シンバイオ製薬 【東証グロース:4582】「医薬品」 へ投稿
企業概要
(1)会社の経営の基本方針
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
当社グループは、元米国アムジェン社(注1)本社副社長で、同社の日本法人であるアムジェン株式会社(現在は武田薬品工業株式会社が全事業を譲受)の創業期から約12年間社長を務めた吉田文紀が、2005年3月に設立した医薬品企業です。
経営理念は「共創・共生」(共に創り、共に生きる)で表され、患者さんを中心として医師、科学者、行政、資本提供者を「共創・共生」の経営理念で結び、アンメット・メディカル・ニーズ(Unmet Medical Needs)(注2)に応えていくことにより、社会的責任及び経営責任を果たすことを事業目的としています。
当社グループは、極めて医療上のニーズは高いものの、新薬の開発が遅れている空白の治療領域をビジネスチャンスと捉え、特に、高い専門性が求められ難度が高いために参入障壁の高いがん・血液及びウイルス感染症領域を中心とした日本初のスペシャリティ・ファーマです。当社グループは、大型新薬(いわゆる売上高が1,000億円を超える「ブロックバスター」)の追求ではなく、マーケットは相対的に小規模でも医療ニーズの高い希少疾病分野を中心とした新薬開発に取り組み、これらの医薬品及び新薬候補品を数多く保有することにより、強固なパイプライン・ポートフォリオを構築し、高付加価値で高収益を達成し、持続性のある事業展開を行います。
(注1) バイオ医薬品業界最大手。1980年、米国カリフォルニア州サウザンド・オークスにおいて、AMGen(Applied Molecular Genetics)として設立。日本においては、1993年5月にアムジェン株式会社として業務を開始しました。
(注2) アンメット・メディカル・ニーズ(Unmet Medical Needs)とは、未だ満たされない医療上の必要性を意味し、患者さんや医師から強く望まれているにもかかわらず有効な既存薬や治療がない状態を指します。
(2)目標とする経営指標
当社グループは製薬企業として、自社販売体制の下で新薬を継続的に上市していくことが企業価値の更なる向上を図る上での重要な要素と考えており、営業組織及び流通・物流を含めた営業の一貫体制を構築しました。同時に、継続的に開発候補品を導入し積極的に研究開発活動等に経営資源を投下する方針です。
当社グループは、SyB L-0501が2010年に国内で製造販売承認されて以来継続して製品販売による売上を主として収益を伸ばしています。事業提携契約が有効な2020年12月まではエーザイとの協業によるトレアキシン®の更なる拡販を推し進め、2021年以降は自社による販売体制への切り替えによる更なる収益の拡大を目指してまいります。また、引き続きリゴセルチブの注射剤及び経口剤の承認取得及び上市、抗ウイルス薬ブリンシドフォビルの国内及び海外における開発開始と商業化、新たなパイプラインの導入・開発推進・承認取得等を通じて、安定的に高収益を確保できる体制の早期実現に取り組んでおります。2021年度から自社販売体制に移行したことによって単年度利益を計上できることになりましたが、引き続き積極的な研究開発投資を行っていくことから、ROEやROAなどの経営指標の目標は設定しておりません。
(3)中長期的な会社の経営戦略
当社グループは、中長期的な経営計画を実現すべく、主に以下の5つの事業戦略を展開しています。
① ポストPOC戦略による開発リスクの軽減
当社グループの導入候補品は、主として既にヒトでPOCが確認されていることを原則としています。従って、臨床開発ステージが比較的後期段階にある候補品か、既に海外で上市されている製品が対象となります。これらの導入候補品は既に海外で先行して開発が行われており、新薬としてヒトでの有効性・安全性が確認されていることから、開発リスクを軽減でき、また、先行している海外の治験データを活用することにより開発期間を短縮するとともに開発コストを低減し、成功確率を高めることが可能となります。
② 高度な探索及び評価能力による、優れたパイプラインの構築
当社グループの新薬サーチエンジンは、国内外の製薬企業及びバイオベンチャー企業等との多様なネットワークによって構築され、膨大な化合物の中から、社内の専門家による厳正な評価を経て、有望な導入候補品が抽出されます。これらの導入候補品はさらに、第一線で研究に携わる経験豊かな専門家により構成されるSABに諮られ、そのアドバイスと評価を受けた上で導入候補品を決定しています。この開発品導入決定までの高度なスクリーニングプロセスは、既に海外において有効性・安全性が確認された開発品を導入するポストPOC戦略と相まって開発リスクの軽減と開発期間の短縮につながることになり、また、候補品が医療の現場において求められるものかどうかの医療ニーズの充足度に対する理解、及び上市後の収益予測の精度向上に貢献しています。
③ ラボレス・ファブレス戦略による固定費抑制
当社グループは、一切の研究設備や生産設備を保有していません。研究設備・生産設備はともに固定費発生源の代表格ですが、当社グループはこれらを一切保有せずに、開発候補品の探索及び導入後は、開発品の開発戦略策定と実行等の付加価値の高い業務に専念し、そのほかに必要とされる定型的な開発業務は外注しています。研究開発費のうち主なものは業務委託料であり、その金額的・質的重要性は高く、当社グループにおいてはその進捗状況等について厳密な管理を行っております。
④ ブルーオーシャン戦略(注3)による高い事業効率の実現
海外で標準治療薬として使用されている製品が日本では使用できない、あるいは海外で新薬として承認された製品が5年近くも遅れて日本で承認される、いわゆるドラッグ・ロス、ドラッグ・ラグの問題が深刻化しており、がん患者の難民という言葉も生まれています。これらの問題は、当社グループの戦略的開発領域である難治性のがん・血液及びウイルス感染症領域で特に目立っています。特に抗がん剤の市場自体は大きく、また高齢化に伴い現在も拡大傾向にあるものの、抗がん剤の対象疾患は多岐にわたり、がん腫により細分化されているため、各々のがん腫でみると対象患者数がそう多くはない治療領域が数多く存在します。これらの領域での新薬の開発には、極めて高い専門性が求められ、開発の難度が高い半面、大手の製薬企業では採算性などの問題から開発に着手しにくいことがその理由のひとつといわれています。しかし、ひとたび、そうした領域において新薬の承認を取得し上市できれば、競合が少ないため、これらの領域で適応拡大・新製品上市を着実に積み上げていくことで、高成長・高収益を実現できるものと考えています。
(注3) ブルーオーシャン戦略とは、競合との熾烈な競争により限られたパイを奪い合う市場(レッドオーシャン)を避け、市場を再定義し、競合のいない未開拓な市場(ブルーオーシャン)を創造することで、顧客に高付加価値を与えつつ利潤の最大化を目指す戦略です。
⑤ アジアからグローバル展開へ
当社グループはこれまで日本を中心としたアジア各国を対象に事業を展開してまいりました。しかしながら、日本の医療を取り巻く環境が大きく変わっていく中、アジアに留まっていては大きな発展は望めません。今後はグローバルな展開を視野に入れた開発候補品の探索及び評価を実施してまいります。2019年9月にはキメリックス社(本社:米国ノースカロライナ州)との間で抗ウイルス薬ブリンシドフォビルに関しての独占的グローバルライセンス契約を締結し、当社グループは天然痘・サル痘を含むオルソポックスウイルスの疾患を除くすべての疾患を対象とした世界全域における開発・販売に加えて製造を含む独占的権利を取得しております。
抗ウイルス薬ブリンシドフォビルの事業展開については、dsDNAウイルスに対するその広範な活性を有することから、国内及び海外の専門領域の有力な研究施設と共同研究を進めており、研究成果である科学的知見を基にグローバルの臨床試験を検討、実施してまいります。
(4)主要な経営課題
当社グループは、以下の点を主要な経営課題と捉え、取り組んでまいります。
① パイプラインの更なる充実について
製薬ベンチャー企業として企業価値を高めるためには、開発候補品を継続的に導入し、パイプラインを充実させていく必要があります。
当社グループでは、抗がん剤 SyB L-0501、SyB L-1101、SyB C-1101、SyB L-1701及びSyB L-1702、抗ウイルス薬 SyB V-1901において開発を実施または計画しています。また、現在、新薬候補品の導入に関して複数の案件を相手先企業と協議しており、パイプラインの更なる拡充に向けて今後も新規の開発候補品の導入を積極的に進めてまいります。
② 既存パイプラインのライフサイクル・マネジメントの追求
企業価値を高めるためには、開発候補品の導入だけではなく、導入した新薬候補品の適応症を追加することにより、開発品目あたりの収益の最大化を図る、ライフサイクル・マネジメントを追求することが重要となります。
トレアキシン®は、再発・難治性の低悪性度非ホジキンリンパ腫及びマントル細胞リンパ腫、慢性リンパ性白血病、及び未治療(初回治療)の低悪性度非ホジキンリンパ腫及びマントル細胞リンパ腫を適応症として製造販売承認を取得しています。加えて、再発・難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(r/r DLBCL)について2021年3月に製造販売承認を取得しました。また、ライフサイクル・マネジメントを推進することにより、トレアキシン®の事業価値の最大化を図るべく、イーグル社より導入したトレアキシン®液剤(RTD製剤及びRI投与)につきましては、RTD製剤は2020年9月に製造販売承認を取得し、2021年1月より販売を開始しました。RI投与は2021年5月に一変承認申請を完了し、2022年2月に一変承認を取得しました。
リゴセルチブについては、骨髄異形成症候群(MDS)を対象として第Ⅲ相臨床試験(INSPIRE試験)を実施しておりましたが、2020年8月に医師選択療法との比較において主要評価項目を達成しなかったことを発表しました。当社グループは日本における臨床開発を担当しており、INSPIRE試験の追加解析から得られた知見を今後のリゴセルチブの開発に活用するための検討を進めております。
リゴセルチブ又はトレアキシン®に関して、東京大学及び京都大学等との共同研究を通じて、両化合物あるいは他の既存薬との併用により新たな有用性を見出すとともに新規適応症の探索を行い、事業価値の最大化に努めます。
抗ウイルス薬ブリンシドフォビルについては、アンメット・メディカル・ニーズの高い造血幹細胞移植後アデノウイルス感染症及び腎移植後BKウイルス感染症を対象にグローバル開発を先行して進めておりますが、新たに、ウイルスにより誘引されたがん等を対象とした開発も検討しております。また、米国国立衛生研究所や米国タフツ大学等との共同試験のデータの蓄積により、脳神経変性疾患に対する効果の可能性を検討し、ライフサイクル・マネジメントの追求を通じて事業価値の最大化を図るとともに、グローバル市場を対象に事業展開をするスペシャリティ・ファーマへの転換を進めてまいります。
③ 後発医薬品への対応
2022年2月に当社グループ製品トレアキシン®RTD製剤を先発医薬品とする後発医薬品が製造販売承認されたことから、当面これら価格の低い後発医薬品との競合が生じ、売上高の減少および利益の減少が生じる可能性が高まっております。この状況に対し、当該製品のライセンス元であるイーグル社の持つ特許に対する侵害及び当社グループが同製品について有する独占的な特許実施権の侵害の可能性が生じたことについて、ライセンス元であるイーグル社と協議し、後発医薬品の製造販売承認を取得した4社に対して当該特許権の侵害の懸念について文書によって通告し、適切な対応を要求しました。2022年12月には、イーグル社と共同でファイザー株式会社及び東和薬品株式会社に対して特許権侵害に基づく後発医薬品の製造販売の差止及び後発医薬品販売により生じる損害の賠償請求訴訟を提起いたしました。
④ 更なる成長を求めてグローバル展開へ
当社グループはこれまで日本のみならず、中国・韓国・台湾・シンガポールの4ヶ国を戦略地域として位置付け、アジア地域への展開を進めてまいりました。しかしながら、日本においては高齢化とともに医療費が膨張し、それに伴う国家戦略として後発医薬品80%時代が始まり新薬メーカーにとって厳しい環境が続くことが予想されます。また、アジア各国においても同様の政策が始まることも考えられます。
こうした中、当社グループは更なる発展のためにグローバル展開を進めてまいります。これまでのアジア展開で培った経験を活かし、抗ウイルス薬ブリンシドフォビルに続く新規開発候補品について、米国、欧州等のグローバルの権利を取得するべく、候補品の探索・評価及び交渉を進めてまいります。
⑤ 人材の確保について
当社グループの経営資源の第一は人であると考えています。優秀な人材なくして、新薬の探索、開発及び情報提供活動、そして今後のグローバル展開において優れた成果をあげることはできません。当社グループは継続的に優秀な人材の採用を行っており、上場後、特に経営組織をより強固にすべく優れた人材を採用してまいりました。また、OJTや研修等による人材育成を通じて、人材の更なる強化を図ってまいります。
⑥ 財務上の課題について
当社グループは、パイプラインの開発進展、グローバル事業展開、開発候補品の増加等に伴い、研究開発費を中心とする事業活動に合わせて資金を調達する必要があります。
従って、引き続き資金調達手法の多様化を進めるとともに、予算管理の徹底を通じてコスト抑制を図ることで、財務基盤の更なる強化に努めてまいります。
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