷低減の取組

 https://nissui.disclosure.site/ja/themes/88

 サプライチェーン全体のCO2排出量を算出(Scope 3)

 https://nissui.disclosure.site/ja/themes/119#225

≪生物多様性への対応(水産資源の持続的な利用)≫

<ガバナンス>

 サステナビリティ委員会傘下の「水産資源持続部会」において、当社グループで取り扱う水産物の資源状態把握と資源の持続的利用の推進について議論しています。SeaBOS(持続可能な水産ビジネスを目指すイニシアティブ)(注1)をはじめNGOや大学等の研究機関など各種団体とも連携しながら、水産資源の持続性向上の取り組みを行っています。検討内容についてはサステナビリティ委員会での審議を経て取締役会に報告し、取締役会からの意見や助言を反映しています。

(注1)SeaBOS:Seafood Business for Ocean Stewardshipの略。日本、ノルウェー、タイ、米国、韓国など世界各国から水産業界のリーダー企業が参画し、海洋環境および海洋資源の保全と持続的な資源利用を進め、持続的な水産ビジネスを目指すイニシアティブ。科学者と水産業界の主要企業が協力し、科学的根拠に基づき持続可能性向上に取り組んでいる。


<戦略>

世界の水産資源は枯渇化が進んでおり、2022年の国連食糧農業機関(FAO)の報告書によると、世界の海洋水産資源は資源安定状態が7%、満限利用の状態が57%、過剰漁獲状態が36%とされています。水産資源の状態は、自然資本に依存し、また影響を与えながら事業を営む当社グループにとって、中長期的な事業のリスクやチャンスに関わる非常に重要なものであると考えています。そのため、調達品の資源状況の把握と、対応すべき課題の特定を目的に、グループ全体で調達した水産資源状態について調査を行っているほか、グループ全体で持続的な水産資源の利用のための取り組みを推進しています。

①取り扱い水産物の資源状態調査の概要

当社では3年ごとに取り扱い水産物の資源状態調査を行っており、直近では2020年に2019年度の調達水産物を対象に調査を行いました。当社グループが2019年に取り扱った天然魚は、世界21海域471系群あると確認され、原魚換算重量として271万トンとなりました。個々の資源の分析は第三者性の確保のため外部団体(SFP(注1))に委託し、管理状態について評価を得ています。

(注1)SFP(Sustainable Fisheries Partnaership)サプライチェーンを通じた漁業の改善を推進している米国のNGO


②資源管理状態の評価結果

 SFPによる分析の結果、調達品の約71%が管理できている資源(「優れた管理」および「管理」)であることがわかりました。一方、改善を要する資源が8%となるほか、スコア欠損により判定不能な資源も21%あり、今後の課題と位置付けています。


③今後の対応策

 認証品や資源状態の良好な魚種・産地など、持続性が確認できるものの選択に努めます。代替が困難な資源については、サプライヤーラウンドテーブルへの参画やFIP(注1)の支援などを通じ、資源の持続可能性の確保を目指します。また、産地までのトレースが困難な品目については、サプライヤーへの協力を求めるなどにより改善に取り組みます。

(注1)FIP(Fishery Improvement Project)漁業者、企業、流通、NGOなど関係者が協力し、漁業の持続可能性の向上に取り組むプロジェクト

<リスク管理>

事業活動の妨げとなるリスクを未然に防止し、損失発生を最小限に抑え、経営資源の保全と事業の継続に最善を尽くすため、リスクマネジメント規程を制定し、社長が委員長を務めるリスクマネジメント委員会がリスクマネジメントシステムの構築と運用、定期的な取締役会への報告を行っています。水産資源アクセスに与える影響を含む事業上の重要リスクは、取締役会で毎年審議し、更新しています。

<指標と目標>

2024年までに持続可能な調達比率80%、2030年までに持続可能な調達比率100%を目指します。

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