信越化学工業 【東証プライム:4063】「化学」 へ投稿
企業概要
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取り組みは、次の通りです。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末において当社グループが合理的な一定の前提に基づいて判断したものであり、その実現を約束する趣旨のものではありません。実際の結果は不確実性により変更される可能性があります。
(1)サステナビリティ全般に関するガバナンス及びリスク管理
①ガバナンス
当社グループは、1990年より持続的な成長により企業価値を高めることに取り組んでいます。安全を常に最優先すること、環境への配慮と適切な施策、社会への貢献、そして企業統治を適切に行うことを当社の経営と事業活動の根幹としています。これらをグループ内で共有し実行していくために、サステナビリティの基本方針と各種社内規程を定めています。
具体的には、当社の社長を委員長とし、取締役、執行役員、部門長、グループ会社のサステナビリティ担当者により構成される約60名からなるサステナビリティ委員会が、部門を横断する活動に取り組んでいます。サステナビリティ委員会は、当社グループのコーポレートガバナンスにおける「重要な経営課題ごとの委員会」の一つです。なお、コーポレートガバナンスの状況については本報告書の第一部「第4.提出会社の状況 4.コーポレートガバナンスの状況等」に記載の通りです。
図:サステナビリティの取り組みの体制図
②リスク管理
リスクマネジメント委員会が気候変動によるリスクも含め事業を取り巻くさまざまなリスクに備え、リスクを排除、低減することや発生しうる損害を最小化することに取り組んでいます。 同委員会は常務執行役員が委員長を務め、信越化学の取締役や執行役員、部門長など、約20名で構成されています。当社グループは事業活動に伴い想定されるリスクを洗い出し、それらに適切に対処するためのリスク管理規程を定めています。同規程では、具体的なリスク、リスク管理の体制、発生したリスクへの対応等を明記しています。リスク管理で重要な事項については、リスクマネジメント委員会が取締役会、常務委員会、監査役会、関係者に適時報告し、適切に対処をすべく取り組んでいます。近年重要性の高まってきた気候変動に関するリスクについては、同委員会とサステナビリティ委員会が連携し、シナリオ分析を通じてリスクの把握を行っています。また、当社グループは、サステナビリティ委員会内に設置した人権デューデリジェンス分科会と人権啓発推進委員会が中心となり、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づいて、人権デューデリジェンス全般を進めています。分科会では人権方針の策定や当社グループの人権リスク調査の実施、人権リスクの優先課題の特定、人権に関する相談や通報への対応の仕組みの構築、整備などを関係部署と協力して行っています。
(2)重要なサステナビリティ項目
(1)に記載の、ガバナンス及びリスク管理を通して識別された当社グループにおける重要なサステナビリティ項目は以下の通りです。
①気候変動への取り組み
イ. 戦略
当社グループは2050年カーボンニュートラルに向け、温室効果ガス排出量(スコープ1、スコープ2)を実質ゼロとするための計画を策定しました。2050年カーボンニュートラル実現に向けた計画の推進を、重要な経営課題と位置づけています。2019年5月にTCFDの提言への支持を表明し情報開示を進めると同時に、気候変動に関するシナリオ分析を行い、この分析を通じ事業に影響をおよぼす重要なリスクと機会を特定し、経営に反映させています。
<シナリオ分析>
気候変動による事業機会:1.5℃シナリオ
用途 | 詳細 | 収益への 影響度 |
樹脂窓 | 塩化ビニル樹脂は断熱性に優れているため樹脂窓に使用されている。省エネ住宅の普及とともに樹脂窓の需要増加が見込まれる。 | 大 |
電気自動車、 ハイブリッド車、 燃料電池車 | 半導体シリコンは、モーターの回転数を制御するインバーターなどのパワー半導体デバイス、自動運転、AI向けロジック半導体デバイス等に使用される。 高性能で小型のレア・アースマグネットは、車両全体の重量を軽くし、燃費性能を上げられることから、電気自動車やハイブリッド車、燃料電池車の駆動モーターや車両のさまざまなモーターへの利用が広がる。シリコーンの放熱材料は、リチウムイオン電池や各種電子制御装置などの熱対策に使用されている。熱による動作不良や故障の防止に役立ち、需要の拡大が見込まれる。 | 大 |
風力発電機 | レア・アースマグネットは、洋上風力発電機の高効率化および発電機のメンテナンスコストの削減に寄与するため、需要の拡大が見込まれる。 送電網の整備、拡充により、電線被覆に使用される塩ビの需要拡大も見込まれる。 | 大 |
エアコン | 半導体シリコンはコンプレッサーモーターのインバーター制御デバイスに使用され、モーターを適切な回転数に調節することで省電力に貢献することから、需要が拡大している。 レア・アースマグネットは、エアコンのコンプレッサーモーターのエネルギー効率を高め消費電力量を削減するため、需要の拡大が見込まれる。 | 中 |
航空機 | レア・アースマグネットは小型航空機の電動化やハイブリッド化、大型航空機の油圧駆動部の電動化に不可欠である。小型で強力なレア・アースマグネットは機体の重量を軽減し、燃費の向上に寄与するため、需要の拡大が見込まれる。 | 中 |
産業用モーター | レア・アースマグネットは、産業用モーターの効率を上げ、消費電力量を削減するため、需要の拡大が見込まれる。 | 中 |
サービスロボット | 半導体シリコンは、製造、物流、農業用などの省エネ対応ロボット制御モーター用半導体への使用や、医療用、災害対策用ロボットへの採用が広がっている。 | 中 |
植物由来の代替肉の結着剤 | 植物性食品を中心にした食生活は、CO2排出量を年間1.6ギガトンも削減することができる可能性がある。(※)セルロース誘導体の製品のひとつである「メトローズMCE-100TS」は、植物由来の代替肉の結着剤として使用されている。代替肉の世界市場は年率2ケタの成長が見込まれており、今後もさらなる市場の拡大が期待される。 | 中 |
※ポール・ホーケン編著「DRAWDOWN–The Most Comprehensive Plan Ever Proposed to Reverse Global Warming」より
気候変動による事業リスクと対応策:1.5℃シナリオ(移行リスク)
事象 | 当社へのリスク | 収益への 影響度 | 対応策 |
世界各国での炭素税の導入、炭素排出枠の設定 | ・炭素税の支払い ・炭素排出枠の達成のための排出権の購入費用の発生 ・温室効果ガスの排出削減のための対策費用の増加 | 大 | ・スコープ1排出量の削減 ・生産工程の効率化や高効率な機器の導入などの さらなる推進 ・水素やアンモニアなどの二酸化炭素を排出しない エネルギーの使用 ・CCUSの活用 ・カーボンニュートラル天然ガス(排出権付き天然 ガス)の熱源としての利用 ・水素還元鉄の材料への利用 ・温室効果ガスの絶対量での削減目標の達成 ・各国の炭素税等の環境規制に関する情報を収集し、対策を施す |
温室効果ガス排出の規制強化による再生可能エネルギー由来の電力の普及と電力価格の上昇 | ・電力コストの増大 | 大 | ・スコープ2排出量の削減 ・電力の使用量が少ない生産工程や高効率な機器の 導入などのさらなる推進 ・カーボンニュートラル天然ガス(排出権付き天然 ガス)を使用したコージェネレーションシステムの 導入 |
気候変動による事業リスクと対応策:4℃シナリオ(物理的リスク)
事象 | 当社へのリスク | 収益への 影響度 | 対応策 |
異常気象の発生頻度の上昇 | ・生産拠点の浸水 ・サプライチェーンの寸断 | 大 | ・生産拠点の嵩上げや重要な設備の周辺への防水壁の設置、冠水リスクが低い場所への計器室の設置、港湾に近い生産拠点での防潮堤の設置 ・生産拠点の複数化 ・原材料の調達先の多様化 ・製品在庫の確保 ・損害保険への加入 |
降水パターンの変化などによる洪水の発生頻度の上昇 | |||
一部の国での炭素税の導入や炭素排出枠の設定 | ・当該国の生産拠点から排出される温室効果ガスに課税される炭素税の支払い ・当該国の炭素排出目標を達成できない場合、排出権の購入費用や課徴金の支払いの発生 | 小 | ・スコープ1排出量の削減 ・生産工程の効率化や高効率な機器の導入などの さらなる推進 ・水素やアンモニアなどの二酸化炭素を排出しな いエネルギーの使用 ・CCUSの活用 ・カーボンニュートラル天然ガス(排出権付き天 然ガス)の熱源としての利用 ・水素還元鉄の材料への利用 ・温室効果ガスの絶対量での削減目標の達成 ・各国の炭素税等の環境規制に関する情報を収集し、対策を施する |
電力価格 | ・IEAのシナリオ分析(現行施策シナリオ)によると、電力価格は上昇しない。このため、当社へのリスクはない | - | - |
ロ. 指標と目標
当社グループは、2050年に温室効果ガス排出量(スコープ1、2)の実質ゼロを目指します。
さらに、引き続き、生産量原単位での温室効果ガス排出量の削減も推進します。2016年度に掲げた新たな中期目標「2025年度に1990年度比で温室効果ガス排出の生産量原単位を45%にする」の達成に向けて、取り組んでいきます。
<2050年カーボンニュートラル達成策>
当社グループはこれまで生産量原単位での温室効果ガス排出量の削減を進めてきました。これまで取り組んできた生産量原単位での削減に加えて、絶対量での温室効果ガス排出量の削減により、カーボンニュートラルを達成するための計画を策定しました。
1) 現在取り組んでいる削減策
当社グループは資源、エネルギーの利用の効率を極めることに加え、現在、以下の削減策に取り組んでいます。また、新たな削減策の検討にも注力していきます。
削減策 | 詳細 |
①電力における排出量の低減 | ・CO2排出係数の低減 ・再生可能エネルギーの購入 ・太陽光発電設備の設置 |
②製法、製造の改善と革新など | ・熱回収能力の向上 ・エネルギー効率の高い設備の導入 ・ボイラーからヒートポンプへの切換え ・木炭還元剤の増産のための増設 |
③カーボンニュートラル天然ガス、水素などの活用 | ・コージェネレーションシステムでの混焼 |
④リサイクルの推進 | ・すでに実施している塩ビ製品やレアアース・マグネットのリサイクルをさらに推進 |
2) 2050年に向けた取組
現時点で想定している削減策は以下の通りです。
削減策 | 詳細 |
①電力における排出量の削減 | ・電力のカーボンニュートラル化 |
②グリーン水素とブルー水素の活用 | ・コージェネレーションシステムでの専焼 ・ボイラー燃料としての使用 |
③製法、製造の改善などの継続 | ・徹底した合理化、効率化を継続 |
④CO2の分離回収および活用 | ・分離回収設備の本格導入とメタネーション技術の利用 |
⑤バイオマス燃料の活用 | ・バイオマスコージェネレーションシステムの導入による電力やスチームの供給など |
⑥リサイクルの推進 | ・すでにリサイクルを実施している塩ビとマグネット以外の製品のリサイクルシステムの構築 |
⑦カーボンオフセット | ・植林によるものも含め幅広く検討 |
<カーボンニュートラル社会の実現に貢献するためのその他の取組>
1)温室効果ガス排出量の削減に貢献する製品の製造販売の拡大
当社グループの製品は住宅やインフラストラクチャー、電気自動車、DX、GXをはじめとした幅広い分野に利用され、生活や産業の基盤を支えています。これらの製品の多くは、温室効果ガスの削減にも寄与しています。日本政府が、2050年カーボンニュートラルを目指す上で不可欠な14の分野を定めました。当社グループの2022年度の連結売上高に占める当該14分野への売上比率(※1)は約7割です。今後とも、こうした製品の開発、製造、販売の拡大に注力することで、社会全体のカーボンニュートラルに貢献していきます。
目標 | 実績 | ||||
| 単位 | 2020年度 | 2021年度 | 2022年度 | |
2050年にカーボンニュートラルを達成(スコープ1、2) | スコープ1 排出量 ※1 | 千CO2-t | 2,111 | 2,077 | 2,246 |
スコープ2 排出量 ※1 | 千CO2-t | 4,163 | 4,003 | 4,367 | |
2025年度に1990年度比で温室効果ガス排出の生産量原単位を45%にする | 1990年度比生産量 原単位指数 ※2 | % | 53.6 | 52.9 | 54.2 |
※ 1.当社および連結子会社を対象としています。
2.1990年度比生産量原単位指数については対象範囲に非連結会社を含めています。また、この指数の算定にあたり、電力のCO2排出係数は電力の削減努力が明確になるよう、2000年から2009年迄の平均値を使用しています。
②人的資本、多様性への取り組み
イ. 戦略
当社が創業以来の事業活動の中で連綿と続けてきた生産性向上と歩留まり向上、品質改善をはじめとした改善活動、また、開発活動による知恵や技術こそが競争力の源であると認識しています。当社グループが持続的に成長を続けていくためには、これまで培ってきたこの知恵や技術を確実に受け継ぎ、個々人の成長とともに、活動の領域をグループ全社に一層拡大し、深耕していくことが不可欠です。こうしたことを実践していくことができる人材を確保し、育成するための社内制度及び職場環境づくりが、当社グループにおける人的資本、多様性への取り組みです。
人材の育成
当社グループでは、画一的な人事異動を廃し、柔軟かつ長期的な視点で適材適所を実行しながら、OJTを中心とした教育に重点を置いて取り組みます。また、全社員が入社や昇格などに合わせて組織運営に必要な知識を得るため、安全教育、基礎教育、階層別教育及び専門教育を行い、計画的かつ積極的な人材育成に取り組みます。
人材の多様性の確保
人種、性別、宗教、障害などにとらわれず、個々の多様な価値観を尊重することを基本理念とし、採用時の多様性の確保に努めるとともに、入社後における仕事と生活の両立を支援する制度の整備や、自己実現とキャリア形成が可能となる働きやすい職場環境作りに取り組みます。とりわけ、日本国内では、現状分析を踏まえ、女性の活躍推進に向けた目標を定め、女性管理職の育成を促進していきます。
健康・安全
当社は2010年より「国連グローバル・コンパクト」に参加し、人権、労働基準、環境、腐敗防止の4分野にわたる10原則 の実践に取り組んでいます。また2018年2月には、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンが定めた「腐敗防止強化のための東京原則」に賛同する第一号の会社として署名しました。2021年度は、国内外の全グループ会社の腐敗防止への取り組みを確認するとともに、贈収賄防止規定を整備するなど必要な対策を完了しました。当社はレスポンシブル・ケア世界憲章に従い、環境保全や保安防災、労働安全衛生などに取り組んでいます。2021年度には、国内延べ24事業所 で環境保安監査を実施するなど、同憲章を踏まえた活動を実行しました。
労働慣行
当社グループは世界人権宣言を支持するとともに、国際労働機関(ILO)による中核的労働基準にのっとり、基本的人権を尊重しています。全世界の事業所で人権を常に尊重することを礎として事業に取り組み、その方針を2019年5月に「人権方針」としてとりまとめ、当社グループ内で徹底するとともに、社外に発信しました。
エンゲージメント
当社グループの成長には、働く個々人の成長が不可欠です。より働きがいを持てる人事制度と職場づくりに注力し、個々人と会社の持続的な成長の実現に取り組みます。こうした考えのもと、当社では、労働組合との協議においては、いわゆる「働き方改革」に資する諸施策をテーマにしながら常に人事諸施策の拡充と充実に取り組んできています。加えて、2022年に当社で働く社員と出向者を対象に、社員意識調査を実施し、コンプライアンス、お客様志向、経営理念の浸透、会社の将来性、人事制度、キャリア展望、業務負荷、職場環境、上司との関係などの項目について質問しました。今後も必要に応じて現状を把握、分析をしつつ、良いところをさらに伸ばし、改善すべき点は改善していきながら、より多くの社員が働きがいを持てるよう、取り組みを続けていきます。
ロ. 指標と目標
当社グループは、人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針および社内環境整備に関する方針について、次の目標を用いています。当該指標に関する目標および実績は次の通りです。
指標の内容 | 目標 | 実績 (当連結会計年度) | 対象範囲 |
採用時の男女比率 | 性別にかかわらない採用 | 女性44%、男性56% | 当社及び連結子会社 |
課長級以上の管理職に占める女性比率 | 30% | 12.6% | 当社及び連結子会社 |
障がい者雇用率 | 2.30% | 2.23% | 当社及び国内連結子会社 |
重大事故件数 | 0 | 0 | 当社及び国内連結子会社 |
休業災害人数 | 0 | 0 | 当社及び国内連結子会社 |
不休以上の災害度数率 | 0.5以下 | 0.37 | 当社及び国内連結子会社 |
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